古代ギリシャ奮闘 アテナに転生したら処女神ではなく、童貞神でした。   作:アテナくん

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戦闘描写難しいですけど、書くの楽しすぎますね!


第3話 刻を切り裂くパラディオン


12節

体力測定


 

 こうして僕らは周囲を観察しながら奥の方へと歩いていく。

 

 闘技場の中へ入ると、広々とした開放的なエントランスが現れた。

 

「凄いな……」

 

 祭典に特化した場所の為か、何処か神秘的な雰囲気を感じる。

 天井を見上げるや四階層までの分厚いガラス張りが施され、左右の両端には四階層までの道を案内してくれるであろう銀色の螺旋階段。前面には籠の入った松明が一本道を導くようにビシッと置かれていた。

 こういうのもあれだが、修学旅行のような感覚で楽しんでいる。

 

「我が主神。着きましたよ」

 

 パラスが指差す方向にステージがあった。

 アダマスの材質が長さ約2〜3kmまで丁寧に並べられていて、長方形の造りが奥行き感が強調されている。

 

 僕らは階段を登って中心部のステージへと立ち、一人と一柱、そして一機と対峙する。

 

 ……うん?

 

「……もしやだけど、1vs3でもやらされるつもり?」

「いえ。私はあくまで監督役ですのでご安心下さい。アテナ様にはパラスと戦っていただきます。測定は───」

 

『私センメツ君はお二方が戦闘している三十分の間、測定プログラムを以て解析処理し続け、その結果をアテナ様の端末へと送信するのが役割です。よろしくお願い致します』

 

 炉心をドロップしそうなエネミーの癖してよく喋るよね、この機械。ちょっとマスコットキャラ感あって可愛らしいと思ってしまった。

 

「……と、という流れでして。凡その流れは掴めましたでしょうか?」

「台詞取られちゃったって顔してるけど大丈夫?」

「私が気にしてる事を口にしないで頂けませんか!?」

 

 要はタイマンで武技を示せばいい感じか。面白くなってきたんじゃないの?

 

「ッ!我が主神!それはもしかして!」

「そだよー。これは僕の新たな武具たち」

「おお!遂に訓練用の武具から神造兵装に!」

 

 僕はガサゴソと鞄の中を弄ってナノマシン由来の深緑色のインナーをキトンの上から着替え、そこから神体結界(トライ・アイギス)を装備して両手に神器アイギスと 勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)の柄を握った。

 

「これは何という神気……!我が主神に相応しい純粋な光を帯びて感服致しました!」

 

 欲まみれな前世ヒキニートの僕にそれ言っちゃうの?

 

 ……とはいえ、印象づくりというのは大事だ。ハデスやヘスティアみたいに頑張って常識的な神っぽさを装っているが、僕ほど良識的な神はそういないと思うんですよね。はい。

 

「フフッ……。我が主神との勝負、何か月ぶりでしょうか?」

「大分前だから覚えてないなあ。だけどこれだけはちゃんと覚えてるよ」

「それは何でしょうか?」

 

 パラスはこんなのほほーんとした性格だが、オンオフの切替で性格が急に変わるんだ。戦闘中のコイツは本当に容赦無いから対戦相手としては十分すぎるんだよなあ。

 これだから鍛錬ってのはやめらんないぜ。フッ。

 

「そりゃあパラスが強かったって事さ。色濃く覚えているからね」

「ッ!フフフ……!至極恐悦のお言葉でございます!」

「だけど君は僕の信者であり、その主神は僕だ。君は僕を仰ぐヒトなんだ。それは間違いないよね?」

「……?はい、そうですけど?」

「ならば───」

 

 僕は神盾アイギスの先端をガチャンと地面に鳴らし、勝利の神槍(ニケ・サモトラケ)の穂先をパラスへと向ける。

 

 久しぶりに身体を動かすんだ。ならば士気を高めるように───、

 

 

「君と戦って僕が勝つ。つまりはそういう事さ」

 

 

 煽っていこう。

 

 

 僕は微笑むようにしてパラスへと双眸を向けてそのように挑発めいた言葉を放った。

 

「……フフッ。我が主神も分かってらっしゃる」

 

 パラスは両目を瞑って僕に語りかけてくる。 

 

「(あんなに細かったというのに、クリロノミアの肉体成長エグすぎない?)」

 

 両脚と手は長く、細い腰。

 最初はガリガリだったのに手料理やら振る舞えば普通体型に戻れたが、クリロノミアを投与すればこの姿。美貌が更に進化するし、服に関しては大きな豊丘に邪魔されて閉められていない。

 

 しかし、僕が褒めたりすると暴走するし、罵倒すれば変な路線に突っ走るかのように暴走し出す。

 だからだろう。僕の息子が反応してくれない。

 

 そんな美貌を持つパラスだが、実は僕の初めての眷属でもある。

 僕の血液入りクリロノミアを飲み込み、見事に適合しちゃった彼女の力は戦乙女へと昇華された。

 

「挑発して緊張を解そうとしているのでしょう」

 

 パラスはゆっくりと瞼をゆっくりと開き始める。

 

「そして、悪い御方です」

 

 瞼が全開放されると、深海の如し蒼の双眸が僕を見つめると同時に神気を解放してきた。

 淀みなく清廉でまさしく戦乙女のようなクールっぽさを感じ取れるが、僕の身体を舐め回すように見つめてくるのでカッコ良さ半減です。

 

「スゥゥ──────……」

 

 

 パラスはひとつ大きく呼吸している。

 僕の言葉を聞いて、その胸に抱くのは悔しさか怒りか何を抱いているか解らない。

 

 此処で少し脱線しよう。

 

 神には眷属達に『誓い』という誓約を設けている。

 簡単に言うと、『純潔であれ』という誓いを決めたのであれば信者や眷属たちはそれに従わないといけない。だけど、『純潔であれ』という言葉だけでは『愛すべき人以外に性交するな』という意味になってしまうけどね。

 

 そして僕が決めた誓いというのは、『戦う前に挨拶をせよ。不正せず堂々と戦え』という内容だ。

 

 例え不快な相手だろうが、試合開始前に挨拶するのは大事だと思っている。それは僕の前世が社畜兼ゲーマー兼ヒキニートだったからだ。

 挨拶は何だってかまわない。真面目や陽気、なんならチャラけた挨拶でもいい。士気を高めたり緊張を程よく解す目的があるのだが、それ以上に挨拶をきっかけとして交流してほしいんだ。だから僕がオリュンポスの神に至ってから眷属に『戦う前に挨拶をせよ。不正せず堂々と戦え』という誓いを設けた。

 

 これでギリシャ神話通り、アテナは正義や秩序の側面の戦も司る神だと神話的に解釈され、抑止力から危険視されないだろう。ガッハッハ。

 

 

 ああ。ちなみに『不正せず堂々と戦え』っていうのはそのままの意味さ。

 僕が前世の色んなFPSでトキシック(害悪プレイヤー)に出会いまくって苛ついていたという理由でルールを決めた。特に深い理由は無いけど、害悪な言動はやはり不快だから競争するんだったらこういった対策は入れないとね。チートは言うまでもないけど、ゲームする時はトロールや暴言等も駄目ですよ、皆さん。神様からの約束だ。

 

 というわけで、だ。

 前世がゲーマーだったからこそ解ってしまうんだ。

 

「我が名はパラス!深海神トリトンの娘にして戦男神アテナの信者なり!」

 

 堂々たる構えで相手に高らかと名を告げる行為。

 

 それは戦えて光栄だという悦びを示し、信頼あってこそ成立するモノ。

 パラスの口角が若干上に上がっているという事は僕の挑発が響いたのだろう。先ほどまでのほほんとした様子が転じ、戦乙女を彷彿とする真面目な姿勢へと一変した。

 

「貴神との一騎打ちを申し込みたいが、如何か!」

 

 その感情は憎しみではなく、かといって怒りは含まれようが激昂には至らない。プラスかマイナスで例えるならプラスであり、ポジティブかネガティブならポジティブだろう。

 

 しかし、『プラスな怒り』や『ポジティブな怒り』という言葉は存在しない。

 そもそもこの概念及び感情は複雑故に言葉として表すなら曖昧模糊な表現でしか答えられないし、古代ギリシャの人々でも言葉として例えるのは難しいだろう。何せこの感情は下界には未だ無い在り方だからだ。

 そんな感情だが、僕はその在り方を司る者だからこそ知っている。そして僕がオリュンポス十二神として就任した時、その感情の概念は『僕がヒトに授けたモノ』としてオリュンポス内に知れ渡った。

 

 

 

 ───であれば僕が決めた神掟に則り、喜劇交じりに応え(答え)合わせをしよう。

 

 

 

「我が名は戦男神(いくさおがみ)!主神ゼウスと神妃ヘラの子にして軍神アレスと対を為す戦の神である!」

 

『プラスに偏る怒り』とは何たるか。

 

「挑戦者よ!我が信者パラスよ!その挑戦は成長に繋がると保障し、一切の不正が無い事を此処に確約しよう!」

 

『ポジティブな怒り』とは何たるか。

 

「故に!」

 

 

 

 それら曖昧模糊な造語。

 正しく言葉として挙げるなら、そう───。

 

 

 

「この私───!『競争』を司るアテナは、貴殿の一騎打ちに応じますッ!」

 

 

 

 ──────競争心。

 

 

 それこそ僕が司る『戦』の側面。

 ……自称ではあるけどね。

 

「フフッ。昂っていますね、我が主神」

「そりゃあそうだよ。折角パラスと試合出来るんだもん」

「それはもう告白と捉えてもよろしいでしょうか?」

「うーん。頭お花畑かな?」

 

 僕は微笑みながらそう口にし、詠唱を始める。

 

「……別に防御系の魔術なんか必要ありませんのに」

 

 先ほど僕がパラスにかけた魔術は防御系の魔術。

 名称は決めていないけど、敢えて言うなら『守護術式/神体結界(キャスト・イージス)』って所かな?

 この守護術式/神体結界(キャスト・イージス)は僕が独自に編み込んだ魔術なんだけど、言ってしまえば時空連続体干渉の無い、所謂『携帯版アイギス』みたいな効果だ。伸縮自在だし、付与したい人には簡単に付与できる。あくまで肉体の損傷を防ぐだけなのでノックバックは変わらないのがデメリットなんだけど、そこらへんは神器アイギスの権能が全部やってくれる。

 

 ちなみにぶっちゃけると模擬戦で守護術式/神体結界(キャスト・イージス)を付与する必要なんて無いんだが、付与しなければならない理由がある。主にギリシャ神話のエピソード的にもね。

 

「それは駄目だってば。競争とは殺し合いじゃなくて互いに技術を磨き合う行為だから僕のルールに従ってくれ」

「我が主神の御言葉であれば仕方ありませんね。承知しました!」

 

 

 

 僕が殺してしまう(・・・・・・)可能性があるからだ。

 

 

 主にパラスを殺めたエピソードは二つある。

 

 まず、ひとつめ。

 

 ───激戦で高揚したアテナが誤って本気の一撃をぶつけてしまい、パラスを殺めてしまう。

 

 更にふたつめ。

 

 ───敵襲と勘違いして地面に置かれたアイギスの盾を装備したゼウスはアテナとパラスの下へと移動し、パラスが余所見をしてアイギスに飾られているゴルゴーンの首を見てしまい、石化してしまう。

 

 以上の悲劇が起きて悲しんだアテナは『パラス・アテナ』と名乗り、パラスを埋葬した土の上にアテナを模した像を置いたそうな。

 

 様々な仮説が立てられているが、後者が史実で最も色濃く残されているエピソードだ。

 

 実際のアテナの性格なんて知らないし、実際にどうあったか分からないが、ゼウスはアテナに過保護だったとされている事から我儘な性格だったのではと個人的に考えている。

 それならば『大丈夫』だと過信しすぎた結果があの二つの悲劇の何れかを辿ってしまうのであれば少し納得してしまう。

 

 だからアテナという神に転生してしまった以上、安全面は徹底しなければならない。

 ゲームをプレイするには周辺機器が必要であるのと同じように、まずは準備から入るべきだろう。

 

『人払いの結界を施してきました。試合準備、完了です』

 

 僕とパラスの間に先ほどのマスコット系広域殲滅兵器ことセンメツ君が割り込んできた。

 人払いの結界を張るようパラスかポルクスに伝えようとしたが、何とこのエネミーは人払いの結界魔術を扱えるそうだ。何この機械、めっちゃ有能やん。ちょっと可愛く思えてきたかもしれない。

 

「人払いの結界を施してくれてありがとうございます。センメツ君」

『御二方。平温より体温が高まっています。身体を冷たくしますか?それとも温めますか?』

「何故に温めを?私は不要ですよ!」

「……うん。僕も不要だよ」

 

 ……何だろう。

 

 よく分からないけど、可愛くないと思ってしまったのは何故だろうか。

 

「あ、あの。やっぱりセンメツ君って名前を変えても……?」

『喧しい名称を予測した為、却下です』

「却下された!?」

 

 パラスはセンメツ君に却下されたせいか、地面に両手両足を着けて落ち込んでいた。

 

「二人とも試合を前に高揚としていますが、準備はよろしいでしょうか?監督役としてウズウズしているのですが……」

「すいません、ちょっと待ってください!」

 

 そう思っているとポルクスも僕らの間に割り込み、気が付けばパラスはケロッとした表情で立ち上がっていた。

 

 それにしても審判役がポルクスで良かった!これで『乱入者によるバッドエンド』は回避出来たかな?

 

「戦男神アテナに奉る。───来なさい」

 

 パラスがそう唱えると、空から槍が青い粒子を放出しながらやって来た。

 僕らの方へ飛んでくると減速し、パラスの右手に装備される。

 

 説明し忘れたが、この世界の霊脈には神造霊脈と呼ばれる霊脈がもう一つ別で存在する。そっちは神が管理しているんだけど、普通の霊脈とは質が異なったモノだ。

 

 そう。神造霊脈には特殊な力が宿っている。

 

 その神造霊脈に干渉するには十二種類のうち一つアクセスキーを行使しなければいけないが、アクセスキーとは僕らオリュンポス十二神の名前を示す。

 君たちはゲームを初めてプレイする際にタイトル画面等で何やら利用規約に同意させられたと思うが、要はあれを詠唱として組み込んだものだと思ってくれれば解りやすいだろう。先ほどパラスが僕の名前を口にしたけど、あれがアクセスキーだ。こうしてパラスは霊脈の干渉を無事に終えて魔術を行使出来るのだが、僕らはその前提の詠唱を神約詠唱(テオス・アクション)と呼んでいる。

 

 私は〇〇神に誓って霊脈を不正利用しません的な同意を毎回詠唱挟んでしないといけない為、人々は大変だろうけどね。ルールはルールだからそこは従おう。

 

 どのように詠唱すればいいかというと、僕の信者であれば『神アテナに誓う』とか、アレスの信者であれば『神アレスに誓う』といった詠唱と言葉にすればそれだけで霊脈に繋げられる。

 ぶっちゃけると敬いの言葉であれば何でもいいらしい。『◯◯神に奉る』や『◯◯神に〜し給え』とか。

 

 うん?よく分からない?

 

 例えば衛宮士郎が行使する投影魔術の詠唱は「トレースオン」だが、これは魔術を起動する詠唱であり、神への誓いではない。

 口にするのであれば、「戦神アテナに誓う。トレース、オン」といった感じで零節目に神への誓いの言葉を口にする。これが神約詠唱(テオス・アクション)だ。

 

 ちなみに僕は誓われる側の神様だから神約詠唱(テオス・アクション)無しで直ぐに霊脈にシングルアクションでのアクセスが可能だ。

 もっと詳しく言うのであれば、僕にはオリュンポス十二神として昇華された神核を持つ為、必要であれば自然現象だって操作出来る。オリュンポス十二神の福利厚生凄すぎ。

 

 と、長話が過ぎたね。

 ここで神約詠唱(テオス・アクション)の説明は終わりにしよう。

 

 そんなことあって今のパラスは魔術が使える状態であり、追尾機能の槍を魔術で呼び寄せた。

 

「久々に見たな、その槍」

「そうですよね。この日の為に手入れしておきましたの」

 

 パラス曰く、いつの間にか手元に握っていたという謎多き武器。

 群青色の長い()の先には黄金色の口金(くちがね)が装飾されていて、球状の丸まった穂と接するのは大きな刃。

 外面を群青色が刃の先端まで行き届き、内面を水色がコーティングされている。

 

 トリトンのような水の海では無く、星が点々と散りばめし宙の海を表し、刻を裂くようにして次元の果てまで一瞬で突いてきそうな槍。

 

 

 名を───、宙の槍(パラディオン)

 

 

 史実であれば戦女神の石像(パラディオン)を意味するのだが、この世界では槍の名らしい。そして型月世界でもパラディオンは合体宝具として登場している。

 

「それでその槍の製造者って分かったの?」

「それが全然分からないんですよね。この槍をくれたトリトンお父さんも分からないって言ってますし。」

「……僕のお父様がこっそりあげたとかはあり得そうだけど」

「確かに……。でも、ゼウス様は何かしら口で言ってくるので、ゼウス様ではないでしょう。まあ、考えてたら日が暮れてしまいます。失礼を承知の上で申し上げますが、今日こそ勝たせていただきます」

 

 パラスが何やら謎めいた発言をしていたが、今は考えるのは無しだ。

 僕は挑発的に嗤い、『勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)』と『神器アイギス』を構える。

 

「パラス、僕も準備完了だよ」

「それじゃ──、行きますよ!」

「よぉしっ!」

 

 さて、と。

 僕が決めた誓いに則って口にしますか。

 

「「対戦よろしくお願いします!」」

 

 互いに挨拶は交わされた。

 僕らは離れ、神器アイギスを端っこにおいて槍を構える。

 

 そして───、

 

「試合、開始ッッ!」

 

 ポルクスの掛け声で試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


13節

戦男神と戦乙女は舞い踊る


 

「はぁぁっっ!!」

 

 ──────先手はパラス。

 

 宙の槍(パラディオン)の神秘的な穂先が我こそ貫かんと主張するように睨み、アテナの懐へと一気に攻め入れる。対するアテナも勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)の穂先を向けて対応するも、パラスは紙一重で回避し、勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)を直ぐに弾いて宙の槍(パラディオン)で突く。

 

 アテナは穂先で防御するも、パラスは軌道を変えた。

 

 勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)の口金部から穂まで刃が擦れて火花が散っていき、柄の部分まで辿り着くとアテナの視線がそちらへと向く。

 

 パラスはそれを好機としたのだろう。宙の槍(パラディオン)を前方に放すと軽く跳躍し、アテナの顎目掛けて左の拳で殴り掛かった。

 アテナはパラスの拳を回避して無防備の状態を胸元へと突かんとする時、パラスの右手が空へと伸ばされ、天を挙げ、手が広げられるや一小節を口にする。

 

「戦男神アテナに奉る!」

 

 ────神約詠唱(テオス・アクション)

 

 神造霊脈へとアクセスする為の鍵となる詠唱。

 大元のオリュンポス神なら詠唱せずに干渉できるが、この世界の霊脈はオリュンポス神が管理している為、それ以外の者が霊脈を使用するには神への誓い────神約詠唱(テオス・アクション)を唱えなければならない。

 

 

「───意を示す宙の槍(ヴァリアシオン・パラディオン)!」

 

 

 宙の槍(パラディオン)に備えられた自動迎撃機能(オートディフェンサー)が働き、宙の槍(パラディオン)がパラスの上空へと止まる。

 

 そして、穂先から青白い魔力の弾丸がアテナ目掛けて雨のように射出された。

 

「クッ!」

「フッフッフ……!この猛威、頑張ってください!」

「おまっ!?安全圏からネチネチと───おいいいいいいいッッ!?何発撃ってくるんだよ!?」

「光弾は我が主神の愛で満たされたいが為、果てはありませんよ?この光弾は無限に射出し続けますとも!」

『 光弾の数を演算しました。手前に474発。奥に526発。その数、計1000発と予測。 』

「我が主神の神造兵装様は黙っててください!」

 

 無限───ではなく、1000発もの弾丸。

 

 アテナは蛇行して数百発の弾丸を避け、衝撃で形成された砂塵で姿を暗ませながら疾走する。

 

「ああ、もう!ダルい!こうなりゃ権能使うしかないか!」

 

 やはり弾丸が厄介だと思ったのか、表情を鬱陶しいそうに少し歪めていた。

 

怪力の権能(イデス・クリロノミア)、限定申請」

『 承認。濃縮型魔力光弾の半数破壊を未来予測。/守護の権能(アテナ・クリロノミア)の付与を推奨。 』

「残りの光弾は槍で何とかなるから必要無いよ」

『 承りました。 』

 

 アテナは疾走しながら何かを発するが、さながら苦労人の如し面倒そうな表情を浮かべる反面、何処か獰猛さを含んでいる。

 

「あ、あいつ……。笑ってやがる。安全圏から高みの見物かよ。凸砂ならまだ可愛げがあるのに、芋砂(イモリスナイパー)気取りやがって。くそぅ!ギャフンと言わせてやるから後悔するんだな!」

 

 生命維持を司る人体の唯一にして無二の部位。

 1cm未満のホルモン生成機関───、副腎。

 

 その内核に位置する髄質は今、激情に駆られていた。

 

 肉体負荷によるストレス。歓喜。或いはその両方か。何れにせよ闘争心を滾らせる熱意は脳から交感神経へと指令が下されていく。それはまさに人間らしい本質を射る解答であった。

 

 ──────報復せよ。

 

 交感神経は反旗を翻すかのようにアドレナリンを次々と生成し、拡散させる。身体全体の血中を伝い、約37兆個相当の細胞が一斉に活気を震わせた。

 

 抗え。押し通せ。

 戦に於いて己の肉体を制御する装置は不要なれば、ただ一点。

 

「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ────―」

 

 アテナは突然、息をこれでもかと吸う。

 

「(……何をするつもりです?)」

 

 叫び立て、吼えろ。叩きのめせ。

 

 生意気な小娘を引っ叩きッ!

 小生意気なメスガキを分からせるべくねじ伏せろとッ!!

 

 そう訴えるように、戦男神(アテナ)ッッ!!

 

「芋砂はよ出てこんかいゴルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア──────ッッッ!!!!

 

 

 意気衝天に、怒号───ッッ!!

 

 

「んな───ッッ!?」

 

 耳を塞ぎたくなるような咆哮。

 

「光弾が破裂したというの!?さっきの叫び声で!?」

 

 アテナが叫んだことにより、474発の内の半数の光弾が咆哮で破壊してしまう。

 

「はいはいはいはいはいはいはいはいはいィィィィイイイイイイイイイイ!!!!」

 

 猛攻は止まらない。神に叛逆する光弾を誰が赦そうか。

 

 ──────否。

 

 アテナは蛇行しながらジャグラーの要領で勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)を振り回し続け、残りの光弾を槍で破壊してしまう。

 

「(やってる事、アレス(・・・)様の叫びのようなものだ!?……何と出鱈目な。でも、だからこそ───)」

 

 最後の光弾。

 

 アテナは蛇行せずに直進して光弾がレーザーを発射する前に槍を突き穿つと、光弾がそのまま爆発して無くなり、衝撃で砂塵が空中を舞う。

 

 そして砂塵の中、現るは神。

 向けられるはただ一人であり、無論、眼前に迫るパラスただひとり。

 

 対する戦乙女も獰猛な笑みを浮かべるや槍をアテナへと向け、

 

「(───超えたい相手ですッ!)」

 

 超えたいという思いを胸に抱えて突き穿った。

 

「シィッ───!」

「させませんよ───!」

 

 激突。

 

 鋼鉄の音が鳴り響き、軽い衝撃波が生じる。

 互いの槍が身体を突く事なく、刃の先端へと止まってしまうも、パラスの判断は早かった。

 

「やあああああああ!」

「!」

 

 パラスは右手に宙の槍(パラディオン)が収まるやいなや、奮い立たせるように叫んでアテナの胸部へと突くが、これも難なくアテナの槍の穂先で受け止められる。

 

 神造兵装の刃が再び互いに接触し、鋼を打つ音が周囲に鳴り響いた。

 

キィン!カァン!キィン!コォン!カァン!

 

 四方八方、繰り返される攻防。秒単位で続き、交差する残光はまるで流星のように煌びやかだ。

 様々な方向から槍の連撃が繰り出されようとも優劣の様子は見られず、それどころか両者に勢いが増す一方であった。

 

「せぇいっ───!」

「しぃっ!」

 

 競争を愉しみ、互いの槍に込められた圧は次第に重みを増していく。アテナとパラスは互いに槍を突き振り合っていた。

 

「じれったい!」

「ッッ──────!?」

 

 アテナは規格外の膂力を振り絞って拮抗し続けるパラスの宙の槍(パラディオン)を押し通し、まるで上空へと放り出すかのように彼女を突き上げた。

 

 空中に放り出されたパラスは逆風を受け、黄金色に結ばれた髪が激しく揺れ動いている。パラスの四肢は無防備に開かれているが、それは空気の摩擦や抵抗に逆らえないという物理的な理由ではない。

 

キィン!カァン!コォン!

 

 アテナによる奇襲をどの方位からでも対応できるよう敢えて四肢を広げていたからだ。故にパラスはアテナの槍による突きの攻撃を宙の槍(パラディオン)で防いで往なす。

 

 だが、そんなやり取りがあろうにもパラスの身は未だ空中に在る。

 流石は神の力といったところだろうか。1,5kmから2kmまで飛ばされた為、着地に時間がかかるだろうと理解していた。

 

 ならばその間にも奇襲は続くだろうとパラスは予測し、空中で一回転して体勢を立て直す。

 その予測は当たってアテナが襲撃するのだが、パラスはアテナの腹部目掛けて回し蹴りで攻撃し、次に踵落としの要領で頭部を狙った。

 

「随分と乙女らしくない武闘家めいた空拳を!」

「せぁぁァァッッ!」

 

 アテナは皮肉気にそう叫ぶと、短文で詠唱を始める。

 十二神として新生したアテナは大元の神である為、神約詠唱(テオス・アクション)をする必要無く魔術を行使する。

 

追尾(スイッチオン)ッ!」

 

 大源たる自然魔力(マナ)を燃料として神秘や奇跡を降ろす機構。

 普通であれば魔術回路が枝分かれするように発光するが、アテナには発せられなかった。

 

 そんな不思議な現象が瞬く間に終わると、アテナの下へとやって来たのはフィールドに置かれていた神器アイギス。この盾も宙の槍(パラディオン)と同様の追尾機能を搭載していたのだろう。パラスの蹴りは神器アイギスによって防がれてしまう。

 

「くっ……!」

 

 神器アイギスは再びフィールドの角へと置かれ、防御から攻勢へと入るようにアテナが連撃を入れていくと、パラスが若干苦しそうな声を挙げていた。

 

 しかし、それでもパラスは止まらない。諦めない。

 劣勢だろうとも根を曲げない性格が彼女の根源的な強さであり、美点だ。

 

 押し通せないなら更に押し通せばいい。

 一手を防がれたのなら二手を踏むべし。

 

 そのように今までやってきた。

 

 まさしく脳筋かつ大胆。そして前向きすぎる在り方。

 秒単位で構築される戦略にパラスの前向きな精神力が混合され、神器アイギスの隙間を狙うようにして突く。

 

「せぃゃッ──────!!」

 

 流麗で穢れのない一突き。

 歪み無く残光が直進する純粋な槍捌き。

 

 ──────まさしく傑出された業だ。

 

 しかし───、相手は神。

 その突きも勝利の神槍(ニケ・サモトラケ)の口金部で防がれる。

 

「(相変わらず力が強い……!愛らしいですが、華奢な身体で何という怪力なんでしょうか!)」

 

 アテナは華奢だが力が凄まじい。

 筋肉に力を振り絞れど全く動かない様子はまさしく不動といっても過言ではない。

 

「グッ……!ッッ!」

 

 パラスは力で圧されてしまい、パラスは宙の槍(パラディオン)を往なされると同時に地面へと叩きつけられた。

 

 だが、そんな一撃を与えられようとも、パラスは不敵な笑みを浮かべるやアテナを見つめる。

 対するアテナも着地するや微笑みながらパラスを見つめていた。

 

 競争心を滾らせ、勝つと謂わんばかりの闘気。

 熱意が双眸へと伝わり、まるで意思表示するかのように睨み合いが続いて十秒。

 

 砂利の鳴り響く音が静寂を打ち消した。

 

 両者互いに次の戦略が一致するように槍を側面に構えて肘を後ろへ集束し、足を引き摺るように両脚を広げ、膝を曲げて武器を敵へと向けられる。

 

 そして───、両者の姿が消えた。

 

 否。

 

 其れは姿を眩ませたのではなく、鍛え抜かれた一般人以外では肉眼に捉えきれないごく普通の移動。故に幻術等による(まやか)しでもない。

 

 跳躍の構えから凡そ1,25秒。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 刹那──────、

 

 ──────神速の間合。

 

 

 

 アテナは上から槍を振り下ろすように穿とうとし、対するパラスは下から突かんとする。

 

 まるで天と地を対比するような戦。

 神と人が織り成す競争滾りし劇場。

 

 両者の刃が互いに交じることで───。

 

「やああああああ!!」

       「はああああああ!!」

 

 

 

轟──────ッッ!

 

 

 

 ──────大破ッッ!!

 

 

 

 周囲は衝撃波によって瓦礫ごと吹き飛び、二度目の接戦は再び少年少女へと下った。

 互いの槍の突きが残光を発し、ただ鋼が衝突し合う音だけが響いていく。

 

 言の葉は紡がれない。

 両者は笑ってこそいようが、その瞳に一切の驕り無し。

 

 神が試練として立ち塞がるならば、それを踏破してこそが人であるが故に。

 

「ぉぉぉぉおおおおおおおお──────ッッ!!」

 

 戦乙女は、必死に進んでいく。

 

キィン!カァン!キィン!

 

 槍を突いては神が柄で守り、隙あらば神も槍を突いて戦乙女が柄で守る。

 

カァン!コォン!キィン!

 

 まるで意地を張るかのように進展せず、互いに均衡状態が続いていた。

 

 しかし、その接戦は束の間。

 神代の世界の日常が転調で紡がれるように一柱の策略で変えられ、転調が始まる。

 

 槍と槍が接触し合っているという事は、槍の穂先にエネルギーを集中させるべく身体が前へと押されている状態にあるとアテナがそのように考える。

 アテナが勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)を握る力を緩めると、パラスの身体が前傾へ崩れてしまった。

 

「なっ……!?」

 

 

 

 ──────重心(バランス)の崩壊。

 

 

 

 拠り所にかかるエネルギーが無くなる事でパラスの身体が前面へと倒れていく。

 アテナが一時的に槍を握る力を緩めたのもパラスの重心を崩す為の戦略なのだろう。アテナは勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)を再び握る力を強めると、パラスの腹部目掛けて槍で突いた。

 

「はぁぁぁぁああああ───ッッ!!」

 

ガキィィィィンッッ!

 

「グ───ッゥゥゥ……!」

 

ドオオオオオンッ!!

 

 空気を震わせる轟音が響いた直後、最早逃げ場なんて無い神の一撃がパラスを捉えて衝撃で地面に吹っ飛ばされていき、眺める様にしてアテナも地面に着地する。

 

 あまりの衝撃で周囲に砂塵が生じてしまった。

 視界は砂塵に遮られ、重圧的な力の圧を見せつけられたことによって静寂が場を()していく。

 

 砂塵が生じ、四方の風に吹かれて霧散するまで凡そ20秒。

 晴れた先、そこに映るのは戦乙女。

 

 

 堂々とアテナを見つめるパラスの姿があった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「元気そうじゃないか。それともやせ我慢かな?」

「そういうアテナ様こそ余裕そうですね」

 

 宙の槍(パラディオン)の柄を両手で掴み、地面に突き刺さっている刃を引っこ抜いて両者は再び睨み合う。

 

「流石に貴方様の全力にはこうしないと防げませんでしたのでね」

「……あの一瞬で魔力を放出し、防御姿勢へと瞬時に切り替えたって感じかな?」

「ですが、荒業なので必死でした」

 

 アテナが勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)で穿つ間際、パラスは瞬時に宙の槍(パラディオン)の柄でガードしていたのだ。

 

 魔術的な防御が施されているので身体に支障は無いが、ただ着地しても『アテナに吹っ飛ばされる際に生じた接触力』には流石のパラスでも身体は耐え切れず、筋肉の酷使による疲労と痙攣という反動が伴ってしまう。

 パラスは疲労と痙攣を少しでも無くすべく、吹き飛ばされる間に身体を真下の地面へと向け、守護の権能(アテナ・クリロノミア)を以て疑似神経ごと全身を身体強化して両腕から魔力を放出し、抉り穿つ要領で宙の槍(パラディオン)を地面目掛けて全力の投擲を行った。

 

 接触力(エネルギー)には接触力(エネルギー)を。

 

 突き飛ばされた接触力(エネルギー)を殺すには、槍を全力投擲した接触力(エネルギー)で『相殺』するしかないのだと。

 

「私は守護の権能(アテナ・クリロノミア)を用いた身体強化と魔力放出を行使し、着地点目掛けて宙の槍(パラディオン)を全力投擲する事によって『衝撃』の反動を抑えたのです」

「……まるで漫画みたいな出鱈目じみた芸当をやってくれるね。ほんと」

「我が主神?漫画とは?」

「いんや?何でも無いよ」

 

 接触力同士の相殺による身体損傷(ダメージ)の無力化。

 相殺こそしていないが、結果として地面との衝突時にかかる肉体への負荷を緩和する形で着地出来たという。

 

「(……やっぱり腕は少しだけ痙攣している。我が主神の力、恐るべしですね)」

 

 とはいえ、相手は神。パラスの両手は微かに震えていて、痙攣していた。

 

 接触力に注力して物理的に衝撃力を緩和させるというテクニックは一見すると筋が通っているように見えるのだが、内容は出鱈目な武芸で成り立っている。

 

 まさしく、荒唐無稽の武技。

 神話の世界だからこそ為せる絶技。

 

「全ての力なんて大層な言葉だと思ってたけど、こう見ると異次元だな。パンクラチオン」

「これも御身から賜りました術ですので、こうして大事に極めております!」

 

 

 ──────その名も、パンクラチオン。

 

 

 古代ギリシャ語で『Pan(全て)』『Kratos()』と書き、『全ての力』を意味する。

 

 指を噛んではいけない。目を突いてはいけない。

 二つの誓約を守るのであれば全てが黙認されるその業はまさしく無法の極致。

 

 肉食動物が草食動物を捕食する際、手っ取り早く栄養を吸収すべく肛門から内蔵を引きずり出すように残酷な戦略を以て牙を突き立てる事があれば、群集して盾のように跳ね除けるものだっていよう。パンクラチオンは何も幻想的な概念ではなく、誰でも行使できるというのが魅力の一つだ。

 もしかしたら武だけで光線を放てるかもしれないし、鍛えればエーゲ海を真っ二つに割れる事だって可能かもしれない。

 

 そう。───パンクラチオンこそ根源的な力の源である。

 

「鹿は一撃離脱の刺突を見せる俊敏の動物で、熊は全てを喰らう力の神秘。その両方を合わせたのがパンクラチオンであると。御身は大分前、そのように仰いました」

「フッ。懐かしいな。つまり、そういう事だね?……あれ?そんなこと言ったっけ?

「ええ。そういう事です」

 

 パラスがそのように語るや一呼吸し、

 

「であれば、神の一撃ッ!喰らいては防ぎ切りましょう!」

 

 ──────青い双眸を眼前の神に向けて高らかに吼えた。

 

「……やっぱり最高だよ。パラス。ならば此処は神らしく、僕も昂るように声を挙げるべきか」

 

 アテナは微笑むように呟くと、勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)の石突部を地面に強く鳴らして口を開いた。

 

「───よくぞ吠えた!ならば凌ぎ切って打開してみせるがいいッ!!」

「はいっ!」

 

 アテナはパラスの方へと疾走。

 

「はぁぁぁぁああああッッ!!」

 

 槍を胸部目掛け───、穿つ。

 アテナは柄で防ぐと力尽くで上に弾くが、パラスはその先を征かんと吼えるように連撃の槍さばきを魅せた。

 

「やるね!多彩じゃないか!」

「お褒めにあずかり光栄です───っと!」

 

 槍が主軸ではあるが、時に剣のように薙ぎ、時に槌のように振り落とす。

 

 突き。薙ぎ。振り。

 

 どれもこれも戦士として卓越した業の数々だ。

 未だ神の身に届かずとも、神に追い付かんとする技術は気概含め英雄の気を感じ取れる。

 

「せぇぇぇい!!」

「はああああ!!」

 

キィィィィン!

   コォォォォン!

 

 そして槍の連撃が十を超えるとアテナが痺れを切らしたのか、力で勝負に持ち掛けた。

 パラスが槍の柄で防御するや、それは始まる。

 

 神の意思の下に始まるは一つの試練。忍耐で凌ぎ切る耐久戦にして意地を押し通す冷戦。

 

 

 ──────鍔迫り合い。

 

 

ジリッ……!

     ジリッ……!

 

 言の葉は無く、交わす事も無い。

 槍の刃から火花散らす音が場を支配し、神の赤き双眸と戦士の青き双眸が互いに睨み合う。

 

 だが、そこに殺伐とした雰囲気は無い。それは両者の口を見れば明白だろう。

 何せ、微笑んでいたのだから。

 

「ハァァァァァァアアアアアアアアアア!!」

「ヤァァァァァァアアアアアアアアアア!!」

 

 両者の我慢が途切れる事で鍔迫り合いから攻めへと転じた。

 

「ハァ……ハァ……。フフフッ……」

 

 十分以上は経過したのだろう。白熱する戦いに熱くなり過ぎた影響か、パラスの身体にほんの少しの湯気が立ち上る。

 

 しかし、戦乙女は伊達に非ず。

 自らを鼓舞するべく、己の信念を念じて吠えた。

 

ゥォォォォオオオオ……!

 

 突け。

 

オオオオオオオオオオオオ!

 

穿て。

 

「ォォォォォォリャァァァァアアアアアアアア!!」

 

 

 ──────突き穿てッッ!!

 

 

 熱意を戦意へと。

 天上に吼え、眼前の敵を穿つべしと宙の槍(パラディオン)を突き続ける。

 

キィン!カァン!キィン!

     コォン!カァン!キィン!

 

「そらそら!どうした、パラス!その程度か!?」

「余裕ぶってますね!此処からが本領発揮ですよ!」

 

 闘技場の中心に建てられし劇場にて、一柱と一人。

 

「ハァァァアアアアアアア!!」

「リャァァアアアアアアア!!」

 

 

ドオオオオオオオオオンッ!!

 

 

 ──────戦男神と戦乙女は舞い踊る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


14節

魔術回路


 

 凄まじい苛烈な競争だ。

 権能という概念を行使している為か、周囲が地面へと伝わって揺れ動く。

 

 私の視線の奥にアテナ様とパラスが捉えられているが、なんとも楽しそうだ。

 

「ふぅんぬぁぁぁぁ!!」

     「せりゃはぁぁぁぁ!!」

 

 双方の表情を見れば笑顔だってのは理解していた。

 

「……むう。私の気持ちも知らないのに楽しそう」

 

 だけど、何故か喜べない。

 戦いを眺めていると心の奥が針でチクリと刺された気分になる。

 

「きっと私が陰気だから、でしょうね……」

 

 ……神も人間も嫌いだ。

 

 私と兄さまがレダお母様の胎内から産まれてきたのは確実だ。

 

 でも、私は出産の中でも特別だった。人としてなら異常の産まれ方だろう。

 

 私は子宮に成す卵の中から産まれ、兄さまは卵の中ではなくて子宮から直接産まれた。

 子宮で産まれるのは人間という生命体として極普通の出産方法だ。

 

 運命とは残酷なものです。

 

 私は神の血を有しているのに、兄さまは純粋な人間の血を受け継いでいたのだ。

 別に人間の血を総て受け継いだっていい。私たちが一緒にいれればそれだけでいいのだから。

 

 だが、神の血を有しているという理由で兄さまと切り離された。

 

 神の血が注がれているか否かで家族を平気で切り離す神々はこうも愚かなのかと叫んでしまう位に私は激情に駆られていました。

 人間の非力さは知っていよう。ならば何故、なんで人間の兄さまと切り離したのでしょう。

 

 諦めたくなかった。

 神々は人間を慈しんでおり、私が努力すれば叶えてくれるのではと。

 

 私は歳を重ね、死に物狂いで学業に励んで修了した後、私はゼウス様に懇願した。

 

 

 ──────それでも駄目だった。

 

 

 レダお母様の一族には『神の血を持つのであれば神の都市に引き取られる』という誓いを神々とで果たしてしまった以上、決まりを守らないといけない。

 

 会いたいだけなのに。それなのに、何故?

 

 神の血を継ぐか否かで切り離されるし、出生が違うだけでこうも運命が変わるというのか。会いたいと伝えても肉親の兄さまには会わせてくれない。

 

 人間に力なんてない。ましてや純血ともなれば実力を示すしか手段が無い。

 非力な人間たちの純血のせいで兄さまの縁を引き裂き、神々が力づくで兄さまとの縁を途絶えさせた。

 

 人間よ。見ているか。お前たちが非力だからこうも容易く愛しい者が連れ去られるのだ。これからもお前たちは成す術なく『神』という愚かな力の権化に蹂躙されてしまうだろうと。

 

 そう思い───、それでも耐えられなかったのだろう。

 

 

 人間!お前たちが非力だからッ!こうなったんだッッ!!

 

 

 私は恨み言を撒くように叫んだ。

 それが奇矯な行動であると自覚していても、己の奇行を止めようとはしなかった。

 

 頑張ったのに。兄さまについての過去を蓋に締めたというのに、認められないってどういう事だと神に言ってやりたかった。だが、主神に意見を伝えては神罰が兄さまごと下される危険性がある。それゆえに言えなかったのです。

 

 所詮は血統。

 

 産まれた時点で人生が決まる魔術師と同じように、神もまた決まってしまう。

 

 こうして私は、神と人間に憎しみを抱いた。

 憎い。嫌い。今でも兄さま以外の奴らなんてどうでもいいと思っているし、何もかも不条理な運命そのものに嫌悪感を抱いている。

 

 そう考えている時、戦闘中のアテナ様と目が合ってしまった。

 何を考えているかわからないけど、そんなアテナ様はニッコリ笑って人差し指と中指を挙げてVの字のサインをこちらに向けている。

 

 ……調子が狂う。

 

 己の裡を渦巻く悲しみや憎しみの念が浄化されたような気分だ。

 憎んでいた筈の自分が本当におかしい。そんな自分をおかしくさせた原因こそ奥にいる神だが、それらの負の感情を無くさんとする要因がそこにはあった。

 

 ずっと眺めていた結果、私はある部位に惹かれてしまう。

 

 そう。───あの瞳だ。

 

 すべてをやり切れると豪語したげなあの瞳を見ていると、人から神に成りあがった程度で思い上がるなと正面から罵倒してやりたくなるが、それ以上に私の身体が底知れないナニカを熱く滾らせるのです。

 

 兄さまとの思い出は全部閉まった筈───。だというのに。

 

 あの御二方の戦いを見て、私も変われるんじゃないかと。

 まるで蓋を無理矢理こじ開けられるように、『兄さま』に会いたいという望みを抱いてしまった。

 

「ねえ。センメツ君。私───いえ、私たちって運命を変えられるかしら?」

 

 私は思わず隣で計測中のセンメツ君に声をかけてしまう。

 

『対話ユニットを並列起動。確証はございませんが、神格者アテナには異能を有しています』

「異能?」

 

 その単語を聞いてか、私は思わず首を傾げてしまった。

 何せ異能なんて概念は聞いた事が無いからだ。

 

 異能とは異端の力。即ち、普通の人では到達できない卓越した力を意味する。

 

『計測完了。計測完了。宝具を除くパラメータをクロノスオーダーへと送信致します』

「え?はい?えぇ?」

 

 私は神造端末(クロノスオーダー)をすぐさま開いてアテナ様のパラメータを閲覧すると、その表記を見て驚いてしまった。

 

『異能とは根源から外れた力を有すと主神格ゼウスが仰っていました。もし貴女方の運命が決定されているのでしたら───』

 

筋力:A++ 耐久:EX 敏捷:B-

魔力:E 幸運:C+++ 宝具:計測中

 

 これだけでも規格外だが、問題はこれにある。

 何せあんなとんでもない防御魔術を施したというのに魔術回路の本数は───、

 

 

『───きっと、覆せるでしょう』

 

 

魔術回路本数:0 魔術刻印継承:No

 

 

 ──────0本(ゼロ)なのだから。

 

 

「なん、で────?では、どうやって魔術を───……?」

 

 魔術回路とは、単に魔術を発生させる為だけの擬似神経ではない。

 生命力を魔力に変換したり、自然に存在する大源(マナ)から魔力を汲み取れる役割も担っている。例えるなら『井戸』のようなものだ。

 

 では───、何処から魔力を汲み取っているの?

 

 仮に小源(オド)として変換するものなら痛みのあまり表情が歪む。

 アテナ様の表情から察するに寿命を対価とするような魔力変換は無いだろう。

 

 いや。そもそも前提が間違っている。

 ───魔術回路が無ければ『魔力変換』なんて出来ない。

 

 私は『魔術回路が無い』という事実を知り、絶句してしまった。

 意味がわからない。最早生きていけるのかすら分からない。

 

 だけど、そんな私でも違和感を感じた。

 

「アテナ様……、一切汗をかいていない……?」

 

 過度の運動をすれば誰だって汗をかく。

 パラスを圧倒しているにせよ、元々は人間。適度に運動をすれば排熱するように汗をかくのが当然だ。無論、この私もです。

 

「汗……、体液……。魔力供給……」

 

 もしかしたら───。いや、あり得ない。

 同時に魔力回路無しで魔術を発動するアテナ様を見てしまった為か、あり得ざる空想が現実味を帯びていたので思わず唾を飲み込む。

 

「(ヘラ様とアテナ様が冗談交じりに喋っていたあの言葉……)」

 

 

 ───僕、男なんだよなあ……。

 

 

 老廃物を含む体液には魔力が含まれ、その中でも精液内の魔力が濃いとヘラ様が仰っていた。

 我らが父ゼウス様は下界に降りては女性に胤を注いでいるというが、その目的は次代の英雄を産みだし、更に魔力を供給する為に行われているという。

 

 仮に私の考察が現実だとすれば『魔力:E』というパラメータは真実であり、嘘でもある。

 本当のパラメータを記載するのであれば───、

 

「無限や計測不能って事よね……?」

 

 魔術回路の代わりが体液。

 

 

 ───それは実質、無尽蔵ともいえるだろう。

 

 

「いや、無理矢理な考察はやめましょう。今を一生懸命に歩んでいるアテナ様とパラスに失礼ね」

 

 そんな状態でもアテナ様はああして必死どころか笑いながら障壁と向き合っているんだ。

 

 誰にも心を開こうとしなかった、あのパラスでさえも変えてしまう彼の在り方。

 魔術世界の根底を滅茶苦茶に崩しそうな彼が突然「異世界からやって来ました」と言われたら不思議と納得してしまうだろう。

 

 センメツ君がそう言うのなら……、ええ。

 

「頑張ってやろうじゃない。───運命は私たちが導く!」

 

 私はそのように高らかに宣言した。

 そしてキビシスに眠っている星の光剣(ベータ・ポルクス)を取り出し、言葉を紡ぐ。

 

「我らは星。空にて輝くもの。────導きの星としてこの光を貴方たちの裡に」

 

 刃の先を地面に着けて柄を両手で優しく握り、両者にこれからの祝福があるように祈り始めた。

 

 

 

 

 

 

『宝具発動の兆しを確認』

『宝具のステータス計測を始めます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方様の権能を使わせてもらいますよ、アテナ様!」

「僕の権能を使うというのであれば、全力で抗え!本気でかかってこい!」

「言いましたね!分かりましたとも!───守護の権能(アテナ・クリロノミア)、臨界しなさい!」

 

 パラスを白い光が覆う。

 

 ───負けてたまるものか。

 ───肉体を維持し続ける自分らの方が上なのだと。

 

 そう主張するかのように細胞は全力で血中を奔り、成長し続ける。

 

 パラスは体内にて希釈された守護の権能(アテナ・クリロノミア)を発動させた。

 

 アテナは転生者であるが故に大権能をそのままその身に同期出来る。

 だが、他の旗艦や神であればその負荷故に廃人もしくは爆散しかねない為、こうして希釈されている。

 パラスの血中を駆ける守護の権能(アテナ・クリロノミア)は負荷がかからないよう大幅に希釈されている為、肉体強化の手段でしか使えないが、パラスにとっては有難い恩恵。

 その恩恵を授かって頂いたアテナを仰ぐ信者として、ライバルとして、負ける訳にはいかなかった。

 

「───我が主神。宝具をぶつけますのでお覚悟を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


15節

少年少女の本気


 

 外宇宙の最奥にて、滅ぼされた母星を見つめる者がふたり。

 無残に引き裂かれ、火傷の跡が目立つ機体は最早まともに動けず、もう一匹の褐色肌の女性によって両手で円型のパーツを大事に抱擁されていた。

 

「……。敵のあなたが、何故このような真似を?」

「分からないな。一切。お前を見る度に私の中枢が鼓動するのだ。一体何故だろうな」

「知りませんよ。そんなこと。母星を滅ぼされた私に快感でも感じているのですか?」

「それは無い。私に与えられたのは、破壊のみ。その筈なんだが、な」

 

 褐色肌の女性は手を伸ばし、細い指で胸部に抱えられている機体の汚れを拭うかのように優しく触っている。

 

「……うん。私もお前に貫かれて死に体だというのに、今になってお前のことを知りたいと思ってしまった」

「……」

「もし私が次の命として産まれる事を許されるのならば、無機質な槍としてお前たちの道を紡ぐ武器として生まれたいものだ」

「とんだ強欲ですね、あなた」

「お前に言われると否定しようがない」

 

 褐色肌の女性は自身の腹部を抉ると、何やら青く発光したキューブを取り出して母星の中へと投げ捨てた。

 

「……あなたのような問題児は放っておけませんので、私をあの母星へと置いてください」

「一緒に死んでくれるのか?」

「勘違いされては困ります。問題児が世に放たれたらこの世全てが問題児と化してしまいます。あなたの隣は私が適任だと判断した迄です」

「可愛げのない。だが、そうだな。紋様を抉り消して他の知性体が私の核を手に取っても侵食されなくなったとはいえ、我が破壊の一撃は変わらないだろう」

 

 そう言うと、褐色肌の女性が円型のパーツをギュッと大事そうに両手で抱え、母星へと降りていく。

 

「なら、私は盾となって貴女の性根を正しき方向へと導きましょう。私たちを回収する同胞がいる事を信じ、共に死ぬ事を許します」

「ッ!フフッ……。こんな破壊だけの化け物に、寄り添ってくれるのだな……」

「肯定します。感謝しなさい」

 

 まるで世界がひび割れるような硝子の音が鳴り響き、ノイズが奔る。

 

 

「ああ、うん……。やっぱり私は、お前の事が───」

 

 好きだ、と───。

 

 そのように呟くと巨大な二つの女が互いに地面へと横たわると、パラスは記憶の世界から目覚め、両目をカッと開く。

 

 それはパラスが視た宙の槍(パラディオン)の記録であり、パラスが実際に経験したものではなく、所謂『心象風景』の一種。

 パラスの両手から青い光が仄かに輝いて天へと昇っていき、宙の槍(パラディオン)を天に向けると槍全体が輝き、空中へと浮かび上がる。

 

「宙を照らす星々。今を勇ましく生きる戦士よ。廃棄(やみ)の淵に立たされど、信念を以て臆する事無く何処までも進み行かん」

 

 パラスは両手を横へと広げた。

 

「呼び覚ませ、無垢の本懐!流星の光を以て希望を紡ぐ!」

 

 パラスの両手が横へと伸びていくと宙の槍(パラディオン)が凄まじい蒼い輝きを帯びて大きくなっていく。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ──────固有結界。

 

 

 全長1kmを超える巨槍は石突部から穂先全てが蒼一色の光で塗り替えられていて、パラスの背後には『武装した白い光の女性』と『ドレス姿の白い光の女性』が顕現した。

 だが、これは世界全体を塗り替える固有結界ではなく、光の巨人だけを残影として映した固有結界。現代でいう映画をホログラム化したようなモノだろう。

 

 

「我が思いは戦神と共に在り!」

 

 

───ゴォォォォオオオオオオオ……!

 

 

 その詠唱と共に女性の巨影二体が互いに手を握ると螺旋状に昇華して吸い込まれるように消失し、宙の槍(パラディオン)に吸い込まれていく。青い光に白い光が溶け合う事で単色の光が青白い双光へと変色し、より大きく輝きを強めた。

 パラスから発せられる蒼白い光の一つ一つに神性が付与されており、一般の戦士ならば底無しの恐怖を抱いてしまうだろう。

 

 悪意を含まず、愚直に輝く純真の光。

 何処までも真っ直ぐな無垢たる輝き。

 

 それでいて目標を破壊(・・・・・)するかのような冷たさも感じ取れる光。

 

「さあ、見せましょう!異端と異端が闘いの行く末に愛を知って果たされた我が夢の恋物語(ノウブルファンタズム)を!」

 

 

 ───宙の槍(パラディオン)が巨槍と化し、パラスの両手に握られた。

 

 

 其は忘れ去られし大戦。

 半神半人の彼女が経験していない記憶の断片。

 

 まるでサーヴァントとマスターが過去の記憶へと干渉してしまう現象のように、パラスは宙の槍(パラディオン)に蓄積された記録の残滓を夢として見ていたという。どうしても忘れられなかったパラスは宙の槍(パラディオン)の記録の残滓を自身の固有結界で槍に内包させた宝具。

 

 其は一機と一体の相容れぬ者同士が互いに手を握り、恋を知りながら共に死んでいった宝具。

 

 愚直に進んでいく白き滅びの光は全てを呑み込み、包み込む。

 今となっては存在しない心象風景を疑似的な宝具として刻んだ、純然たる破壊の一撃。

 

 

 

その愛楽は流星のように(ヴァージンレイザー・パラディオン)!」

 

 

 

 純粋な光線を意味する巨槍が剣のように天から地へと落ちていき、アテナ目掛けて光の一撃が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「……ついに来たか」

 

 

 ───ヴァージンレイザー・パラディオン。

 

 

 それこそパラスが持つ宝具。

 

 奥には謎の白い巨大な女性型の光が二人いるけど、あれは幻影。パラスの心象風景が具現化したものだ。両者が手を握り合う事で一つの光と化して槍に吸収されるという過程が彼女の宝具の発生条件なのだろう。

 槍だというのに投擲せず、剣みたいに振り落とすなんて本当に槍使いかを疑ってしまうが、まあいいだろう。

 

「でも、うん。なんかこういう展開ってワクワクするよね」

 

 僕に宝具と呼べるモノがあるとすれば、神器アイギスだろう。

 

 お父様曰く、この神器アイギスは一体の災厄の猛攻を防いで討った偉業があるという。

 

 この槍と防具は新調された神造兵装であり、『宝具=人間の幻想を骨子に創り上げられた武装』なら、この武具はスタートラインすら立っていない普通の武具になる。

 

 宝具には宝具で示すのなら神器アイギスを以て対抗すべきだと思うんだけど、果たしてそれでいいのだろうか。

 

 体力測定だけど、パラスとここまで本気で競い合った事なんてない。

 そして本気の戦いとなれば『伝説や神話の再現』と見なされ、僕の新調した武具が新しく宝具として定義されるんじゃないかと考えている。

 

 この展開がギリシャ神話通りの『パラスとアテナの戦い』だというのであれば、絶好のタイミング。ぶっちゃけ宝具がどのように認定されるか分からないけど、僕の厨二心燻る名称をこの槍に刻んでやるとも。

 

 だから、ごめん。パラス。

 

 この試合───、僕が新調した槍で勝たせてもらうよ。

 

守護の権能(アテナ・クリロノミア)怪力の権能(イデス・クリロノミア)工芸の権能(テクネー・クリロノミア)。───三種の権能を限定申請」

『 承認。 』

 

 アナウンスが鳴り終わり、僕の身体が黄金色に輝き始めた。

 同時に僕はポケットから『磨り潰したナニカの種の粉末』を取り出す。

 

 この粉末はオリーブの種を磨り潰した粉末。

 オリーブには『平和』と『勝利』を象徴し、下界のギリシャでもそのように古くから言い伝えられている。そしてギリシャ神話ではアテーナーとポセイドンの戦い───、ポリウーコスマキアでの伝承に深く関わる物だ。

 

 僕は粉末を周囲に撒き、勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)に魔力を込めて『その愛楽は流星のように(ヴァージンレイザー・パラディオン)』を迎え撃つ準備に入った。

 

「さて。君の主神である事を今此処で証明してやろうじゃないか!!」

 

 周囲にオリーブの木々がウネウネと急速に成長し続け、緑色の光を帯びて群集と化す。

 さあ───!唸れ!刺し穿て!

 

 ぶっちゃけ宝具なんてよく分かんないけど、皆で生き延びるためだ!やってやるさ!

 

 

 

勝利の神槍、遥か彼方へと邁進せし(ロンヒ・ニケ・プロマコス)!!」

 

 

 

 恥ずかしながら考えていた宝具の名称を口にして槍を投擲した。

 これが宝具になるかよくわからないけど、なってくれと思いを込めたぜ!

 

 そのように詠唱した時、オリーブの群集が投擲された勝利進む神の槍(ニケ・サモトラケ)の後ろを付いてくるように急成長し続け、まるで巨大な槍のようにして宙の槍(パラディオン)目掛けて進んでいった。




アテナ君、凸砂派らしいです。
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