古代ギリシャ奮闘 アテナに転生したら処女神ではなく、童貞神でした。 作:アテナくん
今回はメデューサやカイニスと関わりのあるあの神が…!
ではでは、本編をお楽しみください!
どうぞ!
「(遂に来ちゃったかあ……)」
──────ポセイドン。
僕にとっては恐らく敵になるであろう神だ。
その神は海と大地を司るオリュンポス十二神の一柱。
キュクロプスから賜ったトライデントを主武器としており、ゼウスの次に強いことから
そんなポセイドンも星間航行船団に所属する旗艦の一柱であり、『惑星改造用プラント船』という海洋環境の役目を担っている。異聞帯ではドレイク相手にコアを奪われて理性を失ったり散々な目に遭っているとは思われるが、彼の逸話の凄まじさ故に何とも言えない。カイニスのスキルに狂化が付与されているのもポセイドンが原因だし、パルテノン神殿でもメデューサを無理矢理襲うエピソードだってある。
────お父様が此処まで苦しげな表情を浮かべているのはソレ絡みなのかもしれない。
「……あの馬鹿者め。一柱で抱えるから狂ってしまったではないか」
ヘファイストスは額に手を当てて溜息を吐いていた。
「……ポセイドンが何かやらかした感じですか?」
「アテナ。お前はプライベートと仕事を別々に気持ちを切り分けて行動出来ているか?」
……突然すぎる質問のあまり、僕の脳内が「?」で埋め尽くされる。
「そんなの出来て───、いや。疲労が極限まで達している時はグッチャグチャになってるかもしれないですね」
よく考えたら出来ていないかもしれない。
人間という生き物は理性を持ち、『意識』と『無意識』の二面を以て行動している。僕が仕事で疲れまくって暴飲暴食していた事があったんだけど、それは無意識が強く作用していたのだろう。飲食を以て身体を潤せって感じでね。
お陰でクレジットカードは高値の嵐さ。あれほどコンビニは高いから買うなって理解してても空腹のあまり深夜に買ってしまった愚かな末路を辿らない為にも皆さんは暴飲暴食に気をつけようね。
ああ。これは前世のお話だよ。
疲労が極限まで達していると何したもんだか分からないよねーって話をしたかっただけなんです。
「それだ。ポセイドンは現在、我らが果たすべき『使命』と、自らに立ち塞がった問題事。それら公私の思いが混迷してしまった結果、本来在るべきポセイドンの『正義』が大きく偏ってしまったのだ」
「……なるほど」
そういうきっかけがあったのか。
僕は疲労で混乱してしまうが、ポセイドンもまたストレスみたいな負の感情的な要因に苦しまれて混乱してしまったのだろう。
そこだけはちょっと共感出来た。
誰しも疲労やストレス、苦悩続けば自分が何をしてるかすら分からなくなる時があるし、もしかしたら知らない内に失言をぶち撒けている可能性だってある。
しかし、これはアレだ。
こういう系の話は前世でも苦い思い出を残しちゃったから、他神のエピソードを話すのはどうしても躊躇ってしまう。
でも、口にした上で向き合わなければ一生変われないからな。だから言ってしまおう。
神話通りであれば、ポセイドンは今───。
「儂から見ればポセイドンはアンフィトリテ以外に興味無さそうだったからな」
「へえ……」
やはり、恋愛に関するトラブルか。
「純愛だったのさ。そして誰よりも自信家であったよ。あ奴は空を見上げる度にアンフィトリテと呟いていたが、妻との間に良からぬことでもあったのだろうか」
ポセイドンには海に棲むニュンペー『アムピトリーテー』という妻がいるのだが、名前が濁っている事から『アンフィトリテ』=『アムピトリーテー』という位置付けで間違いないだろう。
そんなアンフィトリテだが、ポセイドンとの結婚には色んな逸話がある。
ナクソス島で踊っている時に攫った説があったり、馬やイルカを創造して彼女に贈られて嬉しくなったアンフィトリテが結婚を承諾した───等々。
───あの馬鹿者め。一柱で抱えるから狂ってしまったではないか。
───公私の思いが混迷してしまった結果、本来在るべきポセイドンの『正義』が大きく狂ってしまったのだ。
先ほどヘファイストスとお父様が口にした言葉だ。
なんかドクズな神様だと聞いたことはあるが、今のところ、ある程度の責任感と正義感が強いけど話聞かなそうな神様のイメージが強い。
そこで、先ほどの言葉を思い出そう。
───儂から見ればポセイドンはアンフィトリテ以外に興味無さそうだったからな。
その言葉から考察するのであれば、ポセイドンはただ一人の妻だけを愛していたと証明づけるようなモノとなる。
もしかしたらこの世界のポセイドンは『イルカ等を創造して贈った説』の方なのかもしれない。
……そして、分かってしまったよ。
「ポセイドンは神として純粋だったのだ。ただ、その愛情が強かっただけ」
自分が全てやる。何もかも行う。
本当に善い奴なんだと思う。それは男の僕としても格好いいと思える在り方だ。
でも───、例外はある。
「自分一柱で何とかして妻には一切何もさせない。アンフィトリテはポセイドンの一方的な愛情を受け止めきれず、行方を晦ませてしまった。
……何度も儂に相談しろと伝えたんだがなあ」
「余の推察だが、あ奴はプライベートでは『自分が率先する』という男らしい一貫した在り方を持っていた。公私を区別出来ず狂ってしまった以上、あ奴は恐らく公でも『神が先導して人には何もさせない在り方』を貫いてくるだろう」
「儂は早くアンフィトリテに会わせたいんだが、何処にもいなくてな……」
自分一柱で何とかして妻には一切何もさせない、か……。
僕は『自分が率先し、時に妻の意見を参考にする』という在り方を漢の中の漢らしい理想として思い浮かべているが、ポセイドンの在り方は『愛玩』とかそっちに近いんだと思う。
共に苦難を乗り越えてこそ恋人であり、愛人であり、家族だ。故に、断言しよう。
自分が全て仕切る?妻は何もしなくていい?
──────それは違う。
朝昼晩に思いを込めてご飯を振舞ってくれたり、脱ぎ散らかした衣類をまとめて洗濯してくれてるのは一体誰か。
そりゃあ決まっている。妻がやってくれてるんだ。
まあ僕は未婚で人生終わっちゃったから何とも言えないけど、それでもこんなクソみたいな僕の為にご飯を作ってくれるお人好しなお母さんがいた。
僕が仕事でやらかしたり鬱病になってしまった時から……、ずっと。
お母さんが作るご飯あってこそ生きていけたし、僕がやろうにも全然しなかった衣類を洗濯してくれたし、前世のお父さんは「妻が作るご飯が一番」っていつも褒めていた。もし、ポセイドンが主体となれば労働的な理由で料理さえも無くなってしまうだろう。お母さんのご飯は『料理する行為』にカウントされるからね。
「(労いの言葉や品があるから頑張れるし、溜まってた疲れだってぶっ飛ぶというのに……、はあ)」
誰かが言った。
人々は前を進む子であり、家族なのだと。
誰かが言った。
子はいずれ親元を離れる運命に在るのだと。
誰かが言った。
子は親を裏切っていいが、親が子を裏切ってはいけないのだと。
───であれば、ポセイドンの考えは許されない在り方なんだろう。
自分だけが支えていればいいという在り方と、自分以外何もさせないという在り方。
それは成長の妨害に他ならず、自分を変えたいと一生懸命に努力する人々を侮辱するに等しい。一方的に愛情を注がれる世界なんて僕にとっては最悪のバッドエンドみたいなモノだし、許されない蛮行だ。一生理解なんか出来ないだろうし、したくも無い。
「それは絶対に許されません……!」
何もさせないなんて、それこそ人間が歩み続ける『
「そうさ。それは断じてあってはならん。人々の望みを神が潰えさせてたまるものか」
独善極まればそれは正義や善行でもない。
───愛玩と何ら変わりはないだろう。
ポセイドンは『神が何もかも解決するから人間は何もせず微笑むだけでいい』という在り方を冗談抜きで人間社会で実現させようと考えているので、お父様は危機感と怒りを抱いていた。
「儂としてもその選択だけは絶対に阻止したい。神の失態は神の手で執り行うべきだが、ゼウスは『力のみの制圧では何も解決にならない』と五月蠅くてな」
「余たちは神以前に舟だ。機械的な判断しか演算出来ない為、人情を知り尽くしている人々が見れば恐怖そのものだろう」
ヘファイストスも冷静な表情を装ってはいるも、若干歯軋りしている辺り、相当ヤバい案件なんだろう。
「……そこで僕なんですね」
「然り。『守護神の座を賭けた戦いが近い内に起きるので、4か月後に祭事の準備をせよ』と下界の冠位魔術師には既に伝達済みだ」
「名目では守護神位を狙う競争者として儂の名が刻まれているのだが、風邪を引いたという理由で辞退し、そこでお前さんと交代するつもりだ。これでポセイドンは騙されるだろう」
不覚にもこの禿げ頭に萌えを感じてしまった僕は疲れているのだろうか。
「人としての視点も持ち合わせる神に頼んでこそ、ポセイドンを改めさせる機転になると余は思っている。……無理強いはせぬが、大丈夫か?」
本来ならば断りたい案件だろう。
だけど何度も言った通り、この世界は意味分からん要素が詰まりまくっているし、根源だ神秘だの抑止力とかいうよく分からん概念がある以上、人々の停滞と衰退は抑止力案件なんだと思う。
───それだけは絶対に駄目だ。
僕がメーティスではなくカリローエから産まれた時点で歴史は既に狂っているけど、此処からちゃんと歴史を軌道修正させなくては。
であれば。何時やるか?
「───引き受けます」
今でしょ───ッッ!!
「その言葉、しかと全知全能たるゼウスの耳に届いた。───
腹くくるしかない。
打倒ッ!ポセイドン───ッッ!!
「今思い出したぞ、ゼウス。お前さんの眷属でアテナの補佐をしてくれる神がいるのでは?」
「ふむ。確かにあの子とトリトンの娘が適任であるな」
どうやら僕の見守り役がいたみたいで良かった。もう一人は……うん。僕の信者だよね。
「その方は何方で?」
「そしたら彼女たちをアテナの『補佐』兼『特別講師』として任命しよう」
「あのー」
うん。分かったから早く教えてくれませんか?
「あの」
「うん?その特別講師の名でも聞きたいか?」
「はい。そりゃあ今聞きたいですよ」
「その者の名は───」
そういうゼウスは優雅に人差し指を挙げて口元へと運ぶ。
一体誰が来るんだろうという楽しみ。同時に上手くやっていけるだろうかという不安感。その両方が混合してしまい、僕はお父様の動作と共に思わず唾を飲み込んでしまった。
そしてその一柱の名が今、判明する時───!
「───オリュンピア=ドドーナへと行けば自ずと分かるだろう」
…………あのさあ……。
「今教えろっつってんだよクソジジイ!?」
こうして盛大な誓いを終えると、アテナは武具を大きな革製の鞄に詰めて自室を後にした。
そしてゼウスとヘファイストスも別で機神回廊をゆっくりと歩いている。
「……下界にいるあの子にも声をかけるべきか?いや、いい加減に神性を付与して妹に会わせてあげるべきか?」
「その必要はない」
「ゼウス。やはりあの子に神性を付与するのは反対だというのか?」
「そう在るべきだ。神は神の都市に帰し、人なら青き星に住むべきだろう」
「何時までも不変を通す訳にはいかない。故に貴方が不変の正義を貫き続けるなら、儂は失望するだろう」
まるで然も当たり前かのように正論を突いてくるゼウスの言葉を聞いてか、ヘファイストスは両手をギュッと握りしめる。
「あの子は今でもケイローンの下で足掻き続けているのだぞ?」
「……」
彼の革製の手袋が締められる音が機神回廊に響く。
その音に伝わるのは、神と人の垣根を越えてはいけないという不変の正義に対する怒り。果てしない道を進ませ続ける一人の人間に対しての哀れみ。
「妹の為という正義を枷とし、ヒトから神へと至らんが為に努力し続けている」
「そうだな」
「未だ叶わぬ夢物語を走らせるつもりか?我らが叶えてあげるべきだと思うが?」
「それは余が決める事柄ではない」
ヘファイストスは睥睨し、溜息を吐く。
「……あの子は神々に懇願しなかった。縋ろうともしなかったのは事実だろう。だが───」
あまりに冷たい言葉。
正義のために言葉を返しているとはいえ、捉え方によっては残酷だと思われるであろうその言葉に、
怒ゴォォ───ッッ!!
「今でも妹に会いたいと泣きながら死に物狂いで奮闘し続けているのだぞ?」
激怒───ッッ!!
人の努力を報おうともしないゼウスの態度に苛ついていたのだろうか、ヘファイストスはハンマーをゼウスの顎下へと突きつけた。
まるで火山を彷彿するかのような熱を帯び、その気迫は炎そのもの。
「どんな立場だろうとそういう者にこそ願いを叶えさせるべきだと思うのだが、何故頑なに拒否をする!?───答えろ!ゼウスッッ!!」
ヘファイストスは何処までも中立の観点にいるのだが、その件の子が中立の許容範囲を超えた為か、こうして怒っている。
司る権能に『炎』も含まれている影響か、振り落とした際に熱風も生じていた。
「謝罪しよう。ヘファイストス。どうやら勘違いさせてしまったようだ」
その熱気に当てられたのか、ゼウスはその熱気を感じたのか両目を閉じて語り、一回息を吐くやいなや───。
ガシッ……!
──────掴んだ。
ゼウスはヘファイストスの持つハンマーの柄ではなく、打撃面を両手で包み込むように優しく握って回収する。
「其方の真意はこの打撃面を以て全知全能なる余に指し示した。であれば余もそれに倣おうぞ」
様々な角度でハンマーを眺めて賞賛の一言を呟くその姿は何処か父性のような暖かさを感じるが、それでもヘファイストスはゼウスの奇行に理解出来ず、数秒だけ放心していた。
「再び応えよう。余が決める事象ではない。……否、我ら船団が主体で関わる事象に非ず。その夢を叶えさせるのは新たな神の役目。余ではなく、人から神へと昇りし我が息子だ」
再度、ゼウスが答える。
「……なに?」
「例え如何なる悲劇在れど、恩人メリアスの誓いを破ってはならない。常に歩み続ける人々を神格化させたら、それこそ『成長』を止めさせてしまうからだ」
「……そうだな。あの御方は人々の成長を誰よりも望ん「だが」───ッッ!?」
ビュンッ───!!
「貴様、何を───ッッ!?」
瞬間───、ゼウスはハンマーの打撃面をヘファイストス目掛けて振り落とした。
「これは例外中にして例外の更なる例外を超えた例外だ。余の息子が関わる前提として話そう」
「……貴様は例外を二文字以内に収めきれんのか?」
───眼前にハンマーの打撃面がヘファイストスを覆う。
「純粋な『人間の兄』と『半神の妹』が合流する時、それがきっかけで神格化されるかもしれん」
まるで何かを訴えたいかのような圧力。
「だが、神格化されようとも、定められた運命は盤外の外に在る。その輝きは遍く星々と共に更なる成長を見せてくれるだろう」
「それは、なんだというのだ───?」
ゼウスが手綱を握っている為か、その神威に見紛う威圧感を感じ、まるで雷霆を彷彿するかのような鋭利の威圧にヘファイストスは思わず唾を飲み込んだ。
「人や神さえも予測出来ぬ喜劇を生むかもしれないという事だ。故に───」
ゼウスの言葉には一切淀みは無く、それどころか希望に満ちたような覇気で応える。
「我ら機神が加護与えし時、喜劇の
───誠心誠意。本心。本音。真意。
ヘファイストスの思い込められし怒りの鉄槌。
それは鉄槌に意思を表示するかのようにゼウス自ら返された。
「ほれ。返すぞ」
「……感謝する」
ゼウスの嘘混じらぬ真意がハンマーの打撃面から伝わってきたのだろう。そこに悪意や悲劇など無く、喜劇という希望が在るのだと。
ヘファイストスはその言葉に反論せず、沈黙は肯定という言葉があるように、ハンマーの打撃面を両手で包み込むようにしてゼウスが持つハンマーを取り戻し、革製の入れ物へと収めた。
「ゼウス。貴方の真意は今、この槌から伝わってきた。儂の怒りが空虚であるモノとし、謝罪を。すまなかった」
「よい。余は一言が足りぬと妻に言われてな。お前の怒りは空虚ではなく、正当な怒りだろう」
そう言うと、やれやれという言葉を吐く。
「悲しい話をしても気が滅入る一方だ。此処はひとつ愉快そうな話で盛り上がりながら仕事場に戻るとしよう」
「フッ。それもそうだな」
「さて。ヘファイストス。お前に愉快な話だ」
「貴方の話はどれもぶっ飛んでて面白いからな。聞こう」
ヘファイストスは余裕の笑みを浮かべるが、その決断が大惨事への片道切符であることを、彼はまだ知らない。
「お前んとこのアフロディーテだが、アレスと密会してたぞ?」
良い雰囲気が急変するのは神世界にとって日常茶飯事。
まるで自らガソリンを被って焚き火にダイブするような純正地雷100%の言葉をゼウスは軽く暴露してしまった。
「……」
「ふむ。ちと空振ったか?」
ゼウスにとって感覚的に軽かったのだろうか、ヘファイストスがパクパクとフグのように開閉し続ける動作を見て困惑している。
「……あ」
「???」
そしてヘファイストスが口を開けたと同時、両手をワナワナと震わせていた。
「あんのハゲ共めええええええええ!!」
二度目の、激怒ッッ!!
「……ハゲはお前だろう」
困惑するゼウスがツッコミを入れるも、それどころではないのだろうか。ヘファイストスはゼウスの的確なツッコミを無視するやまるで決心したかの表情で立ち上がり、その視線がゼウスへと向けられる。
「ゼウス。主命契約しよう。……手伝ってくれ」
「お前さんが余に依頼とは面白い。───いいだろう」
「言うまでも無いな」
「ああ、分かっている」
「……ふん。あ奴らめ。今に見ているがいい。公衆の面前であ奴らの情事を晒してやるとも」
「では、作戦名を決めるか」
アテナがいない間、下半神と禿げ頭による謎の共同作戦が密かに始まった。
そのうち、番外編へと続くッッ────!!
【プロフィール】
神格名:ヘファイストス
性別:男性
【
- 浮気の実体を暴け -
勅令形態:主命
勅令主:ヘファイストス
対象:ゼウス
・ 報酬
神造兵装無料製造券×1枚
ネーレーイスと呼ばれる海の箱庭にて、優雅に泳ぐ女がいた。
力強く両手を前に伸ばして水を掻いては起立し、一呼吸をする。
美女の顔に付着する水が顎の先端へと集まり、ひとつの雫となって地面へと滴り落ちていく。姿だけではなく、仕草までもが海の美とも形容出来るほどに美しい。
ポタリポタリと滴り落ちる雫の音が場を支配すると同時に、何処か神秘的な美女を見て私は静止してしまった。
時が静止するなど初めてだ。───あの女性は時の権能を有する者なのか?
私と連動している真体の信号が中枢に伝わっていく。
「感情だと──?」
どうやら彼女は時の権能を有する者ではなく、どうやら私が時間なんて気にせず彼女を熱心に見ていただけらしい。
「(感じる熱は何処か心地よく、まるでヘスティアが放つ竈のように暖かい)」
そして矛盾するかのように制御ユニットが激しく鼓動を繰り返し、私の体内を熱くさせた。
この鼓動は何だ。いったい何なのだ、これは。私の内面など知らずに女がこちらへやってきて、華奢な手で私の頬に触れる。
「こんにちは。銀髪の御方」
解らない。理解出来ない。何だこれは。一万年も飛行して初めての現象だ。
手に触れる微かな熱が恋しい。ずっと永遠に触れられていたい。そう思ってしまった私は機神としての警戒心を露わにする。
───この女は危険だ。何れゼウス達の障害になり得るだろう。
私は『
「あら?素敵な槍。フフッ……。もしかして貴方は神様?」
「え?あ、ああ……」
「あらあら」
だというのに調子が狂う。地と海では全能に等しいこの私ですらも槍を下ろせない存在がいたとは思ってもいなかった。……でも、何故だか解らない。
───彼女を殺したくないと思ってしまった。
それは私の
私が醜い表情を浮かべていたのか、彼女は心配そうに見つめてくると、私の頰を撫でるように触ってくる。海のように湿っぽく、それでいて温かい。
「大丈夫……?」
「だ、大丈夫だ。気になさるな、人の子よ」
解らない事だらけだ。全く理解出来ない出来事だが、ひとつだけ明確に理解出来る答えがあった。
「……そ、それよりだ!美しき人の子よ。貴女の個体名は何と言うのだ?」
この心臓の高鳴りが止まらない。彼女をもっと知りたいんだという思い。
ああ。どうやら私は───。
「個体名?フフッ、名前の事ね。私の名前は───」
着陸条件の78%をクリアした惑星へと降り、感情というユニットを身にまとって十年。
───長い年月を経て、私は生まれて初めて恋をしてしまった。
それから私たちは共に遊泳し、イルカという哺乳類たちと競争したりした。
ずっと楽しかった。
水の雫のように綺麗な水色の瞳の貴女が私を見て微笑んでくれる。
私が狩猟を終えて汗を拭きとっている最中にも私を微笑んでくれる。
───何もかもが美しかった。
だが、そんな時。彼女が踊っていると一匹の猪が彼女を襲ったのだ。
私は激怒して猪を討ち、彼女を治療する。
此処からなのだろう。
彼女───そして我らに名を贈って下さったメリアス殿の為、この星の人々を傷つけないと。
そう誓ったのだ。
貴女は動物に愛されたが故、猪に襲われるその惨状が許せなかった。
彼女が出血した事実を深く悲しみ、私に搭載されている感情に限界が来てしまったのか、私は彼女に更に誓う。
「貴女は一生私が守る。全部、私が貴女の為に体を張ろう」
「貴女は何もしなくていい。愛しき我が妻よ。貴女はずっと微笑んでくれるだけでいいのだ」
「ずっと───、私と一緒にいてくれ」
だが、その思いは届かず。彼女は去ってしまった。
私に応えてくれなかったのだ───。
数10匹ものイルカが優雅に泳ぐ楽園を。
この世で一番夜空が煌く秘密の山奥を。
貴女に沢山与えて夢を見させたではないか。
それでも───、駄目だというのか?
「ポセイドン。私は貴方に希望を見させてくれた。でもね、貴方は完璧すぎた」
「それ、は───」
「だからこそ、私に
完璧でも頼ってほしかった、だと?
何を、言っている。私には理解出来ない言葉だ。
「共に手を取り合い、未来に向かってこそ私は本当の夫と妻だと思っている。例え、私みたいに斯様な弱き身だとしても」
完全故に完璧。完璧故に全能。
全能だからこそ民を守れるし、あらゆる脅威から貴女を頼らずとも、この私が貴女を辱める存在を屠る事だって可能だ。
貴女を傷付ける脅威さえ存在しなくなる。
───それの何がいけないのだ!?
そうか。そうなのだな。水面の楽園に住む愛しき貴女よ。
貴女は笑い話で私を落ち着こうとさせているのだな?
おお───、おお!我が愛しきイルカの美女よ!貴女は愛らしく、美しい!
私は全能だ。全能であるが故に彼女は私の言葉を畏れているのだ。
だとしたらそれは違う。私は全能以前に貴女の鉾にして盾である。きっと彼女は私という力の本質を畏れているだけ。
そうに違いない。そうだと言ってほしい。
沢山物を与えてやるし、終ぞ宙を滅する厄災の分霊共からずっと守って見せよう。
……だからさ。戻ってきてくれよ。
──────アンフィトリテ。
大海の波が力強く神殿の方へと鳴り響き、あの出来事が過去の出来事であったと気づく。
「……随分と酷い悪夢を見ていたようだ」
私は立ったまま目を瞑って過去を振り返っていた。
視界に広がるのはいつもの静謐な青い海。
最果てまで続く海が幾筋もの淡い陽光に照らされている。しかしつい先ほどまで脳裏を焼いていた光景は打って変わり、虚しい程に静寂な空間が続いていた。
「ふん……。神が夢に怯えるとは。ゼウスが聞けば鼻で嗤うだろうよ」
そこには誰もいない。
いる筈の妻がいないし、目の前にいても其れは夢のまた夢。
───彼女は行方をくらませてしまったのだ。
「だが───」
「今度こそ失いはしない」
新たな戦神の通知があったが、所詮は力無き下界の知性体。神の加護無くして生存出来ない種族。
ゼウスも落ちぶれた者だ。人間をオリュンポス入りさせるとは愚か極まりない。神に至れど、力の優劣は決まっているというのに。
「庇護たる人類を守れるのは神のみ」
私はエーゲ海が見える方に移動し、傲慢なる空を見上げた。
「そしてその適任はゼウスに非ず」
我、目指すは人類の庇護。神々が先導し、人々に永遠の幸せを齎す世界。
「───この私だ」
我らを救いし人の子たちよ。
あなた達はただ微笑み、一生懸命に歩まなくていいのだ。
───軌道大神殿オリュンピア=ドドーナ。
───機神回廊。
僕はとても長い廊下をテクテクと歩いている。
「始まるのかあ。アテーナーとポセイドンの戦い。……
歩きながら説明しよう。
まず初めに言うが、
古くからアテナがそのように崇められているが、ポセイドンとの競争がきっかけでそのように呼ばれたかは不明なんだ。神話ってこういった細かな情報に関しては割とガバガバなところあるからよく分からない。
だが、この世界での『
では、ここから本題の『アテーナーとポセイドンの戦い』を話そう。
その前に『アテーナーとポセイドンの戦い』では名称が長い為、以降は分かり易く『ポリウーコスマキア』と呼ぶ事にするね。
ポリウーコスマキアの内容だが、要は
アテナとポセイドンがケクロピアにやって来て、ケクロピアを統治する王様に『どちらがこの都市の守護者として相応しいかを決めてくれ』と言い出す。勿論ケクロピア王は反応に困り、かといってどちらかを決めればもう片方の神に報復されると恐れた為か、このようにお題を出したのだ。
────都市を守り、住民が幸せになれる贈り物をしてくださいと。
これが戦いのお題だ。
どのように都市を守るかというお題を基とし、限られた時間と空間の中で『神』という独自性と『権能』という強みをアピールした上で自分こそがこの都市を守るに相応しい
ポセイドンはトライデントで泉を創る事で海水を湧き出して河を生成し、軍事及び産業分野の有用性を王や民にアピール。一方のアテナはオリーブの木を実らせ、生活及び医療分野の有用性を王や民にアピール。どちらの権能がこの
これに不満気なポセイドンは権能で津波を引き起こすのだが、アテナがこの津波を防ぐ事で守護神に相応しいとケクロピアの人々が断言し、アテナが総評を修める事でアッティカ地方の守護神として着任した。
此処からは僕の考察なんだけど、この戦いがきっかけでアテナは人々から『
大雑把だが大体こんな感じかな?
そういう訳で僕は四か月に行われるアッティカ地方の領有権兼守護神位を賭けた戦いに参加するんだけど、仮にこの世界で競争が起きるのなら血塗れになりそうな予感がするんだよなあ。何せここ、あの菌糸類の作者様が描いた型月の世界ですし。
「めんどくさいなー。ただの競合プレゼンで決めたいよー……。でもお父様とヘファイストスがああ言ってるし、対話なんて無理だよなあ」
仮に間違った行いを選択しても『人間』であれば軌道修正出来るので指摘すれば何とかなるだろうけど、相手が『神』であれば話は別だ。
実力で相手の存在意義をへし折るような『力』を示さないと対話なんて先ずしてくれない。これだから神って面倒な存在だよなあ。そういや僕も神でした。てへぺろ。
「今は
何で新年早々、血生臭い祭りでもしなければいけないんでしょうか。これもすべてポセイドンのせいだ。おのれ、ポセイドン。
「っと。場所によるとここで合ってる筈。……よし」
僕はゴクリと唾を飲み込み、豪華絢爛な大扉を開けた。
「あら?こんにちは、アテナ。学業に励んでて偉いわね」
僕を出迎えてくれたのはゼウスの妻であり僕のママン───ヘラお母さんだ。
「こんにちは、お母さん。お出迎えありがとう。って事はお母さんが今回の特別講師でいいのかな?」
「やっぱり他の神とは違って礼儀があって可愛いわね!でも、違うわ。私はあくまで可愛い息子の顔が見たくて此処に来ただけよ?授業参観っていうのかしら?勿論、ネクタルも持ってきたから準備万全!」
この女神は息子の授業参観を野球観戦か何かだと思ってませんか?
お母様がそう言うとヨシヨシと背中を擦りながら胸に寄せていき、ハグしてきた。
「お母さん。当たってるって。僕は男なんだよ?」
いや、この女神何なの?
流石にマザーは対象外だけど、顔が幼いから癖が崩れてしまいそうだ……!
くっ……!それ以上いけませんお客様!
御性癖が開拓されてしまいます!弊社は純愛に属するので困ります!
「別に私に思いを伝えてもいいのよ?」
「へ?」
「将来のお嫁さん探しの為ならその練習相手にもなるし」
「え"ッ……」
待てよ?冷静に考えたらアリなのでは?
……いや、駄目だな。これではお母さんの胸に根負けしただけの変態男に成り下がってしまう。
でもさあ。何もかも綺麗なんだよ。
銀の髪色に白い肌。
そして何色にも染まらなそうな綺麗な青色の瞳だって透き通るように綺麗だし、そしてその美貌も凄まじい。下界の人間が目を見たら告白する人が絶えないどころか鼻血が溢れ出て出血多量で死ぬんじゃないだろうか。まあ告白なんかしたらお母さんかお父様に裁かれるかの二択が待っているんだろうけど。
「愛が重たい!?でもそこが素晴らしい!」
「うっふふふ……。可愛いなあ、もう。本当に男?」
いやー、すいません。前世30代ヒキニートの男性なんです。許して!
「むっふふふ……」
「(やはり母性って良いよなあ。バブ味が深いぜ)」
お母様の容姿は美しい上に優しそうだが、何も良い所づくしではない。
美しい薔薇には棘があるように、お母様ことヘラにもギリシャ神話特有のやばい逸話があるんだ。ゼウスが川の神の娘さんと汗だくボクシング(意味深)した事を知ったヘラは激怒し、その娘さんが住む島民を悉く疫病で殺したというエピソードがあったり、ゼウスが孕ませた女の出産を徹底的に妨害して地上のありとあらゆる場所において出産禁止令を発令し、使役する大蛇を地上に送って女を殺しかけたというエピソードなんかもある。
こんな綺麗で優しそうな表情をしているのに、怒らせたらまるで人格が豹変してしまう。
取り合えず簡単に言うと、ゼウスの浮気女絶対殺すウーマンです。悲しみの向こうには死しかありません。
皆さんもギリシャに転生したらゼウスには気を付けましょう。
コッ───……、
「ん?」
「あら。やっと来てくれたわね」
コッ───……。
どうやら誰かがこの部屋へと向かってくるようだ。
確かお母様が協力者兼特別講師ではないという事は、此処に来る神が協力者という事になる。
ギイイイイイイ───……、
「───失礼します」
誰かが扉を閉めるとこっちへと近づいてきたけど───、え”ッ!?
ちょっと待って、待て待て待ってェ!?
「ヘラ様。こちらの部屋でお間違いないでしょうか?」
「ええ。此処で間違いないわ。ありがとう」
当たり前の光景が当たり前ではないと思えてしまうなんて初めてだ。
普段から聴く靴の反響音でさえも形容しがたい神秘的な響きとして僕の耳に届いていく。そんな現象を発生させているのは目の前の女神的存在に会えて嬉しいと思っているからだろう。
───何せ、前世から知っているキャラクターだからだ。
「初めまして、最高神ゼウス様の
「私はテュンダレオスの異名を持つ主神ゼウスと母レダの間に産まれし子」
若干灰色がかった青色の瞳を持つ細身のスレンダー系女子。
両腕に幾つもの黄金の装飾を施されているが、それら全ては宝具級の礼装であり、何かしらの恩恵を授けられている。
ギリシャ特有のキトンを着ているが、どうも露出が多く、至る所から肌が見えている。しかしそれらが相まって彼女の美しさが際立っていた。
……やっばいなこれ。
あまりの美しさに口をあんぐりと開けてしまった。
「(ツインテールじゃないから余計にヤバい)」
そんな最上級のスレンダー系美少女をジーッと一種のオノマトペを生成するかのように見つめていると、その少女が言葉を発する。
「神名を『
其は、導きの光。
アルゴノーツの船員にして航海を照らす双子神であるその片割れ。『足速き馬駆る者たち』や『導きの星』として崇拝された古き双子の神様。
「私の名前はポルクスです。どうかよろしくお願い致します」
ポルクス。
ギリシャ神話ではポルックスやポリュデウケースとも呼ばれ、ゼウスの血を継ぐ半神の子。そしてこの世界では例外的な女の子。
───その
双子神とも呼ばれるが、
『ゼウスの息子たち』を意味し、皆が知っている『双子座』の神様だ。
系譜は人間の男テュンダレオスと母レダとされている。
しかしディオスクロイが持つ『
そして、僕がこの場にいて違和感を覚えた。
「(───カストロ、いなくね?)」
FGO世界のカストロはギリシャの神話体系に組み込まれる過程で零落したという設定があるのだが、もしかしたらその辺りで『人間の血を全うに受け継いだカストロ』が誕生してしまったのかもしれない。
……説は色々あるんだよなあ。
人間の信仰の怠りや、両方神だの片方人間だとかいう説が原因だったりとか。
だけど、それはサーヴァントと化した際に付け刃で伝承として昇華したモノ。詩人や学者が後付けて解釈を変遷させた結果、後世において『大きな逸話のひとつ』として語り継がれてしまった。
結果として半神と人の双子系サーヴァントへと至る。
「(元々が神か、もしくは人間どっちだったんだろう……)」
今はお互い初対面だし、ポルクスとカストロの家族事情を聞いてしまうのは今後の活動に支障が来す危険性がある。それに『何でコイツが知ってんだ』的な感じで警戒心を露わにされたら僕的にも困っちゃう。主に精神的な意味でだね。
ポルクスとそれなりに仲良くなったら覚悟してお兄さまの事を聞いてみる事にしよう。
……あと、ご息女と言っていたが、
「僕、男なんだよなあ……」
「へ───?はっ?えっ?お、男……?」
ポルクスは僕の性別を聞いてか、両目をパチクリ開閉し続けている。やだ、何この子。可愛い。
「フフフ……。アテナ。嘘は駄目よ?」
その横にいるお母さんが何か余計な事言ってるよ。
外野は黙っててくださいねって言おうとしたけど───、何か臭くない?
「ひっく……、ひょほー!美味しいわあ……♪」
…………おい。
「あんた、ネクタル呑んだな!?何仕事中に酒吞んでるんだよ!?」
「えー?別にいいじゃないのー。だって下界は今日も平和だし、加護を与えるヒトだっていなかったのよー?」
「だけど仕事中に酒呑むのは違うって!労基は何をやって───って此処はギリシャとオリュンポスだから無いんでしたね!はい!」
「(労基とは何でしょうか……?いや、流石に男性は嘘でしたか)」
うちのお母さん。もしかして気緩んだらポンコツというか駄女神になってしまうのか……?
何という多属性持ち。これだからママ系女神というのは困ったものだ。
「それじゃあ、アテナ。ポルクス。そろそろ闘技場に行くわよ?」
「はい。ヘラ様。───アテナ様、ご案内致します」
へ?何?闘技場……?
「実技でもするのかな?」
「そういえば言ってなかったわね。着いたら説明しましょ?」
そういえば神造兵装を試してなかったし、もし実技でもするのなら慣れておくのもいいかもしれない。
僕はそう思い、皆でその場を後にした。
───星間都市オリュンポス、北部。
───祭典区域、エレクテイオン。
なんか闘技場でもローマのコロッセオっぽい区域に着きました。
「ところでアテナ様はステータスというモノをご存知でしょうか?」
「ステータス?」
ステータスと言えばFate/シリーズのアレを思い浮かんでしまったが、流石に違うだろう。
ここでいうステータスとは身長やら色んな肉体的な情報が書かれた個人情報を意味するのではないだろうか?
「この端末はつい最近配布された物ですが、ステータスという概念は元からありまして、それは主に六つに分けられています」
……うん?
「へ、へえ?ちなみにその六つのステータスって何て言うの?」
「はい。それは筋力、耐久、敏捷、魔力、幸運、宝具の六項目になります」
いや、サーヴァントのステータスじゃねえか!?
「筋力は肉体的な力。耐久は衝撃の耐性やスタミナ。敏捷は反応速度や移動速度。魔力は扱える魔力量や魔術の質。幸運は運命を切り開く運気。宝具は所持宝具の強度や危険度を表していますね」
「はえ~……」
「そしてそれらは数値ではなく、最低値Eから最高値EXまでのランクで振り分けられていくのです」
まんま内容通りだな……。ステータスって聖杯戦争限定のシステムかと思ってたけど、どうやらそうではないようらしい。
「ちなみにだけど、クラスとかってあるのかな?」
「クラスとは何でしょうか?」
「うん?例えばセイバーとかランサーとか……」
「クラスではなく、武器の適性情報を言いたいのでしょうか?申し訳ございませんが、クラスというのは私には存じないですね……」
ふむふむ。ステータスはあるけど、クラスは無い感じか。これは重大な情報になりそうだ。
「サンガツ」
「さ、三月……?アッティカ暦ならエラフェボリオンで間違いないですが……」
「ありがとうって意味だよ。サンキューガッツ。略してサンガツ!」
「大分略しすぎてなのでは!?」
「まあ気にしちゃいけないンゴね」
「ンゴって何ですか!?……もう。おかしな御方ですね」
困り顔のポルクス可愛い。
甘いぜ、ポルクス。これで驚いているようでは〇ちゃんねらーへの道は遠いぞ?
僕はこれでも前世ではネットスラングを多用し続けた痛い男なんでね。恐れ慄くがいい。なんつって。
「はいはい、続き説明しちゃって。ポルクス」
「へ?あ、はい!」
お母さんにぞんざいに扱われ、こうしてポルクス教室が始まった。
ポルクスが教えてくれたのは基礎的な用語だ。六つのステータスは先ほど説明してくれたので省略するよ。
この世界には魔力という概念が存在し、それを汲む為の疑似神経『魔術回路』と『魔術刻印』が身体の中に搭載されている。
魔術回路は生命力を魔力に変換する為の疑似神経であり、魔術を行使する為の電池みたいな役割を担う。
魔術刻印は自ら鍛え抜いて固定化された神秘を子孫に継承する為の刻印だ。機能し続ける限り、継がれた魔術を覚えていなくとも行使する事が出来るという。何言ってるかよく分からないと思うけど、要はゲームで言うと『無理矢理技を習得するアイテム』的な存在といえば分かりやすいだろう。ニュアンスは異なると思うけどね。
「説明は以上になりますが、何か質問等ありますか?」
「これらの説明を聞いてあれだけど、結局は闘技場内で何かするのかな?」
「今回は測定ですね。魔術回路の本数とアテナ様の魔術刻印継承の有無の確認。そして各種ステータスの計測。私はアテナ様の補佐と周囲の観察役の為、よろしくお願い致します!」
「よ、よろしく!」
なるほど。体力測定でもする感じねえ……。
「アテナ様ー!」
しかし、魔術回路と魔術刻印の本数及び存在の有無の確認か。
「フフッ。アテナ。どうやらあの子も来たみたいだわ。ポルクス。後はよろしくね?」
「へ?あ、はい。ヘラ様はどちらに行かれるのですか……?」
つまり僕の秘められし力が此処で暴かれるって事でいいんかなあ。
「聞こえますかー!?」
「よく分からないけれど、うちの
「はあ……。行ってらっしゃいませ」
なんかマスターベーション後に僕オリジナルの魔術を行使するとやけに魔力のハリが良いんだけど、僕って魔術回路多いんだろうか。
「我が主神ー!応答しないと今直ぐこの場で泣き喚きます!」
……色々と浸っていようが関係なく土足でズカズカと入り込む阿呆っぽさに、この如何にも能天気と喧しさが混ざり合って擬人化したような女の子の声は知っているぞ。
「出たな!パラス!そしてこんにちは!」
「はい、こんにちは!我が主神アテナ様!
────────パラス。
僕の友人にして男神トリトンの娘。
アレスと戦った後に絡まれて何やかんやあってか今は友達として隣にいるのだが、実はこの子が僕の初眷属だ。
「こんにちは、パラス。トリトン様は元気でしょうか?」
「元気ですよ!最近は船造りに没頭しているそうでして、話が長くて割とめんど────いえ、お話がとても丁寧なお父さんなので思わずお話し中に抜けてきてしまいました!」
「今面倒って言わなかったかしら!?」
「ははは。多分ですが、ポルクス様の耳の中に垢が溜まっている可能性があるので聞き間違いかと!」
「一言余計で喧しいわね、貴女!?」
ほら、見てください。こんなに可愛らしいのに口を開けば意図しない毒舌じみた言葉を余計に付け加えてくる。喧しいでしょう?
喋らなければ美少女なのに、勿体ない。むむむ……。
「ねえ、パラス。横にいる機械って何かしら?見た感じ、セキュリティ用の広域殲滅兵器に見えるけど……」
そういえば横になんかあるけど、壊したら素材落としてくれそうな見た目してるな……。一体何だろうか。
「流石はポルクス様。素晴らしいご慧眼です。こちらはですね。今回の体力測定でお世話になるトレーニング用AI」
そういうと某ゲームのエネミーに出てきそうな丸形ロボットが排熱音を鳴らし、目と思わしき赤色の結晶が僕らに向けて首を上下に一度振って挨拶してきた。
「────センメツ君です」
『命名:パラス。以降、私の事をセンメツ君とお呼び下さい』
……ネーミングセンス、どうにかなりませんか?
【用語説明】
・アッティカ暦
古代ギリシャで使われていたとされる太陰太陽暦。
下記の月が一年の概念であり、アッティカ暦では7月~8月が新年の月として決められていた。
ヘカトンバイオン:7月(新年)
メタゲイトニオン:8月
ボエドロミオン:9月
ピアネプシオン:10月
マイマクテリオン:11月
ポセイデオン:12月
ガメリオン:1月
アンテステリオン:2月
エラフェボリオン:3月
ムニキオン:4月
タルゲリオン:5月
スキロポリオン:6月