【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩 作:まだら模様
腹減ったら食べたくなりますよ〜まったくー
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性があります。
ご注意ください。
感想と評価付与をいただけたら野獣先輩が一緒にラーメン屋の屋台に行ってくれるらしいです!
クォレハ凄い…
消灯から二時間が経っていた。
ガンガン寮の廊下は暗かった。非常灯の緑色だけが床を照らしている。全員が部屋に入って、寮は静かになっていた。
はずだった。
野獣先輩は天井を見ていた。
腹が減っていた。
銭湯の帰りにコンビニでアイスを食べた。あれから三時間。アイスでは足りなかった。百年以上生きてきて、体の要求は正直だ。腹が減ったら減った、と体が言う。
「夜中腹減んないすか?」
独り言が出た。
部屋の壁を挟んだ向こうで——動く気配がした。索敵が言っている。隣の部屋——切島の部屋で、気配が動いた。ベッドから出た気配だ。
廊下に出た。
切島も廊下に出てきた。目が半開きだった。髪がぐちゃぐちゃになっている。パーカーを着ていた。
「野獣先輩さん……やっぱり腹減りましたか」
「ありますあります」
「俺も!! もう限界っす!! キッチン行きましょう!!」
切島が小声で叫んだ。
一階のキッチンに向かった。
廊下を歩いていると——途中で上鳴の部屋のドアが開いた。
「あっ!! 俺も!!」
「声でかい!!」
「ごめんっす!!」
上鳴がパジャマのまま飛び出してきた。黄色のパジャマだった。髪が爆発していた。普段から爆発しているが、今は特に爆発していた。
三人で一階に降りた。キッチンの電気をつけた。
「夜中腹減んないすか?」
「減ってます!!」
切島と上鳴が同時に言った。
冷蔵庫を開けた。卵、牛乳、残り物のご飯、麦茶、誰かの名前が書いてある豆腐。冷凍庫には冷凍うどんが二袋あった。
「冷凍うどんしかないっすね……」
「レンチンしますか……」
「じゃけん行きましょうね~」
「作るんですか!? 何を!?」
野獣先輩は冷蔵庫の中を確認した。卵、ご飯、残り物の野菜。作れる。フライパンを出した。
「野獣先輩さん、料理できるんっすか!?」
「当たり前だよなぁ?」
「百年以上生きてたら当たり前か!!」
卵を割った。ご飯を出した。
その時——廊下から足音がした。キッチンのドアが開いた。
爆豪だった。
半袖のTシャツ。目が完全に覚めている。腕を組んでいる。冷蔵庫を一瞥した。それから野獣先輩を一瞥した。
「……どけ」
「ないです」
「フライパン貸せ」
「ありますあります」
爆豪がフライパンを受け取った。野獣先輩が割りかけていた卵を横目で確認した。それから冷蔵庫を開けて、自分で中を確認し始めた。
「お前らは座ってろ」
「え!? 爆豪くんが作ってくれるんっすか!?」
「うるせえ。座れって言った」
切島と上鳴が慌ててダイニングの椅子に座った。
爆豪が冷蔵庫から出したのは——卵、ご飯、長ネギ、残り物の豚肉、醤油、ごま油だった。
手際がよかった。
包丁の音が静かに鳴った。ネギを切っている。刻む速度が速い。一定の間隔で刻んでいる。爆豪の手が止まらない。フライパンにごま油を引いた。豚肉を入れた。火加減を見た。適切なタイミングでご飯を入れた。崩しながら炒めた。卵を入れた。混ぜた。醤油を回し入れた。ネギを入れた。
炒飯の匂いが漂い始めた。
「ああ^~いいっすね^~」
野獣先輩が言った。
「黙ってろ」
「いいゾ〜これ」
「うるせえって言ってんだろ!!」
爆豪が怒鳴った。でも手が止まらなかった。
上鳴が「……爆豪くんって料理できるんすね……」と呆然と言った。
「当たり前だろ。飯は自分で作れて当然だ」
「当たり前だよなぁ?」
「野獣先輩も黙ってろ!!」
三分後、皿が三枚テーブルに置かれた。炒飯だった。ネギと卵の炒飯。匂いが本格的だった。ごま油の香りが立っている。
「……うっまそ……」
上鳴が囁いた。
「食え」
「いただきます!!」
切島が手を合わせた。食べた。
「うっま!!!!」
「声でかい!!」
「でもうっまいっす!! 爆豪くんこれ普通にプロの炒飯っすよ!?」
「うるせえ」
「やりますねぇ!!」
「野獣先輩さんまで!!」
野獣先輩も食べた。うまかった。シンプルだが米の一粒一粒がほぐれていて、火加減が正確だ。百年以上色々なものを食べてきたが——これは普通にうまい。
「いいゾ〜これ」
「……食えてるなら黙ってろ」
爆豪が自分の分も食べ始めた。
炒飯の匂いが漂ったのが原因だったのか——階段から足音がした。
砂藤が現れた。
「……なんか匂いがした」
「ありますあります」
「炒飯か。——一人前あるか」
「ないです」
「ないのか」
「当たり前だよなぁ?」
「何が当たり前なんだ……」
爆豪が無言で立ち上がった。フライパンをまた出した。
「作るのか!? 爆豪くん!!」
「うるせえ」
砂藤の分も作り始めた。
さらに足音がした。緑谷だった。
「なんか下が明るくて……あっ、炒飯!?」
「じゃけん行きましょうね~」
「座っていいですか!?」
「当たり前だよなぁ?」
「ありがとうございます!!」
爆豪が「人数分言え」と言った。緑谷が「二人分お願いします!!」と言った。「お前と誰だ」と爆豪が聞いた。その時階段から麗日が降りてきた。「……匂いがして目が覚めました」と言った。
「やりますねぇ!!」
「二人分作れ、か。——分かった」
爆豪が炒飯を量産し始めた。深夜のキッチンが賑やかになった。
全員が食べ終わった頃、上鳴が冷蔵庫を開けた。奥の方に缶が並んでいた。
「ビール!ビール!」
全員が振り返った。
「上鳴、それ相澤先生の!!」
「違います!! 俺が買ったやつ!! ノンアルっすよ!! 未成年なんで!!」
「ノンアル!! よかった!!」
ノンアルビールが全員に配られた。
「ビール!ビール!」
野獣先輩が言った。
「乾杯の合図ですか!? じゃあ——乾杯!!」
「乾杯!!」
缶が触れ合った。深夜のキッチンで、A組の面々がノンアルビールで乾杯した。
「ビール!ビール!」
「野獣先輩さん気に入りましたね!!」
「ありますあります」
「あるんだ!!」
砂藤が「野獣先輩さんってノンアルと本物の区別つくんっすか?」と聞いた。
「多少はね?」
「多少わかる!? 百年以上生きてたらわかるか!!」
爆豪が「うるせえ」と言いながらノンアルを飲んでいた。腕を組みながら飲んでいた。
「ビール!ビール!」
「野獣先輩さんまだ言ってる!!」
深夜一時を回った頃——玄関のチャイムが鳴った。
全員が止まった。
「……だれ?」
「こんな時間に……」
野獣先輩は索敵を展開した。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
玄関の外に一人。細身。長身。気配が鋭い。
「あっ(察し)」
「誰ですか!?」
緑谷が玄関に向かった。ドアを開けた。
サー・ナイトアイが立っていた。普段着だった。ジャケットを羽織っている。手に書類を持っている。眼鏡の奥の目が鋭い。
「……810くんがここにいると分かった。業務日報がまだ提出されていない」
「ファッ!?」
「日報は毎日提出するものだ」
ナイトアイがキッチンを見た。炒飯の匂いが残っている。A組の面々が深夜のキッチンに集まっている。ノンアルビールが並んでいる。
「……何をしているのかね」
「夜中腹減んないすか?」
「腹は減っていない。——日報はどうした」
「ないです」
「ある。今日の分がない。——提出しなさい」
ナイトアイがキッチンのテーブルに書類を置いた。業務日報の用紙だった。ペンも置いた。
「今ここで書きなさい」
「やりますねぇ!!」
「笑いどころではない」
野獣先輩は業務日報を手に取った。ペンを走らせた。
一行目:「異常なし」
二行目:「銭湯」
三行目:「ビール!ビール!」
ナイトアイが覗き込んだ。
「……「ビール!ビール!」は業務報告ではない」
「ありますあります」
「ない。——書き直しなさい」
ナイトアイがポケットからオールマイトのスタンプを出した。深夜にスタンプを持ち歩いていた。
「これが押せるように書き直しなさい」
「いいゾ〜これ」
「スタンプが「いいゾ〜これ」なのかね」
「多少はね?」
「多少……か。——書き直しなさい」
書き直した日報に目を通した。「異常なし」「パトロール実施」「索敵範囲の確認」。ナイトアイが眼鏡を直した。
「……合格だ」
スタンプを押した。オールマイトの笑顔が業務日報に捺された。
「やったぜ。」
「笑いどころではない。——以上だ」
ナイトアイが立ち上がった。帰ろうとした。
その時——切島が「あの、ナイトアイさん、炒飯食べますか? 残ってますよ!!」と言った。
ナイトアイが止まった。
「……深夜に炒飯を食べる習慣はない」
「じゃけん行きましょうね~」
「どこへ行くのかね」
「ビール!ビール!」
「……ノンアルコールならまあ」
ナイトアイが椅子に座った。
上鳴が「ナイトアイさんが座った!!」と小声で叫んだ。緑谷が「しーっ!!」と止めた。
爆豪が無言でフライパンを出した。
「……作るのかね」
「うるせえ」
爆豪がナイトアイの分の炒飯を作り始めた。ナイトアイがそれを黙って見ていた。
炒飯が置かれた。
「……いただきます」
「当たり前だよなぁ?」
ナイトアイが食べた。しばらく黙って食べた。
「……うまいな」
爆豪が「当たり前だ」と言った。
「やりますねぇ!!」
「……料理をやっているのかね、爆豪くんは」
「昔から。——文句あるか」
「ない。——感心した」
爆豪が「うるせえ」と言った。
ナイトアイがノンアルビールを受け取った。飲んだ。
「ビール!ビール!」
「……ノンアルコールだな」
「ありますあります」
「ある、か。——まあいい」
ナイトアイが炒飯を食べながらキッチンを見回した。A組の面々。深夜。炒飯。ノンアル。語録。
「……こういう時間が、君たちにとって重要なのだな」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前……か」
ナイトアイが少し止まった。眼鏡の奥の目が、少し和らいだ。
「……私が現役で動いていた頃は、こういう時間を作らなかった。業務が全てだった」
「ないです」
「……よくない、ということかね」
「多少はね?」
「多少よくない……か」
ナイトアイが炒飯を食べ終えた。箸を置いた。
「……うまかった。——爆豪くん、ありがとう」
「……別に」
爆豪が目を逸らした。
「ビール!ビール!」
ナイトアイが「ノンアルコールだ」と言いながらもう一口飲んだ。
ナイトアイが帰る準備をした。ジャケットを直した。書類を取った。
「——以上だ。日報は明日も忘れずに」
「はっきりわかんだね」
「分かったなら——」
ナイトアイがドアに向かった。廊下に出た。
全員が見ていた。
ナイトアイが、廊下の暗がりの中で——小さな声で言った。
「……夜中腹減んないすか?」
「ファッ!?」
「聞こえていない」
「聞こえてました!!」
上鳴が叫んだ。
「聞こえていない!! 今夜のことは全て聞こえていない!!」
ナイトアイが早足で玄関に向かった。
「やったぜ。」
「聞こえている!! 聞こえているが——今夜のことは公式記録には残さないでくれ!!」
玄関のドアが閉まった。
キッチンに沈黙が来た。
それから切島が「……ナイトアイさん、語録言った!!!」と叫んだ。
「言った!!!」
「「夜中腹減んないすか?」って言った!!!」
「ありますあります」
「あるんですよ!! 確かにありましたよ!!」
爆豪が「うるせえ」と言いながら、口の端が少し上がっていた。
キッチンを片付けた。皿を洗った。フライパンを洗った。テーブルを拭いた。ノンアルの缶をゴミ箱に入れた。
全員が少し眠そうになってきた。炒飯を食べてノンアルを飲んで、体が温まった。
「じゃあ、おやすみっす!!」
「おやすみ!!」
切島と上鳴が二階に上がっていった。
砂藤が「……美味かった、爆豪」と言った。爆豪が「うるせえ」と言った。でも口の端が少し上がっていた。
緑谷と麗日も「おやすみなさい」と言って上がっていった。
爆豪が最後に立ち上がった。電気を消す前に振り返った。
「……腹が減ったら言え。次は丼にする」
「やりますねぇ!!」
「黙れ」
電気が消えた。
廊下の非常灯だけが、また緑色に光っていた。
野獣先輩は暗いキッチンに一人立った。窓の外は夜だった。月が出ていた。
「夜中腹減んないすか?」
独り言が出た。でも今は、もう減っていない。
「ありますあります」
それだけ言って、部屋に戻った。