【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩 作:まだら模様
原作の悲劇はどうなるのか…
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
評価付与、感想は野獣先輩が✝️悔い改めて✝️と鎮魂を行います。
前に進んでゆくのです…ヒーローは…
病院の廊下は白かった。
消毒液の匂いがした。蛍光灯の光が均一に天井から降りていた。窓の外に夜が来ていた。
野獣先輩は廊下の壁に背をつけて立っていた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
索敵を低出力で維持したまま待っていた。病院の中の気配が全部入ってくる。デクが治療室にいる。腕の状態が深刻だ。相澤先生が廊下を歩いている。医師が複数動いている。そして——
ナイトアイの気配が——ある。
まだある。
「ありますあります」
独り言が出た。誰に向けたわけでもなかった。
足音がした。
ミリオが廊下の奥から歩いてきた。
ミリオの体の気配が——変わっていた。索敵に入ってくる「個性のある人間」の質感が、ミリオからは消えていた。個性消失弾の影響が全身に回っている。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
「あっ(察し)」
ミリオが野獣先輩を見た。笑っていた。
ボロボロだった。包帯が巻かれていた。目の下にクマがあった。でも——笑っていた。
「野獣先輩さん」
「ありますあります」
「個性、なくなっちゃいました」
「ありますあります」
「分かってたんですけどね。でも——やっぱり実感すると、なんかちょっと変な感じがして」
ミリオが笑いながら言った。泣いていなかった。
「最高やな!」
ミリオが「え?」と言った。
「最高やな!」
もう一度言った。
ミリオが「……最高、ですか?」と言った。少し首を傾けた。
「当たり前だよなぁ?」
「何が最高なんですか、個性なくなったんですよ?」
「ありますあります」
「……あるんですか? 何が」
「ありますあります」
ミリオが少しの間黙った。野獣先輩の顔を見た。
「……野獣先輩さんって、よく分からないですね」
「多少はね?」
ミリオが笑った。今度は少し違う笑い方だった。さっきより力が入っていた。
「でも——なんか、元気出た気がします」
「当たり前だよなぁ?」
廊下の奥の部屋に、ナイトアイがいた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
索敵で気配を確認し続けた。
ナイトアイの気配は——ある。でも弱い。戦闘前のあの鋭さが消えていた。静かになっていた。
「ピトン…ポチョン…(明鏡止水)」
自分の動作を止めた。廊下で静止した。索敵だけを続けた。
ナイトアイの部屋の中に人の気配が集まり始めた。デクが来た。相澤先生が来た。ミリオが来た。他にも何人か。
「あっ(察し)」
分かった。
ナイトアイが人を呼んでいる。最後に話したいことがある。
野獣先輩は部屋の外に立っていた。中には入らなかった。
扉越しに気配が伝わってくる。索敵を通じて、部屋の中の様子が分かる。ナイトアイが話している。デクが泣きそうな気配がする。ミリオが——笑っている気配がする。
「ありますあります」
独り言が出た。
ミリオはあの中で笑っているのだ。個性を失って、一番傷ついているのに——笑っている。
「世界一やお前!」
扉に向かって小声で言った。届くはずがない。
でも言った。
後ろから足音がした。
「あっ(察し)」
エッジショットだった。治療を終えたのか、腕に包帯を巻いていた。廊下を歩いてきて、野獣先輩の横に立った。
二人で扉を見た。
「……ナイトアイは」とエッジショットが言った。
「ありますあります」
「まだいるか」
「ありますあります」
エッジショットが「……そうか」と言った。
しばらく沈黙が続いた。
「お前の語録——」とエッジショットが言った。「今日の作戦で、俺は五つ確認した。それぞれ効果が異なる」
「ありますあります」
「記録した。また確認させてもらう」
「多少はね?」
エッジショットが「……それは了承と取る」と言った。
また沈黙が続いた。
「縛らなきゃ(使命感)」
野獣先輩が言った。
「何をだ」
「ありますあります」
エッジショットが「……記憶か」と言った。
「ありますあります」
「この夜を忘れるな、ということか」
「当たり前だよなぁ?」
エッジショットが「……そうだな」と言って、扉を見たまま頷いた。
その時——
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
「あっ(察し)」
部屋の中のナイトアイの気配が——変わった。
静かになっていた気配が、さらに静かになった。
静かになりすぎた。
「…………」
野獣先輩は動かなかった。
エッジショットも動かなかった。
扉の向こうで、誰かが泣く気配がした。デクだ。
「ないです」
独り言が出た。
今度の「ないです」は——そのままの意味だった。
ナイトアイの気配が、索敵から消えた。
しばらくして、扉が開いた。
ミリオが出てきた。
笑っていた。
目が赤かった。でも——笑っていた。さっきより力のある笑い方で、真っ直ぐ前を見て笑っていた。
「野獣先輩さん」
「ありますあります」
「ナイトアイ先生、逝きました」
「ありますあります」
「笑顔で逝きました。みんなが笑ってくれたから」
「ありますあります」
ミリオが「俺、また強くなります」と言った。「個性がなくても。絶対に——また、エリちゃんを守れるくらい強くなります」
「ありますあります」
「応援してくれますか」
野獣先輩は少し間を置いた。
「ないです」
ミリオが「え?」と言った。
「ないです」
「……応援、しないんですか?」
「ないです」
ミリオが首を傾けた。野獣先輩の顔を見た。
野獣先輩は真顔だった。
「ないです」
ミリオが——笑った。今夜一番の笑い方で笑った。
「……分かりました。応援じゃなくて、一緒にやるってことですね」
「ありますあります」
「当たり前だよなぁ?」って感じですね、もう」
「当たり前だよなぁ?」
ミリオが「ははっ」と声を出して笑った。廊下に笑い声が響いた。
エッジショットが「……フォームが崩れていない」と小声で言った。「個性を失った後でも笑える。——大したものだ」
次にデクが扉から出てきた。
泣いていた。泣きながら歩いてきた。
「野獣先輩さん……」
「ありますあります」
「俺——ナイトアイさんに、未来を変えられるって言ってもらえたんです。俺の個性なら、変えられるって」
「ありますあります」
「でも——俺には、ナイトアイさんを助けることが、できなかった」
「ありますあります」
「語録は……届かなかったですよね。ナイトアイさんには」
野獣先輩は少し間を置いた。
「ないです」
デクが顔を上げた。「え?」
「ないです」
「届かなかったんじゃないんですか?」
「ないです」
デクが「……届いてた、ってことですか?」と言った。
「ありますあります」
「でも、助けられなかった」
「ありますあります」
「…………語録は届いてたけど、助けられなかった、ってことですか」
「ありますあります」
デクがまた泣いた。でも今度は——少し違う泣き方だった。さっきよりも顔が前を向いていた。
「……分かりました。俺、もっと強くなります。次は——絶対に、間に合わせます」
「ケンちゃんまだ一回表、試合は始まったばっかりよ!」
デクが「え?」と言った。
「ケンちゃんまだ一回表、試合は始まったばっかりよ!」
ミリオが「あ、それ分かります」と言った。「まだ終わってないよ、ってことですよね」
「ありますあります」
デクが「……うん」と言った。袖で目を拭った。「——うん! まだ終わってない!」
相澤先生が扉から出てきた。
いつも通りの無表情だった。でも——目が少しだけ赤かった。
野獣先輩を見た。
「田所」
「ありますあります」
「今日の作戦——お前がいなければ壊理は助からなかった」
「ありますあります」
「……お前の語録とやら、まだ全部把握していない。教えろ」
「多少はね?」
相澤先生が「……多少じゃ足りない。全部だ」と言った。
「だいぶ溜まってんじゃんアゼルバイジャン」
「何だそれは」
「ありますあります」
「…………語録の数が多い、ということか」
「ありますあります」
相澤先生が「分かった。後で整理して見せろ」と言った。そのまま廊下を歩いていった。
廊下に人が増えてきた。
麗日が来た。飯田が来た。切島が来た。ファットガムが来た。蛙吹梅雨も来た。
全員が病院の廊下に集まった。誰も大きな声を出さなかった。でも——全員がいた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
索敵で全員の気配を確認した。
「実家のような安心感」
独り言が出た。
「え、今なんか言いましたか?」と切島が聞いた。
「ありますあります」
「実家って——ここ病院ですよ?」
「多少はね?」
切島が「多少ってどういうことだ!」と言った。でも笑っていた。
ファットガムが「まあ、分かる気はするわ」と言った。「みんないるとなんか——落ち着くな」
麗日が「……そうですね」と言った。轟が「……悪くない」と言った。
飯田が「語録の意味は相変わらず分からないが!! しかし野獣先輩さんの言いたいことは——!!」と言い始めた。
「天哉」と轟が言った。
「……そうだな。うん」と飯田が言った。
時間が経った。
廊下の窓の外が、少しずつ明るくなり始めた。夜が終わろうとしていた。
野獣先輩は窓の外を見ていた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
索敵を広域展開した。病院の中の気配。廊下にいる全員の気配。そして——ナイトアイがいた部屋の気配。
もう気配はない。
「ないです」
独り言が出た。
でも今度の「ないです」は——どちらの意味でもなかった。
ただ——言葉が出た。
「そして天は鳴き、大地は震えるだろうね」
窓の外の空に向かって言った。
誰も聞いていなかった。
でも——言った。
夜明けが近くなった頃、ミリオが野獣先輩の隣に来た。
二人で窓の外を見た。
「野獣先輩さん」
「ありますあります」
「ナイトアイ先生は——最後に笑ってたんですよ。本当に笑ってた。語録の話もしてました」
「ありますあります」
「野獣先輩さんの語録のこと、ちゃんと見てたって。意味は分からないけど——よく効いてたって」
「ありますあります」
「先生、最後に言ってたんです。『未来は変えられる』って。——俺、信じます」
「ありますあります」
「野獣先輩さんは? 信じますか、そういうの」
野獣先輩は少し考えた。
窓の外の空が、白んでいた。
「ないです」
ミリオが「……信じない?」と聞いた。
「ないです」
「……信じないじゃなくて——もう信じてる、ってこと?」
「ありますあります」
ミリオが「……なんですかそれ」と言って笑った。「ずるいですよ」
「多少はね?」
「多少ずるい!! でも——なんかいいですね」
ミリオがまた笑った。夜明けの廊下に笑い声が響いた。
「やりますねぇ!」
「え、今度は何ですか?」
「ありますあります」
「…………俺のこと言ってくれてますよね」
「ありますあります」
「ありがとうございます」とミリオが言った。声が少し詰まった。「——本当に、ありがとうございます」
「ないです」
ミリオが「また『ないです』だ」と言って笑った。「今度のはどっちですか」
「ありますあります」
「どっちもある、ってことですね。——お礼を言う必要もないくらい、当たり前のことだってこと」
「当たり前だよなぁ?」
夜が明けた。
病院の廊下に朝の光が差し込んできた。
野獣先輩は廊下の端に立っていた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
索敵で全員の気配を確認した。
デクが治療室にいる。腕の処置が続いている。ミリオが廊下のベンチに座っている。麗日が飯田と話している。切島が壁に背をつけて眠りかけている。轟が窓を見ている。相澤先生が医師と話している。
全員いる。
全員、ある。
「ないです」
独り言が出た。
今度は——「ある」の意味だった。
誰も消えていない。全員がここにいる。ナイトアイはいない。でも——その分だけ、ここにいる全員の気配が、少し重くなったような気がした。
「ありますあります」
また言った。
全員分に向けて。
廊下に朝の光が満ちていた。