【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩 作:まだら模様
当方の駄文によりストーリー、キャラ崩壊の可能性あります。
申し訳ございません…なんでもしm
バスの中は、思ったよりうるさかった。
雄英のバスは二列シートではなく横並びのシートになっていて、クラスメイト全員が向かい合う形で座っている。おかげで会話が自然に生まれる。普通の遠足みたいな空気だ。
野獣先輩は窓際の席に座って、外を流れる景色を見ていた。
隣に切島が座っている。切島は入学してからずっと距離が近い。語録しか喋れない野獣先輩に対して、過剰に気を遣うわけでも遠ざかるわけでもなく、ただ普通に接してくれる。それがありがたかった。
「野獣先輩さんって、今日どういう動き方するつもりですか? 個性的に集団戦向きっすよね」
「当たり前だよなぁ?」
「ですよね! 俺は突っ込むだけっすけど、野獣先輩さんがサポートしてくれたら心強いっす」
「お、そうだな」
「よっしゃ! じゃあ今日コンビ組みましょう!」
切島が拳を握った。野獣先輩はうなずいた。
悪くない、と思った。切島の個性「硬化」は前に出ることに特化している。自分の語録は後方支援と妨害に向いている。組み合わせとしては相性がいい。
バスの前方では緑谷と飯田と麗日が何か話している。緑谷が個性についての質問を爆豪に投げかけて、爆豪が切れている。いつも通りだ。
野獣先輩は視線を前方に戻した。
今日の実習先はUSJ——ユニバーサル・スーパーヒーロー時間と書いて、そういう名前の施設だ。様々な災害を模した訓練エリアが広がっている大型施設で、実際に使われている施設だ。
原作では、ここでヴィラン連合の襲撃を受ける。
野獣先輩はそのことを知っている。
知っているが、どうすればいいかは難しい問題だった。「もうすぐヴィランが来る」と伝える言葉が語録にない。「危険だから引き返せ」と言える言葉もない。
できることは、来たときに対処することだけだ。
野獣先輩は窓の外を見ながら、語録のリストを頭の中で整理した。
USJは広かった。
入口を抜けると、中央の広場から複数のゾーンに分かれているのが見える。水没ゾーン、火災ゾーン、廃墟ゾーン、山岳ゾーン。それぞれが本物に近い環境で作られている。
thirteenが出迎えた。
白い宇宙服姿。穏やかな声で話す。ブラックホールの個性を持つヒーローで、災害救助のプロだ。
thirteenが話し始めた。個性は使い方次第で人を傷つける凶器になりうる、という話。自分のブラックホールの個性も、使い方を誤れば人を吸い込んで殺すことになる。だからこそ、ヒーローとしての心構えが大切だ——という内容だった。
野獣先輩はその話を聞きながら、thirteenの背中を見ていた。
入学式の日、名前を呼ばれた瞬間に硬直した人物だ。今日は野獣先輩のほうを向いていない。訓練の説明に集中している。
プロだ、とまた思った。
thirteenの話が終わりかけたとき、相澤がオールマイトの遅刻について何か言いかけた。
そのとき、野獣先輩の口から言葉が出た。
「やべぇよやべぇよ」
切島が「え?」と振り返った。
次の瞬間、中央広場の噴水が黒く渦巻い
黒い霧が広場に立ち込めた。
人影が次々と現れる。数えるだけで数十人はいる。明らかに一般人ではない。殺気が空気を変えた。
クラスが一瞬固まった。
相澤が即座に動いた。
「全員固まるな! thirteenはクラスを守れ!」
捕捉布を展開しながら相澤が飛び出した。同時にthirteenがクラスの前に立った。
黒い霧の中から、人物が浮かび上がった。
黒霧——霧状の個性を持つヴィランだ。声が低く、丁寧な口調で話す。
「雄英の学生諸君、オールマイトに会いに来た。邪魔をするなら——」
「やめたくなりますよなんか部っ活ぅ~」
野獣先輩が呟いた。
クラスの数人が「今それじゃない」という顔をした。切島が「野獣先輩さん⁉」と小声で言った。
黒霧が一瞬、動きを止めた。
止まった理由は分からない。でも確かに止まった。コンマ二秒ほど。
「……散れ」
黒霧が展開した。クラスメイトたちが各ゾーンに強制転移させられていく。
野獣先輩は切島の腕を掴んだ。
「こ↑こ↓」
黒霧の転移とほぼ同時に、野獣先輩と切島が別の場所へワープした。黒霧の転移先とは違う、野獣先輩が指定した座標——広場の端、柱の陰だ。
直後、周囲が静かになった。
二人は柱の陰に立っていた。
「……今の、黒霧の転移から逃げた?」
「当たり前だよなぁ?」
「すげぇ……!」
切島が目を輝かせた。野獣先輩は広場の状況を確認した。
相澤がヴィランたちと戦っている。thirteenがクラスの残りを守ろうとしている。そして中央の広場には——脳無がいる。あの巨大な人型の個体だ。
野獣先輩は状況を整理した。
まずクラスメイトたちが各ゾーンに散らされた。自分と切島は広場の端に残っている。相澤はヴィランの集団と戦っている。オールマイトはまだ来ていない。
「切島」
「はい!」
「いいよ!こいよ!」
「……行くってことっすか?」
「当たり前だよなぁ?」
「わかった、行きましょう!」
切島が個性を発動した。体表が硬化し、鋼鉄のような質感になる。
二人は柱の陰から出た。
広場から离れ、廃墟ゾーンへ移動した。
このゾーンには複数のヴィランが配置されていた。崩れたビルの残骸の間に、明らかに戦闘向きの個性を持つ人間が数人いる。
切島が前に出た。
「俺が前に出ます! 野獣先輩さんはサポートで!」
「お、そうだな」
ヴィランの一人が切島に向かって突進してきた。刃物のような個性で全身が覆われている。
切島が硬化した腕で受け止めた。金属同士がぶつかるような音がした。
「ハードネスで受けきれる!」
野獣先輩は切島の背後から、別のヴィランを見た。切島の背後を狙おうとしている。
「見とけよ見とけよ~」
強制注目状態が発動した。背後を狙っていたヴィランの視線が、強制的に野獣先輩に固定された。動きが一瞬止まる。
「こ↑こ↓」
そのヴィランを廃墟の瓦礫の山にワープさせた。ドカン、という音とともに瓦礫が崩れて、ヴィランが下敷きになった。
「野獣先輩さんえぐい!」
「当たり前だよなぁ?」
切島が正面のヴィランと渡り合いながら、野獣先輩が側面と背後を語録で処理していく。
三人目のヴィランが距離を取って何か叫んだ。
「なんだこいつ……語録しか言わないのか?」
「はっきりわかんだね」
「答えんな!」
野獣先輩は内心で少し楽しかった。
四人目が個性を発動した。電気系の個性だ。放電が広範囲に広がってくる。
「やべぇよやべぇよ」
危機察知が発動した。最適回避ルートが直感で分かる。野獣先輩は切島を引っ張って横に跳んだ。電撃が二人のいた場所を通過した。
「今のも察知したんすか?」
「お、そうだな」
「控えめに言って最高っす!」
切島が笑顔で突進した。電気系のヴィランに硬化した拳を叩き込む。ヴィランが吹っ飛んだ。
廃墟ゾーンのヴィランを全員無力化するまで、十分かからなかった。
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### 【広場の状況——脳無との遭遇】
廃墟ゾーンを制圧したあと、野獣先輩は広場の方向を見た。
相澤が戦っている。脳無と、その周囲のヴィランたちと。
相澤の動きが見える。消去で個性を無効化しながら、複数のヴィランを同時に相手にしている。強い。でも、数が多い。
そして脳無は——相澤に向かって動いていた。
「切島」
「はい!」
「あくしろよ」
「行くぞってこと?」
野獣先輩は走り出した。切島がついてくる。
広場に出た瞬間、脳無の巨体が視界を塞いだ。
でかい。本当にでかい。四メートル以上はある。全身が無数の腕で覆われていて、動くたびに地面が揺れる。
相澤が脳無に叩きつけられた。地面に激突した相澤が動かない。
「相澤先生!」
切島が叫んだ。
野獣先輩は脳無を見た。
「こ↑こ↓」で転移させるには大きすぎる。直接触れなければ転移できない、という制約もある。
別の手を使う。
「ぬわああああん疲れたもおおおおおん!」
野獣先輩が全力で叫んだ。
重力増加フィールドが展開された。
半径十五メートル以内の重力が急上昇する。切島が「うわっ」と声を上げてよろけた。野獣先輩自身も膝に来る。でも脳無への効果はさらに大きい。
脳無の動きが、急激に鈍った。
四メートルの巨体を動かす筋力が、増加した重力に対抗しきれない。ずるずると速度が落ちて、足が地面にめり込んでいく。
「これ……重力が上がってる?」
切島が歯を食いしばりながら言った。
「王道を征く」
「何が?!」
脳無が完全停止するまで八秒かかった。八秒間、野獣先輩は重力フィールドを維持した。かなり消耗した。足が震えている。
停止した脳無のセンサー部分——頭頂部のコア——に向けて、野獣先輩は手を伸ばした。
「こ↑こ↓」
コアが手元にワープしてきた。
叩きつけた。
脳無が停止した。
重力フィールドが解除される。切島が大きく息を吸った。
「……やったんすか、今」
「やったぜ。」
「かっけぇ……!」
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相澤は意識を失っていた。
全身に傷がある。脳無に叩きつけられたダメージだ。呼吸はある。でも放置はできない。
野獣先輩は相澤の状態を確認しながら、周囲を見渡した。
広場の中央に、黒霧がいる。
黒霧は野獣先輩たちを見ていた。視線が、まっすぐこちらに向いている。
「……なかなか、やりますね」
黒霧が言った。丁寧な口調は変わらない。
「やりますねぇ!」
野獣先輩が即座に返した。
黒霧が一瞬、沈黙した。
丁寧な口調の外側で、何かが揺れた気がした。
「……あなたは、変わった個性を持っている」
「はっきりわかんだね」
「その語録……どこかで——」
「これもうわかんねぇな」
黒霧がまた沈黙した。今度は少し長い。
野獣先輩は黒霧を観察した。黒霧は戦闘個性というよりも転移・偵察特化型のヴィランだ。直接戦闘には向いていない可能性が高い。でも「こ↑こ↓」で転移させようとしても、霧状の個性を持つ相手に触れることができない。
どうする。
「野獣先輩さん……あいつ、なんか様子おかしくないすか?」
切島が小声で言った。
確かに、黒霧は動いていない。戦闘態勢に入っていない。こちらを見ているだけだ。
「なんで?」
野獣先輩が呟いた。
黒霧の動きが——反転した。
展開しかけていた霧が、逆方向に引いていった。黒霧が後退した。
「……今日のところは、退きましょう」
「え、なんで?!」
切島が叫んだ。
野獣先輩にも理由は分からなかった。「なんで?」の効果が発動して、黒霧の行動が反転したのかもしれない。でも霧状の相手に「なんで?」が通じるとは思っていなかった。
そのまま黒霧が霧散した。
「……行った?」
「ダメみたいですね」
「追えないってこと?」
「当たり前だよなぁ?」
切島が肩の力を抜いた。
そのとき——USJの壁が、砕けた。
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### 【オールマイト、参上】
壁を突き破って入ってきた人物を見て、野獣先輩は思った。
でかい。
マッスルフォームのオールマイトが、破壊した壁の向こうから現れた。入口から来ず、壁を直接突き破って来た。それだけで場の空気が変わった。
「私が来た!」
声がUSJ全体に響いた。
野獣先輩の口から、反射的に言葉が出た。
「やりますねぇ!」
身体能力強化バフが発動した。足の震えが止まった。
オールマイトがこちらを見た。
相澤が倒れているのを確認し、脳無が停止しているのを確認し、野獣先輩と切島を確認した。
そしてオールマイトは、野獣先輩の顔を、三秒間見た。
三秒だ。コンマじゃない。まるまる三秒。
「……君たちは無事か!」
「王道を征く」
「……そ、そうだ! 王道だ! ヒーローはいつでも王道を!」
オールマイトが笑顔で言った。
笑顔だが、目の奥が若干揺れていた。
切島が「オールマイト来た! すげぇ!」と興奮している横で、野獣先輩はオールマイトを観察した。
三秒だ。
相澤はコンマ一秒。プレゼントマイクは三秒。thirteenはコンマ二秒。そしてオールマイトは今日だけで「810」の数字でコンマ三秒、直接会ってまるまる三秒。
合計三秒三コンマ。
これは——相当知っている。
「王道を征く」
野獣先輩はもう一度呟いた。自分用の確認だ。
オールマイトが「うん!?」という顔をしてこちらを見たが、すでに視線を脳無に戻していた。
その後の展開は、早かった。
オールマイトが脳無を倒した。それも圧倒的な速度と力で、一撃で。
野獣先輩はその様子を少し離れた場所から見ていた。
切島が「あれが本物のヒーローだ……!」と呟いていた。野獣先輩も同じことを思った。
でかくて、速くて、強い。語録とか個性とか、そういう次元ではない純粋な力がある。
その後、ヴィラン連合は撤退した。
死柄木弔——あの手が多い青白い人物——が何か叫んでいた。「計画通りにいかなかった」という内容だった。
野獣先輩は死柄木を見た。
原作で知っている。あの人物は今後、もっと大きな脅威になる。今日は失敗したが、次は違う。
死柄木の視線がこちらに向いた瞬間、野獣先輩は口を開いた。
「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」
死柄木が止まった。
「……何?」
「ないです」
「ないって何が……」
「多少はね?」
死柄木が眉間に皺を寄せた。黒霧が「死柄木弔、撤退を」と声をかけた。
「……覚えてろよ」
死柄木が黒霧の霧に包まれて消えた。
その直前、死柄木の目が野獣先輩の顔を見た。
奇妙な目だった。怒りとも困惑ともつかない、不思議な表情だった。
野獣先輩は消えていく霧を見送った。
「今の……死柄木? に話しかけたんすか?」
「お、そうだな」
「何て言ってたんすか」
「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」
「……どういう意味っすか?」
「当たり前だよなぁ?」
切島が困惑した顔のまま、でも深く考えるのをやめた顔で「わかんないっすけど、かっけぇ気がしました」と言った。
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ヴィランが撤退したあと、USJ内の生徒たちが中央広場に集まってきた。
それぞれのゾーンで戦っていたクラスメイトたちが、怪我を負いながらも戻ってきた。全員の顔を確認した。緑谷が腕に包帯を巻いている。轟が無表情だが体には傷がある。八百万が消耗している。
全員いる。
野獣先輩はその事実を確認して、少し息を吐いた。
「いいゾ〜これ」
切島が「何がいいんすか?」と聞いた。
「全員いる」と言いたかったが、その言葉が出ない。
「ないです」
「ないって……まあ、全員無事そうでよかったっす!」
切島が自分で解釈して納得していた。
救護の人員が到着した。相澤が担架で運ばれていく。意識はまだない。
野獣先輩は担架の横を少し歩いた。
相澤は強い教師だ。今日、一人でヴィランの集団を相手に時間を稼いだ。それがなければもっと被害が出ていた。
「王道を征く」
担架を運ぶ人員が「え?」という顔をしたが、野獣先輩はもう前を向いていた。
帰りのバスは、行きより静かだった。
全員が疲れている。怪我をしている者もいる。今日起きたことの重さが、少しずつ実感として押し寄せてきているらしく、クラスの空気が重かった。
野獣先輩は窓の外を見ていた。
切島が隣で寝ている。よほど消耗したのか、座ったまま目を閉じている。
バスの前方、教師席にオールマイトが座っている。
オールマイトは前を向いていたが、一度だけ振り返った。そしてバスの後方にいる野獣先輩を見た。
目が合った。
オールマイトは何も言わなかった。野獣先輩も何も言えなかった。
三秒間、お互いに見ていた。
それからオールマイトが前を向いた。
野獣先輩も窓の外を見た。
夕暮れの景色が流れていく。
「多少はね?」
誰に言うでもなく、窓に向かって呟いた。
今日は多少うまくいった。多少は。
次はもっとうまくやれる、という確信は今のところない。
でも——
「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」
切島が寝ぼけた声で「……うす……」と返した。
野獣先輩は小さく笑った。
語録しか喋れない自分が笑うと、たぶん変な顔になっている。でも誰も見ていないので問題ない。
バスは雄英へ向かって走り続けた。
その夜、雄英の職員室では。
プレゼントマイクが一人で残って、今日のUSJの映像を確認していた。
相澤は入院した。重傷だ。意識は戻ったが、しばらく動けない。
映像の中で、野獣先輩が「ぬわああああん疲れたもおおおおおん」と叫んで重力フィールドを展開している。
プレゼントマイクは映像を一時停止した。
しばらく画面を見ていた。
それから、口元を手で覆った。
肩が震えていた。
笑いをこらえているのか、泣きそうなのか、それとも両方なのかは、映像には映っていない。
「……ショータ、早く治れよ……」
プレゼントマイクは映像の再生を止めて、電気を消した。
職員室が暗くなった。
ちなみに13号先生のはあえてやってる表記ネタです
DTN的な…オリジナル設定生やしてますがユルシテ…