知るかバカ!そんなことより侵略だ! 作:ブラッキオ
Side in
アーシアの気配を追ってやって来たのは神殿。俺は皆を掌から降ろして元のサイズに戻り、中に入ると、大広間があり、奥までずっと続いている様子だった。巨大な柱しかないくらいには殺風景。
ただ、何人もの気配があるのを見逃さないほど俺は馬鹿じゃない。警戒は解かない。
「大地ちゃん」
「寿水さんも分かりますか?」
「勿論よ」
流石寿水さんだ。四条なんて頭上に『?』をうっすらと浮かべている。あとで説教と特訓のプログラム見直しだな。
しばらく進むと、前方にフードをかぶった団体様がいた。どう見ても味方じゃない。
『やー、ブラックゾーンとその眷属』
どこからともなく聞こえるゲロ以下野郎の声。周囲にはあのゲロ以下野郎の気配はない。うーん、放送か録音か。どちらにせよ、ここにはいないな。
『折角だからゲームをしよう。中止になったレーティングゲームの代わりだ』
「はぁ?」
何言ってんだ、あの野郎。馬鹿にしてんのなら、殺すぞ?アジュカさんの命令がある以上、どの道殺すけど。
正直、聞く耳など持ちたくない。だが、あっちにアーシアの身柄がある以上は従う他ない。クソすぎて怒りすら湧かない。
『お互いの駒を出し合って試合をしていくんだ。一度使った駒は僕の所に車で二度と使えないのがルール。後は好きにしていいんじゃないかな?今から始める第一試合、こちらは『兵士』を八名と『戦車』二名を出そう。因みにその『兵士』は既に『女王』にプロモーションしてある。ハハハ、いきなり『女王』八名だけどいいよね?だって、君は『英雄』なんだから』
いちいち癪に障る言い方だな、おい。
「さて、あのゲロ以下野郎はアーシアを人質に取りながら悠々自適にそう言っているが、どうする?立候補が無いなら、俺が選ぶぞ?」
ハッキリ言って、ここにいる皆の実力なら人数差などないなんてもんじゃないくらい、相手は弱い。俺の勘がそう言っている。ただ、あの人数だ。何かあっても嫌だし、しっかり人選は考えないと……。
俺が悩んでいると、後ろから声をかけられた。
「俺、行きます」
四条だ。その目は凛とし、槍を構えている。
「俺が、あの十人を全員ぶっ飛ばします」
「四条……」
確かに今の四条ならあいつらは相手にすらならないだろう。ただ、どうしてもこいつに対して過保護になってしまっている自分がいる。『出来るなら、こいつは出したくない』と言う思いが捨てきれない。
「先輩」
四条が俺の目を見つめて言う。
「俺は『最強』に至るためにも、ここで止まれないんです。それに、俺は男女平等拳持ちです。先輩が全部背負う必要なんてありません。今、ここで俺が決めます」
強い決意を俺に示す四条。そこにカリュドーンがさらに加わる。
『大地、零ちゃんの願いだ。聞いてやってくれ』
その言葉に、俺は頭を抱えそうになるも、少しうれしくも思った。だって、あんだけカルガモの子供のようについてきた四条が一人で戦おうとしているんだからな。
「いいだろう」
「先輩……!」
「ただし、だ。エレナさんも付ける。いけますか?」
「はい、勿論です」
俺はエレナさんに確認を取ると、聖槍を取り出した。
「エレナさんが『戦車』を、四条が『兵士』をやれ。いいか?あいつらは『人間』じゃない。思いっきりやってやれ」
「押忍!」
「承知しました」
そう言うと、前に出た二人。
『じゃあ、始めようか』
ゲロ以下野郎の合図と共にこちらへと来る敵兵さん達。確かフルメンバーなのは事前の勉強で確認してある。なので、ここにいるのを除くと『騎士』×2と『僧侶』×2、『女王』と言うのが残りってわけだ。
おっといけない、油断していた。それじゃあ気合入れて……。
「やれ、四条!」
「うぉおおおおおおお!!!」
雄たけびを上げながら槍を出し、突撃する四条。まず先陣を切った一人目の顔面に左ストレートを入れて一撃でノックアウトした。
次に来た敵を槍で貫き、回転して相手との距離を取る。それと同時に遠心力をかけながら穂先から飛ばす。
それにもひるまず来る敵の攻撃を四条は簡単に避け、その後頭部を掴んだら床へと思い切り叩きつけた。敵はもう動かない。
更に飛び掛かって来た敵を四条は槍をそのどてっぱらに突き刺した。
「お前ら、女か」
四条は興味も湧いていないような静かな声でそう言い、半分に減った敵集団を見つめる。
あいつ、強くなったな。ほんとカリュドーンの言う通り、『生まれる時代を間違えた』って奴だな。
そんな四条を前に流石に警戒をし出す敵さん。ちょっと膠着してきたな。俺はちらっとエレナさんの方を見る
「それでは、ごきげんよう」
エレナさんがそう言うと、石を投げて神器の力を発動した。石と『戦車』を入れ替えて敵を一列に並べて、そのまま聖槍で貫いた。おぉ……えぐいな。エレナさんは槍を抜き取り、死亡確認をする。特に問題はなさそうだ。
確認が終わると、こちらへと戻って来た。
「申し訳ございません、手間取ってしまいました」
「いや、いい。カップ麺も出来ないくらい早いなら、十分だ」
四条の方を見ると、あいつは剣戟をしている。あいつにかかれば倒せる相手だ。おそらく相手の出方を見ながら、体力の温存をしているんだろう。
俺が四条の成長を見ていると、エレナさんがボロっと言葉をこぼす。
「彼女達も、『被害者』なのですよね……」
さっきのよく知らん奴の言っていたことを思い出したのだろう。
確かに敵さん達は皆女。あれの言っていたことが本当なら、あのゲロ以下野郎に嵌められた哀れな人間達だったのだろう。そう思うと、心苦しいものがある。『もしかしたら、彼女達にも救いの道があっただろう』と考えてしまう。
でも、それは傲慢だ。救済IFは現実にないんだ。それにこだわるのは、未来を進むことをやめてしまうこと相違ない。
だから、俺は残酷になろう。
「たとえ被害者だったとしても、その道を選んだのは彼女達自身だ」
俺がそう言うと、皆暗くなってしまった。すまない。それでも、俺はそう思う。
俺だって、本当は救いたいよ。手を差し伸べたい。でも、状況が状況だし、何よりも彼女達自身が何の躊躇いもない。あのゲロ以下野郎に心酔している。なら、もう敵なんだ。
「こっちから行くぞぉ!」
四条が叫び、槍の敵の頭に叩きつけた。残るは三人。
やけっぱちになって突っ込んでいく敵。四条はそれを冷静に対処する。腹にヤクザキックを入れ、壁にめり込む勢いで吹き飛ばした。残るは二人。
四条を恐れて動かなくなった敵に四条は近づいて、その腹に思いっきりパンチを一発入れた。敵は空気が抜ける音を口から吐き出し、そのまま倒れる。残るは一人。
四条は残った一人を見る。その視線に何を込めているかは分からない。だが、その視線に恐怖を感じない程敵は馬鹿じゃないらしい。
「く、来るな!来るなぁ!」
四条が一歩一歩と近づくたびに後ずさりをし、遂に転んでしまった敵。四条はそれを見逃さなかった。
敵との距離を一気に詰めて、槍の穂先を向けた。
「選んだ男が悪かったな」
「ひっ!?」
四条は槍をそのまま突き出した。敵は残っていない。
槍を抜き取り、収納するとこちらに小走りで戻って来た四条。
「先輩、終わりました」
「お、おう」
それだけの言葉を言う四条。こいつ、随分冷徹だな。
四条について色々思うものはある。だが、今はここで止まっている場合じゃない。さっさと先に進もう。
○○○
次のフロアに着いた。そこにいたのは三人。役職は不明。とりあえず分かるのは、ここを突破したら残りは二人だ。既にこちらを待っている様子。
さて、ここは誰を出そうか。今動かせるのは寿水さんと結菜とアイシャだけ。残りが二人ってことを加味すると……少し相手の実力を計ろう。
ドキンダム、スカウターみたいな機能を頼む。
――『急に言うなよ。そんなのあると思う?』
ないならいいや。俺が勘で ――『あるダムよ』 あるんかい。
それじゃあ、頼む。
――『ほいさっさ』
ドキンダムの声と共にオーラのようなものが可視化される。うーん、真ん中のがちょっと強い感じだ。さっき『兵士』を全部使われたことを考えると、残るは上級職のみ。ってことは、真ん中の強そう(笑)なのは『女王』か?
正直言って残りのメンツなら単独でも大丈夫だろう。だって、あの四条でも『女王』を八人倒したようなもんなんだもん。
――『そろそろ切っていいダム?』
ああ、すまんな。
さて、この三人を相手にするとなるなら……。
「寿水さん、お願いできますか?」
俺は寿水さんを選んだ。一人だけだ。
その選択に、寿水さんは強い笑顔で頷いた。
「いいわよ。お姉さん、思いっきりやっちゃうから」
「おなしゃす」
そう言うと、寿水さんは前へと出た。ああ、そうだ。言い忘れていたことがあった。
「寿水さん」
「何、大地ちゃん?」
「遥輝や龍巳ちゃんを交えたご飯、親から許可が出たんで、いつでもいいですよ」
ちょっとした後押しだ。龍巳ちゃんのことが関わるとすごいパワフルになるからな、寿水さん。
「分かったわ」
寿水さんはそれだけ言うが、とっても上機嫌そうだ。敵を見つめるその背中がルンルンとしている。
「申し訳ないけど、ちゃちゃっと片付けちゃうわよ」
そう言って、敵の脇へと走る寿水さん。右手に持った棍棒、何だっけ?スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン?スカーレッドゾーン?なんかそれっぽいののオーラが強くなる。
目的地まで走り終わったのか、丁度敵の真横で止まる寿水さん。それを何事かと見ているだけの油断しきった敵達。その目には見えていなかったのか最早定かではない。寿水さんはそれを逃さない。
「いくわよ!」
そう言って、野球のバッターの如く、棍棒を振りかぶった。
瞬間、『ゴウン』と言う爆音と共に、壁がぶち抜かれて、大穴が空いた。空間まで揺れたのか、天井がちょっと崩れかけている。
何を飛ばしたかは分からない。ただ、たった一撃で壁をぶち抜いたその攻撃を直撃で食らって立っている者などいるはずもなく、敵は木っ端みじんになっていた。
「大地ちゃん!終わったわよ!ちょっと手加減が大変だったけれど!」
そう言う寿水さん。これ、手加減なのかよ……。
「流石は最上さんですね。相変わらずのパワーと技量です」
そう言うエレナさん。どうやら『王来教団』内では周知の事実のようです。
前々から寿水さんが言っている『神を殺せる』発言。あれ、本当なのかもしれないな。
○○○
次のフロアにいたのは二人の敵。うーん、残りはこいつらだけだもんな。ここで結菜とアイシャの札を切っちゃうのが普通だよな。てか、駒の数の眷属である敵は倒してきたんだし、ここで二人じゃなかったら、ゲロ以下野郎が反則していることになるしな。そうなったら、こっちも思う存分反則をさせてもらおう。
「さて、残るのは二人だが……」
俺が結菜とアイシャを指名しようとしたら、先に二人が前に出た。
「私達に任せなさい、大地」
「ここまで待機で暇だったのです。少し運動させていただきますよ」
二人の背中から『ぶっ殺す』と言う強い意思のオーラが感じられた。そ、そんなに待っていたの?あなた達、結構血の気が多いのね……。
「そ、それじゃあ、お願いします……」
語尾が段々と小さくなりながら、俺は二人にこの場を託した。
結菜とアイシャは強い。あんな奴らじゃ相手にならない。でも、油断はしてほしくない。相手はゲロ以下野郎だ。どんな卑怯な手を使ってくるか分からないからな。
見合う両サイド。静かな時間が広がる。
「ねぇ、アイシャ。あれ、どうやって倒す?」
余裕綽々と嘲笑しながらアイシャにそう訊く結菜。油断は良くないんだけどねぇ。まぁ、面白そうだし見ておくか。
「そうですね。結菜殿の魔法で打ち上げた所を私が仕留める、というのはどうでしょうか?」
「それじゃあ、私はただの引き立て役じゃない。それでもいいけれど」
そんな風に会話していると、その姿が気に入らなかったのか、相手側が動き出した。それを見逃すような二人じゃないことを俺は知っている。
結菜は手を突きだし、雷で出来た蝶たちを飛ばした。
「爆ぜなさい」
そう言うと、蝶たちが爆発し、先ほどアイシャが言っていた通り、宙へと飛んだ敵達。爆風に巻き込まれて、結菜とアイシャがいるこちらへと飛んできた。
「では、参る」
アイシャはそう言うと、偃月刀を構えて、振りかぶった
「唸れ!天空の刃よ!」
そう叫びながら偃月刀で薙ぎ払いながら炎の竜巻を起こした。それをモロに喰らった敵達は、無事じゃ済まないのは確か。どてっぱらを斬られながら、吹き飛ばされていた。
敵は倒れたまま動かない。これで、ゲロ以下野郎の眷属が全員倒れたことが証明された。
「二人とも、お疲れ様」
俺は結菜とアイシャを労う言葉を言う。二人は優しい笑顔を向けてくれた。
「この程度じゃ、肩慣らしにもならないわよ。あの大馬鹿者も、私達が倒しちゃうわよ?」
「結菜殿の通りです。ここまで拍子抜けですと、ディオドラ・アスタロトも我々だけで十分でしょう」
自信満々にそう言う二人。その心意気が何だかうれしく感じる。でも、ゲロ以下野郎の相手はダメだ。
「確かに、二人ならいいだろうな。だが、あれは俺の獲物だ。あれに死と言う慈悲を与えるのは、俺の役目だ」
ゲロ以下野郎は俺の勘通り、本当にゲロ以下野郎だった。その上、魔王であるアジュカさん直々の殺害命令まである。ならば、遠慮などいらないのは必然だ。
待っていろ、ゲロ以下野郎。生まれたことを後悔させてやる。
そしてアーシア。今すぐいくから、もう少しだけ耐えてくれ。
Side out
雨が降ったり、強すぎる日が照り付けたり、忙しいですね。許さないからな、令和。俺達の平成を返せ。