知るかバカ!そんなことより侵略だ!   作:ブラッキオ

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今回のお話は公式外伝作品ことスラッシュ・ドッグからのお話になります。


第13話 君の叫びが我を呼ぶ

――もう優しい人が傷つくのが嫌なんだ!!

 

ヴァーリ・ルシファー。今代の白龍皇にして、歴代最強の白龍皇……となる少年。最近、自分の監視役の女性であるラヴィニア・レーニによるダイチ連呼から来た『ダイチ・ノイローゼ』が治って来た思春期の男の子。少しでもダイチと言う男を連想させることを言うと、いつも同じ内容の思い出語りが始まるその光景に今もまだトラウマを覚えている。自分を拾った養父のような男であるアザゼルすらも『あいつの監視役の人選間違えたか?』と言うほどの苦境にいた人間。ヴァーリの中にいるアルビオンもダイチ・ノイローゼになった。今は完治に向かっている。

 

それでも、ラヴィニアの優しさはヴァーリに伝わっていた。そもそも、彼女がダイチについて語る時は大体愛が暴走した時。つまる所、優しさの延長線だ。そのことを理解していたからこそ、ヴァーリは彼女の話を聞き続け、そしてノイローゼになった。アザゼルが本気で心配した時に『これはあの人の優しさに耐えきれない弱さがいけない。だから俺自身で解決しなきゃいけないんだ』と意地を張っていたのは記憶に新しい。

 

ついでに言うとそのダイチと言う男の面を見てみたいとも思っている。ヴァーリも何だかんだ言って、初恋に似た感情をラヴィニアに抱いたことがあったのは間違いなかったからだ。自分の初恋を砕いた野郎の面を拝みたいと思うのも無理はない。

 

そんなヴァーリと一緒にいるラヴィニアだが、今危機を迎えていた。

 

彼女の師であり神滅具『紫炎祭主の磔台』(インシネレート・アンセム)を持つオズの魔女・アウグスタが彼女の体を乗っ取った。理由はあるらしいが、そんなことはヴァーリにとってはどうでもいい。今は、彼女が危険にさらされているということだけが重要だった。

 

ラヴィニアの危機に、彼女の友達である幾瀬鳶雄たちも立ち上がった。

 

戦いは熾烈なものだった。だが、それも終わりが来る。ヴァーリと鳶雄が禁手化(バランス・ブレイク)をし、一気に畳みかけたのだ。

 

ヴァーリによる半減、そして鳶雄による全てを斬り刻む力。二つが合わさり、アウグスタは倒れた。

 

「終わった、んだよな。ルシドラ」

 

「だろうな」

 

はずだった。

 

鳶雄の斬撃をもろに受けたはずのアウグスタ、もといラヴィニアが立ち上がったのだ。鳶雄はラヴィニアの中にいるアウグスタだけを斬った。ならば、今ラヴィニアが立っているのは彼女自身の意思。しかし、彼らは気づいている。まだアウグスタは終わっていないと。

 

「間一髪だったね」

 

アウグスタがクツクツと笑いながらそう言う。鳶雄たちは警戒を高めた。

 

『黒刃の狗神』(ケイニス・リュカオン)、やはり危険だよ。こうも死の淵に立たせるんだから」

 

「何で生きてる!?確かに斬ったはずじゃ……!」

 

《どういうことだ?確かにこの力で斬ったのだ。倒れていて当然のはずだが……》

 

鳶雄の神器ですら困惑している。鳶雄が叫ぶとアウグスタは自慢げに言った。

 

「そこの白龍皇の力を借りたのさ」

 

「俺の……?」

 

困惑するヴァーリを余所にアウグスタは続ける。

 

「お前の力は半減。そしてお前の対になる赤龍帝の力は倍加。前々から興味があってね。勉強していたんだよ。こうして劣化でも能力をコピーできる程度にはね。おっと、しゃべりすぎたか」

 

アウグスタは衝撃の言葉を言った。その言葉に、ヴァーリの心は折れかけた。何せ、自分の力が原因でラヴィニアを救えなかったからだ。あれだけ欲した力が、今度は自分の首を絞めにかかってきたのだから。ヴァーリの心が無に帰っていく。

 

『おい、ヴァーリ。しっかりしろ。あれは例外中の例外だ。俺の力に二度は通用しない。もう一度気張れ』

 

ヴァーリの中にいるアルビオンもそう語り掛ける。無から帰って来たヴァーリの心は悔しさだけがあった。『一体なんのためにこの力を手に入れたんだ』。それだけが彼の心に響いている。

 

「さぁて、ここからは反撃といこうか」

 

アウグスタが構える。最早これまで……などと思う者はここにはいなかった。『まだ手はあるはずだ』。そのことだけを考える。

 

そんな中で響く声が一つ。

 

「助け、て……」

 

ラヴィニアの声だった。いつものような明るいものじゃない。暗く、悲しみに満ちた声だった。

 

「おや?自我を取り戻したのかい。でも、大した抵抗は出来なさそうだね」

 

アウグスタも興味深そうな反応をする。だが、その興味も一瞬しか続かず、すぐに尽きた。攻撃用の魔方陣を展開するアウグスタ。

 

「助けて、ダイチ……!」

 

一瞬だった。一瞬だけアウグスタの支配を逃れたラヴィニアがそう続けた。その双眸から涙を流す。大切な友達を傷つけたくない。でも自分だけではどうにもならない。そんな時に彼女の脳裏に浮かんだのは、あの時優しい歌を歌ってくれた初恋の男の子。そして、今も愛している人。その名は、『ダイチ』。

 

彼女の悲痛な叫びが皆の心に響いた。

 

アミュレットの宝石に、涙が落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―君の声が聞こえた。君の叫びが聞こえた。『助けて』の声が聞こえた―

 

 

 

世界を滅する禁断、愛より産まれて愛を守護する太陽、そしてそれらを従える人間の魂。それらはその叫びに応えた。

 

グォオオオオオオオ!!!

 

この世のものなんてものじゃない、この宇宙に、あらゆる並行世界を含めた全ての世界で存在してはならないと思うほどの恐怖をまき散らす咆哮が夜空に響いた。

 

余りに巨大すぎる気配。殺意の塊。そしてラヴィニアに向けた大きく純粋な愛。その感情が空間を揺らした。

 

その場にいる皆がその気配の方向に視線を向けた。

 

「何、あれ?」

 

皆川夏梅がそう言う。その視線の先にあるのは満月。それを背景に人影がこちらへと飛んでくる。その人影には翼はない。だと言うのに空を飛んでいるのだ。その異様な光景に皆目を奪われていた。

 

瞬間、鳶雄たちとアウグスタの間に何かが落ち、土煙を立てた。

 

これでもそこそこ修羅場をくぐったつもりだが、それでも反応できなかったと言うのがヴァーリ含めた一同の感じたことだった。

 

立ち上がる土煙。そこからは大きな気配が立ち上る。実戦の経験が浅い鳶雄たちでも分かるほどの大きな何かがそこにはあった。アウグスタすらも黙り込んでしまうほどの存在。恐怖をも超えたそれがあふれ出している。

 

土煙が鎮まっていく。晴れたそこにいたのは、人型のロボットがそこにいた。体の多くの部分にバイクの意匠がある。

 

『…………え?』

 

アルビオンのあほみたいな声が響いた。バイクの鉄人形は首を回して軽い柔軟体操をする。

 

「な、何なんだよこいつ……」

 

鳶雄の言葉。それこそここにいる皆の気持ちだった。否、一名を除いて。

 

『嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ!!!???』

 

アルビオンの恐怖に満ちた声……と言うよりも現実逃避しようとする声が響く。何故傲岸不遜な彼が怯えているのか、ここにいる者は分かっていない。しいて言うなら、通信機越しのアザゼルだけが分かることだった。

 

鉄人形が喋る。

 

「久しぶりだね、ラヴィニア。こんなにも美人になって……思わず一目ぼれしちゃったよ」

 

ナンパなセリフ。だが、誰よりも優しい声だった。過去の経験から荒んだ心を持ったヴァーリですらも一発で分かるほどの優しさと温かさ。温かみの無い鉄人形がそれを言う。

 

『おぉん!!(サモーンボイスの猫)』

 

「アルビオン!?おい、しっかりしろ!!」

 

白龍皇アルビオンはその正体に気が付いた。

 

いや、思い出した。何百年も前の話だった。だが、それはライバルであるドライグと決めた約定があったからこそ忘れなかった。トラウマになっていたからこそ、忘れられなかった。実際、自分が神器になった際に『翼』を主体にされたのは間違いなくこいつが悪いからだ。

 

アウグスタに乗っ取られてうまく動けないラヴィニア。それを見て、鉄人形は喋る。

 

「ああ、もしかして分からないか。そうだよね、随分昔のことだし」

 

そう言い、全身を赤黒い光が包む。その光が止むとそこにいたのは一人の少年。見るにヴァーリと同い年くらいか。そんな男の子が裸足で立っていた。

 

「急いで来たから靴を履いてなくてね。……久しぶり、ラヴィニア。俺だよ、大地だ」

 

その名に鳶雄たちは驚いた。何せ、事あるごとにラヴィニアが連呼していた思い出話の男の子の名前だったからだ。

 

ヴァーリも驚いた。こいつが自分の初恋にも似た感情を砕いた張本人。それにしては随分自分と歳が近いように見える。

 

まさかその本人と思しき男がここに来るとは誰も予想できなかった。勿論、アウグスタも。

 

「お前……何者だ?ラヴィニアに近い『大地』なんて男、一人しか知らないよ。まさかとは思うが……」

 

アウグスタがそう言う。それに対し、大地は再びバイクの鉄人形に変身して言う。

 

「ただの、人間だ!」

 

『あ、ビンゴ♡(失神)』

 

「おい、しっかりしろ!おい!!お前の威厳がなくなる!!」

 

ヴァーリの声も虚しく気絶したアルビオン。それもそうだろう。あの姿かつ自称が人間の奴なんて彼の記憶には一人しかいないからだ。

 

「さて、手荒にいくぞ。ちょっと我慢してくれ、ラヴィニア」

 

大地はそう言うと、一瞬でラヴィニアとの距離を詰めた。その速さは誰も追い付けない。鳶雄たちにとっては瞬間移動やワープのそれと変わらないものだった。

 

「ああ、それと」

 

大地が何かを思い出したかのように言う。次の瞬間、彼からとんでもない殺意があふれ出した。

 

「お前、生きて帰れると思うなよ」

 

アウグスタの目に移ったのは怪物と言うのも烏滸がましい何かだった。恐怖と言う恐怖が襲い掛かり、自分を深淵へと落とさんとするものだった。

 

瞬間、ラヴィニアは大地に横抱き、いわゆるお姫様抱っこと言うものをされた。

 

「今楽にしてやる」

 

その一言が大地から発せられた瞬間だった。その行動に鳶雄たちは驚いた。と言うよりもドン引きした。

 

「ッ!!?」

 

それは……キスだった。思いっきり口と口を合わせてのキスだった。鉄人形の姿の大地がラヴィニアにキスをしたのだった。

 

『お前、もっとムードとかあるだろ!』と文句を言いかけた女性陣。だが、ラヴィニアの様子を見てそうも言えなかった。

 

ラヴィニアから謎の光が大地の方へと吸い込まれていく。それが吸い込み終わると大地はラヴィニアから口を離した。

 

「ぺっ!……なんだこれ?捨てるか」

 

そう言って口から吐き出した何かを後ろへと投げ捨てる大地。因みにだが、それはアウグスタから分離した『紫炎祭主の磔台』だった。余りに自然な流れで捨てたので誰も気が付かなったが、これが後にそこそこの問題を起こすことになる。

 

一体大地が何をしたのか、全く分からない。ただ、グッタリしているラヴィニアを見るに、彼女の中にいたアウグスタは、ラヴィニアの中にはもういないことが察せられた。

 

なら、アウグスタはどこへ?鳶雄たちのそんな疑問はすぐに解決された。

 

大地の胸から何か球体のようなものが出てきた。鳶雄たちはそれが何なのかは最初分からなかった。だが、その正体はその声ですぐに分かった。

 

「はぁ……はぁ……!!な、何なんだ!!?」

 

その球体からした声はアウグスタのもの、つまりそれの正体はアウグスタなのだった。その姿はまるでフラスコという小さな箱庭ですら満足に理解も出来ない愚か者のような姿。見るも無残だった。

 

「何なんだお前は!!?魔術どころか神滅具さえも振り切って、私だけを切り取って!!本当にこの世界の存在なのか!!?」

 

「随分つれないマダムだ」

 

アウグスタは恐怖と絶望に塗りつぶされた声を上げる。アウグスタが見たものは、大地の中に流れる『禁断』そのものの力の奔流。全生命体を冒涜し、恐怖の底に落とす宇宙の悪だった。

 

更にその中には燦然と輝く『太陽』があった。暖かく照らし、迷える者を導く愛の象徴だけではない。全てを破壊し、傲岸不遜に見下す超越した存在の面もそこにはあった。そして、アウグスタへ向けられたものは、後者だった。

 

いくら神滅具所有者だろうと、アウグスタとてただの人間。無調整の禁断の嵐と愛に怒る太陽を前に耐えられるはずもない。一瞬とは言え、垣間見たその絶望にアウグスタは自我を保つことしか出来なかった。それが精一杯なほどの光景が大地の中に広がっていた。

 

大地はと言うと、そんなアウグスタのことはお構いなしに胸のXの部分から黒い影のような腕を無数生やし、アウグスタへと伸ばした。

 

その腕を見て、アウグスタは察した。『またあの絶望に放り込まれる』と。あの真理の中で苦しみ続けることになることを理解した。

 

「戻りたくない……!いやだぁ……!」

 

アウグスタは逃げた。球体となった魂だが、器用に宙に浮き、空を飛んで逃げようとした。

 

「やめろ、そこに縛られ続けるのはいやだ……!」

 

だが、それを許す大地ではない。

 

「あぁ!!」

 

腕は一瞬でアウグスタに追い付き、絡みついた。そして、アウグスタを大地の方へと引きずり込む。

 

「選んだ相手が悪かったな、その心を折り砕いてやる」

 

心優しき大地の明確な殺意が向けられ、処刑宣言が発せられた。大地との距離がなくなったアウグスタはどんどん大地に吸収されていく。

 

美しい夜空。月光が二人の再会を祝福し、無粋な輩に絶望を与える。

 

「いやだ!いやだ!」

 

アウグスタの悲鳴が響く。酷く醜く、そして余りに哀れな叫びを鳶雄たちは耳にした。

 

「いやだぁあああ!!」

 

かつて大魔女ともてはやされた存在はもういない。ここにいるのは、ただ己の世界に酔いしれ、外を知ろうとしなかった惨めな存在だけ。それが大地の中に入っていった。長い長い、悪夢の底へと沈んでいく。その終わりは、誰も知らない。

 

大英雄による急展開。まさしくデウスエクスマキナ。物語としては三流にも程がある。

 

それでも、鳶雄たちにとって大地程ありがたい存在はなかった。何せ……

 

「無事そうで何よりだ、ラヴィニア」

 

助けたかった友達を一瞬で助けてくれたのだから。今の大地は、まさしく英雄だった。

 




うp主、世代じゃないアニメばかり見ていたので、周囲の人間に話を合わせられず苦労した思い出があります。世代じゃないアニメに時間を費やしたことへの後悔は微塵もないんですけどね。
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