【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩 作:まだら模様
まだまだ野獣先輩には頑張ってもらいたいです!
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
評価付与、感想は野獣先輩がこの後かっこいい姿を見せるための活力になります!
個性が、消えた。
ミリオの体から「透過」の気配が消えた瞬間——野獣先輩の索敵が、それを捉えた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
ミリオの気配が変わっていた。さっきまであった「何でも通り抜ける」独特の質感が消えていた。普通の人間の気配になっていた。
でも——ミリオは前に立っていた。
壊理を背後に庇って、前に立っていた。
「ありますあります」
野獣先輩が走り込んだ。ナイトアイとエッジショットも続いた。
部屋に入った。
ミリオの前——チズンが立っていた。個性消失弾を持っていた。野獣先輩は索敵で即確認した。弾がある。もう一発ある。
「やべぇよやべぇよ」
「分かってる」とミリオが言った。振り向かずに言った。「——野獣先輩、俺の後ろのエリちゃんを」
「当たり前だよなぁ?」
野獣先輩は壊理の前に出た。壊理がいた。震えていた。包帯の腕を抱えていた。
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
壊理が顔を上げた。
「……いたい」
「痛いですね…これは痛い」
壊理がきょとんとした顔をした。「……いたくない。こわい、だけ」
「ありますあります」
野獣先輩は壊理の前に立ったまま、索敵を前方に向けた。
チズンが笑っていた。
「個性がなくなっちゃいましたね。——これで終わりです」
「ないです」
ミリオが言った。
チズンが止まった。「……何ですか、今の」
「終わりじゃないってことですよ」とミリオが言った。「個性がなくても——俺はここに立てる」
チズンが「どうして」と言いかけた。
「ホモはせっかちRTAだからね」
野獣先輩が言った。
その瞬間——野獣先輩の動作が圧縮された。一秒が〇・三秒になる感覚。全動作が加速した。
「ホラホラホラホラ!」
さらに加速した。チズンが「なっ——」と言いかけた時には、野獣先輩はすでに壊理を抱えて後方に下がっていた。壊理を安全な位置に移動させた。
「こ←こ↓!」
チズンの持っていた個性消失弾——もう一発——を左に逸らして下に落とした。床に転がった。不発になった。
「——っ!」チズンが弾に手を伸ばした。
「いいよ!こいよ!胸にかけて!胸に!」
弾が——チズンの方向に引き寄せられた。チズンの手に戻る形になった。いや、違う。チズンの胸元に向かって加速した。チズン自身が弾を受ける軌道になった。
「な——自分に当たる!?」
「暴れんなよ…暴れんなよ…」
チズンの動きが抑制された。避けられない。
でも——チズンが無理やり体を動かした。弾が肩に当たった。
チズンの個性が——消えた。自分の個性消失弾を食らった。
「ファッ!?」
「……本当に予測不能ですね、語録個性というのは」
チズンが膝をついた。
エッジショットが前に出た。「後は任せろ」と短く言った。
チズンが倒れた後——次の敵が来た。
通路の奥から足音が複数。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
「やべぇよやべぇよ」
「何人だ」とエッジショットが聞いた。
指で「8」を立てた。
「八人か。——ミリオ、後方に下がれ」
「……嫌です」
ミリオが言った。
「個性がない状態で戦えるか」
「ありますあります」
野獣先輩が言った。ミリオを見た。
「——野獣先輩が「ある」って言ってくれてる」とミリオが笑った。「なら、行けます」
「ちゃんと、ベスト出せるようにね」
ミリオの体から何かが変わった。個性は消えている。でも——体の使い方が変わった。フォームが整った。体幹が落ちついた。個性なしでの出力が上がった。
「……ありがとう、野獣先輩」
敵が来た。
ミリオが動いた。
個性がない。透過できない。でも——ミリオは動いた。体術だけで動いた。三年間で培った体格と反射と判断力が、個性の代わりに機能した。
「ホモはせっかちRTAだからね」
ミリオの動作速度が上がった。語録の加速が乗った。
「ホラホラホラホラ!」
さらに乗った。加速が重複した。
ミリオが八人の中に飛び込んだ。個性なしのミリオが、語録の加速だけで八人に当たっていた。
「暴れ馬よ…!」
八人の動きがバラバラになった。個々の動きがランダム化した。連携が崩れた。
「こ→←こ!」
左右から通路を圧縮——八人が身動きを取りにくい空間になった。
ミリオが止まらなかった。一人、二人、三人——倒していった。
戦闘が続いている間、ナイトアイが野獣先輩の横に来た。
「壊理ちゃんを頼む。——私は奥に行く」
「やべぇよやべぇよ」
「分かっている。でも——行かなければならない」
「ありますあります」
「ある。——行ってくる」
ナイトアイが奥に向かった。
野獣先輩は索敵でナイトアイの気配を追い続けた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
奥に——オーバーホールの気配がある。重い。歪んでいる。分解と再構成が繰り返されている空間の気配がする。
「あっ(察し)」
ナイトアイが向かっている先に、何があるか——索敵でうっすら分かる。
「やべぇよやべぇよ」
独り言が出た。壊理を抱えたまま言った。
戦闘の音が遠くなっていく中、野獣先輩は壊理を抱えていた。
壊理が震えていた。音が怖いのか、ずっと震えていた。
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
「……ヘーキヘーキ」
壊理が繰り返した。少し震えが止まった。
「いたい?」
壊理が首を振った。「……こわい」
「痛いですね…これは痛い」
「……いたくない。でも——こわいのも、いたいみたい」
野獣先輩が少し止まった。
この子は——怖さを「痛い」と同じものとして受け取った。
「ありますあります」
「……ある?」
「当たり前だよなぁ?」
壊理がきょとんとした顔をした。
「……こわくても、当たり前なの?」
「当たり前だよなぁ?」
壊理が少し黙った。
「……こわくていい、の?」
「当たり前だよなぁ?」
壊理の目が変わった。
泣きそうな顔ではなかった。何かが溶けたような顔だった。
「……ヘーキヘーキ」
壊理がもう一度言った。今度は自分から言った。
「一ヶ月くらい…」
壊理が「え?」と言った。
「ありますあります」
この効果が、今日より長く続くように。壊理の中に残るように。
戦闘が終わった。
ミリオが立っていた。
八人を全員倒していた。個性なしで。体術と語録の加速だけで。
ミリオの体が——限界に近かった。索敵で分かる。体の疲労が全域に出ている。
「ちゃんと、ベスト出せるようにね」
「……もう出し切りました」とミリオが言った。笑いながら言った。「でも大丈夫っす、まだ立てる」
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
「ヘーキヘーキ——ですね。野獣先輩に言われると、なんかホントにヘーキな気がしてくる」
ミリオが壊理を見た。
「エリちゃん——大丈夫?」
「……ヘーキヘーキ」
壊理が言った。
ミリオの目が——一瞬、歪んだ。
すぐに笑顔に戻った。
「……よかった」
野獣先輩はミリオの横顔を見た。
疲弊している。個性が消えた痛みがある。でも——前を向いている。
「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」
ミリオが「……そうですね」と言った。「俺も、そう信じてます」
その時——索敵が鳴った。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
「あっ(察し)」
ナイトアイの気配が——変わった。
傷ついた気配だ。深い場所から来ている。
「やべぇよやべぇよ」
「ナイトアイ先生か!?」とミリオが言った。
「ありますあります」
「どこだ」
野獣先輩は奥の方向を指した。
「行く!!」
「ちゃんと、ベスト出せるようにね」
「——ありがとう!!」
ミリオが走り出した。
野獣先輩は壊理を抱えたまま、エッジショットと共に後に続いた。
ナイトアイのいる場所に向かって走った。
走りながら、索敵でナイトアイの気配を追い続けた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
ナイトアイの気配が——変わった。急激に変わっていた。
「やべぇよやべぇよ」
さらに走った。
通路の奥から声が聞こえた。戦闘の音だった。
そして——音が変わった。
「あっ(察し)」
何かが起きた。重大なことが。索敵が「危機」として反応した。
「†悔い改めて†」
走りながら言った。
差し戻せるか——今ナイトアイに起きていることを、手前の状態に差し戻せるか。
語録の効果が展開した。「前の状態に戻す」解釈の「悔い改めて†」が——届こうとした。
でも——
「ないです」
届かなかった。
距離が遠すぎた。壁が多すぎた。オーバーホールの分解再構成の影響で空間が歪んでいた。語録の効果が空間の「歪み」に干渉されて減衰した。
「……ないです」
もう一度言った。
今度は、自分に向けて言った。
走り込んだ。
ナイトアイが——倒れていた。
重傷だった。索敵でそれが分かった。体の内部の気配が——正常でない。
「やべぇよやべぇよ」
「先生!!」とミリオが叫んだ。
ナイトアイが目を開けた。
「……来たか」
「しゃべらないでください!!」
「……黙っていたら——死ぬのを待つだけだ。それは嫌だ」
ナイトアイが野獣先輩を見た。
「……810くん」
「ありますあります」
「壊理ちゃんは」
「ありますあります」
「……無事か」
「当たり前だよなぁ?」
ナイトアイが少し笑った。
「当たり前か。——そうだな」
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
ナイトアイが止まった。
「……それは——私に言っているのか」
「当たり前だよなぁ?」
「……ヘーキではないのだが」
「多少はね?」
ナイトアイが「多少か」と言った。口の端が少し動いた。
「……多少、ヘーキかもしれない。——語録というのは、不思議なものだな」
「ありますあります」
「ある。——ある、か」
ナイトアイが目を閉じた。
「……ミリオ」
「……はい」
「お前の笑顔は——最高のヒーローの笑顔だ」
ミリオが声を出さなかった。
野獣先輩は壊理を抱えたまま、ナイトアイを見ていた。
その時——デクたちが来た。
「ナイトアイさん!!」と緑谷が叫んだ。
「搬送する!!」とロックロックが言った。「今すぐ上に上げろ!!」
全員が動いた。ナイトアイを担いだ。
野獣先輩は壊理を抱えたまま、流れの中にいた。
索敵を維持した。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
ナイトアイの気配が——弱い。でも、ある。
「ありますあります」
独り言が出た。
ある。今はまだある。
走った。全員が走った。上の方向に。地上に向かって走った。
その時——野獣先輩の体から、言葉が出た。
語録ではない言葉が。
百年以上生きてきて、語録でない言葉を発することが、どれだけ久しぶりか分からない。
体が勝手に、出した。
「——行けるぞ」
誰かが振り返った。
ミリオが振り返った。デクが振り返った。
野獣先輩は前を向いたまま走り続けた。
語録でない言葉が出た理由は——自分にも分からなかった。
「ありますあります」
語録が戻ってきた。
走り続けた。
地上に出た。
光が来た。
外の光だった。昼の光だった。地下から出た瞬間、全員が一拍止まった。
壊理が光に目を細めた。
「……あかるい」
「当たり前だよなぁ?」
「……当たり前、なの?」
「当たり前だよなぁ?」
壊理が空を見た。
野獣先輩も空を見た。
救急車が来ていた。警察が来ていた。全員が動き始めた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
索敵が全員を拾った。ナイトアイの気配——弱いが、ある。ミリオの気配——個性は消えているが、立っている。壊理の気配——怯えているが、震えが少し止まっている。
「ありますあります」
独り言が出た。
全員いる。今はまだ全員ここにいる。
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
空に向かって言った。
誰かに届いたかどうかは、分からない。