古代ギリシャ奮闘 アテナに転生したら処女神ではなく、童貞神でした。   作:アテナくん

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■前書き
お待たせしました!2話目になります!


オリュンポス 神様チュートリアル編
第1話 神造兵装



4節

子は現実に咽び泣く


 

 

 皆さん、如何お過ごしでしょうか。僕は割と異世界の生活に馴染んでいます。

 鷲に攫われましたが、よーく考えてみたら流暢に人語で喋ってたんだよね。それでね、よく分からないまま僕は運ばれたってワケ。

 

 僕が目を覚ました時には鷲がいなくなってたよ? 代わりに目の前には筋肉隆々の石像みたいに肌が白いおっさんと超美人な銀髪のお姉さんが立っていたんだ。マッスルな白いおじさんは何処か見た事あるような風貌をしていたけど、僕が落ち着いた時に名乗ってくれたよ。

 

 

 

「余はゼウス。天空を統べし神々の王である」

「私はヘラ。そこのゼウスの妻よ。よろしくね、可愛いボウヤ?」

 

 

 

 名乗った時、見た目や声で分かってしまったよ。

 

「(ギリシャ……?)」

 

 ──────古代ギリシャ。

 それもまさかの神統記やアポロードロス等の神話世界に転生してしまったが、ここはただのギリシャ神話じゃない。あの機械じみた部屋の中と石像のような白い肌で思い出したよ。

 このゼウスは僕が夢中になっていた型月作品の内のひとつに登場するキャラクターの一人。

 

 

 

 ───Fate/Grand Order。略して『FGO』。

 

 

 

 その作品に登場するキャラクターだ。

 

 ……よりにもよって型月!? 死徒や真祖、抑止力とかいうよく分からんモノが存在するゲームですよね!?

 

 やべえわ。型月のギリシャ神話とか一番あかんでしょ。セファールやテュフォンとかいう魔境がいる神代かあ。うーん……。

 

 物理法則なんて通じなさそうな無法と逸脱者が罷り通す魔境だし、男女両方に貞操の危機が有り得る神代の世界はホンマにあかん。

 

 それにあれでしょ? ポセイドンが怒って呪いを付与した人間が牛と致すとかいうトチ狂ったエピソードがギリシャ神話にあるんでしょ? 後は恋愛で嫉妬した神様に呪い殺されたり怪物を遣わせて殺したりとか。

 

 

 

 ……うん。オワタ。

 

 

 

 どうせならウルクに転生とかが良かったな。

 でも僕自身、雑種どころか何も取り柄のない凡人だしなあ。英雄王に「貴様は雑種以下だ。疾く失せよ」的な感じで処される可能性ありそうから此処で良かったのかな?

 

 って思ったけど、やっぱマシじゃねえんだわ。

 

「(ここで後悔しても駄目だな。頑張らねば)」

 

 それよりも、だ。

 前世が童貞だった僕には刺激が強すぎる上に情報処理し切れなくてミルク飲んでいる途中で疲弊して気を失ってしまったんだけど、眠る間際にゼウスのじっちゃんが僕に名前をつけてくれたんだよね。

 

 

「───今日から君の名はアテナだ」

 

 

 どうやら僕はギリシャ神話の中でも有名なヒロイン系ヴァージン女神のアテナに転生してしまったようだ。

 

 ……その前にひとつ言わせてくれ。

 

 

 

 

 

 

僕、男なんだけど!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 


5節

アテナという神様について


 

 皆さん。改めてこんにちは、アテナです。

 あの強烈すぎる二柱との邂逅が終わって年と月日が経ち、僕は成人になりました。

 

 本当に色々と濃すぎるよ。神々の皆さん。

 お父様が勝手に真体を起動させて堂々と上から温泉を覗き見してお母さんにボコされたり、男か女どちらが快楽を感じやすいかでお父様とお母さんが喧嘩したり、アポロンに求婚されたから成人と伝えたら勝手に求婚破棄されたり等々、とんでもねー奴らだぜ。

 

 出来事が濃すぎてスピリタスでも飲んでいるような気分になりました。呑んだ事無いけどね。

 

「しかし、異世界転生先が神様とは、ね……。お父様に名付けられてから違和感でしかない」

 

 

 

 ───今日から君の名はアテナだ。

 

 

 

 あの時、僕に与えてくれた名前が今でも脳に焼き付かれる。

 

「これヤバいなあ。下手すればゼウスのやらかしで二次被害に遭う危険性が十分にあり得るよねえ」

 

 

 

 アテナ。

 

 

 

 ゼウスとメーティスの間に生まれた女神。

 オリュンポス十二神の中でも特に有名で、ギリシャ全土でも純潔の女神や戦女神として古くから語られている他、なんと日本ではアニメやゲーム、ラノベで善性の正義の女神として描かれたり、なんなら武器のアイギスも登場している辺り、知名度の高い女神とも言える。

 確かだけど『知恵』『芸術』『工芸』を司り、ポセイドンとは都市を守る権限を賭けては何度も争ったという。また、ギガントマキアと呼ばれる戦いではシチリア島をぶん投げる脳筋プレイで巨人を圧し潰したのだが、時折この戦女神は本当に知恵を司っているのだろうかと疑ってしまう。

 

 しかし、本来であればゼウスとメーティスの間に産まれる筈だが、この世界ではゼウスとヘラの養子になっているのが謎だ。歴史にズレでも起きたのかな。

 

「元の母親はカリローエという名前らしいけど、なんか聞いた事あるんだよなあ」

 

 ……話を進めるよ?

 

 色々あって今の僕は人間辞めて戦の神に至った訳なんだけど、実は僕とは別にもう一柱の別の戦神がいるんだ。

 

 それが狂乱と破壊の側面を持つ戦の神。アレス。

 異聞帯ではアイテールに応じて真体ごと召喚されたあの赤いロボットだね。

 

「(こういうのもアレだが、アレスとは相性悪いんだよなー)」

 

 あるモノはありったけ使って本能のままに軍隊を殲滅する。戦力的に使える人をボンボン戦場に送り、個人や集団問わず見境無しに攻撃を罷り通すのがアレス流の戦作法(在り方)だ。

 大分端折ってしまうが、分かり易く例えると『数なんて関係ない! 強い奴は戦え! 弱い奴は4ね!』と言えばいいだろうか。本神曰く、群をも顧みないアグレッシブな戦争の在り方を示していた事から、人々からは『戦神アレス』ではなく『軍神アレス』として崇拝されたという。

 

 ちなみに僕の在り方だが、脳筋筋肉達磨のアレス君とは正反対です。

 

 前世ではRPG、アクション、アドベンチャー、シミュレーション、シューティング、パズル、音楽等の様々なゲームを嗜んでいてね。前世の娯楽を参考にした結果、(アテナ)という戦神は『スポーツマンシップに則った戦闘』を尊重した別側面の戦神として一生を貫き通す事にした。

 

 戦の神としては完璧すぎる在り方なんじゃないかと思っていたが、よく考えたら戦争や戦闘の神様ではなく、競争やスポーツを司る神様になっちゃうのでは?

 だけどお父様は「武を以て競い合う作法は下界に伝わっていないからその発想と在り方は素晴らしい!」と絶賛されるし、お母さんにはべた褒めされて頭を撫でられまくったから多分問題は無いと思うんだけどね。

 

 ん? ちなみにアレスとの仲はどうだって?

 

 ……。

 

 …………。

 

まじで最悪だよ、あいつゥ!

 

 身体の全身が筋肉で出来ているんじゃないかと思ってしまうほどに話が通じない!

 

「(ああ、もう!話し合うと割と善い奴なのに!今思い出すとイライラするなぁ!)」

 

 鍛錬目的で軽く戦おうとしただけなのに、神造兵装をお構いなく使うわ権能や宝具だって容赦なく発動してくる。

 あいつに何度か注意はしたんだよね。そしたらさ……。

 

 

 

 ───ちゃんとルール守ってくれないかなあ!?

 ───戦場に(ルール)があってたまるか!

 

 

 

 このように貫かしてくるし……、

 

 

 

 ───なら、少しは手加減しろよ!?

 ───うるせえ!生きるか死ぬかの戦場で手加減は侮辱と知れ!

 

 

 

 このように逆ギレされました。舐めてんのかコイツ。

 お父様がこの状況を初めから分かっていたのか、開始前に神殿内部の異界化を施してくれたお陰で周囲が吹き飛ばずに済んだ。だけどアレスはローマ神話を繋げると幼名みたいな感じだし、それに権能で性格が影響しているから馬鹿っぽい所があるのは仕方ないのかもしれない。

 

 早く火星に到達してマルスを名乗ってほしい。アレスは本当に反省してくれ。

 

 ま、まあ。アレスの話は此処までにしておこう。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 そんなアテナを常識ありそうな女神様だと思われていますよね?

 いやはや。違うんですよ、皆さん。この子も中々に神話らしいぶっ飛んだエピソードがあるんですよー。

 

 ゼウスと女神メーティスとの間に第二次で傲慢な息子が産まれるが、その子がゼウスの王の地位を簒奪するだろうと祖母ガイアが予言した。予言通りになってたまるものかとゼウスが危機感を募らせると、妊娠している女神メーティスに視線を向ける。

 

 さて、此処で問題です。ゼウスは女神メーティスに一体、何をしたのでしょうか?

 

 女神メーティスを『犯す』?

 

 確かに有り得そう。それに……うん。ゼウスだからなあ。

 白鳥や牡牛に化けて行為するエピソードもあるくらいだし、もしかしたら正解に近いかも?

 ───だけど、うん。不正解です。

 

 では、女神メーティスを『殺す』選択をした?

 

 これも有り得そうな答えなんだよなあ。

 だってさ。地位を簒奪するって祖母さんに言われたんだよ? 神話的にも話が進みそうで納得かもしれない。

 

 ───が。実はこれも不正解なんだ。

 

 

 ちなみに。

 

 正解は何と───、『喰らう』でした!

 

 

 

 ん? それは性的に喰らうだから前者が正解だろ───だって?

 

 確かに同性愛や異種姦、近親相姦などといった性的の物語が多いギリシャ神話であれば正解だと思うが、今回は珍しくも性的な内容ではない。

 

 なんと、ゼウスッ!

 女神メーティスを口からパクっと丸呑みする事でガイアの予言を断とうとしたのだッッ!

 

 ……うん。流石はGIRISYA。

 全知全能であれば封印やら何やら他に手段があるのではと思うのだが、神話なんて無法だし、物理法則なんて通じなさそうな世界だから正論を求めてはいけないよ?

 

 話を戻すね。

 女神メーティスを丸呑みすると、ゼウスは激しい頭痛を覚えたという。

 

 頭痛に我慢出来なかったゼウスは鍛冶神ヘファイストスを呼んで頭痛を治すように頼んだのだ。

 

 それは頭痛薬を持ってこいという頼み事か?

 または頭痛を治すヒーリング療法をしてほしいという頼み事か?

 

 ゼウスはこう言ったんだ。

 ───頭痛があまりにも酷いので、斧で頭をかち割ってくれと。

 

 うん。桃太郎かな? ああ、いや。そんなツッコミは要らないよね。

 

 そんなヘファイストスがゼウスの頭を斧でパッコーンとかち割ると、中からアテナが誕生したという。

 ───それも赤子ではなく、甲冑姿で成人の姿として。

 

 アテナが誕生した時、宇宙は静止したり陸と海が揺れ動き、太陽は軌道上で停止したそうな。

 これがアテナの誕生エピソードなのだが、流石はギリシャ神話といった所か。ぶっ飛びすぎててツッコミが追い付かない。

 

 いや、まあ。この宇宙やら陸海云々って話はアテナが産まれたのを神秘的に表現したかったんだろうけどね。多分だけど詩人の発想が古風なのもそうだが、現代より開拓されていなかったのも理由のひとつにあるんじゃないかと思っている。

 

 聖杯戦争って『半神』はギリ呼べて『神』や『神霊』は召喚出来ないという設定だった気がするから大丈夫だとは思うけど、例外まみれだからかなり心配ではある。主にFGOとか……。

 もし僕が偉業を作りまくって境界記録帯(サーヴァント)化した場合、イレギュラーで召喚されたらどうなんだろう。召喚の余波で太陽とか停まったりしませんよね?

 

 まあ、僕の古代ギリシャ神話生活は始まったばかりだし、サーヴァントになるのはまだまだ先の事だからこの話は置いておこう。

 

「(確かFGOにもアテナって名前だけ出てくるんだよね)」

 

 クリプター『キリシュタリア・ヴォーダイム』が担当する大西洋異聞帯でもアテナは機神として存在していたらしい。

 

 だが、名前のみ確認されただけ。

 何を思って機神群の内戦(オリュンピアマキア)に参加していたのか全然解からないのが現状。

 

「(……よく分からない事を考察するのはやめよう。頭が混乱しちゃう)」

 

 今も驚いちゃうよ。

 

 人間や亜人ではなく、まさかの神に転生なんて誰が想像出来るのだろうか。

 それもギリシャではとっても有名な神々───オリュンポス十二神の一柱『アテナ』に転生とはビックリだよ。

 

 更にそれだけではない。理解に苦しむ要素がまた一つあるんだ。

 

 

 

男なんだけどなあ(・・・・・・・・)……」

 

 

 

 そう。男なんですよね、僕。

 

 

 

 前世でお世話になった僕の約束された息子(エクスカリバー)が可愛らしく股間にぶら下がっていたのだ。今回もよろしく頼むよ、息子。時代が違うので今日から君をミネルヴァという名前にしよう。すまんなローマ神話。猥談を許してくれ。

 

 僕は下着を開けて息子に軽く挨拶し、ゆっくりと元に戻した。

 そして僕は起立して近くに置かれている大きな鏡で自分の姿を確認する。

 

「自分で言うのもアレだけどさあ……。とんでもない美形だよな。我ながら恐ろしい」

 

 まるで自然を彷彿とするかの如く緑色に靡くサラッサラな長髪。

 アテナの特徴の一つにオリーブの木もあるんだけど、多分そっちの色が近い。

 

 戦なんか怖くないと言わんばかりの好戦的な紅色の瞳。

 肌は白色に透けていて、シュッとした小さな鼻筋。

 

 腰下のキトンを開けると、染み一つ無い脚が露わになった。太腿部分は他の人からすれば目に毒だ。

 

「肌スッベスベやん……」

 

 腰回りは程よく肉が付いている為、歩く度にお尻や太腿の肉が揺れ動いてしまう。

 ギリシャ神話って同性愛が多いけどさ、この美しさは正直ドン引きしてるよ。ギリシャの美少年って顔面偏差値メッチャ高くないか? アネモネに転生した美少年の逸話を思い出したが、あの美の女神アフロディーテに愛される少年とか何者なんだろうか……。多少性癖歪んでもいいから一度拝んでみたいものだ。

 

「はぁ……。動きやすいのがギリシャの鎧の良い点だけど、容姿が整い過ぎているとヤバいなこれ……」

 

 まあ。この通り僕が懸念している点は唯一つ。

 ───性的に喰われる可能性があるという事だ。

 

 整っているとは言ったが、それは女性が好みそうな見た目の美少年ではない。

 男性が好みそうな美少年として整っている。

 

 うん。肌を晒せば間違いなく事案ですね。これ。

 というか公衆浴場行った時は本当に貞操の危機を実感したので、次から気を付けよう。

 

 ぶっちゃけ女性だったらウェルカム&アフターベッドインなんですけどね。

 多分女性相手だったら妬まれるだろうけど。

 

 と、まあ。自分が美少女系男の娘という事は分かって頂けただろう。

 

 後はね。これが一番の問題なんですよ……。

 

 アテナといえば、アルテミスやヘスティアに続く純潔の神だ。

 純潔に誓いを立てた女神は総じて『処女神』と呼ばれている。だからその純潔が表す部位は処女膜なんだろうなーってのは分かるよ?

 

 でもさあ。

 ───男性の純潔神って、何?

 

 性交経験に誓わないのが純潔神を意味するのであれば一つしかない。

 男性名義での称号はズバリッ!

 

童 貞 神 !

 

 ……。

 

 …………。

 

「いや、ダッッッサ!?」

 

 え、何? 一生僕の息子は大人の階段に昇れないの?

 男性の純潔に何の需要があるの? 僕の息子を守って何の意味があるの?

 これってアレだよね? ベッドの中で独り虚しく竿を握って妄想しながら慰めるだけの独身弱者男性が増え続けるだけだよね?

 

 僕を転生させた神様ってもしや性癖歪んでません?

 

絶対に駄目ですよ!

 

 それは暴挙というもの。野蛮な思想は我ら童貞が許しません。

 恋愛を夢見る乙女心100%な弱者男性の心を踏み躙らないでください!

 

ゴーン───。

ゴーン───。

 

 そんな時、正午をお知らせする鐘が鳴った。

 

『 12時です。12時です。昼食の必要な方は交流区のレストランまでお越しください。 』

 

 このオリュンポスにも各区に自治体が設けられていて、日本の時間でいう12時になると鐘でお知らせしてくれるんだ。

 丁度いい。今めっっちゃ落ち着かないんでね。此処はストレスを発散しよう。

 

 ……誰もいないよな?

 

 僕はベッドに腰を置き、下着を開ける。

 

「瞑想を極めれば最早握る必要性なんて無いね」

 

 こちとら30年間、極めに窮めし生粋のオナラー。

 身体は剣で出来ているなんて生温い。此処まで極めたら最早握る必要なんてない。

 

 

 

 電車から眺めると都市から畑へと切り替わる色鮮やかな世界。

 ───視覚(しかく)

 

 家を発つ際、何とも言えない枯れ木の匂い。

 ───嗅覚(きゅうかく)

 

 あれは一体何の鳴き声だろうと興味津々だったキジバトの歌。

 ───聴覚(ちょうかく)

 

 忘れられないほど美味しかった、お母さん手作り肉じゃがの味。

 ───味覚(みかく)

 

 散歩中に感じる、何処か心地よい四方のそよ風。

 ───触覚(しょっかく)

 

 そして、僕の死因であるトラックの衝突時に感じた神秘の走馬灯。

 ───六感(■■■■)

 

 

 

 愛しき五感を感じるあの世界。そして今を生きる神代の世界。

 雰囲気が好きだった前世の世界の名残を思いとして右手に込み、転生後の神代世界を元気に生きている活気を左手に込める。

 

 そして僕は両手を悠々と胸部の近くへと引き寄せた。

 

 今日も、前世も。この星へと産まれた事に。

 両手を優しく合わせ───、感慨無量の思いを抱き、

 

 

 

合掌(感謝)───!! 

 

 

 

「ふう……」

 

 熱は急速に引き、胸の奥に残るのは温かい残滓と、どこか空白めいた静寂。

 さっきまで世界を満たしていた衝動は影のように消え、代わりにそよ風が心を撫でていく。視界は澄み、思考は妙にクリアで少しだけ自分を俯瞰しているような感覚が訪れる。

 

 賢者タイムはまさしく、今に在った。よく分からないが、あの瞬間だけ前世の名残というモノを思い出してしまう。懐かしいとさえ感じる。しかし、戻りたいと思えばそうはならない。

 

 何よりも───、そう。

 僕の端末にインストールしていたゲーム。

 

 

 

『Fate/Grand Order』。

 

 

 

 真名看破に全力を注いで色んなサイトをこじ開けて考察したり、推しキャラを限界まで育てるために周回しまくっている僕の姿を、思い出してしまったのだ。

 賢者タイムの自分なら今解ってしまうが、このマスターベーションこそ僕の宝具なのではと思ってしまう。あの全知じみた光景はいつもマスターベーションの時に見てしまうんだ。

 

「『清浄なる世界への福音(ピュアライト・フォー・ザ・ワールド)』とでも呼ぼう……。あっ。やべ。恥ずかしい。やっぱ無し」

 

 前世はほんまに碌でもなかったけど、マッマとパパンと祖父が優しかったからまだ好きだった世界だ。だからそんな世界を見せてくれたこの宝具らしき現象と多くの御精子さんたちへと向けて一言。

 

「……ありがとう」

 

 

 

 ───感謝。

 

 

 

 たかが五文字の一節にも満たない言葉だと思われるだろう。

 だが、その言葉には様々な重たい感情を込めている。『たかが』ではなく、五体を以て感じ取るのだ。

 

 余韻が終わり、僕は飛び散った命たちを優しく拭き取った。

 

 そう。これこそ、僕なりのリラクゼーション。

 ありとあらゆるすべての星と生命、大地に『感謝』することで心身に潤いを齎すケア。

 

 とんだ痴態を晒してしまったが、今後の将来を考えて心が荒れてしまう時だってあるんだ。あれは僕なりの童貞流ストレス発散術というヤツなので、気にしないでほしい。

 しかしマスターベーションはストレス解消に役立つとされているが、過度にやりすぎては体内から亜鉛等の栄養素が排出されて免疫力が低下してしまうからね。時々するのがベストだな。

 

ドン。

ドン。

 

 あっ。やべ。

 

「おーい、アテナ。入ってもいいか?」

「ち、ちょっと待ってください! 今部屋散らかってるんで!」

 

 僕が賢者タイムに浸っていると、何やら部屋のドアを軽いノック音に続いて来客らしき者の声が聞こえたが、声からしてお父様のようだ。どうやら僕に用があるらしいが、今見られると不味い。

 

 僕はせっせと自主開発した消臭剤を周囲に霧散し、箱の中に積もった羊皮を奥へと隠した。

 

「うわっぷ」

 

 窓を開けた瞬間、一瞬だけ風が強く吹いて羊皮の一片が風に飲まれていく。

 えっ。ちょ。待って。一片だろうともゴミの投棄は駄目だってば! 風さん!

 

 ま、まあ。大丈夫でしょ。

 そう思って僕はお客を招き入れた。

 

 だが───、

 

 この時の僕は知らなかった。

 

 まさか、これがきっかけでとんでもない生物がやって来たなんて誰が予測出来るのだろうかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞー」

「お邪魔するぞ」

 

 入って来たのはお父様と───、

 

「ほう? 四方に宝具の入れ物を置くことで運気を損なわせないとは、やるではないか」

 

 何やらツルピカで四肢がマッスルな漢が入ってきた。

 

 ……誰?

 

「えっと───、貴方は?」

「よく考えたらアバターでの対話はこれで初めてか」

 

 そう言うと、ツルピカ男が左手を右胸部にドンと叩いて言葉を発する。

 

「この姿では初めましてだな、オリュンポス神の新芽よ。工房の鍛冶ユニットAIでは何度か話したつもりだがね」

「……もしやだけど、工房の───」

 

 今になって気づいた。

 ───彼が、何やら仰々しい大きな入物を背負っていたことに。

 

 その中には武具みたいなモノが入っており、両手は耐熱性に優れていそうな茶色の手袋を着けていた。石炭のように黒く汚れている顔面を見て、『綺麗』や『清潔』とは確実に言えないだろう。

 

 だからこそ理解出来る。というか知っている。

 何かひとつの物事に向き合わんとする『熱意』さえ感じ、彼が背負っていた大きな革製の入物に入っていた『武具』達は目の前の男が造った品々だ。

 

 であれば目の前の男が得意とする概念(モノ)こそ『鍛冶』ではないだろうか。

 

 そして刃物等の金属を製造及び成形する分野に携わる者を『鍛冶師』もしくは『鍛冶職人』とも言う。

 

「おっと。陰気な儂だが、トネリコの恩人殿に真名(まな)を授けられた身としてそこは名乗らせてくれ。恩人殿に着けられたこの名を、誇りに思っているのでな」

「あー、成程ね……。オーケー。うぉっほん!───名をお聞かせ願えないだろうか。いと武具に魂を注ぐ神よ」

 

 僕は芝居がかった喋り方で目の前の男に名前を聞いてみた。

 

「いいだろう。オリュンポスに連なる新芽の神よ」

 

 大きな革製の入れ物には武具らしきモノが入っているが、そこから予想すれば『鍛冶師』以外に他は無い。

 

「儂は炎と鍛冶を司る神。神理を以て武具を造りし鍛冶師」

 

 故に。

 目の前のツルピカ男はギリシャ神話の中で最も名の知れた鍛冶師の頂点。

 

 その名は───、鍛冶を司る神。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「ヘファイストスと言えばもうお分かりだろう? ───大神と神妃の御子息様?」

 

 

───ヘファイストス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▶ 6節 ◀

鍛冶神


 

「ヘファイストスか!いやー、うん!輝いてるなあ……!」

「……ニコスとアルテミシアの姉弟といい、アレスといい、何故お前たちは儂の頭を見ながら話すのだろうか」

 

 ……何でコイツは頭ばかり気にしてるんだろうか。

 

「君がヘファイストスか。道理で覇気が凄まじいと思った訳だ」

「……神在れど『髪』に非ずと? 随分と喧しいセンスの持ち主だな」

「言ってませんよ。覇気っつったんですよ。あんたが勝手に言って勝手に自爆したんでしょうが」

 

「機神に禿という概念はない」

「だから言ってねえよッッ!?」

 

 め、めんどくせえコイツ!?

 最早『狂化』スキルかけられてるんじゃないかと疑ってしまう程、頭に敏感だ!そもそもスキルはサーヴァントの特権だから先ず無いけどッ!

 

「……むう。ならば聞かなかった事にしよう」

「ヘファイストス。しばらく話を続けてくれ」

 

 流石に話が進まない為か、お父様が横から言ってくれた。ガチナイスです。

 

「お前さんが神々の儀を成し遂げたのは下界より報せが届いている。何でも、三つの権能を複合化させた大偉業を刻んだそうだな」

「ありがとう。そう言われると、ちょっと照れるかも……」

「直ぐにでも歓迎しに行きたかったのだが、下界では今、潮風で都市中の建材が錆びていく被害が相次いでだな。そっちの仕事で大忙しだった為、十年も遅れてしまった。

 ───すまぬな、アテナよ。人から神に至ったとはいえ、それでも十年はお前さんにとって長かっただろうに」

 

 そういえば何時ぞやアルテミスとアポロンと庭園で恋愛話について語ってたら「アイツは真面目で朴訥で陰気で鍛冶一筋」ってアポロンが喋ってたけど、確かに真面目そうだなあ。

 

「いやいや。大丈夫だって。よく分からないけど、下界は大丈夫なの?」

「心配には及ばない。仕事はニコスとアルテミシアの姉弟に継がせた為、こうしてオリュンポスに戻れた訳だ」

 

 というか、え?

 十年くらいいないと思ったらニコスとアルテミシアってばいつの間に下界行って結婚してたの?

 

 くっそ。あのリア充共め。先駆けされた!

 

 下界で会ったらマジで覚悟しておけよ。

 耳を塞ぎたくなるまで褒めまくって祝福してやるからなァ……。クックック……。

 

「お前さんに贈る品々だ」

 

 ヘファイストスが大きな革製の入れ物をゴソゴソと弄っていると、何やら武具を取り出した。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 これってもしや───、武具じゃん!

 

「かっこいい……!」

 

 あかん。これは僕の中の男魂が騒いでいる!

 あの頃を思い出すなあ! 前世の中二の時をッ!

 

「ククッ……。我が息子は白金こそ似合うのではと勝手に思ってはいたが、お前もそう思っていたとはな。やはりお前は只者ではないな。鍛冶神」

「鍛冶師は顧客に応えるべく、特徴を瞬時に把握しなければならないからな。儂は当然の事をしたまでさ。偉大なる全知全能にして神々の王よ」

 

 何やら二柱が呑気に喋っているけど、早くッ! 武器の解説をッ!

 今すぐに使ってみたいんですッ!!

 

「うっひょおおおおおおお!これを待ってたッ!ありがとう!ヘファイストス!お父様!」

「……お前さんは時々知能が下落する行動を見せつけてくるが、権能に侵食されていないのか? いや。今はそんな事なんてどうでもいいか。

 

 ───それでは武具の説明をしよう」

 

 きちゃああああああああああああああ!

 

「まず、これらはアダマスの鋼で造られた神造兵装だ」

「ふむふむ。成程ねえ」

「流石に驚かないようだな。我らの正体も知っている前提で話すぞ」

真体(アリスィア)や星間航行船団の事もでしょ? 知ってるからその前提で話しちゃっていいよ」

「分かった」

 

 こうしてヘファイストス様の長い武具説明が始まりました。

 

「であるからして~」

 

 ふむふむ……。

 聞いた内容を木製の本に書き記したが、こんなところだろうか。

 

 兜輝き神体結界(アイギス・ヘルム)

 胴煌く神体結界(アイギス・アーマー)

 足奔る神体結界(アイギス・グリーブ)

 

 これらを三点まとめて『神体結界(トライ・アイギス)』と呼ぶらしい。

 

 だけど、驚いた。

 これらは防御力が極めて高いだけの代物に過ぎないとの事で、理由が『内面の衝撃を和らげるには容量があまりに小さすぎるので搭載なんて不可能』らしい。

 

 まあ、完璧に防御するなんて無理だよなあ。

 そこは防護系の魔術で頑張って内面の衝撃を抑えるしかないか。

 

「(……あとは)」

 

 この盾、ガチでヤバいよ。かっこ震え声。

 

 名前は神体結界じゃなくて神器アイギスと読むらしい。そのまんまですね。

 この神器はアダマスという防御性だけではなく、『星間防衛権能機構』と呼ばれるオリジナルの権能が搭載されていて、『時空連続体』と呼ばれる仕組みをアレンジしたモノを権能として開発したそうな。

 

 時空連続体とは、ヘファイストス曰く『時間を含めて固定化された多次元の集合体』。

 その時空連続体とやらをクリロノミアとして収めるどころか、真体の権能を用いて結晶化させて盾と同期したらしい。その目的としては盾内部に時空連続体を都合よく発生させる為だそうだが、僕としては何を言っているのか全く分からない。

 

 そして時空連続体を内包した『星間防衛権能機構』だが、この権能が本当にヤバかった。

 

 例えば人体が全身骨折してしまう程の衝撃を与えたとしよう。

 権能発動中の神器アイギス内部では常に時空が未来向けて変動し続けている為、『連続的な時空の歪みによって衝撃が緩和し続け、やがて時間を経て衝撃そのものが無力化される』という仕組みだが……、うん。

 

何言ってるか全然分からないけど、ヤバくね? 

 

 これって要はアレだ。

 小学生が鬼ごっこやら戦いごっこでよく使われる『謎の理不尽最強バリア』こと『はい! バリア! (笑)』みたいなアレだ。強すぎません?

 

 あれ理不尽だよなあ。

 発動されたら『タッチされても鬼になれません』だの、『(人の名前)菌には一切効かない上にダメージ常時無効化』とかいう意味分からんバフまで付与してくるし。最早ヒュドラの毒も無効化出来るのでは?

 

 と、まあ。そんな感じでこの盾が最強か分かった筈だが、僕のIQは猿以下なので理解出来るように書いておこっと。

 

衝撃が来る(START)→空間が歪む=時間が歪む→時間が遅延→”衝撃が身体に届く時間”が遅延→進行中、色んな時空の歪みと接触しまくる→衝撃が緩和されて身体に届く(GOAL)

 

 こんな感じだろうか。

 いや、これでもわかんねーよ。何すか、時空連続体って。

 

 だけどデメリットも勿論あるとの事で、詠唱がかなり長いらしく、ちゃんと噛まずに詠唱しないと『対次元兼概念防御の盾』から『概念防御の盾』へと出力が下がってしまうらしい。まともな詠唱無しでそれって最早デメリットとは言わないだろと思うかもしれないが、口に出してはいけないね。うん。

 

 こうして詠唱をクリアして放たれるのが、時空連続体を用いた星間防衛権能機構。

 

 

 

 ───汝、星を包む円環(アイギス・プロテクション)

 

 

 

 皆なら既に察したと思うが、名称がオリュンポス十二神に着けられた権能兼宝具の名称『汝、星を~』シリーズの一部なんです。これまたスッゲーもん造ってきたな。『造る』を超えて最早『創る』に至っているんじゃないだろうか。

 

「と、まあ。ザックリ言うとそんな感じだが、ヘファイストス製の神造兵装では味が飽きるだろう」

 

 ヘファイストスがそう言うと、何やら『包帯のようなナニカでグルグル巻きにされた長い棒状のモノ』を入れ物から取り出した。

 

「味変ってヤツだ。儂の弟子がお前さんに槍の神造兵装を贈りたかったそうでな。受け取れ」

「えっ。いいの?」

「ああ。ちなみに彼女曰く、『恥ずかしいから送り主は秘匿して』と命じられているので伏せさせてもらうぞ?」

「うんうん。情報漏洩は会社の信頼どころか倒産のリスクだってあるしね」

「お前さんは時々ヘルメスみたいな事を口にするから中々に愉しいな。ククッ」

 

 こういうところが真面目なんだろうな、ヘファイストス。

 善き神格者だ。アテナの脚に男汁ぶっかける逸話さえ無ければの話だけどね。

 

「さあ。開けてみい。そこには一生涯、お前さんが供にする武器が待っていようぞ!」

 

 そう言われて僕は包帯を取り除くと、そこには神秘的な長い槍があった。

 

 

『 対象神格名:アテナ。認証───、完了。 』

 

 

 何やらアナウンスが頭の中に流れてくるが、恐らく目の前の槍から放たれた信号だろう。

 

「これが───、僕の相棒となる武器───……」

「そうだ。まだ登録は終わっていないからお前さん自身が決めるといい」

 

 穂先は白刃で三本の黄金線が刃の先端で集束されていて、穂の中心には赤色の神秘的な宝石が埋め込まれていて、黄金の翼が左右に六枚生えている。

 持ち手となる柄は茶色で装飾されているが、まるで手が滑らないような造りをしている為か、質感が妙にしっくりとくる。

 

 何というか、あれだな。

 

 勝利を運んできてくれそうな神造兵装って感じがプンプン伝わってきた。

 

 ……そしたら。

 

 勝利……、比翼……。

 

 よし。決めた。

 

 

 

 この鎗の名前は───、ニケ。

 

 

 

 それは『勝利』を意味する有翼の女神の名前。

 更にニケとして僕の槍だという事を強く強調させたい為、真に名前を刻むのであれば。

 

「───勝利進む神の槍、ニケ・サモトラケ」

「ほほう! 穂の装飾を見て決めおったか! 素晴らしい着眼点とネーミングセンスだ!」

 

 うん、やっぱりこれだ。

 パリのルーヴル美術館の至宝とまで謳われる首無き有翼の女性像(サモトラケ・ニケ)

 

 その名前を逆にして着けた理由だが、この名前が原因で抑止力等に狙われない為でもある。

 

 そして何よりニケというのはローマ神話の女神ウィクトリアと同一視されているのだが、こっちだとアレスことマルスに従っている事になっている。

 ならば女神アテナの従属神として勝利をもたらす『サモトラケ・ニケ』にしてしまおうという個人の事情も含めてこの名前にしました。名前は反対にしちゃいましたけどね。

 

 

『 登録完了。神錠に則り、末永く宜しくお願い致します。 』

 

 

「あ。はい。───よろしくね」

 

 

 何か『末永く』って言われたんですけど。まあ、いいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


7節

神造端末クロノス・オーダー


 

「さて。儂からは此処までだが、次はゼウス。貴方の番だ」

「うむ。……こればかりはメリアス殿の意に反する行為と見なす。流石に余としても看過できん現状だ」

 

 ……メリアスって、誰だろう。

 いや、今はそれどころではない。あのお父様が此処まで怒りを露わにしているのは相当ヤバい案件に違いないのだから、覚悟を決めなくては!

 

「あの。それって、一体……」

「そうだな。───ヘファイストス。そっちの信者でアテナの補佐を任せられる者はいないか?」

「いるにはいるのだが、キュクロプスは戦力的に使えん。あの子達ならステュムパリデスの鳥を扱えるだろうし、駄目元で協力の依頼を要請しに行こう」

「頼んだ。……流石に人々が永遠に停滞し続ける世界にされては何もかも終わりだからな」

 

 なんかガチでヤバそうだなオイ!?

 停滞ってことはアレか? 剪定されるんですかねッ!?

 

 ……いや。

 取り合えず落ち着こう。

 

「さて、アテナよ。余はお前に頼みがあって来た。──その前にこれを授けよう」

「これは一体? 何かの端末のようですが……」

 

 そう言うと、お父様は僕に四角い物体を渡してきた。

 長方形の薄っぺらい物体──、何処か前世のスマートフォンに似ているが、一体何だろうか。

 

「それは簡易的な連絡と契約が出来る神造端末──、クロノス・オーダーだ」

 

 この端末はどうやらクロノス・オーダーと呼ぶらしい。

 

「クロノス・オーダー……。それは一体、何をするものなのですか?」

「今から話をするところだ。アテナは『勅令(オーダー)』という言葉を知っているか?」

勅令(オーダー)……ですか……?」

 

 ……。駄目だ。多分忘れているかもしれない。

 

「ククッ。その苦渋な表情。忘れていると見た」

「その……、はい。すいません」

「良い良い。教えたのは数年前ぐらいだったからな。忘れても仕方がない。軽く話そう。──まずは基本からだな」

 

 お父様が勅令(オーダー)について説明を分かりやすく解説してくれた。

 

 勅令(オーダー)とは、神々が必ず時間を掛けて完了しなければならない案件。

 それには幾つか種類があり、『天命・主命・神託』の三種が存在する。

 

 まず、ひとつ。───天命について。

 天命とはオリュンポス十二機神の主神ゼウスと神妃ヘラ直々に命じられる勅令(オーダー)を表す。ゼウスかヘラが『あいつは危険だから罰しろ』と言われたら必ず内容通りに対応しなければならない。要は企業で言うところの『重要な緊急案件』的なモノだと思ってくれれば分かり易いだろう。ちなみに神数や神選はゼウスかヘラが決めるらしい。

 

 続けて、ふたつめ。───主命について。

 こっちは主に神々の界隈でよく行われている勅令(オーダー)とのことで、個神が個神に命じる『個別契約』的な勅令(オーダー)らしい。

 例えばだが、『この領域はワイのモンだから、アテナは物騒な事起こすなよ』と命じられたらそれに従わないといけない。勿論、魔力もしくは金品を定期的に支払うルールが設けられているのでご安心を。

 

 そして、みっつめ。───神託について。

 こっちは一柱の神が神に命令するのではなく、神が人に命ずる際に使われる言葉。

 

 実はこの神託という言葉だが、ある名称としても使われているそうだ。

 ギリシャ神話を知っている皆なら此処でもうお分かりだろう。

 

 そう。───試練という名称だ。

 

 こちらは人から神へと行き届いたのか知らないが、何故か気に入られて今では『神託』の造語として広く使われている。

 この形態という言葉は曖昧だが、主に人同士で行われている事から、形態としては『人→人』で正しいと思われる。ちなみにこの試練という言葉は『神→人』『神→神』『人→人』等とどれにも当てはまっているそうだ。これぞ多様性ですね。

 

 

 

 ……との事らしい。

 

 

 

 ちなみにこの勅令(オーダー)とやらを報せるのは千里眼の権能を有する神の仕事との事で、突拍子も無く突然やって来るそうな。

 

 ───そして僕にもその天命が遂に回ってきたのだ。

 

 その天命に関しては先ほどの端末『クロノス・オーダー』に内容が書かれているとの事だが、期待と不安が胸一杯だ。

 

 まあ、でも。やっと下界に降りれるからそれはそれで新鮮さがあっていいかもなあ。その気になればハイテクパワーで何時でもオリュンポスに転移出来るらしいし。

 

 さてさて。内容は何だろうか。

 

 僕は期待を胸に背負うようにしてクロノス・オーダーを弄り、天命の内容を見た。

 そこに書かれていたのは──、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勅令(オーダー)一覧】

- ポセイドンに勝利せよ -

勅令形態:天命

・報酬

都市守護者(ポリウーコス)の権限を付与。

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 ええ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───クロノスオーダーが更新されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【プロフィール】

神格名:アテナ

性別:男性

 

【挿絵表示】

 

【ステータス 】

 筋力:? 耐久:? 敏捷:?

 魔力:? 幸運:? 宝具:?

 

【メインウエポン】

- 神器アイギス -

 とある真体の亡骸を加工して造られた神造兵装。

 最強の防御性を有し、『星間防衛権能機構』と呼ばれる権能が搭載されている。

 

- 神体結界(トライ・アイギス) -

兜輝き神体結界(アイギス・ヘルム)』『胴煌く神体結界(アイギス・アーマー)』『足奔る神体結界(アイギス・グリーブ)』の3セットをまとめた名称。アダマスで造られている。

 

- 勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ) -

 アダマスとトネリコの木で造られた槍。効果不明。

 

【宝具】

- 清浄なる世界への福音(ピュアライト・フォー・ザ・ワールド) -

 ランク:A+ 種別:対人(自己)宝具

 ・解説

 マスターベーション後に生じる虚無の時間『賢者タイム』が宝具として昇華したモノ。

 数分の間、あらゆる誘惑や精神干渉が無効化され、周囲の状況がスローモーションに見えて最適解が瞬時に導き出される。

 

- 汝、星を包む円環(アイギス・プロテクション) -

 ランク:EX 種別:不明(詠唱によって変動する為、種別不明)

 ・ 解説

 星間防衛権能機構アイギス·プロテクション。

 時空連続体を防御手段として用いた大権能の一つであり、連続的な時空の歪みで衝撃を和らげ、やがて時間を経て衝撃そのものを無力化する。

 

勅令(オーダー)一覧】

 - ポセイドンに勝利せよ -

 勅令形態:天命

 ・報酬

 都市守護者(ポリウーコス)の権限を付与。




■後書き
如何でしたか?
以前の小説ではキュクロプスが宝具使って武器を造ってくれるシーンでしたが、今回は大幅に変更しました。
キュクロプスの宝具を楽しみにしていたという方は本当に申し訳ございません……。
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