【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩 作:まだら模様
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
評価付与、感想は野獣先輩がチカレタ…ってつい本音をこぼすタイミングを見かけることができます
いつもは見れないヒーローの裏の姿(意味深)を見れるかも?
壊理が雄英高校に来たのは、作戦から二週間後のことだった。
相澤先生が後見人として申請を出し、学校側が受け入れを決めた。治療は継続している。体の傷は塞がっていた。ただ——傷と呼べないものが、まだそこにあった。
野獣先輩は保健室の前の廊下に立っていた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
索敵を展開した。保健室の中に壊理の気配がある。回復ヒーローが側についている。相澤先生の気配もある。扉の近くにデクの気配がある。廊下の奥から切島と爆豪が歩いてくる気配がある。
壊理の気配は小さかった。蝋燭一本分みたいな大きさだった。でも——ある。
「ありますあります」
独り言が出た。ある。ちゃんとある。
保健室の扉の横にデクが立っていた。腕はまだ包帯が巻かれていた。野獣先輩が近づくと、デクが顔を上げた。
「野獣先輩さん。壊理ちゃん、さっき着きました。相澤先生と一緒で……すごく緊張してそうで」
「ありますあります」
「俺、さっき少しだけ顔を見たんですけど——なんか、ちょっとだけ表情が柔らかくなってた気がして。あの時よりも」
「いいねぇー」
デクが「え?」と聞いた。
「いいねぇー」
「……いいですか? よかった」デクが少しだけ笑った。「野獣先輩さんが言うと、なんか本当に大丈夫な気がしてくるんですよね」
「当たり前だよなぁ?」
デクが「そうですね」と言って、また扉を見た。
足音が二人分近づいてきた。
「あ! 野獣先輩いた!」
切島が小走りで来た。爆豪がその後ろを歩いてきた。爆豪はポケットに手を突っ込んでいた。
「先輩、壊理ちゃんって今どこっすか? 保健室ですよね、やっぱ」
「ありますあります」
「っすよねー。俺も顔見に行きたいんですけど、なんか今は相澤先生いるし、邪魔かなーって思って……先輩どうっすか、会いに行く感じですか?」
「多少はね?」
「多少ってどういうことっすか! 行くんですか行かないんですか!」
「ありますあります」
「ああ、行くのか」と爆豪が短く言った。
切島が「爆豪もちゃんと来るじゃないっすか!」と言った。
「うるせえ、黙ってろ」
「でも来るじゃないっすかァ!」
「…………」
爆豪が答えなかった。それが答えだった。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
野獣先輩が索敵を更新した。爆豪の気配——来る気満々だった。
「はっきりわかんだね」
「何が!」と切島が笑いながら言った。「先輩ってば絶対爆豪のこと見透かしてますよね!」
「ありますあります」
「死ね」と爆豪が言った。機嫌が悪い口調だったが、足は止まっていなかった。
相澤先生が廊下まで出てきた。
「田所。——来たか」
「ありますあります」
「壊理は……少し落ち着いてる。お前に会いたがってた」
「ありますあります」
「爆豪、切島。お前らも来るか」
爆豪が無言で頷いた。切島が「お願いします!」と言った。
保健室の扉が開いた。
白いベッドの上に壊理が座っていた。
病院服より少し普通に近い服を着ていた。髪が整えられていた。目が——あの地下室で見た時より、少しだけ前を向いていた。
野獣先輩を見た。
「…………やじゅう、せんぱい」
小さな声だった。
「ありますあります」
壊理が少しの間、野獣先輩の顔を見ていた。それから——小さく言った。
「……ヘーキヘーキ」
デクが息を飲んだ。切島がぴくりと動いた。
「ヘーキヘーキ」
壊理がもう一度言った。自分で確かめるみたいに。
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
野獣先輩が言った。
壊理が「……うん」と言った。うなずいた。目が少し細くなった——笑おうとしていた。まだうまくできなかったけど、やろうとしていた。
「ありますあります」
沈黙が少しあった。
切島が「——ッ」と短い声を出した。
「おい切島」と爆豪が言った。
「わかってる、わかってるって! でも——」
切島の目から涙が出た。隠さなかった。
「ごめんな壊理ちゃん、男泣きしちゃって! なんか——よかったって思ったら止まんなくて!」
壊理が切島を見た。きょとんとした顔をしていた。
「……なんで、なく?」
「嬉しいからだよ! あんたが元気そうで——ここにいてくれてよかったって!」
壊理がまた「……ヘーキヘーキ」と言った。
切島が「ヘーキじゃねえ! でもありがとな!」と言って、ますます泣いた。
「先輩、みてくださいよこれ、俺どうしたらいいっすか」と切島が野獣先輩の袖を引いた。
「多少はね?」
「多少ってなんすか!!」
「うるせえ廊下出ろ」と爆豪が言った。
「行かないっすよ! 俺だって壊理ちゃんに会いたくてここに——」
「泣き声でかいんだよ。静かに泣け」
「泣き方に注文つけないでくださいよ!!」
壊理がその様子を見ていた。また——笑おうとしていた顔が、今度は少し形になっていた。口の端が、わずかに上がっていた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
「あっ(察し)」
野獣先輩が壊理の顔を見た。笑っていた。ほんの少しだけど——笑っていた。
「Foo↑気持ちぃ~」
切島が「え、今の何っすか先輩!! なんか急に!」と言った。
「壊理ちゃんが笑ったんだよ」とデクが言った。声が少し詰まっていた。「野獣先輩さん、それ見て——」
「……Foo↑気持ちぃ~」
野獣先輩がもう一度言った。
壊理が「……ふー?」と言った。オウム返しで言った。発音が可愛かった。
「ありますあります」
しばらくして、相澤先生が「そろそろ休ませる」と言った。
全員が立ち上がり始めた。
爆豪が最後に残った。
壊理の前に立った。
何も言わなかった。
そのまま——無言で壊理の頭に手を置いた。ゆっくり、一回だけ撫でた。
それだけだった。
爆豪が踵を返して扉の方へ歩いた。
壊理が爆豪の背中を見ていた。
「……ヘーキヘーキ」
壊理がまた言った。今度は——誰かに向けてというより、自分で自分に言い聞かせるみたいな声だった。
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
野獣先輩がそれに返した。
扉のそばで爆豪が一瞬止まった。止まってから、また歩き出した。
廊下に出た。
相澤先生が扉を閉めた。
しばらく誰も喋らなかった。
「先輩」と切島が言った。目がまだ少し赤かった。
「ありますあります」
「壊理ちゃん、絶対良くなりますよね」
「ありますあります」
「……っす。そうっすよね」
切島が深呼吸した。それから「俺、もっと強くなります」と言った。「あの子の前に立てるくらい。ちゃんと守れるくらいに」
「やりますねぇ!」
「先輩に言われると、なんか本当にやれる気がしてくるから不思議っすよ」
「勝手にたまげてろ」
「たまげてないっすよ!! 本当のことっすよ!!」
デクが「俺も同じです」と言った。「野獣先輩さんの語録って——なんか、ちゃんと届いてくる感じがするんですよね。意味が全部わかんなくても」
「ありますあります」
「俺は意味全然わかんないんですけど」と切島が言った。「でもなんか、それでいいっすよね先輩」
「当たり前だよなぁ?」
切島が「っすよね!」と言って笑った。
爆豪が「うるせえ帰るぞ」と言いながら廊下を歩き始めた。
切島が「あ、待ってくれてたじゃないっすかァ!」と駆け足でついていった。
気づけば廊下に野獣先輩と相澤先生だけが残っていた。
夕日が廊下の窓から差し込んでいた。
「田所」
「ありますあります」
「壊理が——お前の語録を覚えてた。ヘーキヘーキ。あの地下室にいた時から、ずっと言ってたらしい」
「ありますあります」
「……助かったんだろうな、あの言葉に」
相澤先生が窓の外を見た。
「語録とやらを、俺はまだ全部把握していない。だが——あれが何かを守れるということは、わかった」
「ありますあります」
「引き続き雄英で動いてもらう。次の作戦でも頼む」
「おかのした」
相澤先生が「……返事は普通にしろ」と言った。
「ありますあります」
「……まあいい」
相澤先生が廊下を歩き始めた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
野獣先輩は索敵を更新した。
保健室の中に壊理の気配がある。さっきより落ち着いた気配だった。蝋燭一本分の小さな気配が——少しだけ、温かくなっていた気がした。
「ありますあります」
独り言が出た。
夜になった。
野獣先輩は寮の自分の部屋の前に立っていた。廊下の奥から切島が来た。シャワー帰りらしく、タオルを首にかけていた。
「あ、先輩。まだ起きてたっすか」
「ありますあります」
「俺さっき爆豪と話してたんすけど——壊理ちゃんのこと、二人で絶対守るって話して。なんか、爆豪が珍しくうなずいてくれて」
「いいねぇー」
「っすよね! 先輩から見てどうっすか、爆豪って——」
「わかるわかる(タメ口)」
「何がわかるんすか先輩! 何をわかってるんすか!」
「ありますあります」
「……全部わかってるっていうことっすか」
「当たり前だよなぁ?」
切島が「かっこいいな先輩、それ」と言った。笑っていた。
廊下に夜の静寂が戻った。
「先輩、一個だけ聞いていいっすか」
「ありますあります」
「壊理ちゃん、ちゃんと笑えるようになりますかね。今日少し笑ったけど——もっとちゃんと、普通に笑えるようになりますかね」
野獣先輩は少しの間、答えなかった。
廊下の窓の外に夜空があった。
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
切島が「……っすね」と言った。「先輩が言うなら、ヘーキっすね」
少しの間があった。
「……俺さ、今日泣いちゃったじゃないっすか。あれ、かっこ悪かったっすかね」
「最高やな!」
切島が「え?」と聞いた。
「最高やな!」
「……最高っすか。泣いたのが」
「ありますあります」
切島が「そっか」と言って、タオルで顔を拭いた。「ありがとっす先輩。なんか——ありがとっす」
「ないです」
切島が「また『ないです』だ」と言って笑った。「それって、お礼はいらないってことっすよね、もう」
「当たり前だよなぁ?」
翌朝。
野獣先輩が保健室の前を通りかかった時、扉が少し開いていた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
中に壊理の気配がある。回復ヒーローの気配がある。
扉の隙間から声が聞こえた。
「……ヘーキヘーキ」
壊理の声だった。
回復ヒーローが「そうよ、ヘーキヘーキよ」と返していた。
「……ありますあります」
壊理がまた言った。
回復ヒーローが「……何それ、かわいい」と言った。
「ありますあります」
野獣先輩が扉の外で言った。扉越しに。届いたかどうかはわからなかった。
でも——
「……ありますあります」
壊理の声が、また聞こえた。
扉の向こうで、ちゃんと届いていた。