【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩   作:まだら模様

2 / 60
続いてしまった…息抜きです
初っ端から原作改変してます。ご注意ください。


第2話「お前さぁ…(入学式の朝)」

 入学式の朝、野獣先輩は家を出る前に鏡の前で五分間立っていた。 

 

 雄英高校の制服を着た自分の顔が映っている。白いシャツ、グレーのズボン、深緑のブレザー。サイズは合っている。髪も整えた。見た目は普通だ。

 

 問題は、これから何百人もいる入学式の会場で、自分の名前が呼ばれるということだ。

 

 野獣先輩、と呼ばれる。

 

 前世でその名前がどういう文脈で使われていたかを全部知っている。この世界ではそれを知っている人間がどれだけいるか分からない。受付の職員は動揺を見せなかった。相澤はすれ違っただけだった。でも入学式には多くの教師がいる。生徒もいる。

 

 まあ、なんとかなるだろう、と野獣先輩は思った。

 

 根拠はないが、なるようになる。

 

「いいゾ〜これ」

 

 鏡に向かって呟いた。状態異常無効の語録だ。緊張を状態異常とみなして発動してみたが、体感では若干効いている気がする。科学的根拠はない。

 

 野獣先輩は鞄を持って、家を出た。

 

 

 

 

 雄英高校の体育館は広かった。

 

 新入生が全員並んでいる。ヒーロー科、普通科、サポート科、経営科、それぞれの生徒が指定された位置に整列している。野獣先輩はヒーロー科1-Aの列に並んだ。 

 

 周囲をさりげなく観察する。

 

 隣の列に、入試のときに見た緑色の髪の少年がいる。緊張しているのか、背筋が妙に硬い。少し離れた位置には、爆発物でも仕込んでいそうな鋭い目つきの金髪の少年。白と赤のツートーンカラーの髪の少年。長身で眼鏡をかけた少年。

 

 知っている顔だ、と野獣先輩は思った。

 

 全部、原作で読んだ。緑谷出久、爆豪勝己、轟焦凍、飯田天哉。主要キャラが勢揃いしている。

 壇上では来賓の挨拶が続いていた。野獣先輩は淡々と聞いていた。 

 

 そして、新入生の名前の読み上げが始まった。

 

 五十音順に名前が呼ばれていく。生徒たちが順番に「はい」と返事をする。

 

 や行に差し掛かった。

 

「野獣先輩くん」

 

 会場がざわついた。

 

 ざわつき方が均一じゃない。単純に珍しい名前への反応と、もう一種類の反応が混在している。野獣先輩は素早く周囲を見渡した。 

 

 壇上の教師陣の中で、一人だけ明らかに動きが止まった人物がいた。

 

 オールマイト——ではなく、その隣に立っていた大柄な宇宙服姿の人物。thirteen。宇宙服のバイザーの向こうで、表情は見えない。でも、全身が一瞬硬直したのは分かった。

 

 硬直は一秒で終わり、thirteenは何事もなかったように前を向いた。

 

 プロだ、と野獣先輩は思った。

 

「はい」

 

 返事をして、前を向いた。

 

 ざわつきは三秒で収まった。

 

 

 

入学式が終わり、1-Aの教室に移動した。

 

 扉を開けると、すでに数人の生徒が席についていた。緑谷出久が窓際の席に座って、何かノートに書き込んでいる。爆豪勝己が教室の中央寄りの席で腕を組んでいる。

 

 野獣先輩は自分に割り当てられた席を確認して、腰を下ろした。

 

 周囲の生徒が順番に入ってきて、教室が埋まっていく。HRが始まる前の数分間、あちこちで自己紹介が始まっていた。

 

 隣の席の少女——茶色い短髪、顔立ちが整っている、麗日お茶子——が野獣先輩に話しかけてきた。

 

「あの、同じクラスになりましたね! 私、麗日お茶子っていいます。よろしくお願いします!」

 

 元気のいい声だ。野獣先輩はうなずいて、口を開いた。

 

「お前のことが好きだったんだよ!」

 

 麗日の顔が、みるみる赤くなった。

 

「え……? え、ええ……? あ、ありが……とう……?」

 

 違う、そういう意味じゃない。好意を持って接したいという意味だ。でもそれを説明する言葉が語録にない。

 

 野獣先輩は内心で頭を抱えながら、軽く手を挙げた。

 

「お、そうだな」

 

「そ、そうだな……」

 

 麗日が引きつった笑顔のまま前を向いた。誤解が若干深まった気がする。

 その様子を斜め前の席から見ていた緑谷出久が、小声で「だ、大丈夫ですか麗日さん……」と声をかけていた。

 

 

HRの開始時刻になると、教室の扉が開いた。

 

 相澤消太が入ってきた。

 

 黒い長髪、無精髭、目の下のくまが深い。着ているのは黄色い寝袋のようなもの。第一印象は「疲れた大人」だ。

 

 相澤は教壇に立ち、クラスを見渡した。その視線が一瞬野獣先輩の顔で止まった。止まったが、すぐに流れた。

 

「俺が担任の相澤だ。さっさと始めるぞ」

 

 淡々とした声だった。感情が乗っていない。

 

「これを着ろ。グラウンドに移動する」

 

 体操服の指示が出た。教室がざわつく中、相澤は続けた。

 

「入学式もHRも終わった。さっさと実力を把握する」

 

 緑谷が「え、オリエンテーションは……?」と小声で呟いていたが、相澤は聞こえないふりをした。

 

 着替えてグラウンドへ。個性把握テストが始まる。

 

 

グラウンドで、相澤がテストの説明をした。

 

 ソフトボール投げ、立ち幅跳び、握力測定など、中学でやるような体力測定項目を個性を使って行う。ただし最下位の者は即退学——という脅しがついている。

 

 野獣先輩は説明を聞きながら、順番を待った。

 

 最初の項目はソフトボール投げだ。

 

 緑谷が個性を使わずに投げて平凡な数字を出し、相澤に「個性を使え」と促され、結局使えずにいた。爆豪が爆破を使って七百メートル超えを叩き出し、クラスが沸いた。

 

 野獣先輩の番が来た。

 

 ボールを手に取り、投球姿勢を取る。クラスが静かになった。語録個性の実技を初めて見る人間がほとんどだ。

 

 野獣先輩はボールを思い切り投げた。普通に投げた。ボールが中空で失速しかけたところで、口を開いた。

 

「こ↑こ↓」

 

 ボールが消えた。測定機器の数字が表示された。六百二十メートル。

 

 クラスがざわついた。

 

「どこへ飛んだんですか?」と緑谷が呟いていた。

 

「指差した先へ転移した」と飯田天哉が自分なりに解釈して周囲に説明しようとしていた。

 

 相澤がタブレットに数字を入力しながら、ボソリと言った。

 

「……次」

 

 顔は無表情だった。だが、タブレットを持つ手の角度がわずかにずれていた。

 

 

 握力測定は語録を使う余地がなく、純粋な身体能力の数値が出た。平均よりやや上程度。

 

 立ち幅跳びで、野獣先輩は跳躍の瞬間に口を開いた。

 

「やりますねぇ!」

 

 一時的な身体能力強化バフが発動した。通常の約一・五倍の跳躍距離が出た。測定係の生徒が「え、今何て言いました?」と隣の生徒に確認していた。

 

 続いて反復横跳びの測定中。

 

 野獣先輩が動き出した瞬間、隣で測定していた別の生徒が転びそうになった。反射的に野獣先輩の口から言葉が出た。

 

「やべぇよやべぇよ」

 

 危機察知アラートが発動。野獣先輩の動きが自動的に最適化され、転びそうな生徒の手を掴んで支えながら自分の測定も続けるという謎のマルチタスクが発生した。

 

 転びかけた生徒——上鳴電気——が「え、ありがと……? でも今なんか言いました? やべぇよ?」と首を傾げていた。

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 野獣先輩がそう返した。

 

「そ、そうだな……」と上鳴が曖昧にうなずいた。

 

 

測定が続く中、爆豪勝己が野獣先輩の隣に並んだ。

 

 50メートル走の順番待ちだった。爆豪はしばらく黙っていたが、やがてぼそりと言った。

 

「お前、さっきのボール投げ。あれ転移か」

 

 質問というより確認だ。野獣先輩はうなずいた。

 

「発動条件が発声なのか」

 

 またうなずく。

 

「語録しか言えねぇのか」

 

 うなずく。

 

 爆豪が少しの間、黙った。それから言った。

 

「お前さぁ……」

 

 野獣先輩の口が、反射的に動いた。

 

「お前さぁ…」

 

 爆豪の思考が、一瞬止まった。

 

 文字通り、止まった。「お前さぁ…」の効果——ツッコミ待ち硬直——が爆豪に発動したのだ。約一秒間、爆豪が完全にフリーズした。

 

 一秒後、爆豪が再起動した。

 

「あ゛?」

 

 爆豪の目が細くなった。野獣先輩は静かに前を向いた。

 

「テメェ今なにしやがった」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「なにが当たり前だ」

 

「はっきりわかんだね」

 

「何がわかったんだ」

 

 会話が成立しているようで全く成立していない。しかし爆豪は怒りを爆発させるでもなく、なぜか黙り込んで前を向いた。

 

 その様子を遠巻きに見ていた緑谷が、ノートに素早く何かを書き込んでいた。

 

 

 全種目が終わり、相澤がクラスの前に立った。

 

 結果を読み上げながら、簡単な講評を述べていく。

 

 野獣先輩の名前が呼ばれた。

 

「野獣。転移系と環境操作系を状況に応じて切り替えている。判断速度は悪くない。ただし発動がすべて発声依存なのは制約として大きい。戦闘中に発声できない状況を想定して対策を考えておけ」

 

 的確な指摘だった。野獣先輩はうなずいた。

 

「はっきりわかんだね」

 

 相澤が一瞬だけ止まった。

 

 本当に一瞬だけ。誰も気づかない程度の、コンマ一秒の停止だった。

 

 それから何事もなかったように続けた。

 

「……以上だ」

 

 テストが終わり、解散になった。

 

 野獣先輩が教室に戻ろうとしたとき、後ろから緑谷出久が駆け寄ってきた。

 

「あの、野獣先輩さん! さっきの測定、すごかったです。特にボール投げの転移、どのくらいの大きさまで転移できるんですか? あと発動の語録って全部で何種類あるんですか? それぞれ効果が違うんですよね?」

 

 一息に喋った。目が輝いている。

 

 野獣先輩はその熱量を受け止めながら、答えた。

 

「これもうわかんねぇな」

 

「え、ご自身でもまだ全部把握してないんですか?」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「そうか……すごい個性だからそれは仕方ないかもしれないですけど……」

 

 緑谷がまたノートに書き込んでいた。「語録と効果の対応が本人も未解明」という走り書きが見えた。

 

 違う、全部把握している。ノートもある。ただそれを伝える語録がない。

 

 野獣先輩は内心で苦笑しながら、緑谷と並んで歩いた。

 

 

放課後、野獣先輩が廊下を歩いていると、前からプレゼントマイクが歩いてきた。

 

 でかいヘッドフォン、金髪オールバック。テンションが高そうな見た目だが、今は普通に歩いている。

 

 すれ違いざま、プレゼントマイクが野獣先輩の顔を見た。

 

「おっ、1-Aの新入生か! 今日の個性把握テスト、どうだったぜ?」 

 

 フレンドリーな声かけだ。野獣先輩は立ち止まり、口を開いた。

 

「やりますねぇ!」

 

 プレゼントマイクの顔が、一瞬で固まった。

 

 固まったまま、三秒が過ぎた。

 

「……は、はははは、そりゃよかったぜ! 元気に頑張れよ!」

 

 笑いながら足早に立ち去った。廊下の角を曲がる直前、こっそり口元を手で押さえているのが見えた。

 

 野獣先輩は首を傾げた。なんかおかしかったか。

 

 そのまま昇降口に向かいながら、今日一日を振り返った。

 

 入学式。名前の読み上げ。thirteenの硬直。麗日への誤解。爆豪の一秒フリーズ。相澤のコンマ一秒の停止。プレゼントマイクの三秒固まり。

 

 この世界に来て初めて気づいたことがある。

 

 リアクションの長さが、知識の深さに比例している。

 

 thirteenは短かった。相澤はコンマ一秒だった。プレゼントマイクは三秒だった。

 

 オールマイトは今日、野獣先輩の近くにいなかった。

 

 オールマイトがいたら、何秒になるだろうか。

 

 野獣先輩はそのことを少しだけ考えてから、やめた。

 

 考えても語録でしか表現できないので、どうしようもない。

 

「じゃあ俺ギャラもらって帰るから」

 

 独り言のように呟いて、昇降口の扉を押した。

 

 春の風が吹いてきた。

 

 雄英高校ヒーロー科1年A組、野獣先輩の最初の一日が、終わった。

 




使って欲しい淫夢語録あったら感想で教えてくださいナス。
評価付与も楽しむよ〜
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。