【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩   作:まだら模様

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一旦全面戦争編は集結です!
ここら辺出来事が多すぎて処理が出来ずアーイキソ…

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。

感想、評価付与をくださると野獣先輩が「屋上あんだけど…焼いてかない?」で屋上(?)にワープさせてきて「アイスティーしかなかったけど、いいかな?」
とひとまずの終結に飲み物を渡して来てあの屋上のシーンを再現できます(デデドン)


第42話「これもうわかんねぇな(混乱)(全面戦争・決着)」

 

 

 夜明け前だった。

 

 雄英のキャンパスは静かだった。

 

 静かだったが——索敵の中では静かではなかった。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 野獣先輩は屋上に立っていた。一人だった。

 

 索敵を最大まで広げた。

 

 至る所でヒーローが動いていた。この国のどこかで戦いが始まっている。気配がぶつかり合っている。消えていく気配がある。激しくなっていく気配がある。

 

 そして——

 

 死柄木の核が動いていた。

 

 索敵の中で最も重い気配が、動いている。

 

「いざ鎌倉!という解放感、高揚感を味わいたいですからね」

 

 野獣先輩が言った。

 

 誰もいない屋上に向かって言った。

 

「ありますあります」

 

 自分で返した。

 

 深呼吸した。

 

 行く。

 

 

 

 

 

 

 許可をもらっていた。

 

 相澤に「行くか」と言われた時、「ありますあります」と答えた。「一人で行くのか」と言われた時も「ありますあります」と答えた。「戻れるか」と言われた時も「ありますあります」と答えた。

 

 相澤は「……分かった」と言った。それだけだった。

 

 索敵を絞りながら移動した。

 

 死柄木の核——近い。昨日より重い。昨日より濃い。「崩壊」そのものが体の中に満ちている感触が索敵越しに伝わってくる。

 

「F.C.O.H.」

 

 野獣先輩は歩きながら言った。

 

 これが初めての「F.C.O.H.」だった。

 

 索敵強化+転移準備+「ぬわあン」蓄積+全語録出力限界引き上げ、を一つのキーで束ねた。複数の語録効果を同時起動するためのコンボ起動キー——この一語が今日の出力の天井を引き上げる。代償は早い消耗だ。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 索敵に死柄木が捉えられた。

 

 景色が変わった。廃墟だった。建物が崩れている。地面が割れている。誰かが戦った跡が残っている。

 

 その中に——死柄木が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 距離は十メートルくらいだった。

 

 死柄木はこちらを見ていなかった。

 

 何かを探しているような——何かを求めているような——ただ前を見ていた。崩壊の気配が全身から漏れ出ていた。近くの廃材が少しずつ砕けていた。

 

 野獣先輩は止まった。

 

 索敵で死柄木の状態を確認した。

 

「お前どう?」

 

 野獣先輩が言った。

 

 死柄木が止まった。

 

 死柄木が止まった——本当に止まった。

 

 崩壊の気配が——一瞬、揺れた。

 

 索敵の中で「何かが変化した」ことが分かった。怒りでも警戒でもない。「聞こえた」という変化だった。

 

「ありますあります」

 

 野獣先輩は自分に向かって言った。届いた、という意味で。

 

 死柄木がゆっくりこちらを向いた。

 

 目が合った。

 

 死柄木の目が——何かを探すような目だった。

 

 

 

 

 

 

「この辺にぃ、うまいラーメン屋の屋台、来てるらしいっすよ」

 

 野獣先輩が言った。

 

 死柄木の表情が変わった。

 

 変わった——というより、「揺れた」。何かが一瞬ぶれた。崩壊の気配が止まった。完全に止まった。五秒くらい、何も崩れなかった。

 

 野獣先輩の索敵が——死柄木の内側で何かが動いているのを感じた。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 索敵の精度を上げた。

 

 分からない。何が動いているのか分からない。でも、「語録が届いている」ことだけは分かる。なぜ届くのかは分からない。でも——届いている。

 

「いかんのか?」

 

 野獣先輩が言った。

 

 死柄木が固まった。

 

 崩壊の気配が——また揺れた。揺れて、小さくなった。

 

 死柄木の表情が——野獣先輩には目視でも索敵でも正確には読めなかった。でも、「何か言いたそう」な気配がした。言葉を持っていない人間の気配に似ていた。

 

「お前精神状態おかしいよ…」

 

 野獣先輩が言った。

 

 誰も否定しなかった。

 

 死柄木も否定しなかった。

 

 一瞬——死柄木の体から「子供」の気配がした。索敵越しに感じた。ほんの一秒くらい。すぐ消えた。でも確かにあった。

 

「ありますあります」

 

 野獣先輩は自分に向かって言った。今のは本当にあった、という確認のために。

 

 

 

 

 

 

 距離が縮まった。

 

 八メートル。六メートル。

 

 索敵で死柄木の全身を確認した。

 

 体格は普通だ。細い。筋肉の密度は高くない。でも——崩壊が体中に浸透しているせいで、肌の下で何かが蠢いているような異常な質感がある。

 

 手が——

 

「この辺がセクシー…エロいッ!」

 

 思わず出た。

 

 死柄木の手だ。五指の根本から崩壊の力が漏れている。指の関節の形が——普通の人間よりひとまわり大きい。節の張り方が異常だ。掌の腱の状態が——

 

「ありますあります」

 

 野獣先輩は自分に言った。集中が切れた、という自覚のために。死柄木の手を観察している場合ではない。

 

 死柄木がまたこちらを見た。

 

「お前もしかして、あいつのことが好きなのか?(青春)」

 

 野獣先輩が言った。

 

 「あいつ」が誰のことかは分からなかった。索敵で「誰かを探している」気配を感じた。それが誰なのかは分からない。でも——「好き」という言葉が、死柄木に何かを引き起こした。

 

 崩壊の気配が——また揺れた。

 

 今度は大きく揺れた。

 

 死柄木の目が——細くなった。怒りではなく。混乱。混乱しているような目だった。

 

 

 

 

 

 揺らいでいる間に——動かなければならなかった。

 

 死柄木が動き始める前に。

 

「F.C.O.H.」

 

 もう一度、言った。出力を保ったまま展開する。

 

「こ↑↑こ」「こ↑↑こ」「こ↑↑こ」

 

 索敵で確認していた——廃墟周辺に残っていたヒーロー三人。三連続転移で安全な方向に送った。

 

 その瞬間——死柄木の崩壊が展開した。

 

 地面が割れた。廃材が砕けた。崩壊の波が広がった。

 

「ア゜ッー!」

 

 野獣先輩が言った。崩壊の余波が足元に来た。一瞬だけ体がぶれた。距離を取った。

 

「ぬわあああああん疲れたもおおおおおん!!!」

 

 広域疲労付与——死柄木の全身に向けて放った。

 

 死柄木が止まった。三秒止まった。

 

「ぬわあああああん疲れたもおおおおおん!!!」

 

 二発目。

 

 死柄木の動きが鈍くなった。完全には止まらない。でも鈍くなっている。

 

「いや~キツイっす」

 

 野獣先輩が言った。

 

 二発目で限界に近かった。「F.C.O.H.」で引き上げた出力の代償が来ていた。

 

 三発目を撃つかどうか迷った。

 

「ウーン…」

 

 一瞬、止まった。

 

 その瞬間——エンデヴァーが来た。

 

 

 

 

 

 

 索敵の端に気配が現れた瞬間に分かった。炎の気配。あの重さはエンデヴァーだ。

 

「ありますあります」

 

 野獣先輩は自分に向かって言った。「来た」という意味で。

 

 エンデヴァーが廃墟に降り立った。死柄木と野獣先輩の間に立った。

 

 エンデヴァーが野獣先輩の方を一瞬見た。

 

「ありますあります」

 

 野獣先輩が先に言った。「下がる」という意味で。

 

「下がれ」とエンデヴァーが言った。

 

「ありますあります」

 

 野獣先輩は下がった。

 

 

 

 

 

 

 廃墟の端に座った。

 

 索敵を続けた。

 

 エンデヴァーと死柄木の戦いが——索敵の中で動いていた。エンデヴァーの炎が広がる。死柄木の崩壊が広がる。ぶつかり合っている。どちらの気配も消えていない。

 

「ありますあります」

 

 どちらも消えていないという確認を、自分に向かって言い続けた。

 

 少しずつ——死柄木の気配が遠ざかっていった。

 

 遠ざかった。

 

 索敵の端まで行って——消えた。「死んだ」ではなく「逃げた」感触だった。

 

「ありますあります」

 

 今日の戦いが終わった、という意味で自分に言った。

 

-

 

 

 

 

 座ったまま、周囲を見渡した。

 

 廃墟だった。

 

 建物が崩れていた。地面が割れていた。煙が上がっていた。空が白くなり始めていた。夜明けの光が廃墟の中に差し込んでいた。

 

「なんか芸術的」

 

 野獣先輩が言った。

 

 誰もいなかった。

 

「ありますあります」

 

 自分で返した。

 

 本当に誰もいなかった。でも——確かに言いたかった。割れた地面に朝の光が差し込んでいた。崩れた建物の陰影が奇妙に美しかった。煙の向こうに空が白い。

 

「ありますあります」

 

 もう一度自分に言った。

 

 

 

 

 

 

 しばらくして——索敵に気配が入ってきた。

 

 人の気配。

 

 小さい気配だった。強くない。でも——知っている。何度も索敵で感じたことがある。A組の教室で。廊下で。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 確認した。

 

 オールマイトだった。

 

 野獣先輩は立ち上がった。

 

 オールマイトが廃墟の中を歩いていた。痩せていた。大きくなかった。普通の人間の体格だった。でも——索敵の中での気配の「質」が、A組の人間とも、プロヒーローたちとも、少し違った。

 

「お前どう?」

 

 野獣先輩が言った。

 

 オールマイトが止まった。こちらを見た。

 

「……Field observation?」

 

 オールマイトが英語で言った。

 

「ありますあります」

 

 野獣先輩が答えた。

 

 オールマイトが少し笑った。疲れた笑い方だった。

 

「……Young man. Are you alright?」

 

「ありますあります」

 

「……I see.」

 

 オールマイトが野獣先輩の隣に来た。廃墟を見渡した。

 

 

 

 

 

 

 オールマイトが隣に立った。

 

 索敵で——感じた。

 

 今のオールマイトは個性を失っている。それは知っていた。索敵でも「個性の気配が薄い」ことは分かる。でも——体格は、それでも。

 

 かつてオールマイトだった体の名残が——骨格に残っていた。

 

 肩幅が普通の人間より広い。胸の骨格が元の体格に合わせて設計されていて、今の体積に対して大きすぎる。背中の骨格が——まだ、あの大きさを覚えている。

 

「お前もしかして、あいつのことが好きなのか?(青春)」

 

 思わず出た。

 

 オールマイトが「…… 」と止まった。「あいつ」が誰か——オールマイトには文脈が読めないはずだった。

 

「ありますあります」

 

 野獣先輩が先に言った。

 

「……Interesting.」

 

 オールマイトが言った。

 

「それは……語録というやつですか」

 

 日本語に切り替えた。

 

「ありますあります」

 

「……相澤先生から聞いています。田所さん、でしたか」

 

「ありますあります」

 

「……今日は、よくやってくれました」

 

「ありますあります」

 

 オールマイトが廃墟を見渡した。

 

「…… I used to be stronger. I couldn’t stop all this.」

 

「ありますあります」

 

「……「そうだ」と言ってくれているのですか」

 

「ありますあります」

 

 オールマイトが「……正直ですね」と言った。少し笑った。今度は疲れた笑い方ではなかった。

 

 

 

 

 

 

「お前どう?」

 

 野獣先輩が言った。

 

 オールマイトが少し間を置いた。

 

「……どう、ですか」

 

「ありますあります」

 

「……「元気か」ということですか」

 

「ありますあります」

 

「……正直に言うと」とオールマイトが言った。「元気ではないです」

 

「ありますあります」

 

「……「知っている」ということですか」

 

「ありますあります」

 

「……索敵で分かりますか」

 

「ありますあります」

 

「……そうですか」

 

 オールマイトが少し間を置いた。「でも、若者が戦ってくれている。それを見ることができる。それは——」

 

「いかんのか?」

 

 野獣先輩が言った。

 

 オールマイトが止まった。

 

「……「いかんのか」——「それでは駄目ですか」という意味ですか」

 

「ありますあります」

 

「……「それでいい」という意味ですか」

 

「ありますあります」

 

「……そうですか」

 

 オールマイトが静かに息を吐いた。

 

「……語録というのは——不思議ですね。何を言っているのかは分からないのに、何かが伝わってくる気がする」

 

「ありますあります」

 

 

 

 

 

 

 しばらく二人は廃墟の中に座っていた。

 

 朝の光が少しずつ強くなっていた。

 

「……田所さん」

 

「ありますあります」

 

「……さっき「あいつのことが好きなのか」と言いましたね」

 

「ありますあります」

 

「……あれは——誰のことですか」

 

「ありますあります」

 

「……「ある」のか、答えが」

 

「ありますあります」

 

「……死柄木のことですか」

 

「ありますあります」

 

「……「違う」ということですか」

 

「ありますあります」

 

「……デクのことですか」

 

「ありますあります」

 

「……「ある」のか」

 

「ありますあります」

 

「……そうですか」

 

 オールマイトが少し間を置いた。

 

「……語録で「好きなのか」と言える人は——死柄木に届いたのかもしれませんね」

 

「ありますあります」

 

「……「届いた」と感じましたか」

 

「ありますあります」

 

「……なぜだと思いますか」

 

 野獣先輩は少し間を置いた。

 

「お前もしかして、あいつのことが好きなのか?」

 

 もう一度言った。

 

 今度は——オールマイトに向けて言った。

 

 オールマイトが止まった。

 

「……死柄木のことですか」

 

「ありますあります」

 

 オールマイトが長い沈黙をした。

 

「……ありますあります」

 

 オールマイトが言った。

 

 野獣先輩が止まった。

 

「ありますあります」

 

 野獣先輩が確認するように言った。

 

「……さっき田所さんが言っていたので、「そうだ」という意味で使えるかと思いまして」

 

「ありますあります」

 

「……正しく使えましたか」

 

「ありますあります」

 

 オールマイトが「……よかった」と言った。

 

 

 

 

 

 

 相澤が来た。

 

「……生きているか」と相澤が言った。

 

「ありますあります」

 

「……二人とも」

 

「ありますあります」

 

 相澤が近づいてきた。オールマイトが立ち上がった。

 

「All Might.」

 

「……相澤先生。田所さんにはお世話になりました」

 

「……語録で会話しましたか」

 

「「ありますあります」と言ってもらいました」

 

 相澤が野獣先輩を見た。「……オールマイトに「ありますあります」を教えたか」

 

「ありますあります」

 

「……そうか」

 

 相澤が「……ありがとう」と言った。オールマイトにではなく、野獣先輩に向かって言った。

 

「ありますあります」

 

「……田所。死柄木に「お前どう?」と言ったか」

 

「ありますあります」

 

「……死柄木が止まったと報告を受けている」

 

「ありますあります」

 

「……なぜ止まったと思う」

 

 野獣先輩は少し間を置いた。

 

「お前精神状態おかしいよ…」

 

 言った。

 

 相澤が「……それが答えか」と言った。

 

「ありますあります」

 

「……語録で言われて——死柄木が何かを感じた、ということか」

 

「ありますあります」

 

「……そうか」

 

 相澤が短く息を吐いた。

 

「……誰にも分からないことがある。なぜ語録が届くのかも、なぜ死柄木が止まったのかも——誰にも分からない。それでいい」

 

「ありますあります」

 

 

 

 

 

 同時刻——地下シェルターの中。

 

「……先輩、今どこにいるんだろ」と切島が言った。

 

「索敵してると思う」と上鳴が言った。「絶対ずっと索敵してる」

 

「一人で行ってないよな……相澤先生と一緒だよな……」と耳郎が言った。珍しく声が小さかった。

 

「ありますあります」

 

 どこからか聞こえた。

 

 全員が顔を上げた。

 

「……どこから!!」と上鳴が言った。

 

 方向が分からなかった。シェルターの壁の方から聞こえたような気がした。

 

「ありますあります」

 

 また聞こえた。

 

「……先輩が壁に語録を埋め込んだのか」と砂藤が言った。

 

「そんな能力ないわ!!」と上鳴が言った。「インカム! 相澤先生のインカムが繋がってる!!」

 

「ありますあります」

 

 三回目。

 

「インカムが繋がってる!! 先輩が聞こえてる!!」と上鳴が叫んだ。「先輩!! 聞こえてますか!!」

 

「ありますあります」

 

「生きてる!! 先輩が生きてる!! 語録まとめ戦場版③に「インカム越しでも語録が届く」って追記します!!」

 

「今書くな!!」と砂藤が言った。

 

「でも記録しないと!!」

 

「ありますあります」

 

「先輩まで!!」

 

 爆豪が何も言わなかった。ただ、壁の方向を向いて腕を組んでいた。

 

 切島が「……先輩の声だ」と言った。静かな声だった。

 

「ありますあります」

 

 また聞こえた。

 

 

 

 

 

 夕方。

 

 廃墟に——エンデヴァーが来た。

 

「……生きているか」とエンデヴァーが言った。

 

「ありますあります」

 

「……ぬわあンは何発撃った」

 

「ありますあります」

 

「「二発」か」

 

「ありますあります」

 

「……「違う」のか」

 

「ありますあります」

 

「……三発か」

 

「ありますあります」

 

「「違う」のか」

 

「ありますあります」

 

「……では何発だ」

 

「いや~キツイっす」

 

 エンデヴァーが「……そんなに撃ったか」と言った。

 

「ありますあります」

 

「……F.C.O.H.も使ったと聞いた」

 

「ありますあります」

 

「……ホークスから聞いた」

 

「ありますあります」

 

 エンデヴァーが少し間を置いた。「……無事でよかった」

 

「ありますあります」

 

「……それと——さっき、オールマイトに「ありますあります」と言わせたと聞いた」

 

「ありますあります」

 

「……俺も言えるようになったか」

 

「ありますあります」

 

「……「言えるのか」ということか」

 

「ありますあります」

 

「……ならば」

 

 エンデヴァーが「——ありますあります」と言った。

 

「ありますあります!!」

 

 野獣先輩が言った。今日一番の勢いで言った。

 

 エンデヴァーが少しだけ表情を変えた。表情と呼ぶには微妙な変化だったが——索敵の中では「嬉しい」という気配が確かにあった。

 

 

 

 

 

 深夜。

 

 エンデヴァーがホークスに連絡した。

 

「今日田所の前で「ありますあります」と言った。正しく使えたか」

 

 ホークスから返信が来た。

 

「なんで確認するんですか(笑)」

 

「正しく使えたかを確認したい」

 

「どういう文脈で使いましたか」

 

「「俺も言えるようになったか」と聞かれて「ならばありますあります」と言った」

 

 十秒後。

 

「完璧です」

 

「そうか」

 

「エンデヴァーさん、淫夢語録に入門しましたね(笑)」

 

「……黙れ」

 

「ありますあります」

 

 ホークスが返してきた。

 

 エンデヴァーが少し間を置いた。

 

「ありますあります」

 

 返した。

 

 ホークスから「笑」が来た。

 

 エンデヴァーがスマートフォンを置いた。

 

「……なんか芸術的」

 

 エンデヴァーが一人で言った。

 

 文脈は関係なかった。なんとなく、今日という日がそう感じられた。廃墟の光景が、あの語録が届いた瞬間が、オールマイトと野獣先輩が廃墟に並んで座っていた光景が——索敵の報告を通じて聞いていた全部が。

 

「ありますあります」

 

 もう一度、エンデヴァーが一人で言った。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 野獣先輩のスマートフォンに相澤から転送が来た。

 

「——From All Might: 「ありますあります」を一人で練習しました。田所さんに見せてやってください。」

 

 下に相澤の一言が添えてあった。

 

「……こいつも落ちたな」

 

「ありますあります」

 

 野獣先輩は部屋で一人、スマートフォンに向かって言った。

 

 今日は全面戦争だった。

 

 語録が死柄木に届いた。

 

 なぜ届いたのかは——誰にも分からなかった。

 

「ありますあります」

 

 もう一度言った。

 

 届いたことだけは、確かだった。

 

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