【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩 作:まだら模様
使って欲しい淫夢語録があったら感想で教えてください(ダイマ)
※相変わらず勢いで書いたので雑です。ツッコミどころ多いかもしれませんが許してください…なんでもしm
雄英に入学して数日が経った。
授業が始まり、クラスの雰囲気も少しずつ固まってきた。野獣先輩は自分の席で周囲を観察しながら、この世界の「日常」に慣れることを優先していた。
語録しか喋れない、という制約は、学校生活においては予想以上に問題を引き起こす。
たとえば現代文の授業で感想を求められたとき。
「あーもうめちゃくちゃだよ」
教師が困惑した顔をした。
たとえば英語の授業でペアワークをしていたとき。相手の峰田実が「趣味なんですか?」と英語で聞いてきたのに対し。
「冷えてるか〜?」
峰田が「……え、それ英語で言うと?」と首を傾げた。言えない。語録に英語はない。
たとえば昼食時、購買でパンを選んでいたとき。隣にいた芦戸三奈に「どれにするか迷ってるんですか?」と聞かれ。
「これもうわかんねぇな」
芦戸が「わかるわかる〜!」と共感してパンを二個持っていった。これは噛み合っていた。
そういう日々が続いた。
ある朝、野獣先輩が教室に入ると、緑谷出久がすでに席についてノートを広げていた。
ノートの表紙に「野獣語録・効果対応メモ 暫定版」と書かれていた。
野獣先輩はそのノートを見て、足を止めた。
緑谷が顔を上げた。
「あ、野獣先輩さん! ちょうどよかったです、少し聞いてもいいですか。入学式のとき名前を呼ばれたあとで一言言ってましたよね、あれって個性の発動でしたか? それとも単純な発話ですか?」
野獣先輩はノートを覗き込んだ。
書いてある内容が、かなり正確だった。「こ↑こ↓→転移系」「やべぇよやべぇよ→回避率上昇?」「お前さぁ…→思考停止(短時間)」。観察眼がある。
「はっきりわかんだね」
「全部発動なんですね! じゃあ発声と個性は完全に連動してる?」
「当たり前だよなぁ?」
「やっぱり。じゃあ逆に言えば、発声できれば状況を選ばない?」
「お、そうだな」
緑谷がノートに書き込みを加えた。「発動条件:発声のみ、状況非依存」。正確だ。
野獣先輩は自分のノートを鞄から出した。語録と効果の対応表が書いてある、自分で作ったやつだ。
緑谷に差し出した。
緑谷が受け取って、ページをめくった。一秒後、両目が見開かれた。
「全部把握してた……!」
「当たり前だよなぁ?」
「す、すみません失礼なこと思ってました……でもこれ見せてもらっていいですか、すごく参考に……」
「いいよ!こいよ!」
緑谷が「ありがとうございます!」と言って丁寧にノートをコピーし始めた。横でメモを取りながら。
野獣先輩は緑谷の真剣な表情を見ながら、少し気持ちが楽になった。語録を「解読しようとしてくれている」人間がいるのは、思ったより助かる。
その日の午後、ヒーロー基礎学の授業があった。
オールマイトが担当する授業だ。
コスチュームを着用して戦闘訓練を行う、という告知が事前にあり、生徒たちはそれぞれ入学前に提出したデザイン案をもとに作られたコスチュームを受け取っていた。
更衣室でコスチュームに着替える。野獣先輩のコスチュームはシンプルだった。動きやすさを重視した黒のボディスーツに、胸元に白で「810」の数字が入っている。ヒーロー名をそのままコスチュームに刻んだ。
正直なところブリーフのみ着用する格好でコスチュームとして申請しようとしたが、前世のことを思い踏みとどまった。
更衣室でそれを見た上鳴電気が「810……ビーストってこと? かっこいいっすね」と言った。
「はっきりわかんだね」
「……ありがとうございます?」
上鳴が曖昧な顔で着替えを続けた。
グラウンドに出ると、オールマイトがすでに立っていた。
マッスルフォームのオールマイトだ。でかい。笑顔が眩しい。
「諸君! 本日はコスチュームを着用しての戦闘訓練だ! まずは各自、個性の基礎運用を確認してもらう!」
オールマイトがクラスを見渡した。その視線が野獣先輩のコスチューム、特に胸の「810」の数字で一瞬止まった。
止まった。
確かに止まった。コンマ三秒ほど。
オールマイトは何事もなかったように視線を動かして、説明を続けた。
野獣先輩は観察した。相澤はコンマ一秒だった。オールマイトはコンマ三秒だった。数字を見ただけでコンマ三秒だ。
これは……かなり知っている人間だ。
訓練の内容は、二人一組のチームに分かれてのA対Bの模擬戦だった。
くじ引きでペアが決まる。
緑谷出久と麗日お茶子がペアになった。相手チームは爆豪勝己と飯田天哉だ。
野獣先輩のペアは切島鋭児郎だった。試合は別ブロックで後半に行われる。今は観戦側だ。
緑谷が出発前に野獣先輩のところへ駆け寄ってきた。
「野獣先輩さん、見ててください! 語録メモ、持ってきてます!」
ノートを胸に抱えながら言った。なんで観戦される側がメモを持っているのかは謎だが、緑谷なりの意気込みなのだろう。
「当たり前だよなぁ?」
「……応援、ありがとうございます!」
緑谷が走っていった。
野獣先輩は観戦エリアのモニター前に立った。隣に切島が並んだ。
「野獣先輩さんって呼んでいいですか。俺、切島っす。よろしくっす!」
「お、そうだな」
「っしゃ! じゃ俺らの試合前に緑谷たちのやつ見ましょうよ!」
モニターの前で試合開始を待つ間、飯田天哉は準備をしながらちらりと観戦エリアを見た。
野獣先輩がモニターの前に立っている。
飯田はこの一週間、野獣先輩のことが頭の片隅にあった。
理由は単純だ。語録が、どこかで見たことがある気がするのだ。
飯田は調べ物が好きだ。図書館も使うが、デジタルアーカイブも漁る。雄英の図書館にはオールドネットのアーカイブへのアクセス権があり、飯田は歴史の課題のついでに100年以上前のインターネット文化を調べたことがあった。
その中に、確かに見た。
「野獣先輩」という名前。「こ↑こ↓」という文字列。「やべぇよやべぇよ」というフレーズ。
それが何なのかまでは、飯田は正確に把握していなかった。動画の存在は知っているが、中身を見ていない。ただ、「当時インターネットで有名だった何か」ということは分かっていた。
しかし、目の前の野獣先輩が本当にその「何か」と関係があるのか、それとも単なる同名の個性持ちなのか、飯田には判断できなかった。
今日の試合では爆豪とペアを組んで緑谷たちと戦う。野獣先輩のことを考えている場合ではない。
飯田は気持ちを切り替えて、爆豪の隣に並んだ。
試合開始の合図が出た。
建物の内部を使った模擬戦だ。攻撃側の緑谷・麗日ペアが核を奪いに行き、爆豪・飯田ペアが守る構成だ。
野獣先輩はモニターを見ながら、切島と並んで観戦していた。
緑谷たちが建物に入る。同時に爆豪が天井に潜んでいたのがモニターに映る。
野獣先輩の口から自然に言葉が出た。
「やべぇよやべぇよ」
切島が「え、何が?」と首を傾げた。
次の瞬間、爆豪が天井から飛び降りて緑谷を奇襲した。
「ファッ!?」と切島が声を上げた。「わかってたんすか!?」
野獣先輩は無言でモニターを指差した。
モニターの中では緑谷が咄嗟に横に跳んで爆豪の初撃をかわし、麗日が回り込んで爆豪に無重力を発動させていた。爆豪が浮く。
「やりますねぇ!」
「いや野獣先輩さんが言っても麗日さんには聞こえないっすよ!」
切島がツッコんだ。野獣先輩は気にせずモニターを見続けた。
廊下の奥から飯田が加速してくる。緑谷が「麗日さん、飯田くんが!」と叫ぶ。
「お前さぁ…」
野獣先輩が呟いた瞬間——モニターの中の飯田が、わずかに動きを乱した。
距離は離れている。個性が届くはずがない。でも飯田は確かに一瞬、コースをずらした。
切島が「……なんか今、飯田くん変な動きしませんでした?」と首を傾げた。
野獣先輩には理由が分かった。飯田は観戦エリアからの音声を聞いていた。「お前さぁ…」が微かに聞こえて、反射的に硬直した。
語録の効果範囲は思ったより広いらしい。
「はっきりわかんだね」
「何がわかったんすか」
切島が困惑した顔で聞いたが、野獣先輩はモニターから目を離さなかった。
緑谷が核のある部屋に向かって走り出す。爆豪が回復して追いかける。部屋の入口で爆豪が緑谷に向かって爆破を放った。
麗日が間に入って防御しようとした瞬間、爆豪の爆破が直撃した。麗日が吹っ飛ぶ。
「痛いですね…これは痛い」
野獣先輩が静かに言った。
切島が「……それ実況っすか?」と聞いた。
モニターの中では吹っ飛んだ麗日が壁に背をついて踏ん張り、爆豪の腕を掴んでゼロ重力を発動させた。爆豪が再び浮く。その隙に緑谷が核に触れた。
攻撃チームの勝利が宣言された。
「これもうわかんねぇな」
「強かったすよ緑谷くんたち! でも野獣先輩さんの実況、全部結果に合ってたのなんなんすか」
「当たり前だよなぁ?」
「……やっぱわかんないっす」
切島が頭を掻いた。
教師側の観戦エリアで、オールマイトは試合の映像をモニターで確認していた。
隣には相澤が立っている。
モニターの中では緑谷と麗日が爆豪・飯田ペアと戦っている。その画面の端に、別の観戦エリアで野獣先輩が切島と並んでモニターを見ている様子も映っていた。
野獣先輩が「やべぇよやべぇよ」と呟いた瞬間、画面の中で爆豪が奇襲を仕掛けた。
オールマイトはその偶然の一致を見て、口元に手を当てた。
(……「やべぇよやべぇよ」で状況を先読みした……? いや、偶然か……)
内心で、オールマイトは整理していた。
オールマイトがあのアーカイブを最初に見たのは、かなり昔のことだ。まだアメリカにいた頃、日本語学習のついでにオールドネットを漁っていて偶然辿り着いた。当時はまさかその当事者が後にヒーロー科の生徒になるとは思っていなかった。
しかし目の前の現実がそうなっている。
「野獣先輩」という名前。「810」という数字。語録を個性として使う戦闘スタイル。
状況証拠が揃いすぎている。
(これは……本人、なのでは?)
オールマイトはその考えを頭の隅に追いやった。追いやったが、完全には消えなかった。
隣の相澤がぼそりと言った。
「……野獣、観戦しながら語録で実況してたな。「お前さぁ…」が飯田に届いてたかもしれん」
「そ、そうだね……! 範囲が広いね……!」
オールマイトが少し大きい声で返した。
相澤がちらりとオールマイトを見た。
「どうした」
「なんでもないよ!」
相澤は一秒だけオールマイトの顔を見て、それから前を向いた。
二人の間に、薄い沈黙が流れた。
どちらも何も言わなかった。
試合が終わって全員がグラウンドに集合した。
爆豪が不機嫌な顔で戻ってきた。麗日に無重力で浮かされたのが相当気に食わなかったらしく、腕を組んで黙っている。緑谷は「す、すみません爆豪くん……」とおどおどしていた。
飯田は整列しながら、観戦エリアにいた野獣先輩のほうへ目を向けた。
試合中、「お前さぁ…」が遠くから聞こえた瞬間、飯田は確かに体が固まった。観戦エリアからの音だと分かっていた。個性の効果範囲外のはずだとも分かっていた。それでも体が反射的に反応した。
あの言葉の使い方が——自分がアーカイブで読んだ文章の文脈と、一致している。
飯田は野獣先輩に近づいた。
「野獣先輩くん。少し聞いてもいいか」
「お、そうだな」
「君の語録は……その、100年以上前のインターネット文化に由来するものでは、ないか?」
野獣先輩が、飯田を見た。
まっすぐな目で。
三秒間、沈黙した。
「はっきりわかんだね」
飯田の顔色が変わった。
「やはり……! つまり君は、あのアーカイブの……」
「うせやろ?」
「……い、いや、うせではなく……」
飯田が混乱し始めた。肯定とも否定ともとれる返しに、論理的な飯田の頭が追いつかない。
「当たり前だよなぁ?」
「……当たり前、か……」
飯田が額に手を当てて考え込んだ。
野獣先輩は飯田の様子を見て、内心で思った。
飯田はアーカイブを読んでいる。でも動画は見ていない可能性が高い。だから確信には至っていない。
このまま語録で返し続けていれば、たぶん飯田は「謎が深まった」という結論に至る。
「お、そうだな」
野獣先輩は小声で呟いて、その場を離れた。
放課後の廊下。
野獣先輩が昇降口に向かって歩いていると、後ろから足音が聞こえた。
「あのー!」
振り向くと、サポート科の生徒らしき白衣姿の少女が立っていた。ピンク色の肌に黄色い目——発目明だ。
「ヒーロー科の野獣先輩さんですよね?! 今日の訓練見てました! 観戦中に語録言うだけで試合に影響与えてたの、すごくないですか!? 発声時に何かエネルギーが放出されてる感じがしたんですけど体感的にはどうですか?!」
息継ぎなしで喋った。
「はっきりわかんだね」
「やっぱり! エネルギーの指向性が声と連動してる感じ!? それとも声は引き金で実際の処理は別のところで?!」
「これもうわかんねぇな」
「自分でも把握しきれてないんですね、それはそれで面白い! あとあと、ひとつお願いがあるんですが」
発目が鞄からメモ帳を取り出した。
「サインください!!!」
野獣先輩が止まった。
「野獣先輩って名前、あとヒーロー名が810で、語録しか喋れなくてめちゃくちゃ独自性がある個性で……絶対有名になりますよ! 今のうちにサインもらっとけば後で価値が出ます! 先行投資です!」
野獣先輩はメモ帳を見た。
サインか。前世でサインをしたことはない。ヒーロー科の学生がサインを求められる機会はほぼないはずだ。
でもこの子の目は純粋だ。悪意がない。
「やったぜ。」
野獣先輩は鞄からペンを出して、メモ帳に「野獣先輩」と書いた。
発目が受け取って、目を輝かせた。
「ありがとうございます!! 大事にします!!」
走って戻っていった。
野獣先輩はその背中を見送った。
サインか、と思った。
前世ではネタにされた名前が、この世界では誰かのコレクション対象になっている。
悪い気はしなかった。
「いいゾ〜これ」
呟いて、昇降口を出た。
同じ頃、職員室では。
相澤が今日の訓練レポートを書いていた。
隣のデスクではプレゼントマイクがなぜか野獣先輩の観戦中の映像を三回リピートしていた。
「……お前それ何回見てるんだ」
「いや、語録の範囲効果を研究してるんだって、授業の参考に!」
「一回見れば十分だろ」
「いや〜でもほら観戦中に「お前さぁ…」言っただけで飯田が固まったシーンとか、どこまで届いてたのか気になって」
相澤が横目でモニターを見た。
映像の中で野獣先輩が観戦エリアから「お前さぁ…」と呟いて、試合中の飯田がわずかにコースを外れている。
相澤はそれを見て、タイピングする手を一瞬だけ止めた。
止めてから、何事もなかったように続けた。
プレゼントマイクが四回目の再生を始めた。
「……消せ」
「もう一回だけ!」
「消せ」
「……はい」
プレゼントマイクが渋々再生を止めた。
職員室に静寂が戻った。
相澤はレポートに一行書き加えた。
「野獣——個性「ワード」の戦闘応用、想定以上。要観察」
それだけ書いて、ペンを置いた。