【完結】ヒロアカレ⚪︎プ!語録使いになった先輩   作:まだら模様

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爆砕かけますね!
行くゾォぁぉおー
キャラ崩壊、ストーリー崩壊もあります。
ご注意ください。


職業体験編
第7話「24歳、学生です(職業体験・指名)」


 

 

 体育祭が終わった翌週、職業体験の指名通知が届いた。

 

 ヒーロー事務所からの指名だ。体育祭での活躍を見てスカウトしたい、という形式の実地研修だ。

 

 担任の相澤が封筒を配った。

 

「開けろ」

 

 クラスが一斉に封筒を開けた。

 

 野獣先輩は自分の封筒を開けた。

 

 中に複数の指名票が入っていた。

 

 何枚か、と思って数えた。

 

 十七枚あった。

 

 野獣先輩は十七枚の指名票を確認した。知っている事務所もある。知らない事務所もある。

 

「……野獣、何枚来た」

 

 相澤が聞いた。珍しく自分から聞いてきた。

 

「24歳、学生です」

 

「それは枚数じゃない。何枚だ」

 

 野獣先輩は指名票をテーブルに並べた。十七枚が横一列に並んだ。

 

 相澤が目を細めた。

 

「……十七か」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「当たり前ではない」

 

 クラスがざわついた。緑谷が「十七枚……!」と驚いていた。切島が「さすが野獣先輩さん!」と言っていた。爆豪が「あ゛?」という顔をしていた。

 

 

 

 放課後、野獣先輩は十七枚の指名票をテーブルに並べて眺めていた。

 

 選ぶ基準が難しい。

 

 有名な事務所が複数ある。大手のヒーロー事務所、個性特化型の小規模事務所、救助専門の事務所。それぞれに特色がある。

 

 緑谷が隣に来た。

 

「野獣先輩さん、もう選びましたか?」

 

「これもうわかんねぇな」

 

「十七枚から選ぶのは確かに難しいですよね……僕は今日中に決めようと思ってるんですけど」

 

「お前どう?」

 

「え、僕ですか? 僕はグラントリノさんのところに……って、野獣先輩さんに聞いてどうするんですか」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「当たり前じゃないと思うんですが」

 

 緑谷がため息をついた。それでもノートを出して「野獣先輩さんの個性に合う事務所の条件」を書き始めた。

 

 緑谷が書いた条件は三つだった。

 

「一、語録による遠距離操作が活かせる環境。二、個性の発声制約を理解してくれる指導者。三、できれば野獣先輩さんの語録の幅を広げられる実戦経験が積める場所」

 

 野獣先輩はそのリストを見た。

 

「はっきりわかんだね」

 

「これ、当たってますか?」

 

「いいゾ〜これ」

 

「よかった。だとすると——」

 

 緑谷が指名票の中から数枚を選び出した。

 

「この三枚が条件に合ってると思います。あとは野獣先輩さんが決めてください」

 

 野獣先輩は三枚を見た。

 

 一枚に目が止まった。

 

 事務所名:「ガンヘッド事務所」

 

 ガンヘッド——バリー・ライト。個性「ガン」。射撃特化型のプロヒーローだ。中堅クラスだが実力は確かだ。

 

 もう一枚。「ミルコ事務所」

 

 もう一枚。小さな事務所だ。名前を野獣先輩は知らなかった。

 

「これ、この小さいやつ」

 

 と言いたかったが、語録しか出ない。

 

 野獣先輩は小さい事務所の指名票を一枚取って、それを緑谷に見せた。

 

「こ↑こ↓」

 

「……この事務所に決めたってこと?」

 

「お、そうだな」

 

 緑谷がその事務所の名前を確認した。

 

「「ロックタワー事務所」……知らないですね、僕。でも指名してきたってことは、体育祭を見てたってことですよね」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「行ってみてください。何かあったら教えてください——と言いたいですが、語録でしか返ってこないか……」

 

「ありますあります」

 

「何が?」

 

 野獣先輩は指名票を鞄にしまった。

 

 ロックタワー事務所は都内の中規模ビルの一角にあった。

 

 入口を入ると、受付の人物が野獣先輩を見た。

 

「野獣先輩くんですね。所長が待ってます」

 

 通された部屋に、男性が一人いた。

 

 年齢は四十代半ばくらい。短く刈り込んだ白髪。細い目。体格は大きくないが、体の動きに無駄がない。ヒーロー名は「ロックタワー」、個性は「壁」——自分の体を建材並みの硬度にする防御特化型のプロヒーローだ。

 

「来たか。座れ」

 

 野獣先輩は椅子に座った。

 

「体育祭、見てた。語録個性だな」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「うちに来た理由は?」

 

 野獣先輩は少し間を置いた。正直に言えば、十七枚の中から緑谷が絞った三枚の中から直感で選んだだけだ。でもそれは語録では言えない。

 

「ありますあります」

 

「何が?」

 

「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」

 

 ロックタワーがしばらく野獣先輩を見た。

 

 それから短く言った。

 

「……まあいい。うちに来たからには実際に動いてもらう。語録のことは分かった。発声できれば発動する、発声できなければ発動しない。だから俺が指示するときは手信号で補足する。問題あるか」

 

「ないです」

 

「ないとはどういう意味だ」

 

「多少はね?」

 

「多少は問題があるのか、それとも多少は問題ないのか」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ロックタワーが天井を見上げた。

 

 五秒後、前を向いた。

 

「……語録でしか返ってこないな」

 

「はっきりわかんだね」

 

「分かった。明日から実務に入る。今日は事務所の設備確認だけしていけ」

 

 ロックタワーが立ち上がった。

 

 野獣先輩もつられて立ち上がった。

 

 ロックタワーが廊下を歩きながら、ぼそりと言った。

 

「……語録、全部で何種類ある?」

 

「だいぶ溜まってんじゃんアゼルバイジャン」

 

 ロックタワーが振り返った。

 

「それは比喩か?」

 

「ありますあります」

 

「溜まってるほどある、ということか」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ロックタワーがまた前を向いた。

 

 歩きながら小声で言った。

 

「……扱いにくい」

 

「ないです」

 

「聞こえてたのか」

 

 野獣先輩は答えなかった。

 

 

 

 翌日から、ロックタワーと二人でパトロールに出た。

 

 都内の繁華街エリアだ。ヒーロー事務所の担当区域を巡回しながら、トラブルがあれば対応する。

 

 歩きながら、ロックタワーが話した。

 

「パトロール中は俺の指示に従え。独断で動くな。発動タイミングは俺が手信号で合図する。いいか」

 

「お、そうだな」

 

「よし」

 

 二人で歩いた。

 

 商店街を抜けたとき、前方で揉め事が起きていた。複数の人物が取り囲んでいる。

 

 ロックタワーが前に出た。野獣先輩もついていく。

 

「何してんすか」

 

 野獣先輩が言った瞬間、取り囲んでいた人物の一人の個性発動がキャンセルされた。

 

 ロックタワーが振り返った。

 

「……今のは俺の合図より先に動いたな」

 

「ないです」

 

「ないとはどういう意味だ」

 

「やべぇよやべぇよ」

 

「危ないと思ったから先に動いたということか」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ロックタワーが短く息を吐いた。

 

「……まあいい。結果的に正解だった。だが次からは合図を待て」

 

「おかのした」

 

「了解ということか」

 

「お、そうだな」

 

 ロックタワーが前を向いた。

 

 揉め事の相手を制圧しながら、ロックタワーは野獣先輩の動きを横目で確認していた。

 

 状況判断は速い。発動のタイミングは的確だ。語録がランダムに見えて、実際の効果は状況に合っている。

 

 扱いにくいが——使える。

 

 

 

 三日目の昼過ぎ、パトロール中に大きな騒ぎが起きた。

 

 銀行前で個性を使ったひったくりが発生した。逃走中のヴィランが人混みの中に紛れ込んでいる。

 

 ロックタワーが走りながら手信号を出した。「索敵」の合図だ。

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

 野獣先輩の索敵が展開された。人混みの中で移動しているヴィランの位置が直感で分かる。

 

 右の路地に入った。速い。

 

「こ↑こ↓」

 

 野獣先輩が指差した先——路地の出口にヴィランがワープした。

 

 出口で待っていたロックタワーが、壁化した体でヴィランを受け止めた。

 

「終わりだ」

 

 ヴィランが壁に激突して止まった。

 

 制圧完了。

 

 ロックタワーが野獣先輩を見た。

 

「転移で逃走経路を塞いだな」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「息が合ってきた」

 

「いいゾ〜これ」

 

 ロックタワーが短くうなずいた。

 

 その後、事情聴取と書類処理が終わって事務所に戻る途中、ロックタワーが歩きながら言った。

 

「一つ聞いていいか」

 

「入って、どうぞ!」

 

「……語録の中に「24歳、学生です」というものがあるか」

 

 野獣先輩が止まった。

 

 ロックタワーも止まった。

 

「……あるか、ないか」

 

「ありますあります」

 

 ロックタワーが少しの間、黙った。

 

 空が曇っていた。風が吹いた。

 

「俺は、昔インターネットのアーカイブを漁るのが趣味だった」

 

 ロックタワーが静かに言った。

 

「20年以上前の話だ。若い頃に、100年以上前の古いネットの動画データを大量に見た。その中に——」

 

「ないです」

 

 野獣先輩が言った。

 

 ロックタワーが振り返った。

 

「……ないのか」

 

「多少はね?」

 

 ロックタワーが数秒、野獣先輩の顔を見た。

 

 それから短く言った。

 

「……そうか」

 

 それだけ言って、歩き始めた。

 

 野獣先輩もついていった。

 

 ロックタワーが歩きながら、独り言のように言った。

 

「……「24歳、学生です」という語録が出たとき、何が発動する?」

 

「王道を征く」

 

「それは答えになっていない」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

 ロックタワーが小さく笑った。

 

 野獣先輩はその背中を見た。

 

 笑った。

 

 この人も知っている。二十年前にアーカイブで見た。でもそれ以上は追及しない。追及しないが——知っている同士の空気が、確かにそこにあった。

 

「じゃあ、これだけ教えてくれ」

 

 ロックタワーが前を向いたまま言った。

 

「語録は、全部本当のことか」

 

 野獣先輩は少し考えた。

 

「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」

 

 ロックタワーが歩きながら、短くうなずいた。

 

「……わかった」

 

 それきり二人は黙って事務所に向かった。

 

 夕暮れの街に、二人の足音だけが響いた。

 

 

 

 職業体験四日目、ロックタワーは事務所のデスクで報告書を書きながら、ここ数日の野獣先輩の動きを整理していた。

 

 語録個性「ワード」の特性をまとめると:

 

 発声したものが全て個性として発動するわけではなく、意図と状況によって異なる語録が選ばれる。発動語録の種類は把握しきれていないが、少なくとも二十種類以上は確認した。

 

 問題は、語録が会話としても機能することだ。

 

 「当たり前だよなぁ?」は同意を求める言葉としても機能するが、同時に観衆同意バフとしても機能する。「こ↑こ↓」は転移として機能するが、指差し確認の動作とも取れる。語録と日常発話の境界が曖昧で、本人が意図しているのかしていないのか外側からは判断できない。

 

 そしてもう一つ。

 

 自分が「24歳、学生です」という語録について聞いたとき、野獣先輩の反応がわずかに変わった。

 

 普段の「ないです」「当たり前だよなぁ?」の流し方と、微妙に違った。

 

 止まった。一瞬だけ。

 

 それだけで十分だ、とロックタワーは思った。

 

 それ以上は聞かない。プロとして関係ない。

 

 でも——

 

 ロックタワーはペンを置いた。

 

 あの動画を最初に見たのは二十年以上前だ。当時はまさかその当事者と同じ時代を生きることになるとは思っていなかった。

 

 名前が同じなのは偶然かもしれない。でも語録が一致している。数字も一致している。

 

 偶然にしては揃いすぎている。

 

 ロックタワーは報告書の続きを書いた。

 

 「野獣先輩——個性の応用範囲が広い。状況判断が速く、索敵と転移の組み合わせは即戦力として機能している。コミュニケーション上の制約はあるが、動きで補える。将来性:高い」

 

 ペンを置いた。

 

 それだけ書いて、あとは何も書かなかった。

 

-

 

 職業体験最終日、事務所を出る前にロックタワーが声をかけてきた。

 

「今週、よく動いた」

 

「ありがとナス!」

 

 ロックタワーが止まった。

 

「……今のは感謝の言葉か」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「そうか」

 

 ロックタワーが手を差し出した。

 

 握手だ。

 

 野獣先輩は手を握った。

 

「うちに来てよかった」

 

「いいゾ〜これ」

 

「そうか」

 

 短い別れだった。

 

 事務所を出て、野獣先輩は少し歩いてから振り返った。

 

 ロックタワーが事務所の入口から見ていた。目が合った。

 

「また来いよ」という顔ではなかった。「しっかりやれ」という顔だった。

 

 野獣先輩は前を向いた。

 

「やったぜ。」

 

 誰もいない道に向かって呟いた。

 

 風が吹いた。

 

 

 

 職業体験が終わり、クラスに戻った翌日のHR。

 

 相澤が「各自職業体験の報告をしろ」と言って、一人ずつ発表が始まった。

 

 緑谷が「グラントリノさんのところでスピードの使い方を学びました」と報告した。

 

 飯田が「直接ヒーロー活動に参加させてもらい——」と言いかけて止まった。飯田の顔が少し暗い。何かあったのかもしれない。

 

 野獣先輩の番が来た。

 

「報告しろ」

 

「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」

 

 クラスが沈黙した。

 

「……もう少し具体的に」

 

「TARGET…CAPTURED…BODY SENSOR…」

 

「索敵を実戦で使ったということか」

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「他には」

 

「王道を征く」

 

「……何が王道なんだ」

 

「ありますあります」

 

 相澤が短く息を吐いた。

 

「まあいい。動きで理解できた。次」

 

 切島が「どうでした実際?」と後から小声で聞いてきた。

 

「24歳、学生です」

 

「それ年齢ですか? 知ってますよ?」

 

「ないです」

 

「ないって……」

 

 切島が首を傾げた。

 

 野獣先輩は窓の外を見た。

 

 職業体験で分かったことが一つある。

 

 この世界に、語録を「知っている」人間が、思ったより多くいる。

 

 アーカイブを漁った人間、古いネット文化に詳しい人間、たまたま辿り着いた人間。それぞれが異なる経路で、同じ場所に辿り着いている。

 

 みんな黙っている。黙っているが、知っている。

 

「これもうわかんねぇな」

 

 独り言のように呟いた。

 

 切島が「何がですか?」と聞いた。

 

「当たり前だよなぁ?」

 

「当たり前じゃないっす、全然」

 

 切島がため息をついた。

 

 野獣先輩はそのため息を聞きながら、少し笑った。

 

 たぶん、切島には一生分からないことだ。

 

 それでいい、と思った。

 

 翌日、相澤のデスクに一通の書類が届いた。

 

 差出人:ロックタワー事務所。

 

 相澤は封を開けた。

 

 職業体験生の評価書だ。

 

 野獣先輩の欄を見た。

 

 「個性の実戦応用:S評価。判断速度:A評価。コミュニケーション:評価不能(語録のみ)。将来性:高い。特記事項——」

 

 特記事項の欄に、一行だけ書いてあった。

 

 「「しかし、修行やってます。いつの日か世界を救うと信じて。」この語録は本物だと思う」

 

 相澤はその一行を見た。

 

 しばらく見た。

 

 それから評価書を閉じて、引き出しにしまった。

 

「ま、多少はね?」

 

 相澤が一人で呟いた。

 

 職員室に他の教師はいなかった。

 

 誰も聞いていなかった。

 

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