【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩 作:まだら模様
キャラ崩壊、ストーリー崩壊等含みます
ご注意ください。
トーナメント表が貼り出された。
野獣先輩の第一回戦の相手は爆豪勝己。
控え室で切島が「大丈夫っすか?」と聞いてきた。
「ま、多少はね?」
「多少で勝てる相手じゃないっすよ爆豪くん……」
「大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」
「全然ヘーキじゃなさそうな顔してますよ?!」
野獣先輩の顔は至って平静だった。切島が勝手に心配している。
野獣先輩は静かに目を閉じた。
爆豪勝己。個性「爆破」。掌から分泌する爆発性の汗を爆破させる。威力・速度・応用力、全てが高水準だ。USJで一度戦い、体育祭の騎馬戦でも相対した。向こうも野獣先輩の語録をある程度把握している。
読まれている語録は使いにくい。
使いにくいが——使えないわけではない。
「ピトン…ポチョン…」
切島が「何それ」と言ったが、野獣先輩はもう目を開けていた。
準備は、できている。
-
スタジアムが沸いた。
プレゼントマイクの実況が響く。
「さあ始まりました一対一トーナメント! 第一試合は1-A同士の対決! 爆豪勝己くんvsヤジュウ・センパイくん! どちらも体育祭で活躍を見せた二人です!」
フィールドの中央に二人が向かい合った。
爆豪は腕を組んでいない。すでに戦闘態勢だ。目が鋭い。
「お前の語録、大体読んだ。「何してんすか」で俺の爆破をキャンセルする気だろ。「痛いですね」でカウンターする気だろ。「こ↑こ↓」で転移して逃げる気だろ」
爆豪が静かに言った。珍しく冷静だ。
「全部読んでる。だから——全部叩き潰す」
野獣先輩は爆豪を見た。
「いいよ!こいよ!胸にかけて!胸に!」
スタジアムが一瞬静まり返った。
爆豪の表情が変わった。冷静だった顔が、微妙な顔になった。
「……何を胸にかけるんだ」
「当たり前だよなぁ?」
「なってねぇわ!」
開始の合図が出た。
爆豪が即座に爆破で飛び上がった。上空からの制圧だ。下から狙われにくく、爆破の威力を最大限に活かせる。
野獣先輩は上を見た。
「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」
爆豪の位置が精確に把握できた。上空十メートル。右方向に移動中。
爆豪が急降下しながら爆破を撃ってきた。
「やべぇよやべぇよ」
危機察知が発動した。回避ルートが見えた。左に跳ぶ。爆破がさっきまで野獣先輩がいた場所を焼いた。
「遅ぇ!」
爆豪が着地と同時に連続爆破を展開した。右、左、前。逃げ場を塞ぐ形だ。
野獣先輩は後退しながら、口を開いた。
「ンアッー!」
スタジアムが静まり返った。
爆豪の爆破が、その瞬間全部止まった。
何が起きたか誰にも分からなかった。爆豪本人も止まった。野獣先輩も何が起きたか分からなかった。
二秒後、爆破が再開した。
「今何が——」
「ないです」
「ないって何がだ!」
爆豪が舌打ちして次の爆破を放った。
野獣先輩は横に跳びながら指を向けた。
「こ↑こ↓」
爆豪が野獣先輩の後方にワープした。——転移したのは爆豪だ。物ではなく、人間を直接転移させた。
「テメェ、今俺を——」
「俺もやったんだからさ」
「やったって何を!」
爆豪が再び爆破で飛び上がった。今度は距離を取りながら、大きな一撃を溜め始めている。
掌に爆発性の汗が溜まっていく。最大出力の爆破だ。
「だいぶ溜まってんじゃんアゼルバイジャン」
スタジアムの観客が数人「アゼルバイジャン?」とざわめいた。
爆豪の溜めていた爆発が、強制的に放出された。
溜めていた威力がそのまま爆豪の掌で爆発した。爆豪が「あ゛あ゛!?」と声を上げて体勢を崩した。上空でバランスを失う。
野獣先輩は落下してくる爆豪を見た。
「そして天は鳴き、大地は震えるだろうね」
フィールドが振動した。地面が細かく揺れ、着地しようとした爆豪が足をとられた。膝をついた。
野獣先輩がその瞬間に距離を詰めた。
「お前さぁ…」
爆豪の思考が一瞬止まった。ツッコミ待ち硬直。一秒間、爆豪が完全にフリーズした。
野獣先輩は爆豪の腕を掴んで、フィールドの外に向けた。
「こ↑こ↓」
爆豪が場外にワープした。
場外判定。
試合終了のブザーが鳴った。
フィールドの外に転移させられた爆豪は、しばらくその場に立っていた。
野獣先輩がフィールドから出てきた。
爆豪が振り返った。
「お前、アゼルバイジャンって何だ」
「はっきりわかんだね」
「わかんないのかよ! お前が言ったんだろ!」
「当たり前だよなぁ?」
「なんで当たり前なんだ!」
爆豪が叫んだ。叫んでから、深呼吸した。
「……「ンアッー!」って何だ」
「ないです」
「ないって何が!」
「多少はね?」
「多少で済む話じゃないだろ!」
爆豪が最終的に舌打ちして歩き去った。
その後ろ姿を見ながら、切島が野獣先輩の隣に来た。
「……勝ったんすね」
「やったぜ。」
「かっけぇ……なのかこれ」
-
プレゼントマイクは今日、本当に死ぬかもしれないと思っていた。
騎馬戦でギリギリ耐えたのに、一対一トーナメントが始まった途端に第一試合からこれだ。
「いいよ!こいよ!胸にかけて!胸に!」
(知ってる)
「ンアッー!」
(知ってる!!!)
「だいぶ溜まってんじゃんアゼルバイジャン」
(知ってる知ってる知ってる)
「そして天は鳴き、大地は震えるだろうね」
(あのシーンのやつ!!!)
プレゼントマイクはマイクを持ちながら、顔が引きつっていた。実況しなければならない。
「い、いやぁ~! 野獣選手、独自の語録個性で爆豪くんを翻弄! 「だいぶ溜まってんじゃんアゼルバイジャン」という語録で爆豪くんの溜め攻撃を強制放出! これは……これは……」
プレゼントマイクの声が微妙に震えた。
隣で相澤がメモを取っている。
「……ショータ」
「なんだ」
「お前さっきから何回メモした」
「関係ない」
「絶対関係あるだろ! 何書いてんの!」
「語録の効果記録だ。教師として把握しておく必要がある」
プレゼントマイクは相澤のメモを横目で見た。
びっしりと語録と効果が書き込まれていた。ところどころに「(!)」というマークがついていた。
相澤が「(!)」をつけるのは、よほど驚いたときだ。
「ショータ、何個「(!)」ついてる」
「……七個だ」
「今日だけで七個!?」
「実況しろ」
プレゼントマイクはマイクを向き直した。
モニターの中で野獣先輩が「やったぜ。」と言っている。
「……や、やったぜ! 野獣選手、見事一回戦突破!!」
マイクを通さない声で、プレゼントマイクはぼそりと言った。
「……こいつ、どこまでやるんだ……」
二回戦の相手は上鳴電気だった。
上鳴が「俺で良かった……でも、野獣先輩さん相手は厳しいな……」と正直に言っていた。
フィールドに向かい合って立った。上鳴が苦笑いしている。
「野獣先輩さん、よろしくお願いします。手加減はしないっすよ?」
「おっ大丈夫か大丈夫か?」
「俺が心配されてる!?」
開始の合図が出た。
上鳴が即座に全方向への放電を展開した。広範囲の電撃だ。逃げ場がなくなる。
「やべぇよやべぇよ」
危機察知で回避ルートが見えた。地面を転がりながら電撃をかいくぐった。
「す、すごいっすね回避力! でも——まだあります!」
上鳴が再び放電した。今度はより広い範囲に。
「カスが効かねぇんだよ」
電撃が野獣先輩に直撃した。が——ダメージがない。無敵フィールドが展開された。
「えっ」
上鳴が目を丸くした。
「電撃効かない個性じゃないですよね? さっき確認したんですけど……」
「ないです」
「じゃあなんで!」
「多少はね?」
「多少じゃない!!」
上鳴が出力を最大にした。スタジアム全体に影響が出るほどの電撃だ。周囲の機材が一時的に誤作動する。
野獣先輩は電撃を受けながら、真っすぐ歩いた。無敵フィールドが続いている間に距離を詰める。
そして上鳴の目の前に立った。
「お前どう?」
上鳴が「ハ?」という顔をした。
「どうって……」
「お前どう?」
上鳴が固まった。試合中に「調子どう?」と聞かれた経験がないらしく、完全に思考が止まった。
野獣先輩は上鳴の肩を軽く押した。
上鳴がフィールドの外に出た。
場外判定。
上鳴がしばらく地面に座っていた。
「……なんで負けたのか説明できない……」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前じゃないでしょ!!」
準決勝の相手は轟焦凍だった。
トーナメント表を見た瞬間、切島が「うわぁ……」と言った。二回目だった。
「野獣先輩さん、轟くん強いっすよ。左半身の炎と右半身の氷を使い分けて、しかも今日は右しか使ってない……」
「ピトン…ポチョン…」
「明鏡止水でいくってこと?」
「当たり前だよなぁ?」
「……なんか勝てそうな気がしてきた!」
切島が謎の確信を持ち始めた。
フィールドで向かい合った。
轟は無表情だ。今日ずっと左の炎を使っていない。氷だけで戦っている。
「野獣先輩」
轟が珍しく先に話しかけてきた。
「今日の試合、全部見てた。語録の効果、大体把握した。氷には「おまたせアイスティー」の冷却が干渉してくる。転移は「こ↑こ↓」。回避は「やべぇよやべぇよ」。無敵は「カスが効かねぇんだよ」」
轟が淡々と並べた。
「だから、氷を使わない」
左半身から炎が出た。
今日初めて轟が左側を使った。
スタジアムがざわめいた。
「行くぞ」
「いいよ!こいよ!」
轟の炎が迫ってきた。
野獣先輩は正面から受けた。
「痛いですね…これは痛い」
カウンター発動。炎のダメージが跳ね返った。轟が熱波を受けて後退した。
「……炎もカウンターできるのか」
「ありますあります」
轟が氷に切り替えた。右半身から大量の氷が広がってくる。フィールド全体が凍り始める。
「おまたせ!アイスティーしかなかったけどいいかな?」
野獣先輩の冷却フィールドが展開された。轟の氷と野獣先輩の冷却フィールドが干渉して、氷の広がりが止まった。
「……氷で氷を止める」
轟が眉を動かした。今日何度目かの表情変化だ。
「Foo↑気持ちぃ~」
野獣先輩の全身に力が湧き上がった。高揚状態バフが発動した。動きが軽くなった。
轟が炎と氷を同時に使った。左から炎、右から氷。二方向からの同時攻撃だ。
「ファッ!?」
時間が止まった。コンマ三秒。
その間に野獣先輩は二方向の中間を素通りした。
時間が戻った。轟の炎と氷が互いに干渉して中和した。
「……今、時間が止まったか」
「当たり前だよなぁ?」
轟が短く考えた。
「俺に勝ちたいなら、炎を止めてみせろ」
轟の左半身から、これまでより大きな炎が出た。フィールドの温度が上昇する。
野獣先輩は炎を見た。
「まずうちさぁ、屋上…あんだけど、焼いてかない?」
スタジアムが完全に静まり返った。
轟が止まった。
「……今、焼くと言ったか」
「ないです」
「ないとはどういう意味だ」
「多少はね?」
轟がしばらく沈黙した。それから言った。
「……よくわからないが、強い」
轟が炎の出力を最大にした。前面全体を覆う炎の壁だ。
野獣先輩は炎の壁を見た。
「菅野美穂」
神ノ歩が発動した。足裏の感覚が極限まで研ぎ澄まされた。
野獣先輩は炎の壁の下、地面すれすれを走った。
炎は上方向に燃え広がる性質がある。地面ぎりぎりには炎の薄い部分がある。菅野美穂で研ぎ澄まされた足裏が、その隙間を探し当てた。
炎の壁を潜り抜けた。
轟の目の前に出た。
「お前さぁ…」
轟の思考が一瞬止まった。
野獣先輩は轟の両肩を掴んだ。
「こ↑こ↓」
轟が場外にワープした。
試合終了のブザーが鳴った。
スタジアムが沸いた。
フィールドから出てきた轟が野獣先輩に近づいた。
無表情だ。でも今日の試合で何度か表情が動いたので、轟にとってもこの試合が特別なものだったことは分かる。
「一つ聞いていいか」
「入って、どうぞ!」
轟が少し止まった。それから続けた。
「「まずうちさぁ屋上あんだけど焼いてかない?」というのは、何かの意味があるのか」
野獣先輩は轟を見た。
「ないです」
「ないのか」
「当たり前だよなぁ?」
轟がしばらく考えた。
「……わかった」
轟が歩いていった。
何が分かったのかは謎だが、轟が納得した顔をしていたので問題ないだろう、と野獣先輩は思った。
切島が飛んできた。
「野獣先輩さん! 決勝行くんすか!!」
「やりますねぇ!」
「っしゃああ!!!」
決勝の相手は緑谷出久だった。
トーナメント表を見た野獣先輩は、内心で少し驚いた。緑谷が決勝まで来た。
緑谷は今日ずっと個性を使っていない。一度も使っていないのに決勝まで来た。頭と体だけで戦ってきた。
控え室で緑谷が野獣先輩のところに来た。
「野獣先輩さんと決勝……正直、すごく嬉しいです」
「いいねぇー」
「でも、手は抜きませんよ」
「当たり前だよなぁ?」
「……はい」
緑谷が笑った。いい顔だ。
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フィールドで向かい合った。
緑谷は構えている。野獣先輩の語録を一番理解しているのは緑谷だ。ノートを作っているくらいだから、対策も一番考えている。
「野獣先輩さん」
「お、そうだな」
「今日のここまでの語録、全部見てました。「ンアッー!」が時間停止、「だいぶ溜まってんじゃんアゼルバイジャン」が強制放出、「そして天は鳴き大地は震えるだろうね」が震動、「菅野美穂」が足場感覚強化。全部ノートに追記しました」
「はっきりわかんだね」
「把握してます。だから——」
緑谷がこちらを見た。
「全部わかった上で、それでも全力でぶつかります」
開始の合図が出た。
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緑谷が走ってきた。
個性を使っていないのに速い。体だけで詰めてくる。
「やべぇよやべぇよ」
危機察知が発動した。回避ルートが見えた。右に跳ぶ。
緑谷が軌道を変えた。
読んでいる。
「こ↑こ↓」
緑谷の前方にワープしようとした。が——緑谷が転移先を予測して先回りした。
「語録ノートのおかげで転移先も予測できます!」
「うせやろ?」
「うせじゃないです!」
緑谷が野獣先輩の腕を掴んだ。そのまま投げようとした。
「お前さぁ…」
緑谷の思考が止まった。硬直した緑谷の手が、一瞬緩んだ。
野獣先輩は逃げた。
「それも対策しておくべきでした……!」
緑谷が悔しそうな顔をした。それでも追いかけてくる。止まらない。
「野獣先輩さん、一つだけ確認してもいいですか!」
「ないです」
「試合中ですが! 「お前さぁ…」って、僕以外の人間にも毎回効くんですか?」
野獣先輩は走りながら答えた。
「当たり前だよなぁ?」
「じゃあ自分に使ったら?」
野獣先輩が止まった。
自分に「お前さぁ…」を使ったら。
自分の思考が止まる?
「ないです」
「試したことないんですね。じゃあ——」
緑谷が跳んだ。上から来る。
「せめて一回! 自分に使ってみてください!」
「なんで?」
緑谷の動きが止まった。
「なんで?」が緑谷に直撃した。緑谷が空中で動きを失って、そのまま地面に落ちた。
ドスン、という音がした。
「……今の「なんで?」は質問じゃなくて個性の発動ですか……」
「ありますあります」
「どっちもあるんですか!?」
緑谷が立ち上がった。膝が少し擦れている。
「野獣先輩さん、最後に一個だけ聞いていいですか」
「入って、どうぞ!」
「……もう質問は入れません。行きます」
緑谷が走った。
今度は語録の合間を狙って来る。語録を使った直後の一瞬の隙を突く作戦だ。観察眼がいい。
野獣先輩は走りながら考えた。
緑谷は語録を全部把握している。使った直後に来る。ならば——
「He didn’t…he begin…」
スタジアムが静まり返った。
緑谷が止まった。
「……今の語録、ノートにないです」
「ありますあります」
「なんの効果ですか!」
効果は——野獣先輩自身もまだ完全には把握していない語録だった。
発動した感覚はある。何かが発動した。でも何が発動したかが分からない。
「これもうわかんねぇな」
「本人もわかんないの!?」
緑谷がノートを出した。試合中なのにノートを出した。
「メモしていいですか」
「いいよ!こいよ!」
「メモしながら試合します!」
緑谷がノートに「He didn’t…he begin…→効果不明(本人も)」と書きながら、片手で野獣先輩を追いかけてきた。
そのまましばらく逃げと追いかけが続いた。
最終的に野獣先輩が「こ↑こ↓」で緑谷を場外に転移させようとしたとき、緑谷が踏ん張った。
ノートを鞄に戻して、両足で地面を踏みしめた。
「今日の試合で、個性を使う覚悟ができました」
緑谷の右手に、微かな光が灯った。
「いくら転移させようとしても、全力で戻ってきます」
「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!」
「僕もです!」
二人が同時に動いた。
野獣先輩が「こ↑こ↓」で転移と同時に「お前さぁ…」を発動した。緑谷の思考が止まる。
が——緑谷の右手がデトロイトスマッシュを放った。無意識の反射だ。思考が止まっていても、体が動いた。
直撃した。
野獣先輩が吹っ飛んだ。フィールドの端まで飛んだ。
ぎりぎりフィールド内だった。
野獣先輩は立ち上がった。全身が痛い。
「痛いですね…これは痛い」
カウンター発動。ダメージが緑谷に跳ね返った。緑谷が膝をついた。
二人が同時に立ち上がった。
どちらも限界に近い。
「野獣先輩さん」
「お、そうだな」
「今日の試合、楽しかったです」
「いいゾ〜これ」
緑谷が笑った。
そして緑谷が右手にデトロイトスマッシュを溜め始めた。全力だ。
野獣先輩はそれを見た。
「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」
緑谷が、一瞬、動きを止めた。
コンマ三秒。
その隙に野獣先輩が「こ↑こ↓」で緑谷を——転移させようとした。
が、間に合わなかった。デトロイトスマッシュが放たれた。
直撃した。
野獣先輩が場外に吹っ飛んだ。
試合終了。
緑谷の優勝が決まった。
救護エリアで、二人が並んで手当てを受けていた。
緑谷の右手に包帯が巻かれている。野獣先輩は全身に打撲がある。
「……すみません、最後はほぼ無意識で」
「ないです」
「謝罪は受け取ってください!」
「当たり前だよなぁ?」
「当たり前じゃないと思うんですけど!」
緑谷がため息をついた。それから少し笑った。
「野獣先輩さんと戦って、一つ分かりました」
「お、そうだな」
「語録は……まだ全部は解読できません」
「はっきりわかんだね」
「これからも解読続けます」
「いいゾ〜これ」
緑谷が嬉しそうな顔をした。
野獣先輩は包帯を巻かれながら、今日の試合を振り返った。
準優勝か、と思った。
悪くない。
「やったぜ。」
「準優勝で「やったぜ」なんですね」
「当たり前だよなぁ?」
「……まあ、当たり前かもしれないですね」
今回は緑谷が納得した顔をしていた。
全競技が終わり、スタジアムの照明が落ち始めた頃。
プレゼントマイクが放送席の椅子に深く沈み込んでいた。
隣で相澤がメモ帳を閉じた。
「……何語録、今日」
「二十三種類だ」
「二十三!!」
「俺のメモに二十三種類の語録と効果が記録された。うち七種類は今日初めて確認したものだ」
「よく記録できたな……俺なんか実況しながら死にかけてたぞ……」
相澤がメモ帳をしまった。
「……ちなみに、「ンアッー!」で時間が止まった理由は分析できていない」
「俺も分からん」
「本人も分からないと言っていた」
「分からないことが三人揃ったな」
二人の間に沈黙が流れた。
プレゼントマイクが天井を見上げた。
「ショータ」
「なんだ」
「「まずうちさぁ屋上あんだけど焼いてかない?」って轟くんに言ったとき、轟くんなんて返した?」
「「……よくわからないが、強い」だ」
「それ正解すぎるだろ……」
プレゼントマイクが力なく笑った。
相澤がメモ帳を再び開いた。
「お前、来週の授業でこの語録を全部使った演習を考えてみろ」
「無理に決まってんだろ!!」
職員室の明かりが、しばらく消えなかった。
ファッ!?