【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩 作:まだら模様
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
評価付与や感想は野獣先輩が一緒に鍛錬♂してくれるらしいですよ!
ジョイント訓練の二日目が始まった。
朝、訓練場への移動中、相澤が野獣先輩の隣を歩いていた。
相澤が前を向いたまま言った。「昨日のデクの暴走——索敵でどこまで分かった」
「ありますあります」
「別の意志があると感じたか」
「ありますあります」
「……そうか」と相澤が言った。しばらく間があった。「俺は教師だ。生徒の個性の変化は把握する義務がある。だが——お前が索敵で感じたものは、俺には見えない部分だ」
「ありますあります」
「引き続き感知してくれ。変化があれば俺に言え。語録で言え」
「当たり前だよなぁ?」
相澤が「そうだ」と言った。それから少し間を置いて——
「実家のような安心感」
野獣先輩が言った。
相澤が足を止めた。
「……今のは何だ」
「実家のような安心感」
「俺に言ってるのか」
「ありますあります」
相澤がしばらく無言だった。黒い目が野獣先輩を見た。何か言いかけた。何も言わなかった。
「……前を向いて歩け」
相澤が歩き出した。
背中が少し、ほんの少しだけ、早足になっていた。
第四試合。
デク・爆豪・轟・上鳴 対 B組の物間・心操・小大・庄田。
野獣先輩は観戦席から索敵を展開した。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
開始直後から展開が怪しかった。物間がデクの個性を五分間コピーした。ワン・フォー・オールの残滓みたいなものを引き出した——正確には出せないが、外側の動きだけは再現できた。轟の炎と氷を両方使い始めた物間が爆豪に向かった。
上鳴が電撃を広域に放った。物間に当たる前に庄田の弾力性のある巨体が盾になった。
爆豪が「クソッ」と言った。
「三人に勝てるわけないだろ!」
野獣先輩が観戦席から言った。
「先輩今は応援で!!」と切島が隣で叫んだ。
「ありますあります」
「応援の語録をください!!」
「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」
「それ応援の語録じゃないっすよ!!」
試合場では心操が動いていた。変声機を通した声で「轟! 右!!」と言った。轟が反射的に右を向いた。
「——捕まえた」
洗脳が入った。轟の動きが止まった。爆豪が「テメェ!」と叫んだ。
四対四が実質三対四になった。
「あーもう一回いってくれ」
野獣先輩が独り言で言った。
「え?」と切島が聞いた。
「ありますあります」
「索敵で何か見えてますか先輩」
「ありますあります」
「いい情報ですか悪い情報ですか」
「んまぁそう…よくわかんなかったです」
「どっちか教えてください!!」
試合場の中で、デクと心操が向かい合っていた。
心操が変声機を構えた。「昨日の暴走——怖くなかったのか」
デクが止まった。「……怖かった、です。でも——それでも、強くなりたい」
「——捕まえた」
洗脳が入った。デクの目が止まった。
でもデクは動いた。
ゆっくりと、洗脳の中から、自分の意志で動き始めた。
「……また解いた」と心操が言った。舌打ちはしなかった。「昨日より早くなってる」
「ありますあります」
野獣先輩が観戦席でそっと言った。
試合は最終的にデクたちが勝った。心操チームの物間が上鳴の電撃で足を止められ、爆豪が一点突破した。
全五試合が終わった。
相澤が全員の前に立った。
「全体的な評価だ。A組——自分の個性への依存が目立った。B組——連携は良かったが詰めが甘い試合があった。心操——」
相澤が心操を見た。
「よくやった」
それだけだった。
心操が「……はい」と言った。感情を表に出さない目が、一瞬だけ動いた。
「ありますあります」
野獣先輩が言った。
心操がちらりとこちらを見た。野獣先輩と目が合った。
「いつしか雨はやみ、そこには虹がかかるんだよなぁ…」
野獣先輩が静かに言った。
心操がしばらく固まった。「……なんだそれ」
「ありますあります」
「慰めてるのか」
「ありますあります」
「……慰め方が分からないだろ、普通」と心操が言った。でも声が少し柔らかかった。
講評が終わり、解散になった。
B組が帰り支度をしていた。
野獣先輩が更衣室の前を通り過ぎた時——物間が壁にもたれて、一人で何かを考えていた。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
索敵で気配を拾った。物間が——混乱している。いや、混乱じゃない。「何かを思い出そうとしている」気配だ。必死に何かを思い出そうとしている。
「親の顔より見た光景」
野獣先輩が通り過ぎながら言った。
物間が「は!?」と壁から飛び退いた。「な、なんですかそれ!? 突然!?」
「ありますあります」
「「ありますあります」じゃなくて!! 今の語録、何の意味ですか!?」
「ありますあります」
「……っ」
物間がしばらく野獣先輩を見た。
「……あなた、まさか」
「ありますあります」
「いや違う! 違いますよ!! 俺は健全な高校生ですから!! 「親の顔より見た光景」とか言われても何も分かりませんし何も思い浮かびませんし!!」
「ありますあります」
「だから「ありますあります」はどっちの意味なんですか!!」
拳藤が物間の頭に手刀を入れた。「また喚いてる。行くよ」
「いっ!! でも拳藤さん、今の語録——」
「聞こえてたよ」と拳藤が言った。
野獣先輩は拳藤を見た。
「……「親の顔より見た光景」って」と拳藤がゆっくり言った。「それ——どういう意味の語録なの」
「ありますあります」
「既視感、みたいな? 昔どこかで見たものに似てる、みたいな?」
「ありますあります」
拳藤が少し間を置いた。「……うん、まあ。あー。なんか分かる気が、しなくもない、かも、しれない、けど」
「ありますあります」
「分かんない!! なんか知らないけど分かる気がするのが嫌!!」
「ある!!」と物間が叫んだ。「俺も! なんか嫌なのに分かる気がするのが嫌!!」
二人がそろって「嫌」と言った。
野獣先輩は前を向いた。
「あ~、いいっすね~」
その夜、野獣先輩は相澤に呼ばれた。
相談室のような小部屋に、相澤と心操が座っていた。
「座れ」と相澤が言った。
野獣先輩が座った。
「心操から提案があった」と相澤が言った。「語録と洗脳の相互干渉の研究をしたいと言っている。俺が立ち合う。お前はどうする」
「ありますあります」
「やるということか」
「ありますあります」
心操がノートを出した。「まず整理する。俺の洗脳は——相手が俺の問いかけに「言葉で」返事をしたら発動する。語録は——発話した言葉に応じた効果が出る。どちらも「声・言葉」がトリガーだ」
「ありますあります」
「だから——もし俺が田所さんに「洗脳」を使おうとした時、田所さんが語録を発動していたら何が起きるか。語録の効果が優先されるのか、洗脳が上書きするのか、それとも干渉して新しい何かが起きるのか」
「ありますあります」
「試してみていいか」
「ありますあります」
「……「ありますあります」は「どうぞ」か」
「ありますあります」
相澤が「始めろ」と言った。
心操が変声機を構えた。
「——田所さん。昨日の訓練はどうでしたか」
野獣先輩が答えた。
「俺もやったんだからさ」
心操が「入った——?」と目を細めた。返事をした。でも語録が発動した。「「俺もやったんだから」——連鎖発動?」
「ありますあります」
「洗脳が発動する前に語録の効果が出た。つまり、語録発動中は洗脳のトリガーが機能しない可能性がある」
心操がノートに書き込んだ。
「もう一回」
「ありますあります」
「——田所さん。今の気分は?」
「おっ大丈夫か大丈夫か?」
「今度は逆に俺に向けて使った……! 「大丈夫か」と聞かれたら俺が答えを考えてしまう——」
「……入るぞ」と相澤が言った。「心操」
「はっ——!」と心操が我に返った。「もう少しで俺が答えてた。「大丈夫です」って言いそうになった」
「ありますあります」
「語録を洗脳の逆向きに使えるということか。こっちが発動を仕掛ける前に向こうが「問い返す」構造——」
心操がノートに書き込み続けた。
「もう一回」
「ありますあります」
「——田所さん」と心操が変声機を通して言った。「あなたはなぜヒーローになろうとしているんですか」
野獣先輩が少し間を置いた。
「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」
洗脳が入らなかった。
でも——心操が手を止めた。
ノートへの書き込みが止まった。
「……今の語録」と心操が言った。声が少し変わっていた。「「いつの日か世界を救うと信じて」——それ、ずっと思ってるのか?」
「ありますあります」
「百年以上——?」
「ありますあります」
心操がしばらく黙っていた。相澤も何も言わなかった。
「……俺は」と心操が言った。「ヒーローになりたくて、でも個性が「邪道」と言われて——ずっと「本当になれるのか」と思ってた。でもあなたは——百年以上「いつの日か」と思い続けてる」
「ありますあります」
「……それは」と心操が言った。「強さだと思う。語録じゃなくて、田所さん自身の」
野獣先輩は心操を見た。
「いつしか雨はやみ、そこには虹がかかるんだよなぁ…」
静かに言った。
心操が「……うん」と言った。珍しく素直な声だった。「そうだな」
実験が終わって、心操が先に帰った。
部屋に相澤と野獣先輩が残った。
相澤が机の上のノートを見ていた。心操が書き残したメモだ。「語録→洗脳干渉実験①」と書いてある。
「……心操はいい奴だ」と相澤が言った。独り言のように言った。
「ありますあります」
「お前に似てるところがある。声で相手に影響を与える個性——本人が一番それを分かってて、だから慎重に使う」
「ありますあります」
「来年からB組に入る。俺が担当する」
「ありますあります」
「……」
相澤がメモを一枚めくった。めくりながら、ふと手が止まった。
心操のメモの隅に小さく何か書いてある。
相澤が目を細めた。
「——「語録の「実家のような安心感」は語録というより挨拶として機能している可能性。田所さんは相澤先生に使っていた」」
相澤が紙を裏返した。
「ありますあります」
「……聞こえてたのか」
「ありますあります」
「今朝の話を心操に話したのか」
「ありますあります」
「なぜ」
「実家のような安心感」
また言った。
相澤が立ち上がった。「帰れ」
「ありますあります」
相澤が部屋を出た。廊下に出た直後——
「……はっきりわかんだね」
相澤の声が小さく聞こえた。
野獣先輩はそれを索敵で拾った。
「ありますあります」
一人で言った。
翌朝、相澤の机の上に一冊のノートがあった。
野獣先輩が朝のHR前に職員室に寄った時に見えた。
ノートの表紙に小さく書いてある。
「語録・効果記録①」
野獣先輩は止まった。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
索敵で相澤の気配を確認した。廊下の向こうにいる。こちらに向かっている。野獣先輩はすぐに職員室を出た。
廊下で相澤と正面からぶつかった。
「ありますあります」
「…………」
「ありますあります」
「……見たのか」と相澤が言った。
「ありますあります」
「台帳のことは口外するな」
「ありますあります」
「本当にするな」
「ありますあります」
相澤が通り過ぎた。
「おっ大丈夫か大丈夫か?」
野獣先輩が背中に向けて言った。
「うるさい」
昼休み、切島がスマートフォンを持って走ってきた。
「先輩!! 拳藤さんからメッセージ来てます!! 俺のじゃなくてA組のグループチャットに入れてもらったやつで——」
切島がスマートフォンを見せた。
拳藤からのメッセージが入っていた。
「昨日の語録の件。少し調べたんだけど——「親の顔より見た光景」ってやつ、なんか古いコンテンツに関係あるって聞いたことあって。田所くんに聞きたいんだけど、直接聞いていい?」
野獣先輩はメッセージを見た。
「ありますあります」
「いいってことですか!?」
「ありますあります」
「じゃあ返信しますね——」
「お前離せコラ!」
「え!? スマホ離しません!? 返信しちゃダメでした!?」
「ありますあります」
「どっちなんですか!!」
野獣先輩はスマートフォンを指差した。
「ありますあります」
「……「自分で返信する」ってことですか」
「ありますあります」
切島がスマートフォンを渡した。
野獣先輩がスマートフォンに向かって小声で言った。
「ありますあります」
「……それを返信するんですか?」
「ありますあります」
「語録で返信するんですか!?」
「ありますあります」
野獣先輩が「ありますあります」とメッセージを打って送信した。
しばらくして拳藤から「意味分かんない(でも分かる気がする)」という返信が来た。
夕方、B組の教室に物間がいた。
一人だった。
机の上に紙が広げてある。「語録研究メモ」と書いてある。箇条書きになっている。
「「ビール!ビール!」→欲しいものを思わせる(体験済み)」
「「お前さぁ…」→行動が止まる(理由不明)」
「「親の顔より見た光景」→……(未解明・要調査)」
最後の一項目の横に、小さく「?!」と書いてある。
そのさらに下に——
「「24歳、学生です」」
それだけ書いてある。その横に何も書いていない。
でも紙が少し、ほんの少し、しわになっている。強く握った跡のような。
廊下を拳藤が通りかかった。
「何それ」
「な!! な、なんでもないです!! 個性の研究ですよ!! 学術的な!!」
拳藤が紙を一瞥した。「……「24歳、学生です」って何が気になるの」
「べっ——別に!! ただの個性研究ですって!!」
拳藤がしばらく物間を見た。
「……まぁ」と拳藤が言った。少し声が低くなった。「気持ちは分からなくもないけど」
「拳藤さん!?」
「うるさい」と拳藤が言った。「忘れて」
拳藤が教室を出ていった。
物間が一人で「拳藤さんも!?」と言った。
訓練二日目の夜。
帰り際の廊下で、心操が野獣先輩の隣に並んだ。
「ノートの研究——続けてもいいか。B組に入ってから、定期的に」
「ありますあります」
「助かる」と心操が言った。「俺の個性は——誤解されやすい。相澤先生以外に「研究しよう」と言ってくれた人間は初めてだ」
「ありますあります」
「……田所さんも、誤解されてきたのか。「語録しか喋れない変な人」として」
「ありますあります」
「そうか」
心操がしばらく歩いた。
「俺は——ヒーロー科に入ったら「憧れちまったもんは仕方ないだろ」と言えるようになりたい。堂々と」
「ありますあります」
「……語録じゃなくて、そう言ってくれたらもっと分かりやすかった」
「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」
「……それは分かった」と心操が言った。「俺も信じてる。自分のことを」
「ありますあります」
二人で廊下を歩いた。
声の使い方が似ている二人が、並んで歩いた。