【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩 作:まだら模様
多分皆様のの息子も盛り上がる(意味深)になるでしょう!
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
評価付与、感想などは野獣先輩からのライブ中のウィンクをもらえます!
やったぜ。投稿者変態二次創作者…
空が白くなり始めた頃、野獣先輩は雄英の外周を歩いていた。
文化祭の当日だった。
ステージは午後。でも今は早朝で、まだ誰も来ていない時間だった。準備で遅くまで起きていたクラスメイトたちの気配が、寮の奥でまだ眠っている。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
索敵を展開した。
雄英の外周、半径五百メートルの気配が全部入ってくる。生徒たちの気配。教員たちの気配。早朝から準備に来ている他クラスの生徒たち。屋台の設営をしている業者。来場者がまだ来ていない校門前——
止まった。
外の道路の一角に、ひとつ、妙な気配があった。
遠い。二百メートル以上先。動いていた。近づいているわけじゃない。でも——「目的がある」気配だった。何かを狙っている。観察している。
「微粒子レベルで存在している…?」
独り言が出た。気配が薄い。意図的に薄くしている。普通の人間ならまず気づかない。
もう一人いた。そちらは気配を抑えるつもりがなかった。若い。明るい。感情が前に出ている。
二人組だ。
野獣先輩は外周の壁の際に立ったまま、索敵の焦点を絞った。
「菅野美穂」
小声で言った。自分の気配を消した。囮を壁の反対側に置いた。気配だけが存在するもうひとりの野獣先輩——それを感じ取れるほどの索敵能力があれば、注意がそちらに向く。
野獣先輩は気配を消したまま、二人組の動きを見続けた。
デクが朝練から戻ってきたのが六時前だった。グローブをつけた手。発目の新作サポートアイテム。
野獣先輩が廊下で待っていた。
「野獣先輩さん! おはようございます! こんな朝早くに——」
「やべぇよ…やべぇよ…」
デクが止まった。「え——」
「やべぇよ…やべぇよ…」
「……索敵で何か見えた?」
「ありますあります」
デクが一瞬考えた。「来ます、か——来てます? 校外に何か?」
「ありますあります」
「人、ですか」
「ありますあります」
「……目的を持って動いてる感じ?」
「ありますあります」
デクが「場所は?」と聞いた。
野獣先輩が外周の方向を指差した。
「二人組——ですか?」
「ありますあります」
デクが「分かりました」と短く言った。顔が締まった。「文化祭が始まる前に対処します。警報が鳴ったらその時点で中止になる。だから——絶対に雄英に入れない。野獣先輩さんは」
「ありますあります」
「後方から索敵で位置を教えてもらえますか。俺が先に出ます」
「ありますあります」
「……壊理ちゃん、来てくれてるんですよね」とデクが言った。「笑わせるって約束したから」
「当たり前だよなぁ?」
デクが一度だけ深く息を吸った。それから走り出した。
デクが校外に出た。野獣先輩は雄英の敷地内から索敵を続けた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
デクの気配が見える。二人組の気配が見える。間合いが縮まっていく。
二人組の一方——気配を薄くしていた方が、突然動いた。空気が変わった。何かに「弾性」が付いた。道路の足場がトランポリンになった気配——デクが上に弾き飛ばされた。
「なんだコイツら!?」
独り言が出た。索敵に変な手応えが来た。空気そのものに弾性がついている。壁を作れる。足場を作れる。空を飛べる。
索敵でデクの位置を確認した。上空に弾き飛ばされたが体勢を立て直している。グローブを使った遠距離攻撃——エアフォース。空気の塊を飛ばしてジェントルの機動を封じようとしている。
もう一方の気配——若い方。ラブラバ。何かを囁いた瞬間、ジェントルの気配が膨れ上がった。「愛」の強化。一気に倍以上になった。
「頭にきますよ」
野獣先輩が言った。
索敵の中でデクが押されていた。エアフォースが弾き返される。弾性の壁が何重にも重なっていた。
野獣先輩は壁際で索敵を絞った。
「見とけよ見とけよ~」
デクの気配に向けて言った。届かない距離だった。でも言った。
——その瞬間、デクの気配が変わった。
索敵に引っかかった。何かを思い出した。いや——思い出すんじゃない。新しく気づいた。足場の使い方。ダンスで培ったステップ。体重移動。師から教わった動きと芦戸との練習が合わさった何か。
デクが反撃に転じた。
「やりますねぇ!!」
野獣先輩が小声で言った。
三十分後、デクが戻ってきた。
ボロボロだった。グローブが片方なくなっていた。制服に泥がついていた。でも歩いていた。
野獣先輩が校門で待っていた。
「——止めました」とデクが言った。「ジェントル・クリミナルとラブラバ、ってヴィランでした。警報は鳴らせなかった。文化祭は——続けられます」
「ありますあります」
「野獣先輩さんが朝に教えてくれなかったら、気づいたのが遅れてたと思います」
「ありますあります」
「……ありがとうございます」
「当たり前だよなぁ?」
デクが一回だけ笑った。「そうですよね。当たり前ですよね」
それから急いで戻っていった。着替えて、ステージの準備をしないといけない。
文化祭が始まった。
雄英の校内が人で埋まった。他の科の生徒、保護者、外部の来場者。ヒーロー科以外の生徒たちが出す屋台、展示、発表。A組のステージは午後の枠だった。
開場から一時間後、ミリオが壊理を連れてやってきた。
壊理が校内の人の多さに少し足を止めた。
ミリオが「大丈夫ですよエリちゃん! 一緒にいますから!」と言った。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
野獣先輩が索敵を展開した。壊理の気配が入ってくる。緊張している。人の多さに少し圧倒されている。でも——怖がっていない。前に進んでいる。
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
野獣先輩が壊理の目線の高さで言った。
壊理が野獣先輩を見た。少し、肩の力が抜けた。
「ヘーキヘーキ」と壊理が小さく返した。
「ありますあります」
ミリオが「野獣先輩さん! 今日は一緒にいてもらえますか、ステージが始まるまで!」と言った。
「ありますあります」
「ありがとうございます!!」
A組のステージの直前、音楽室の隣の控え室にバンドメンバーが集まっていた。
耳郎がチューニングをしていた。爆豪がスティックを握り直していた。八百万が鍵盤の運指を確認していた。上鳴が「緊張してきた……」と言っていた。常闇が「闇の中に光を見出す瞬間——」と言っていた。
「ありますあります」
野獣先輩が控え室のドアを開けた。
「先輩!」と切島が飛んできた。「壊理ちゃん来てますよね!?」
「ありますあります」
「よかったァ!! じゃあもう絶対成功させるしかない!!」
「——みんな」と耳郎が言った。全員が耳郎を見た。「緊張するかもしれないけど——一個だけ覚えておいてほしい。私たちが今日ここでやることは、ヒーロー科以外の全員を巻き込むこと。壊理ちゃんを笑わせること。それだけ」
「そして天は鳴き、大地は震えるだろうね」
野獣先輩が言った。
シーンとなった。
「……今のはどういう意味ですか」と飯田が入口から顔を覗かせながら聞いた。
「田所さんなりの激励だと思われます!!」と切島が言った。
「えっ、そうなの」と上鳴が言った。「かっこいいじゃん」
「死ぬほどかっこよくはない」と爆豪が言った。「行くぞ」
ステージの幕が上がった。
会場に四百人以上がいた。
ダンス隊が先に出た。芦戸を先頭に、デク・麗日・蛙吹を含むA組のダンスメンバーが踊り始めた。音楽が流れた。照明が落ちた。舞台の上に光が集まった。
会場がざわついた。ヒーロー科の生徒が楽しそうにしている。それだけで、どこかぎこちなかった空気が少し動いた。
野獣先輩は舞台袖から会場の気配を索敵していた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
四百人以上の気配が全部入ってくる。最初は緊張していた。硬かった。「見に来てしまった」という気配がある。「ヒーロー科に萎縮している」という気配がある。
でも——ダンスが続くにつれて、少しずつ動いていった。
会場の前の方、中央寄りに壊理がいた。ミリオの横に立っていた。手をぎゅっと握っていた。舞台を見ていた。
「縛らなきゃ(使命感)」
野獣先輩が小声で言った。
この瞬間を記憶に縛りつけろ、という話だった。誰にも聞こえない声量だった。でも言わずにはいられなかった。
ダンスが終わった。
会場に拍手が起きた。
そしてバンドメンバーが出てきた。
爆豪がドラムの前に座った。上鳴と常闇がギターを構えた。八百万がキーボードの前に座った。耳郎がマイクの前に立った。
野獣先輩が最後に出てきた。
ギターを持っていた。
会場の一部が「あれ誰?」という気配を出した。A組の生徒ではない。でも雄英の制服を着ている。二十代に見える。なぜここに?
「24歳、学生です」と誰かが小声で言った。上鳴だった。
「黙ってろ」と爆豪が言った。
耳郎がマイクに近づいた。
「——みんな、楽しんでってください」
それだけ言った。振り返った。爆豪を見た。
爆豪がスティックを構えた。
カウントが入った。
一、二、三、四——。
音が始まった。
爆豪のドラムが軸を作った。上鳴と常闘のギターが乗った。八百万のキーボードが広がった。野獣先輩のギターが耳郎の音に寄り添った。
Aメロが来た。
「やめたくなりますよなんか部っ活ぅ〜」
野獣先輩がマイクなしで言った。でも音楽の中に乗った。
会場がざわいた。
「……なんか言った?」という気配が広がった。笑いかけている。でもまだ判断できていない。何なのかが分からない。
Bメロに入った。テンポが上がった。
「ビール!ビール!」
今度は会場が動いた。笑い声が出た。何人かが「は?」と言いながら笑っていた。「意味が分からないのに楽しい」という気配が広がり始めた。
「流行らせコラ!」
野獣先輩が言った。
語録の効果が発動した。「ビール!ビール!」という語録の余韻が会場に広がった。笑っていた人間が、隣の人間に何か言い始めた。連鎖した。前の列から後ろの列へ。笑いが伝播していった。
耳郎のコーラスが上から被さった。
そしてサビ——。
「当たり前だよなぁ?」
野獣先輩が言った。
会場が一瞬静かになった。
静かになって——それから一斉に動いた。誰かが「そうだ」と思った気配がした。隣の人間も「そうだ」と思った。「当たり前だよな?」という問いかけに、誰もが「うん」と思えた。ヒーロー科に萎縮していた生徒も。緊張していた来場者も。みんなが「当たり前だよな」と思える何かがそこにあった。
会場の気配が、溶けていった。
野獣先輩は演奏しながら、索敵で壊理の気配を追っていた。
Aメロで手が動いていた。
Bメロで体が揺れていた。
サビで——壊理の気配が大きくなった。
それまで小さくまとまっていた気配が、ふっと広がった。解けた。今まで固く閉じていたものが、音楽と語録の中で少しだけ開いた。
二番のサビに入った。
「当たり前だよなぁ?」
また言った。
壊理が——笑った。
声が出た。
練習の時みたいに口の端が上がるだけじゃなかった。声が出た。「あ」か「は」かわからない、小さな音だった。でも確かに、壊理の口から声が出た。笑い声だった。
ミリオが壊理の手をそっと握った。壊理はまだ笑っていた。
「世界一やお前!」
野獣先輩が弦を弾きながら言った。
切島が舞台袖から見ていた。泣いていた。声を出さずに泣いていた。
ラストのフレーズに入った。
ダンス隊が再び舞台に出てきた。全員が音楽に乗っていた。芦戸が笑いながら踊っていた。デクが笑いながら踊っていた。麗日が笑いながら踊っていた。
会場が一つになっていた。
前にいる生徒も。後ろにいる来場者も。ヒーロー科を怖いと思っていた生徒も。萎縮していた子も。全員が同じ空気の中にいた。
耳郎がマイクに向かった。
「——最後に一個だけ」と耳郎が言った。「A組から、雄英のみんなへ」
野獣先輩がマイクに近づいた。
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
会場が笑った。
でもその笑いは——やさしい笑いだった。「なんだそれ」という笑いじゃなかった。「そうだよな」という笑いだった。「ヘーキヘーキ」という言葉が、何かを溶かした。
会場の一番前で、壊理がもう一度笑っていた。
今度は声だけじゃなかった。
目が細くなっていた。本物の笑顔だった。
「やんほぬ」
野獣先輩が小さく言った。
「え、今なんて」と上鳴が弦を弾きながら言った。
誰も答えなかった。でも演奏は続いた。
音楽が会場を満たした。
ステージが終わった。
拍手が長かった。
控え室に戻ったバンドメンバーは、しばらく誰も何も言わなかった。
切島がまず「——最高でしたよ!!」と叫んだ。目が赤かった。
「俺ァ、泣いてたかもしれないっすよ先輩!! 舞台袖から壊理ちゃんが笑ったの見て!!」
「ありますあります」
「先輩も見てましたか索敵で!!」
「ありますあります」
「っすよね!! 俺たち最高だったっすよ!!」
「……うん」と耳郎が言った。壁に背をもたせかけて、天井を見ていた。「よかった」
爆豪が「当然だ」と言った。スティックを置いた。それだけ言った。でも、口の端が少し上がっていた。
「ありがとナス!」
野獣先輩が言った。
全員が「誰に向けて!!」と思ったが、誰も聞かなかった。
会場の出口近くで、壊理がミリオと立っていた。
野獣先輩が近づいた。
壊理が野獣先輩を見た。
「……おもしろかった」と壊理が言った。
「ありますあります」
「……また聞きたい」
「ありますあります」
「ヘーキヘーキ」と壊理が言った。「って言ったら——みんな笑う」
「ありますあります」
「……なんで?」
「ありますあります」
壊理がしばらく野獣先輩を見ていた。
「——田所くん」とミリオが言った。「エリちゃん、今日はじめて声を出して笑ったんです。あの語録が流れた時に」
「やりますねぇ!!」
「ありがとうございます!!」とミリオが言った。目が光っていた。
壊理が野獣先輩をまだ見ていた。
「……ヘーキヘーキ」
もう一回言った。野獣先輩に向けて。
野獣先輩が少し間を置いた。
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
壊理がまた笑った。声が出た。
夜、後片付けが終わった音楽室に耳郎がいた。
野獣先輩が楽器を返しに来た。
「……今日はありがとう」と耳郎が言った。「田所くんがいなかったら——語録ライブにならなかった」
「ありますあります」
「壊理ちゃん、笑ったね」
「ありますあります」
「……よかった」と耳郎が言った。それからしばらく黙った。「私ね、音楽ってずっと自分だけのものだと思ってた。ヒーロー科に来てから余計に。個性使う練習して戦い方覚えて——音楽は趣味だから、表に出すものじゃないって」
「やめたくなりますよなんか部っ活ぅ〜」
「……うん。やめたくなる気持ちはあった。でも——今日みたいな日があるなら」
「ありますあります」
「そう。ありますあります、だね」
耳郎がギターケースのファスナーを閉めた。
「田所くん——来年も文化祭あるよね。その時もまたやろう」
「当たり前だよなぁ?」
耳郎が「うん」と言った。「当たり前だよね」