【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩   作:まだら模様

27 / 60
事件の後処理も大事、性処理も同じく大事(白目)

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。

評価付与、感想は野獣先輩がチカレタ…ってつい本音をこぼすタイミングを見かけることができます
いつもは見れないヒーローの裏の姿(意味深)を見れるかも?


第27話「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ(壊理・後日談)」

 

 

 壊理が雄英高校に来たのは、作戦から二週間後のことだった。

 

 相澤先生が後見人として申請を出し、学校側が受け入れを決めた。治療は継続している。体の傷は塞がっていた。ただ——傷と呼べないものが、まだそこにあった。

 

 野獣先輩は保健室の前の廊下に立っていた。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 索敵を展開した。保健室の中に壊理の気配がある。回復ヒーローが側についている。相澤先生の気配もある。扉の近くにデクの気配がある。廊下の奥から切島と爆豪が歩いてくる気配がある。

 

 壊理の気配は小さかった。蝋燭一本分みたいな大きさだった。でも——ある。

 

「ありますあります」

 

 独り言が出た。ある。ちゃんとある。

 

 

 

 

 

 保健室の扉の横にデクが立っていた。腕はまだ包帯が巻かれていた。野獣先輩が近づくと、デクが顔を上げた。

 

「野獣先輩さん。壊理ちゃん、さっき着きました。相澤先生と一緒で……すごく緊張してそうで」

 

「ありますあります」

 

「俺、さっき少しだけ顔を見たんですけど——なんか、ちょっとだけ表情が柔らかくなってた気がして。あの時よりも」

 

「いいねぇー」

 

 デクが「え?」と聞いた。

 

「いいねぇー」

 

「……いいですか? よかった」デクが少しだけ笑った。「野獣先輩さんが言うと、なんか本当に大丈夫な気がしてくるんですよね」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 デクが「そうですね」と言って、また扉を見た。

 

 

 

 

 

 足音が二人分近づいてきた。

 

「あ! 野獣先輩いた!」

 

 切島が小走りで来た。爆豪がその後ろを歩いてきた。爆豪はポケットに手を突っ込んでいた。

 

「先輩、壊理ちゃんって今どこっすか? 保健室ですよね、やっぱ」

 

「ありますあります」

 

「っすよねー。俺も顔見に行きたいんですけど、なんか今は相澤先生いるし、邪魔かなーって思って……先輩どうっすか、会いに行く感じですか?」

 

「多少はね?」

 

「多少ってどういうことっすか! 行くんですか行かないんですか!」

 

「ありますあります」

 

「ああ、行くのか」と爆豪が短く言った。

 

 切島が「爆豪もちゃんと来るじゃないっすか!」と言った。

 

「うるせえ、黙ってろ」

 

「でも来るじゃないっすかァ!」

 

「…………」

 

 爆豪が答えなかった。それが答えだった。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 野獣先輩が索敵を更新した。爆豪の気配——来る気満々だった。

 

「はっきりわかんだね」

 

「何が!」と切島が笑いながら言った。「先輩ってば絶対爆豪のこと見透かしてますよね!」

 

「ありますあります」

 

「死ね」と爆豪が言った。機嫌が悪い口調だったが、足は止まっていなかった。

 

 

 

 

 

 相澤先生が廊下まで出てきた。

 

「田所。——来たか」

 

「ありますあります」

 

「壊理は……少し落ち着いてる。お前に会いたがってた」

 

「ありますあります」

 

「爆豪、切島。お前らも来るか」

 

 爆豪が無言で頷いた。切島が「お願いします!」と言った。

 

 保健室の扉が開いた。

 

 白いベッドの上に壊理が座っていた。

 

 病院服より少し普通に近い服を着ていた。髪が整えられていた。目が——あの地下室で見た時より、少しだけ前を向いていた。

 

 野獣先輩を見た。

 

「…………やじゅう、せんぱい」

 

 小さな声だった。

 

「ありますあります」

 

 壊理が少しの間、野獣先輩の顔を見ていた。それから——小さく言った。

 

「……ヘーキヘーキ」

 

 デクが息を飲んだ。切島がぴくりと動いた。

 

「ヘーキヘーキ」

 

 壊理がもう一度言った。自分で確かめるみたいに。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 野獣先輩が言った。

 

 壊理が「……うん」と言った。うなずいた。目が少し細くなった——笑おうとしていた。まだうまくできなかったけど、やろうとしていた。

 

「ありますあります」

 

 

 

 

 

 沈黙が少しあった。

 

 切島が「——ッ」と短い声を出した。

 

「おい切島」と爆豪が言った。

 

「わかってる、わかってるって! でも——」

 

 切島の目から涙が出た。隠さなかった。

 

「ごめんな壊理ちゃん、男泣きしちゃって! なんか——よかったって思ったら止まんなくて!」

 

 壊理が切島を見た。きょとんとした顔をしていた。

 

「……なんで、なく?」

 

「嬉しいからだよ! あんたが元気そうで——ここにいてくれてよかったって!」

 

 壊理がまた「……ヘーキヘーキ」と言った。

 

 切島が「ヘーキじゃねえ! でもありがとな!」と言って、ますます泣いた。

 

「先輩、みてくださいよこれ、俺どうしたらいいっすか」と切島が野獣先輩の袖を引いた。

 

「多少はね?」

 

「多少ってなんすか!!」

 

「うるせえ廊下出ろ」と爆豪が言った。

 

「行かないっすよ! 俺だって壊理ちゃんに会いたくてここに——」

 

「泣き声でかいんだよ。静かに泣け」

 

「泣き方に注文つけないでくださいよ!!」

 

 壊理がその様子を見ていた。また——笑おうとしていた顔が、今度は少し形になっていた。口の端が、わずかに上がっていた。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

「あっ(察し)」

 

 野獣先輩が壊理の顔を見た。笑っていた。ほんの少しだけど——笑っていた。

 

「Foo↑気持ちぃ~」

 

 切島が「え、今の何っすか先輩!! なんか急に!」と言った。

 

「壊理ちゃんが笑ったんだよ」とデクが言った。声が少し詰まっていた。「野獣先輩さん、それ見て——」

 

「……Foo↑気持ちぃ~」

 

 野獣先輩がもう一度言った。

 

 壊理が「……ふー?」と言った。オウム返しで言った。発音が可愛かった。

 

「ありますあります」

 

 

 

 

 

 しばらくして、相澤先生が「そろそろ休ませる」と言った。

 

 全員が立ち上がり始めた。

 

 爆豪が最後に残った。

 

 壊理の前に立った。

 

 何も言わなかった。

 

 そのまま——無言で壊理の頭に手を置いた。ゆっくり、一回だけ撫でた。

 

 それだけだった。

 

 爆豪が踵を返して扉の方へ歩いた。

 

 壊理が爆豪の背中を見ていた。

 

「……ヘーキヘーキ」

 

 壊理がまた言った。今度は——誰かに向けてというより、自分で自分に言い聞かせるみたいな声だった。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 野獣先輩がそれに返した。

 

 扉のそばで爆豪が一瞬止まった。止まってから、また歩き出した。

 

 

 

 

 

 廊下に出た。

 

 相澤先生が扉を閉めた。

 

 しばらく誰も喋らなかった。

 

「先輩」と切島が言った。目がまだ少し赤かった。

 

「ありますあります」

 

「壊理ちゃん、絶対良くなりますよね」

 

「ありますあります」

 

「……っす。そうっすよね」

 

 切島が深呼吸した。それから「俺、もっと強くなります」と言った。「あの子の前に立てるくらい。ちゃんと守れるくらいに」

 

「やりますねぇ!」

 

「先輩に言われると、なんか本当にやれる気がしてくるから不思議っすよ」

 

「勝手にたまげてろ」

 

「たまげてないっすよ!! 本当のことっすよ!!」

 

 デクが「俺も同じです」と言った。「野獣先輩さんの語録って——なんか、ちゃんと届いてくる感じがするんですよね。意味が全部わかんなくても」

 

「ありますあります」

 

「俺は意味全然わかんないんですけど」と切島が言った。「でもなんか、それでいいっすよね先輩」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 切島が「っすよね!」と言って笑った。

 

 爆豪が「うるせえ帰るぞ」と言いながら廊下を歩き始めた。

 

 切島が「あ、待ってくれてたじゃないっすかァ!」と駆け足でついていった。

 

 

 

 

 

 気づけば廊下に野獣先輩と相澤先生だけが残っていた。

 

 夕日が廊下の窓から差し込んでいた。

 

「田所」

 

「ありますあります」

 

「壊理が——お前の語録を覚えてた。ヘーキヘーキ。あの地下室にいた時から、ずっと言ってたらしい」

 

「ありますあります」

 

「……助かったんだろうな、あの言葉に」

 

 相澤先生が窓の外を見た。

 

「語録とやらを、俺はまだ全部把握していない。だが——あれが何かを守れるということは、わかった」

 

「ありますあります」

 

「引き続き雄英で動いてもらう。次の作戦でも頼む」

 

「おかのした」

 

 相澤先生が「……返事は普通にしろ」と言った。

 

「ありますあります」

 

「……まあいい」

 

 相澤先生が廊下を歩き始めた。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 野獣先輩は索敵を更新した。

 

 保健室の中に壊理の気配がある。さっきより落ち着いた気配だった。蝋燭一本分の小さな気配が——少しだけ、温かくなっていた気がした。

 

「ありますあります」

 

 独り言が出た。

 

 

 

 

 

 夜になった。

 

 野獣先輩は寮の自分の部屋の前に立っていた。廊下の奥から切島が来た。シャワー帰りらしく、タオルを首にかけていた。

 

「あ、先輩。まだ起きてたっすか」

 

「ありますあります」

 

「俺さっき爆豪と話してたんすけど——壊理ちゃんのこと、二人で絶対守るって話して。なんか、爆豪が珍しくうなずいてくれて」

 

「いいねぇー」

 

「っすよね! 先輩から見てどうっすか、爆豪って——」

 

「わかるわかる(タメ口)」

 

「何がわかるんすか先輩! 何をわかってるんすか!」

 

「ありますあります」

 

「……全部わかってるっていうことっすか」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 切島が「かっこいいな先輩、それ」と言った。笑っていた。

 

 廊下に夜の静寂が戻った。

 

「先輩、一個だけ聞いていいっすか」

 

「ありますあります」

 

「壊理ちゃん、ちゃんと笑えるようになりますかね。今日少し笑ったけど——もっとちゃんと、普通に笑えるようになりますかね」

 

 野獣先輩は少しの間、答えなかった。

 

 廊下の窓の外に夜空があった。

 

「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 

 切島が「……っすね」と言った。「先輩が言うなら、ヘーキっすね」

 

 少しの間があった。

 

「……俺さ、今日泣いちゃったじゃないっすか。あれ、かっこ悪かったっすかね」

 

「最高やな!」

 

 切島が「え?」と聞いた。

 

「最高やな!」

 

「……最高っすか。泣いたのが」

 

「ありますあります」

 

 切島が「そっか」と言って、タオルで顔を拭いた。「ありがとっす先輩。なんか——ありがとっす」

 

「ないです」

 

 切島が「また『ないです』だ」と言って笑った。「それって、お礼はいらないってことっすよね、もう」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 野獣先輩が保健室の前を通りかかった時、扉が少し開いていた。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 中に壊理の気配がある。回復ヒーローの気配がある。

 

 扉の隙間から声が聞こえた。

 

「……ヘーキヘーキ」

 

 壊理の声だった。

 

 回復ヒーローが「そうよ、ヘーキヘーキよ」と返していた。

 

「……ありますあります」

 

 壊理がまた言った。

 

 回復ヒーローが「……何それ、かわいい」と言った。

 

「ありますあります」

 

 野獣先輩が扉の外で言った。扉越しに。届いたかどうかはわからなかった。

 

 でも——

 

「……ありますあります」

 

 壊理の声が、また聞こえた。

 

 扉の向こうで、ちゃんと届いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。