知るかバカ!そんなことより侵略だ! 作:ブラッキオ
Side in
本日の修行を終えて、皆自分の部屋にいる。木場と塔城さんの様子はグレモリーさんにも報告した。どうやら彼女も同じことを思っている節があったようだった。
しかも、やんわりと二人が訳アリだってことも聞いた。兵藤も堕天使に殺されているし、グレモリー眷属ってのはとんでもなぇ厄ネタばかりなメンツになりそうな気がする。姫島さん、あんたまで厄ネタ化はやめてくれよ。見ているこっちが辛くなる。
そんな暗い未来が来ないことを祈りつつ、俺は夕食の準備をアーシアとする。グレモリー眷属は皆疲れているからな、ここで俺が働かねばどうすると言うのだ。アーシアは俺の手伝いをしたいと言ってきたので、一緒に料理をやってもらうことにした。彼女もうちの両親から色々聞いて学んでいるからな、戦力としては大きいよ。
今晩のメニューはと言うと……
鶏ももと鶏むねの照り焼き
ワカメと豆腐の味噌汁
木場が採って来たこごみのお浸しもどき
白ご飯
シンプルな構成だ。皆若いし、肉と米を食べたいお年頃なのも分かるので、ある物と相談してこんな感じになった。
塔城さんがすごい食べるってグレモリーさんから聞いているし、兵藤がよく食うことも知っているので、ご飯は多めに炊いておこう。
この後の夕食で、皆おかずとご飯をモリモリ食べてくれました。作り手としてはこれ以上にない喜びだったよ。
○○○
数日経ったが、まぁ、楽しいもんだ。誰かの為にこうして身を粉に出来るってのは気分がいい。
修行も滞りなく進んでいる。自由時間には俺も俺で色々能力をいじってみたりしている。治癒の力もアポロヌスの太陽の力を混ぜ込んだ結果、コズミューム光線みたいに『破壊&慈愛』に出来るようになった結果、いよいよ俺の人間離れが進んでいるのを実感したよ。
木場と塔城さんは何だかんだ強くなったと思う。見た感じだと、ここに来た当初に比べて、纏うものが違っている。結果が出て何よりだった。
姫島さんは、いつも通り揶揄って揶揄われを繰り返した。彼女は俺の修行担当じゃない。何でも、魔法をメインに使うから俺にはティーチングは無理だそう。それはそうだ、俺だって魔法は知らんからな。仕方ないって奴だ。ラヴィニアに魔法のティーチングを受けねぇか頻繁に聞かれるけど、俺には才能はなさそうだし、いつも断っている。
そして兵藤。お前は妙に悩んでいる様子だったな。何があった。いつもの馬鹿一直線なお前はどこに行ったんだ?
そんな感じでグレモリーさん一派は進んでいた。
そんな中で俺はユノハ様に聞いてみたことが一つある。それは俺の中の『侵略者ウイルス』について。
俺はブラックゾーンだ。どこまで行ってもレッドゾーンから切り離せない存在だ。そんなレッドゾーンは侵略者であり、その中にはギュウジン丸が入れたウイルスがある。それが『侵略』って形で表れているわけだと思っている。
が、ブラックゾーンは特にヤバいとデュエプレで表現されたS級ウイルスの入ったデッドゾーンと同じ『S級侵略者』。危険度が段違いになる。
デュエプレでの描写を見る限りは定期的に注入する必要があるS級ウイルス。俺は今までそんなものを注入した覚えはない。しいて言うなら冬の予防接種くらい。そんな俺が何故無事に生きているのか、またそのウイルスが俺の中にあって、この世界を滅ぼさないかを考えてしまい、不安になったのだ。
で、ユノハ様に聞いたわけだ。彼女の返事はこうだ。
――――『え?そんなの、あなたの中で自己増殖と自然消滅を繰り返しているわよ?』
――――『まぁ、この世界の住人に注入したら一発で死ぬわね。神でも耐えられないわよ?』
――――『安全の為に強力な制御装置を組み込んであるから、あなたから注入しにいかない限りは大丈夫よ。その注入も、2段階承認制になっているし』
――――『蛇は……もういらない……』
どうやら気にしなくていいようです。
そう言うことで、俺の不安は払拭された。今日の晩御飯のカレーライスも美味しかったです。明日の朝はカレーうどんだな。
何て考えながら俺は夜空を見上げる。
平和な夜空だ。何も恐れることがない。星々が輝き、その生命を燃やしている。
俺には、この星空を砕くだけの力がある。この世の全てを捻じ曲げることが出来る。改めて思うが、俺には不相応すぎる力だ。
ただ普通を求めて生きていた人間が女神の目に留まり、改造された。そして異世界へと投げ出された。ギリシアのゼウス共もビックリな試練だ。マジでヘラクレスを名乗っていいと思う。嘘です、あんなゴリラになりたくないです。
俺は恵まれすぎた。力も、愛も手に入れた。この世の全てを手に入れたのと同じだ。前世への未練すらもなくなり出した。『帰りたい』と言う思いも、いずれ消えるだろう。余りに満たされすぎたんだ、俺は。
……やめだ。おセンチな気分になりすぎた。これも満天の星空の力に当てられただけのこと。俺には守るべきものがあるからな、それを守れねばな。その為にも、俺はこんな所で自己陶酔していてはならない。
遥輝が恋しい。あの子を目一杯可愛がりたい。あの子に寂しい思いや辛い思いをさせたくない。気持ち悪いブラコンだと分かっているけど、この愛は止められない。
何て思っていると後ろから声が。
「岸波君?」
「おや、グレモリーさん?」
○○○
気分転換に外に出てきたグレモリーさんと出くわした俺。その後、リビングに戻って紅茶を入れた。
時計の針の音がリビングに響く。グレモリーさんの表情が若干暗い。何か悩み事でもあるのだろうか。聞きたい所だが、その悩みは果たして男の俺が解決出来ることなのだろうか。
ムムム……と俺の方まで悩み出すと、グレモリーさんが口を開いた。
「あなたには頼ってばかりね」
「ん?」
「……今回のこと、迷惑をかけてごめんなさい」
「俺、何かされたっけ?」
突然の謝罪。そう訊くとグレモリーさんは答えた。
「あなたとアーシアは今回のことについては、本当なら関係なかった。特にあなたなんてライザーのこと……フェニックスとは面識すらないのに巻き込んでしまったわ」
ら、ライザー?なんだ、その太もも錬金術師みたいな名前は。もしかしてグレモリーさんの婚約者って女性?レズなのか?ホモなのか?レズはホモなのか?
――『んなわけあるかい。男よ』
ユノハ様に婚約者の性別を教えられつつ、話を進める。
「別にいいだろ。俺だって普段のナリのせいで隣の席の美人さんに迷惑をかけているわけだし」
そう言うと表情が少し明るくなったグレモリーさん。いいよ、そんな感じなのが君に似合っている。
「あなたって本当に人間なのかしら?」
「急な罵倒?」
まるで俺が怪物みたいな言い方をされる。俺が思わず抗議すると、グレモリーさんは首を横に振る。
「違うわ。あなたの強さといい、自分のことを『ただの人間』だと言ったり、昔お兄様から聞いたブラックゾーンの逸話とそっくりに思えるの」
何だろう、その名前出すのやめてもらえませんか?(震え声)
人助けしたはずなのに気が付いたら黒歴史になっていた自分の過去。それにちょっと悪寒を感じながら紅茶を啜る。さっきまでした味がしない。
「そんなあなただからこそ、甘えてしまう。『グレモリー』として、『王』としての責務に手を止めてしまうそうになる」
責務、か。彼女も彼女で大きいもんを背負っているんだな。なら、おいそれと『そんなもの気にするな』なんて言えないが……俺には無理だな。
「別に俺でもいいなら甘えればいいさ。こんな小市民でも君みたいな高貴な存在の為になれるなら、本望って奴だよ」
そう言うとそれを否定するグレモリーさん。
「ダメよ。あなたの言う通り、私は高貴だからこそ甘えが許されるわけじゃない」
……この姿勢、よくないな。
「それだといつか潰れる。だって、グレモリーさんはどこまでも『ただの女の子』だろ?」
至極当然なことを言う俺。だって、グレモリーとか関係なしに君って普通の女の子じゃん。普段の様子からそんなことすぐに分かるぞ?そんなのがデカい期待とかを全部背負ったって、いずれその身を滅ぼすだけだと思うんだが?
そんなことを思っていると、少し驚いた様子のグレモリーさん。あら、可愛らしい。
「普段から姫島さんを馬鹿にして、抗議されて。そんなただのJKだろ?そんなやれノブリスなんたらだのを全部背負ったって、死ぬだけだろ。人間なら、いいことも悪いことも、嬉しいことも辛いことも分け合え」
そう言うと、少し間を置いてグレモリーさんが言う。
「少し、身の上話を聞いてくれないかしら?」
「別に構わんぞ?」
そうして始まるグレモリーさんのお話。ちょっと長くなったので端的にまとめるとこうだ。
1:自分は悪魔の貴族であるグレモリー家の次期当主。わがままは通せても、自由はなかった。
2:そんな中で、兄は両親の反対を押し切って、大恋愛の末に結婚した。その姿に憧れ、『いつか自分も』とずっと思っていた。
3:なお現実。
4:婚約相手のフェニックスの特性は『不死身』。とにかくこれがゲームでチートであり、その上、相手はゲームの数をこなしている。つまり経験者ってわけ。そんな相手に素人集団の自分達が勝てるはずがないから今回のゲームも組まれた。要するに出来レースだったというわけ。
まとめるならこうだな。
さて、俺がまず思ったのは、フェニックスの不死性ってところ。
頭痛い。何でこの世界に来てまでゼロフェニハリケーンの名残を見させられるんだよ。もううんざりなんだよ、フェニックス。アポロヌスは別だ。あいつ、ちゃんと殴るし。最悪、トリガーのルシファーやSSSで何とでもなる。ちょっとキルターンが早いのには目を瞑る必要があるけど。
まぁ、フェニックスへの感想はこれまでにしておこう。で、彼女の夢とかについての意見だが……
「お兄様がいけたなら、グレモリーさんでもいけるっしょ?」
「え?」
俺の軽い意見にグレモリーさんは虚を突かれた様子。
「こんな簡単に言うことじゃないだろうけどさ、諦めないしぶとさを持つのもある種の強さだと思うよ?」
さて、紅茶も飲み終わったし一区切りつけよう。
「『未来は、変えることができる。良いようにも、悪いようにも』。そんな考えでいきな」
かつて君に似た男性筆頭の皆さんに言った言葉を送ろう、グレモリーさん。と、言ってもこれってウルトラマンギンガのセリフなんだよな。自分の心で言ったつもりが『実は別で認知されていますし、何ならそっちが先です』とか恥ずかしくて仕方ないよ。
俺がそんなセリフを言うとグレモリーさんに笑顔が戻る。
「ほんと、あなたってブラックゾーンみたいね」
茶を啜って誤魔化したいのに茶が無い。死ねと言うのか?
「ありがとう、元気が出たわ」
「それは良かった」
どうやら悩みもある程度晴れた様子だ。
今回の一件、話を聞く限りでは完全にグレモリーさんのわがままだ。ご両親からしたらたまったもんじゃないだろうよ。貴族なんだし、メンツの問題も発生するに違いない。
ただ、ゲーム云々に関しては娘を信じていないに等しいし、色々おざなりにも思える部分が多い。言っちゃ悪いけど、そのフェニックスとの戦いでグレモリーさんが勝ったりいい勝負したら、フェニックスの方に多少なりとも汚名が付きそうと思うのは俺だけか?まさかと思うが、『運』だけで押し切るつもりなのか?だとすれば、能天気にも程がないか?思ったよりも悪魔って馬鹿なのか?
いかん、イーヴィル・ヒートになっちまう。ちょっと立ち止まることにしよう。
いざとなったらブラックゾーンになって脅すか?セラフォルーさんの名があるなら、少なくとも俺だって認知されるはずだし、その線でいけば……いや、流石にやりすぎか。
それでも、彼女が不条理に悲しむことがあるなら、アザゼルさんとの表舞台云々の約束を放棄させてもらおうか。
『仲がいい友達の危機』ってだけで全てを投げ捨てることになるだろう。そんな行為は世間では『愚行』と言う。
ま、俺が元から愚かだから関係ないか。
ティーカップを片付けるために俺は席を立つ。
「そんじゃ、俺はこいつらを洗うわ」
「いいわ。相談に乗ってもらった手前だし、私がやっておくわよ」
「あら、そう?それじゃあ、お言葉に甘えて」
「それに、あなたに頼み事があるの」
頼み事?何だろうか。俺で良ければ力になるけど。
「頼みって?」
「イッセーのこと」
兵藤の奴が?
「多分だけど、今あの子はあなたの部屋の前にいると思うわ。あの子の悩みも、私の悩みみたいに解決してもらってもいいかしら?本当なら、私が解決してあげなきゃいけないのだけれど、力になれそうにないの」
ああ、最近のあいつの様子のことについてか。なら、俺も気になっていたし丁度いいや。
「いいぞ。ただ、あいつの悩み次第では解決も出来んかもしれんが」
「いいのよ。きっと、あの子に近しいあなただからこそ解決策の糸口がつかめるかもしれないし」
慈愛の微笑をするグレモリーさん。そうか、それなら期待しない程度に待っていてもらおう。
「んじゃ、俺は行くわ。せめて笑顔でいな、可愛いただの女の子のグレモリーさん」
俺は兵藤の元へ行くためにリビングを出て、兵藤のいると聞いた俺の部屋まで足を進めた。
○○○
さて、俺の部屋の前まで来てみたのだが……
「あっ、先輩」
「うっす」
グレモリーさんの言う通りだった。本当に兵藤がいた。彼女も自分の眷属のことをよく見ている。これじゃあ、まるで黒歌の元主が度し難い愚者みたいじゃないか。
「グレモリーさんから大体話は聞いた。とりあえず、部屋に入りな」
「は、はい」
俺はそう言って、兵藤と部屋に入った。俺は椅子に座るが、兵藤は何か思うことがあるのか床に正座し出した。痛いだろうからさっさと切り上げさせてもらおう。
「で、話ってなんだ?いつもみたいな猥談か?」
「いえ、それもそれで興味はありますけど、違います」
おや、真面目な雰囲気。さてはこいつ、相当参っているな?
「悩み事か?」
「……はい」
俺の質問に暗く答える兵藤。ったく、世話の焼けるおバカさんなことだ。
「で、悩みってなんだ?一応聞くだけ聞くぞ。解決に至れるかは、悩みの内容とお前次第だ」
「ありがとうございます」
そう言うと、兵藤は語り出す。
「俺って、何がいいんすかね……?」
「はい?」
話の内容が分からないんだが?何があったんだ?おじさんでも流石にそんな言い方だと分からないぞ?
「……何があった?」
「俺って部長に転生させてもらって生きています。それに神器もすごいって。だけど、俺は弱いです。部長の役に立てない。文字通りのお荷物なんです」
マタギみたいなこと言い出したな、兵藤。顔もうつむいているし。結構しんどそうだな。
「小猫ちゃんみたいなパワーもない。木場みたいな速さも。朱乃さんや部長さんみたいに魔力もない。無い無い尽くしで、俺の取り柄ってなんだろうって……何で俺は部長さんの『兵士』になっているんだろうって思って……」
あー……こいつ、自分のアイデンティティが分からなくなっちまったタイプか。自分の価値ってものに対する自分の出来ることが分からない、と言うより出来ないことが多すぎてどうすればいいか分からなくなっちまったって感じか。
聞けば、こいつってグレモリーさんの持っている『兵士』の駒を全ベットして生まれた転生悪魔らしいな。駒ってのは『王』自身の才能によって必要な駒数とかが変わったりするし、何なら眷属に出来ない可能性もあるって。
あのグレモリーさんが8つも駒を使ったこいつは天才ってことだな。ま、俺はそんなのはありえないって思っているが。こいつ、ただの人間だぞ?そんな特別であってたまるか。おおよそ、神器がやばい奴で、そっちに引っ張られた結果の駒数なんだろうな。と、かじった程度の知識で考えてみる。
「俺、どうしたらいいか分かんなくて……」
今にも泣きそうな主人公君。うーん、しょうがない。ちょっと荒治療になるけどやってみるか。
「なぁ、兵藤」
「はい」
俺が名前を呼ぶと顔を上げる兵藤。悪いな、その期待気味な表情を潰すぞ。
「てめぇは無能だ」
「先輩?」
「お前に何が出来る?中学の時点で四条にすら喧嘩で勝てないようなお前が戦う?笑わせるじゃねぇか。俺に言わせればお前如きが出来ることなんざ、片手で数えるくらいがいい所だろうよ」
そう言うとドンドン曇っていく兵藤。ここまでは予想通り。
「だがよ、その片手で数えられる程度でもやれることがあんだろ?」
「え?」
罵倒した矢先に上げたのがよっぽど意外だったんだろう。このままなじるのも気が引けるんだよ。
「まず前提を言う。お前は誰だ?」
「お、俺ですか?」
そう言うと考える兵藤。
「俺は……転生悪魔で、ただの下級悪魔。ちょっと変な神器を持っているだけの悪魔っすね」
「そうじゃない」
流石にこれを察するように仕向けるのは無理だったな。出来ていたらこいつは悩んでいないだろうし。
「お前はお前だ。木場でもないし、塔城さんでもない」
「俺は、俺……」
反芻する兵藤。どうやら糸口はここだったようだ。
「悪魔として戦闘面でも才能も経験もない。悪魔の先輩である二人に敵うわけがないだろ」
「それは……」
「だけど、お前には十何年も積んできた『人間』としての経験がある」
こいつだって伊達に生きてきたわけじゃない。色々学んできたんだ。それら全てが無駄だったわけじゃない。
「『普通じゃない』悪魔に『普通』のお前の常識は理解出来ない。だからこそ、それが牙を剥くことが出来る」
ついに黙り込んで聞き出す兵藤。そんな偉い人の演説じゃないんだけど。
「お前にはお前だけの持ち味がある。それを活かせ。自分らしくあれ。今のお前に出来るのは、それだけだ。弱い奴は死に場所も、死に方も、戦い方も選べねぇとか言うだろ?」
そう言うと噛み締める様子の兵藤。しかし、こいつがこんなに真剣な悩みを抱えるとはな……ちょっとお節介を焼くか。
「なぁ、兵藤」
「何でしょう、先輩?」
俺、お前にちょっと聞きたいことがあるんだ。答えてもらうぞ。
「フェニックスっての、本当にぶっ飛ばしても死なないんだよな?」
「はい。信じられないかもしれないっすけど、腕が吹っ飛んでもすぐに再生しますね。頭だって吹っ飛んでも意味がないっす。自慢してましたし」
なるほどね、怪我を治療して無傷にまで戻すタイプの不死か。なるほどなるほど……
「(先輩、急に邪悪な笑みを浮かべ出したぞ……?)」
兵藤がちょっと引いている。何よ、折角相談に乗ったってのに。まぁ、いい。今は俺の思いついたことを言うだけだ。
「お前、そのフェニックスの呼吸を止めたことはあるか?」
「え?それは無いっすね。てか、呼吸を止めるってどういうことっすか?」
「物理的に喉を締める」
「はい?」
俺の言葉を信じられないものに思っているようだよ、この主人公。
「一瞬で傷が治る。だから実質不死身。ならよぉ……『傷を与えずに殺す』ってなれば話は別だよなぁ……?」
「せ、先輩……?」
自分でも分かる。今の俺、相当邪悪な表情をしている。
「与えてやろうじゃないか。一生残る恐怖と苦しみで、一生残る屈辱とトラウマをなぁ……!」
「先輩、俺が言うのもあれっすけど、あんた俺達より悪魔っすよ……」
げんなりした表情の兵藤。これにはちゃんと理由があるのだよ、主人公。
俺は姿勢を正す。
「いいか?はっきり言って、お前は相手から舐められるだろう。何せ、『悪魔における経験が何一つない新人』だからな。だからこそ、その油断を突く」
「油断?」
よし、食いついた。
「お前には悪魔の常識がない。だからこそ、多少常識外れなことをしても『まぁ、新人だし』で済む」
「先輩、もしかして悪魔社会のデバッグでもやってます?」
「その前提の上に重ねて相手の油断、そしてダメ押しに反則ギリギリの技を使う。そうすれば、フェニックスを追い込むことだって可能なはずだ」
「それ、俺の名誉も犠牲になりません?」
随分口答えするな、こいつ……
「あのなぁ……お前、そのフェニックスってのにグレモリーさんを渡したくないんだろ?だから今回ゲームやるんだろ?」
「そ、それはそうっすけど……」
「なら、悪魔らしく目的のためなら手段は選ぶな。容赦などいらん。相手の大将首は男だったら、俺なら容赦なく金的を狙うな」
「うっへー……でも、それはありなのか?」
俺の意見を飲み込み出した兵藤。よしよし、その調子だ。
「いいか、兵藤。この手の不死身ってのは攻略方法が昔から決まっている」
「何でしょうか?」
「心の底から『死なせてくれ』って思わせることだ」
ゲームって言うんだから降参の選択肢だってあるはずだ。だったら、それを相手に使わせる。グレモリーさんの様子から見るに、そのフェニックスを殺し続けるのは難しいだろう。だったら、降参させる以外手段はないと考える。
「死にたいと思わせる……」
「そうだ。力も速さもないし、その魔力って奴もないお前に出来るのは、急所狙い戦法だ。そうしてフェニックスの心をへし折り、降参の選択肢を自分で選ばせること。それが今のお前に出来る最善だ」
ふと思い出した、仮面ライダーウィザード。あれにもフェニックスがいたな。
「本当に不死身なら、太陽にぶち込んで殺し続けるってのも手だが……」
「あんた何言ってんだ?」
「フェニックスを蹴り飛ばして太陽に叩き込む。フェニックスは太陽の熱に焼かれて灰になるが、不死身故にすぐに再生してしまう。それをずっと繰り返す。ね、簡単でしょ?」
「それが出来たら苦労はしねぇ……!!」
だったらとこしえとかアプルに加えてカマスも用意しろ。もう俺にはそれしか出来ん。ほんと、フェニックスってのはろくでもないな。いや、出た当初のフェニックスはへっぽこしかいないし、不死鳥編に関しては何も言えないし……やめよう、この話題。
買うカードとか見極めが難しいし、買って後悔とかしたくない。人生に通ずることだな。
「後悔しない生き方だけを知りたいもんだ」
「え?」
「いや、何でもない」
どうやらボロっと言葉が漏れていたようだ。気にするな、兵藤。
「でも、何だか突破口が見えそうっす」
明るくなった兵藤。どうやら少しは力になれたみたいだ。
「そりゃよかった。俺も俺で、フェニックスとは因縁があるからな」
「え?」
思えば、世間一般の不死鳥フェニックスのキャラであるデ・スザーク連中も嫌な思い出がある。ビッグマナデッキを握る度に相手が魔導具を使ってきたせいで、マナも伸ばせず使えずの苦しい状況を強いられ続けた。デュエマってカードゲーム、鳥がろくでもないな。
「いまだに俺は心底嫌っているよ、あの野郎をな……」
ゼロ・フェニックスめ、次会う時は容赦しねぇからな……!ギャスカもだ!てめぇは余罪がデカすぎるんだよ!
よく考えたらギャスカはギャスカでゼロフェニにもスザークにも関与してんじゃねぇか。あいつ、俺の天敵すぎるな。二度と帰ってくんなバァアアカ!!
俺の中に恨みつらみが渦巻いている様子が伝わったのか、兵藤が静かになってしまった。すまん、置いてきぼりにしちまったな。
「ま、人生色々あるってわけだ」
「そ、そう言うことにしておきます……」
さて、時計を見る。そういや、こいつもこいつで修行の時間があったんだよな。だったら、余り長居させちゃ悪い。
「お前、時間は大丈夫か?」
そう言うと時計を見てハッとした様子の兵藤。さっきまでの暗い姿は何処へか、いつも通りの馬鹿で一直線な男に戻っていた。
「いっけね!先輩、すいませんでした!俺、何だかいけそうな気がします!」
「そうかよ。修行、がんばれよ」
「はい!」
そう言って勢いよく出ていく後輩。その青臭さが堪らないな。俺の無くしたものだ。
さて、それじゃあ俺は寝るとするか。っと、その前に四条のメッセージを……
―『先輩、ドキンダムが厳しすぎます』
……がんば。
Side out
闇の魔術に対する防衛術で例のあれの語録を少しかじっていた時期があったのですが、あいつら当たり判定がデカすぎてやってられないっすね。勝手に外野が騒ぐのを無視する以外どうしようもないと思います。