【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩 作:まだら模様
ご注意ください。
ランキング回です。
評価付与、感想は野獣先輩からのやりますねぇ!の声援がプレゼントされます!
朝のHRが始まる前に、上鳴が騒いでいた。
スマホを全員に見せながら走り回っていた。
「野獣先輩さん!! これ見ました!? ビルボードチャート!!」
「ありますあります」
「知ってたんだ!! でも見てくださいよこれ!!」
上鳴がスマホを差し出した。
画面には「ヒーロービルボードチャートJP・今年度上半期速報」というページが開いていた。
1位:エンデヴァー。2位:ホークス。3位:ベストジーニスト——上位はいつもの顔ぶれだった。
その下に、見慣れない欄があった。
**「番外・特別枠:810(ハチイチゼロ)/雄英高校1年A組」**
コメントが添えてあった。「個性の性質上、通常ランキング基準での評価が困難なため特別枠として掲載。実戦データ・市民評価・プロヒーロー推薦票の三軸において基準値を超過」
「載ってる!! 野獣先輩さんが載ってる!!」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前なんだ!! 自覚があるんだ!!」
切島が「すごい!! 番外枠ってなんだ!!」と覗き込んだ。砂藤が「……ランキング外だが評価はされている、ということか」と言った。
緑谷がスマホを受け取って真剣に読み始めた。「「個性の性質上、通常基準での評価が困難」——野獣先輩さんの語録個性って確かに数値化しにくいですよね……転移の距離は測れても、心理干渉の効果範囲とかは……」
「これもうわかんねぇな」
「野獣先輩さんが自分でわかんないって言ってる!!」
「ありますあります」
「でもあるんだ!!」
上鳴が「これ、公式コメント何て言ったんすか!?」と聞いた。
「ありますあります」
「それ言ったの!? それがコメントになったの!?」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前なんだ!!!」
正式なランキング発表はその日の夜だった。
共用スペースのテレビにA組の男子が集まった。女子も何人か来た。耳郎がソファの端に座ってスマホをいじりながら「まあ見るか」と言った。
司会者が読み上げ始めた。
「第三位、ベストジーニスト!」
「おー!!」
「第二位、ホークス!」
「二年連続二位!!」
「第一位、エンデヴァー!」
爆豪が「当然だ」と言った。
それから司会者が「今年度より設置された特別枠のご紹介です」と言った。
画面に「番外・特別枠:810」と表示された。
A組が全員止まった。
司会者が続けた。「雄英高校1年生。インターンシップ中にも関わらず複数のプロから推薦票を獲得。個性の性質上通常ランキング基準では評価困難なため、特別枠での掲載となりました。なお本人のコメントは——」
画面にテロップが出た。
「ありますあります」
「それコメントになってんの!!!」
「「ありますあります」でインタビューに答えたの!?」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前なんだ!!!」
上鳴が床を転げた。切島が「すごい!! すごいっすよ野獣先輩さん!!」と叫んだ。砂藤が「……「ありますあります」が公式コメントになるとは」と言いながら少し笑った。
「ン~いい時には結構いくね」
「今日調子いいんですか!? 番外枠に入ったのが嬉しいんですか!?」
「多少はね?」
「多少嬉しい!!」
爆豪だけが黙っていた。テレビを見ていた。
「……番外でも枠に入ったか」
「やりますねぇ!!」
「うるせえ」
爆豪が自分の部屋に帰っていった。でも——帰る前に一秒だけ野獣先輩を見た。その目が何かを言っていた。
翌朝、相澤が野獣先輩を呼んだ。
職員室の隅だった。相澤がいつも通りの眠そうな目で、紙を一枚差し出した。
「取材申請が来ている。三件だ」
「ファッ!?」
「ランキング掲載の影響だ。ヒーロー系メディアが「番外枠の高校生」に興味を持った。——断るかどうかはお前が決めていい。ただし受ける場合は一件だけにしろ。学業に支障が出る」
「多少はね?」
「多少受けてもいい、か。——一件選べ」
野獣先輩は三件の取材申請書を見た。
大手ヒーロー雑誌。ウェブメディア。それから——「フェザーウィング・エージェンシー広報部」という差出人の一件。
「あっ(察し)」
「ホークス事務所からの申請だ。個人的な興味らしい」
「ありますあります」
「受けるか」
「当たり前だよなぁ?」
相澤が「……そうか」と言った。
「一点だけ言っておく。ホークスはNo.2ヒーローだ。頭の回転が速い。語録で会話しているとすぐにパターンを読もうとする。気をつけろ」
「はっきりわかんだね」
「分かったなら行け」
相澤が寝袋に向かった。潜りながら小さく「……「ありますあります」が公式コメントか」と呟いた。
「やったぜ。」
「聞こえていない」
取材場所はヒーロー事務所近くのカフェだった。
野獣先輩がカフェの前に着いた。入る前に——索敵を展開した。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
店内に一人。窓際の席。気配が——別格だ。
「あっ(察し)」
入る前に分かった。
ドアを開けた。
金髪。赤い羽根が背中から生えている。頬杖をつきながらこちらを見ていた人物が——立ち上がった。
「あれ、もう外から分かった? 索敵ってそういう使い方もできるんすね」
「お待たせ」
「俺が先に来てたんですけど——あっ、「待たせてしまいました」か。語録で謝罪もできるんすね。分析がはかどる」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前か!!」
ホークスが笑った。目も笑っていた。
「座ってください。コーヒーでいいっすか?」
「ないです」
「ない——あっ、注文はしてあります。「ないです」は「大丈夫です」って意味?」
「多少はね?」
「多少大丈夫、か。——面白いっすね。語録だけで会話できるって本当なんだ」
コーヒーが来た。
ホークスが向かいに座った。羽根がソファの背もたれを少し押している。羽根一枚一枚が独立して動いていた。店内の空気の流れを感知しながら、常に周囲を確認している。索敵と同じだ。この人間も常に周りを把握している。
「改めて聞きたいんすけど——番外枠に入った時の気持ち、どうっすか?」
「見とけよ見とけよ~」
ホークスが少し止まった。「……「見ていろ」ってこと? これからもっとやれるって意味?」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前か!! 気に入りました。——じゃあ語録個性の説明、できますか? 取材としての質問なんですけど」
「これもうわかんねぇな」
「わかんない!? 自分でわかんないってこと?」
「多少はね?」
「多少わかんない、か。——要するに「語録で話せるけど語録を説明する語録がない」ってこと?」
「はっきりわかんだね」
ホークスが「なるほど」と言いながらメモを取った。
「じゃあ記事にはこう書きます。「語録個性は当人にも全容が不明確。語録を語録で説明することはできない」——これでいいっすか?」
「ありますあります」
「ある! OK! ——あと一個だけ聞いていいっすか。個人的な興味で」
「やりますねぇ!!」
「聞いてくれるんだ!! ——索敵の範囲ってどんくらいっすか? 今ここで俺のこと把握できてます?」
「ありますあります」
「あります、か。——どこまで分かります? 俺の今の体の状態とか」
「多少はね?」
「多少分かる、か」
ホークスが少し前に乗り出した。
「俺の羽根って今何枚あります?」
野獣先輩は指で「3」「6」「8」と順番に立てた。
「三百六十八枚」
野獣先輩が頷いた。
ホークスが「……すごいっすね」と言った。さっきまでと少し違う声だった。軽薄さが一枚剥けた。
「俺も感知できますけど——羽根の枚数を索敵で当てるのは、俺でもできないっすよ」
「ありますあります」
「ある、か。——野獣先輩さん、俺はあなたのことを「変な高校生」だと思ってここに来たんですけど」
「ないです」
「ない——もう変な高校生じゃないってこと?」
「当たり前だよなぁ?」
ホークスが「当たり前か」と言いながら笑った。今度はさっきより深い笑いだった。
カフェの入り口から、別の人間が入ってきた。
カメラを持っている。ヒーロー雑誌の記者だった。ホークスが「ちょっといいっすか、俺の事務所の広報も取材したいって言ってたんで連れてきました」と言った。
「やりますねぇ!!」
「いい? ありがとうございます!!」
記者が座った。ボイスレコーダーを出した。緊張しているのか、手が少し震えていた。
「ちゃんと、ベスト出せるようにね」
記者が「え?」と顔を上げた。「……あっ、なんか急に落ち着いてきた気がする。ありがとうございます」
「ありますあります」
記者がボイスレコーダーのボタンを押した。
「えっと——810さん、個性について教えていただけますか? 語録から個性を発動するとのことですが、どういう仕組みで」
「ホラホラホラホラ!」
「え!? 今何か——急に体が軽くなった気がするんですけど!?」
「ありますあります」
「あります!? 個性の説明をしてもらおうとしたら個性が発動するんですか!?」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前なんですか!? えっと——では転移の個性があるとのことで、「こ↑こ↓」というのは」
「こ↑こ↓!」
記者の手帳が浮いた。上に出て下に落ちた。
「うわ!!!」
「ありますあります」
「見せてくれたんですか!? あの——索敵の方は、どのくらいの範囲で」
「センセンシャル!」
記者の目が一瞬、見開いた。「……あっ、なんか急に周りが全部見えた気がする……!?」
「多少はね?」
「多少……。えっと、語録の種類はどのくらいあるんですか? 全部リストアップすることは」
「まーだ時間かかりそうですかね~」
「時間がかかる!? それだけあるってことですか!? えっと——では心理干渉の語録というのは具体的にどういう……」
「ないです」
「ない!?」
ホークスが横でずっと笑いをこらえていた。
「えっと——正直に聞きます。語録以外の言葉で説明はできないですか?」
「ないです」
「ないんですね!! ではこの「ないです」は「できない」という意味で?」
「多少はね?」
「多少できる!? できるんですか!?」
「ありますあります」
「あります!? どっちなんですか!!」
「はっきりわかんだね」
「わかりません!!!」
ホークスがついに笑い出した。声を立てて笑った。「最高っすね」と言った。
記者が「……一応確認なんですが、今日の取材、後日記事になったあとで何か問題はありますか?」と聞いた。
「俺も後から洗ってくれよな~」
「え?」
「遅延型の語録っすね」とホークスが補足した。「後から何かが来るって意味じゃないっすか?」
「多少はね?」
「……記事が出た後で後日談が来るってこと、ですか……? 楽しみにしておきます!!」
記者が帰った後、ホークスと二人になった。
ホークスがコーヒーを飲みながら言った。
「一個、本当のことを聞いていいっすか。取材じゃなくて」
「ありますあります」
「俺の気配——今、索敵でどう感じてます?」
野獣先輩は少し考えた。
「うわあ……たまげたなあ」
ホークスが止まった。「……それ、褒めてます?」
「当たり前だよなぁ?」
ホークスが「当たり前か」と言った。少し間があった。窓の外を見た。
「俺ね、同世代に「別格」って思う人間があんまりいないんですよ。大抵、索敵すると分かっちゃうんで——この人はここまでだな、って。でも」
「ありますあります」
「野獣先輩さんは——分からないっすね。索敵しても底が見えない。百年以上生きてる人間って、そういう感じなんすか」
「大会近いからね、しょうがないね」
ホークスが「大会……」と呟いた。「……なんか、かっこいいっすね。それ」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前か!!」
ホークスが笑った。今日で一番いい笑いだった。
「もう一回会いたいっすね。——インターン終わったら、うちの事務所来てみませんか?」
「やりますねぇ!!」
「来てくれる!? 歓迎します!! ——俺、楽したいんですよ。本当に。適当にダラダラパトロールして、今日も何もなかったと床に就く。それが最高の生活だと思ってるんですけど」
「ないです」
「ない——思ってないってこと?」
「多少はね?」
「多少は思ってる。でも多少だけ、か」
ホークスが窓の外を見た。
「ヒーローが暇を持て余す社会——俺が目指してるのはそれなんですよ。でもそのためには今、全速力で動かないといけない。矛盾してるっすよね」
「王道を征く」
ホークスが止まった。「……「王道を征く」。——それ、何ですか」
「当たり前だよなぁ?」
ホークスがしばらく黙っていた。窓の外の空を見ていた。
「……いいっすね。それ」
席を立った。カフェの出口でホークスが言った。
「最後にもう一個——さっきの「見とけよ見とけよ〜」、あれ脅しじゃなくて「俺はまだここから伸びる」って意味っすよね?」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前か。——楽しみにしてます、野獣先輩さん」
ホークスが羽根を広げた。カフェの窓が少し揺れた。
「俺はホークス、速すぎる男っすから——追いついてくるなら早い方がいいっすよ」
「見とけよ見とけよ~」
ホークスが「言ったな!!」と笑いながら空に上がった。
瞬く間に見えなくなった。野獣先輩は空を見上げた。
「あっ(察し)」
さっきの気配が、もう遠くにあった。それでも捉えられる。この人間の気配は——強いが、温かい。
ナイトアイ事務所に戻った。
ミリオが「どうでした!? ホークスさんと会ったって聞いた!!」と飛びついてきた。
「やりますねぇ!!」
「よかった!! どんな人でした!?」
「うわあ……たまげたなあ」
「たまげたんだ!! 野獣先輩がたまげるって相当っすよ!!」
バブルガールが「ホークスさんってすごい方ですよね……」と言いながらお茶を持ってきた。バブルガールの目が少し輝いていた。
「野獣先輩さんと話して、ホークスさん何て言ってたっすか?」
「ありますあります」
「何かあったんですね!! 教えてください!!」
「多少はね?」
「多少教えてくれる!?」
「見とけよ見とけよ~」
「見とけってことっすか!! これから何かあるってこと!?」
「当たり前だよなぁ?」
ミリオが「当たり前か!!」と言いながら笑った。
バブルガールが少し声を落として「あの——野獣先輩さん、一個聞いてもいいですか?」と言った。
「ありますあります」
「ホークスさんって——「俺はホークス、速すぎる男」って自己紹介するって聞いてたんですけど、本当にしてました?」
「当たり前だよなぁ?」
バブルガールが「しましたか!!」と言った。その声が少し高かった。
「やりますねぇ!!」
「え——あっ、その、別に、ホークスさんのことが特に好きとかそういうことでは!! プロのヒーローとして、尊敬しているというか!!」
「ないです」
「あるんですか!? いや、あるって言ってもそれは——!!」
ミリオが「バブルちゃんホークスさん好きっすよね!!」と叫んだ。
「ミリオくん!!!」
野獣先輩はバブルガールを見た。顔が赤い。隠れ淫夢厨かホークスファンか、この段階では判別できない。
「ガリガリだからねしょうがないね」
「どっちの話ですか!? 私の話ですか!? ホークスさんの話ですか!?」
「多少はね?」
「多少どっちか!!」
夕方、ナイトアイに報告した。
「取材はどうだったかね」
「ありますあります」
「うまくいった、か。——ホークスはどういう人物だったか」
「うわあ……たまげたなあ」
ナイトアイが眼鏡を直した。「……810くんが「たまげた」と言うのは珍しい。それほどの人物か」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前……か。——索敵での印象は?」
「あっ(察し)」
「「別格」と察知した、か」
「はっきりわかんだね」
「分かった。——ホークスとは今後も接点が出るかもしれない。今日のことを覚えておきなさい」
「ありますあります」
「ある。——以上だ」
ナイトアイが書類に向かった。少し間があってから「……記事が出たら読ませてくれ」と言った。
「ありますあります」
「ある。——楽しみにしている」
野獣先輩は部屋を出た。廊下に出て、窓の外を見た。空だった。ホークスが飛んでいった方向だった。
「見とけよ見とけよ~」
独り言が出た。速すぎる男が、空のどこかを飛んでいる。
「王道を征く」
廊下を歩いた。