【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩   作:まだら模様

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いよいよ物語は動き出せます…イクゾーデッデデデデデテンカーンデデテデン…
blimシステムみたいなガバは犯せないタイミングですが果たして…

キャラの語彙などの崩壊、ストーリーなどの崩壊などの可能性があります。
ご注意ください。

感想、評価付与をいただけると野獣先輩がかっこよくエリちゃんを助けてくれます!
ぜひ応援をお願いします!


第20話「(エリちゃん)暴れんなよ…(壊理・再接触)」

 

 

 インターンが三週目に入った。

 

 ナイトアイ事務所の朝は変わらない。バブルガールが業務日報を整理して、オールマイトフィギュアが棚に並んでいて、ナイトアイが「本日の索敵報告を」と言う。

 

 野獣先輩は事務所の屋上から索敵を展開した。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

「センセンシャル!」

 

 感度が上がった。通常の百メートルが、三百メートルを超えた。街全体が視野に入る。商店街の人込み、路地の通行人、ビルの中の気配。全部入ってくる。

 

 異常なし。今日も静かな朝だ。

 

 でも——何かがある。

 

 遠くの方に、小さな気配が引っかかっていた。昨日も引っかかった。一昨日も。

 

 毎日、同じ場所に同じ気配がある。

 

 野獣先輩は屋上の縁に立ったまま、その気配を確認した。

 

「あっ(察し)」

 

 子供だ。一人でいる。怯えている。

 

 白い髪の、あの子だ。

 

 

 

 

 

 

 屋上から降りた。ナイトアイの部屋をノックした。

 

「……入れ」

 

 野獣先輩は入った。ナイトアイが書類を見ていた。棚のオールマイトフィギュアが朝日に光っていた。

 

「索敵報告か」

 

「ありますあります」

 

「今日の結果は」

 

 野獣先輩は指で「2」「8」「7」と立てた。

 

「二百八十七人。——異常は?」

 

 野獣先輩は少し間を置いた。

 

「ありますあります」

 

 ナイトアイが顔を上げた。

 

「……ある、か。何を察知した」

 

「あっ(察し)」

 

「子供の気配か」

 

 野獣先輩が頷いた。

 

「場所は」

 

 窓の方向を指した。

 

「……商店街の東側、路地の奥か」

 

 頷いた。

 

「毎日同じ場所か」

 

 頷いた。

 

 ナイトアイが眼鏡を直した。長い沈黙があった。外から鳥の声がした。

 

「……分かった。今日のパトロールでその場所を通る。確認する」

 

「やりますねぇ!!」

 

「騒ぐな。——これは慎重にやる必要がある。あの子に関しては、今は接触よりも情報収集を優先する」

 

「ありますあります」

 

「ある。——ミリオにも伝えておけ。今日は三人で動く」

 

 

 

 

 

 廊下でミリオに会った。

 

「野獣先輩! 今日も索敵しました?」

 

「ありますあります」

 

「何かあった? 顔が違う気がする」

 

「あっ(察し)」

 

 ミリオが止まった。「……壊理ちゃんの気配?」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「また同じ場所に?」

 

「ありますあります」

 

 ミリオが少し黙った。ミリオの笑顔が引っ込んだ。こういう顔をする時のミリオは——本気だ。

 

「……今日、ナイトアイ先生と三人で行くんだよね」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「分かった。——野獣先輩、一個だけ聞いていいっすか」

 

「ありますあります」

 

「あの子を助けられると思う?」

 

 野獣先輩は少し考えた。

 

「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」

 

 ミリオがしばらく野獣先輩を見ていた。それから笑った。今度はいつもの笑いだった。

 

「……当たり前だよなぁ?」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ミリオが笑い声を立てた。バブルガールが廊下の向こうから「何ですか!?」と言った。

 

 

 

 

 

 午後、三人で街に出た。

 

 ナイトアイ、ミリオ、野獣先輩。

 

 商店街を歩いた。いつものパトロールの動きだった。ナイトアイが先に立っていた。

 

「索敵を維持したまま進め。何かあれば即座に報告する方法を決めておく。——語録で伝えられるか」

 

「ありますあります」

 

「では「あっ(察し)」が察知の報告、「やべぇよやべぇよ」が危機、「ファッ!?」が予期しない状況、でいいか」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「……ずいぶんすんなり決まるな」

 

「はっきりわかんだね」

 

 ナイトアイが「分かった」と言った。ミリオが「ナイトアイ先生、語録覚えてきてますよ!!」と言った。

 

「黙って歩け」

 

 商店街を抜けた。路地に入った。

 

 野獣先輩は索敵を維持したまま歩いた。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 気配の密度が変わった。通行人が減った。路地が細くなる。

 

 そして——

 

「あっ(察し)」

 

 ナイトアイが止まった。ミリオも止まった。

 

 路地の角の奥に、小さな気配があった。

 

 

 

 

 

 

 慎重に進んだ。

 

 路地の角を曲がった。

 

 いた。

 

 白い髪。白い服。額の左の角。腕の包帯。

 

 壊理が路地の壁際にしゃがんでいた。膝を抱えていた。顔を伏せていた。

 

 野獣先輩は索敵を確認した。周囲の気配——男の気配はない。今は一人だ。

 

「ありますあります」

 

 ナイトアイが頷いた。「……一人だな」

 

 壊理が顔を上げた。

 

 こちらを見た。目が大きかった。怯えた目だった。

 

 でも——一瞬、止まった。

 

 野獣先輩を見た。

 

 前に会った人間だ、と認識したのかもしれない。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 壊理の目が、少し変わった。恐怖の種類が変わった。「知らない人間への恐怖」から「知っている何かへの警戒」に変わった。

 

 それは——前進だ。

 

「……いたい」

 

 壊理が前回と同じ言葉を言った。小さい声だった。

 

「痛いですね…これは痛い」

 

 壊理が包帯の腕を見た。野獣先輩を見た。

 

「……おぼえてる」

 

 小さい声だった。

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 壊理がきょとんとした顔をした。

 

 

 

 

 

 

 ナイトアイが一歩下がった。ミリオも下がった。二人が無言で「任せる」という動きをした。

 

 野獣先輩は壊理の前にしゃがんだ。目線を合わせた。

 

 壊理が壁から少し離れた。体が固まっている。でも離れなかった。

 

「喉渇いた…喉渇かない?」

 

 壊理がきょとんとした顔をした。「……かわいてない」

 

「ないです」

 

「……ない?」

 

「ありますあります」

 

「……ある?」

 

「多少はね?」

 

 壊理が少し黙った。野獣先輩の顔を見た。怖い人間ではない、と判断しているのかもしれない。

 

「……なんで、へんなことしゃべるの」

 

「大会近いからね、しょうがないね」

 

「たいかい……」

 

 壊理が首を傾げた。

 

「ちゃんと、ベスト出せるようにね」

 

 壊理の体から、少し力が抜けた。

 

 緊張が和らぐ語録だ。相手の出力を上げる効果があるが——壊理の場合、「出力を上げる」よりも「力を抜かせる」方向に作用した。

 

「……ヘーキヘーキ、って」

 

 壊理が言った。

 

「ありますあります」

 

「さっきの人が言ってた」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「……おぼえてた、の?」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 壊理が——ほんの少しだけ、笑った。

 

 笑ったというより、口の端が緩んだ。でも確かに、ほんの少し緩んだ。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 壊理の目が、また変わった。

 

 涙が出そうな顔ではなかった。怯えた顔でもなかった。何かを受け取ろうとしている顔だった。

 

「……ヘーキヘーキ」

 

 壊理が、繰り返した。

 

 小さい声で。

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 

 

 

 

 その時——索敵が鳴った。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

「やべぇよやべぇよ」

 

 ナイトアイとミリオが即座に構えた。

 

 路地の入り口から、足音がした。

 

 男が現れた。前回と同じ男だった。大柄。目が笑っていない。笑っているのは口だけだ。

 

「……また来ましたね。——今日はプロの方もいらっしゃる」

 

 男がナイトアイを見た。ナイトアイが前に出た。

 

「私はサー・ナイトアイ。——その子との関係を聞かせてもらおうか」

 

「関係、ですか。——保護者ですよ」

 

「保護者にしては、子供の顔の怯え方が特殊だな」

 

 男が笑った。笑い方が変わらない。

 

「イキますよ~イキますよ~」

 

 野獣先輩が静かに言った。

 

 男の動作が——一瞬止まった。「何ですか、今の」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「ありますあります」

 

「……奇妙な方ですね」

 

 男の足が動いた。壊理の方向に向かおうとした。

 

「暴れんなよ…暴れんなよ…」

 

 男の体の動作衝動が抑制された。一歩が止まった。

 

「……っ」

 

 男が野獣先輩を見た。

 

「暴れ馬よ…!」

 

 男の足が——突然、予測不能な方向に動いた。男自身が予期していない動きだった。右足が左に滑った。バランスを崩した。

 

「な——!?」

 

 男が体勢を立て直そうとした。その間に、ミリオが前に出た。ナイトアイが壊理との間に立った。

 

「イキますよ~イキますよ~」

 

 もう一度言った。今度はミリオに向けて。

 

 ミリオの体から気配が変わった。集中が高まった。透過個性の出力が上がった。

 

「暴れんなよ…暴れんなよ…」

 

 男の動作が再び抑制された。ミリオが間に入った。男と壊理の間に、三人が立った。

 

 男が——止まった。

 

 笑いが消えた。

 

「……今日は引きます」

 

 男が言った。前回と同じ言葉だった。

 

「また来ます」

 

 歩き去った。

 

 路地に静寂が来た。

 

 

 

 

 

 

 男の気配が遠くなった。索敵で確認した。百五十メートル。二百メートル。遠くなっていく。

 

「ありますあります」

 

 ナイトアイとミリオが構えを解いた。

 

 壊理が——野獣先輩の服の端をつかんでいた。

 

 いつからつかんでいたのか分からない。気づいたらつかんでいた。

 

 手が震えていた。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 壊理が顔を上げた。

 

「……ヘーキヘーキ」

 

 繰り返した。震えが少し止まった。

 

「一ヶ月くらい…」

 

 壊理が「え?」と言った。

 

「ありますあります」

 

 この語録の効果——持続延長。

 

 「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」の効果が、今この子の中で長く続くように。恐怖が和らいだ状態が、少しでも長く続くように。語録の「余韻」を延ばす。

 

 効果があるかどうか分からない。でも——試した。

 

「……つめたい」

 

 壊理が服の端をつかんだまま言った。「手が、つめたい」

 

「痛いですね…これは痛い」

 

 壊理が包帯の腕を見た。「……いたくない。つめたいだけ」

 

「ありますあります」

 

「…………ヘーキヘーキ」

 

 壊理が言った。もう震えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、事務所に戻ってから、ナイトアイが三人を集めた。

 

 棚のフィギュアが並んでいた。窓の外が暗かった。ナイトアイの表情が、いつもより険しかった。

 

「報告を聞く。810くん、今日の索敵でその男についてどう感じたか」

 

「あっ(察し)」

 

「具体的に」

 

「やべぇよやべぇよ」

 

「危険、か」

 

「ありますあります」

 

「ある。——どの程度だ」

 

「うわあ……たまげたなあ」

 

 ナイトアイが眼鏡を直した。「……「たまげた」レベルか」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ミリオが「野獣先輩がたまげるって、ホークスさんの時と同じっすよね」と言った。

 

「ありますあります」

 

「別格レベルの危険、ということか」

 

「多少はね?」

 

「多少、か。——ホークスよりは低いが、一般のプロヒーロー以上の危険度がある、と」

 

「はっきりわかんだね」

 

 ナイトアイが立ち上がった。窓の外を見た。しばらく黙っていた。

 

「……私はあの子に関して、すでに一定の情報を持っている。だが確認できていない部分がある。——今日の接触で、一つ分かったことがある」

 

「ありますあります」

 

「あの子は野獣先輩の語録を記憶している。前回の「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」を覚えていた。——それは重要なことだ」

 

「やりますねぇ!!」

 

「……重要というのは、あの子にとって「語録が安全の記号」になりつつあるということだ。語録が届く。それは——今後の作戦で使える」

 

「ありますあります」

 

「ある。——だが今は動かない。もう少し情報を集める。焦るな」

 

「まーだ時間かかりそうですかね~」

 

 ナイトアイが少し止まった。「……時間がかかると思っているか」

 

「多少はね?」

 

「多少かかる、か。——正直に言う。その通りだ。焦って動けばあの子を危険にさらす」

 

 ミリオが「……先生、あの子のこと、ちゃんと助けられますか」と聞いた。

 

 ナイトアイが沈黙した。

 

「ちゃんと、ベスト出せるようにね」

 

 ナイトアイが——野獣先輩を見た。

 

「……語録でナイトアイ先生を励ますのかい?」

 

 ミリオが言った。

 

「ありますあります」

 

「ある、か」

 

 ナイトアイが眼鏡を直した。

 

「……ありがとう。——やろう」

 

「やりますねぇ!!」

 

「やる。——以上だ。今日は解散する」

 

 

 

 

 

 

 全員が帰った後、野獣先輩は事務所に残った。

 

 バブルガールが「もう少し残るんですか?」と言った。野獣先輩が頷いた。「分かりました。戸締りお願いします」と言ってバブルガールも帰った。

 

 一人になった。

 

 事務所の電気が一つだけ点いていた。棚のフィギュアが薄暗い中に並んでいた。オールマイトが全部こちらを向いていた。

 

 野獣先輩は索敵を展開した。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 今日の壊理の気配はもうない。別の場所に連れていかれた。どこか遠い場所に。索敵の範囲に入らない。

 

「あっ(察し)」

 

 それでも——何かが分かる。

 

 百年以上生きてきて、気配の「種類」が分かるようになった。強い人間の気配、弱い人間の気配、怯えた人間の気配、傷ついた人間の気配。

 

 壊理の気配は——傷ついた気配だった。ずっと怯えている子供の気配だった。

 

「痛いですね…これは痛い」

 

 独り言が出た。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 誰もいない部屋に語録が出た。

 

 壊理が「ヘーキヘーキ」と繰り返した声が、頭の中にあった。震えていた手が、少しだけ止まった瞬間が。

 

「王道を征く」

 

 それだけ言って、野獣先輩は立ち上がった。

 

 戸締りをして、事務所を出た。

 

 

 

 

 

 

 外に出ると、ミリオがいた。

 

 事務所の前の道に立っていた。「帰るの遅かったっすね」と言った。

 

「ありますあります」

 

「待ってた。——一緒に帰ろうと思って」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「当たり前か!!」

 

 二人で夜道を歩いた。

 

 商店街は閉まっていた。シャッターが並んでいる。街灯の光が白かった。

 

「野獣先輩、今日の壊理ちゃんとのやりとり——見てた」

 

「ありますあります」

 

「語録が届いてたよ。ちゃんと届いてた」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ミリオが笑った。

 

「……俺、個性消失弾のこと、ナイトアイ先生から聞いた。あの男が持ってるかもしれないって」

 

「やべぇよやべぇよ」

 

「そう。——でも行く」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「当たり前か!!」

 

 ミリオが空を見上げた。星が少し見えた。

 

「野獣先輩、「暴れ馬よ…!」って今日初めて使ってたけど、あれどういう語録っすか」

 

「ありますあります」

 

「あるんだ!! 効果は?」

 

「多少はね?」

 

「多少ある!! 動きをランダムにする感じ?」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「それ連携で使えるっすよ!! 俺が透過で入って、野獣先輩が暴れ馬で動きをバラバラにしたら——」

 

「やりますねぇ!!」

 

「やろう!!」

 

 二人で握手した。

 

 夜道が続いた。

 

「イキますよ~イキますよ~」

 

「今から何かするんですか!?」

 

「ないです」

 

「ない!? 宣言だけ!?」

 

「多少はね?」

 

 ミリオが笑った。野獣先輩も前を向いていた。

 

 商店街の向こうに、遠く、あの路地があった。

 

 壊理がしゃがんでいた場所だった。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 独り言が出た。

 

「……ヘーキヘーキ」

 

 ミリオが、静かに繰り返した。

 

 夜道を歩いた。

 

 

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