知るかバカ!そんなことより侵略だ!   作:ブラッキオ

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ドキつよ発売しましたね。色んなカードのシングル価格の落ち具合にドン引きしている自分がいます。

そんなわけで本編。前作に続き、言わせたいことを詰め込んだお話が今回です。


第53話 死人の男と生者の皆

木場side in

 

今、僕達の前には英雄が立っている。

 

「よぉ、ガキ共。何かしみったれた顔してんじゃねぇか。どした?話聞こうか?」

 

そう軽く言う岸波先輩。色々言いたい。けれど、今の状況がカオスすぎて何から手を付ければいいか分からなくなってしまう。

 

「せ、先輩!」

 

「兵藤、無事で何よりだ。漢見せていいじゃないか」

 

背後にいたイッセー君をそう褒める先輩。ただ、その表情は何かを疑問に思うようなものだった。

 

「なぁ、兵藤。何でお前らの雰囲気、こんなに暗いんだ?」

 

先輩の質問に口が開かなくなる。今の僕らは『また先輩に頼ろうとしている』と言う構図だ。フェニックスの時から何も進んでいないのと同じになる。

 

おそらく皆、これ以上喋ったら先輩に失望されるんじゃないかって思ってるんだと思う。

 

「それは神の不在が原因だ、ブラックゾーン」

 

コカビエルがそう言う。その発言に、岸波先輩は首をかしげる。

 

「神の不在?あれか?『神は死んだ』って奴か?そんなのいつの時代だよ。つーかこの期に及んで倫理の授業か?暇人か?」

 

先輩が言うのはニーチェの言葉だ。それとは違う。本当に神は死んでいた。その事実を先輩は知らないんだ。

 

「違うさ。こいつら教会の神が本当に死んでいて、こいつらにその慈悲や加護なんてものはそもそも存在していない、と言うことだ」

 

コカビエルが残酷な現実を突きつける。その言葉に先輩は少し考える様子を見せる。そして言った。

 

「黒歌、あの馬鹿相手にどれだけ粘れる?」

 

黒歌にそう訊く先輩。まるで長く付き添った戦友みたいな姿に、僕は目を奪われた。こんな状況なのに、憧れてしまった。

 

「死なないようにするの?あれ、一応グリゴリの幹部なんでしょ?」

 

「んまー、そうだな。殺してアザゼルさん筆頭の幹部連中にどやされても面倒だしな」

 

「んー、じゃあ10分。それ以上は殺しちゃいかねない」

 

「そうか。それでいいんで、頼めるか?」

 

「もちのロン」

 

簡単にそう言葉を交わして、黒歌に指示する岸波先輩。どこまでも手慣れた姿だ。

 

「さーて、死にてぇ奴からかかってこい、なーんてね!」

 

「はぐれ風情が……!」

 

そして黒歌とコカビエルの戦いが始まった。戦いはコカビエルの優勢……ではなかった。

 

「嘘……」

 

小猫ちゃんの言葉も僕は、いいや、僕達は言いたい。はぐれ悪魔の黒歌が、あのコカビエル相手に互角以上に戦っているのだ。その光景は、先ほどまでどうしようもなくなっていた僕らには信じがたいものだった。

 

「おおー、黒歌やるねー。さーて、じゃあ俺も頑張るか」

 

黒歌の活躍を見て、そう言う岸波先輩。彼はこちらを向いた。

 

「さて、話は分かった。神を生きがいや存在意義にしていたからこそ、現実に打ちひしがれたって訳だな?」

 

そう言って、岸波先輩はアーシアに近付いて、屈んで地べたに座るアーシアさんに視線を合わせる。

 

「なぁ、アーシア。神は死んだんだよな?」

 

「……」

 

先輩がそう言うと、無言でうつむくアーシアさん。そこに、先輩はとんでもないことを言った。

 

「俺、ちょっと嬉しいんだ」

 

「なっ!?」

 

神の存在こそが心の支えだったアーシアさんに、傷口に塩を塗るなんてすまないことを言い出した先輩。いくら何でも、それはデリカシーが……!

 

「だってさ、君との出会いは……誰かが決めたものじゃなかったってことだからな」

 

先輩の声色が優しく、柔らかなものになる。

 

「神の加護、神の慈悲。君とつながったのはそう言うのじゃなくて、君自身の意思でつながったんだって、そう言うことだろ?」

 

「ダイチ、さん……」

 

「俺はな、『神の試練』と言うのが嫌いなんだ。まるで神が自分のサディズムを満たしているようにしか思えなくてな。だからこそ、俺は神に中指を立ててきた」

 

その言い方だと、先輩は神に見捨てられ、異端や邪道を突き進んできたような言い方に思える。

 

「俺は、あらゆるものから切られたような馬鹿だったよ。そんな俺でも、君のような強くて優しい人と出会えた。神の定めた運命じゃない。俺が、俺達が取り合った手なんだ。それがうれしかった。こんな俺でも、まだ人と繋がれるって思えたんだ」

 

その声に少し震えと力が入る。先輩はもしや、過去に大切な人を失ったのでは?そう思うような気迫だった。

 

「俺は、ずっと君とのつながりは『人間の意思』が紡いだものだと思っている。俺達の魂が共鳴したものだと思っている。そこに、神の力なんて介入出来ない。堕天使に君が殺されそうになった時、君は神に助けを求めたかい?一体誰に助けを求めたんだい?」

 

「それは……」

 

言い淀むアーシアさん。言いきらなくても僕には分かる。彼女はあの時、神ではなく岸波先輩に助けを求めたんだ。そして、先輩はアーシアさんを助けた。

 

「言わなくてもいい。たださ、神がいなかったとしても、俺達は巡り合えた。兵藤達とも友達になれた。今、君は立派な足で歩いている。神は死んだ、もういない。それでも、神の遺した優しさってのは君の中で生きている」

 

その一言に、僕は思うものがあった。そうだ、神は死んでも残されたものはある。それこそ、同志たちが僕に力をくれたように……

 

「君は、君が思っている以上に強く生きられている。神の愛なんて無くても、俺は君のそばにいることは知っていてくれ」

 

岸波先輩は強く微笑んだ。

 

「ダイチさん……!」

 

そう言い、立ち上がる先輩。そして次はゼノヴィアの方を向いた。

 

「ゼノヴィアさん。あんたとは付き合いは短い。でも、言えることはある。俺の中で教会ってのは、下衆で頭の固い、絶滅すべき存在だと思っていた」

 

先輩の中の教会の評は、どこまでも残酷なものだった。ゼノヴィアもうなだれたままだ。

 

「それを、ゼノヴィアさんは否定した」

 

そう言う岸波先輩は、少し優しく思えた。

 

「あんたは、変われた。あれだけ『異端』と見なしていたアーシアを『個性』や『違い』として認め、受け入れることが出来た。他者の『意志』を尊重し、自分の『意志』を信じた。普通の人間でも難しいことを成し遂げたんだ。それは、あんたの神の力じゃない。あんたはあんた自身の力で変われたんだ。それこそ、神がいなくても立ち上がれることの証拠他ならないと思っている」

 

「ブラックゾーン……」

 

「誇れ、ゼノヴィアさん。あんたは俺よりも強い」

 

岸波先輩の言葉を受けて、顔を上げるゼノヴィア。ああ、そうか。僕が言うのはおこがましいと分かっているけど、魔王様達や大天使達も皆こうして鼓舞されたんだって。英雄はただ力が強いだけじゃないって。心で理解出来た。

 

「さーて、優しい時間は終わりだ」

 

そう言う先輩。次の瞬間、その目は先ほどまでの慈愛から怒りに変わった。フェニックスとの戦いの時と同じ目だ。

 

「おい、兵藤。いいや、兵藤だけじゃない。お前ら、その目はなんだ?まるで全てを諦めたような目は?まさかとは思うが……抗うのをやめたのか?」

 

明らかに苛立った声でそう言う先輩。その言葉に僕らはは身をこわばらせた。まるで親に説教される子供のように。

 

そんな僕らだったが、先輩に抗議をイッセー君はした。

 

「無理っすよ……」

 

「あ?」

 

「あんなの、勝てるはずがないんすよ」

 

そう言うイッセー君。岸波先輩は、眉間にしわを寄せていた。

 

「それに、強い先輩が戦えば、全部いいじゃないですか。それで全部丸く収まるんですから、それが最適じゃないですか!」

 

イッセー君の心をせき止めていたものが壊れ、本心があふれ出す。彼も彼で必死になって戦っていたんだ。力がないなりに、必死になって頑張ったんだ。それでも、現実は非情だった。

 

その言葉を聞いて、先輩は笑顔になった。

 

「兵藤」

 

そう言って、イッセー君を立たせた。次の瞬間、先輩の拳がイッセー君の頬を貫いた。

 

勢いよく地面に倒れるイッセー君。その光景に、僕は驚くばかりだった。

 

「俺はな、人間が大好きなんだよ。どんな絶望の中でも人間の心から光が消え去る事は無いんだよ。俺はそれに救われて来た。こんなちっぽけな心を、肯定してくれたあの光が今も忘れられないんだ。いつもいつも憧れていた。俺でも分かる程に勝てない相手だと分かっていても、守るものの為にその身を散らした奴らが、今でも俺の背中にいる」

 

先輩の拳が強く握られ、震える。粗暴でもいつも冷静だったあの岸波先輩が感情的になっている、

 

「お前らは恵まれているだろ?立って戦えるだけの力があるだろ?何故、自分から捨てる?何故、その輝きを自らドブに捨てられる?人間の輝きを何だと思っている?」

 

先輩を救った人達がどんな人かは知らない。それでも、その人達は僕のような存在とは違う、高貴な人達だったのは分かった。

 

「何が光だ……」

 

「あ?」

 

「そんなの、あんたの勝手な願望だろ!あんたの身勝手な期待だろ!俺達はあんたの知り合いとは違うんだよ!俺達は弱いんだよ!だからコカビエルに勝てない!俺達に出来ることなんて、もうないんだよ!」

 

立ち上がったイッセー君はその怒りを爆発させ、先輩の胸倉をつかんでそう吠えた。僕達だってそう思っている。先輩は、僕達に大きすぎる期待を寄せている。それは、英雄だからこそ見えるものであって、僕のような凡愚には絶対に届かない場所から見えるものだ。余りに身の丈に合わないことを要求されている。

 

イッセー君の言葉を受けて、岸波先輩は……

 

「この馬鹿後輩がぁ!!」

 

「ぶべっ!!」

 

再びイッセー君を殴った。

 

「……そうかよ。そうなのかよ。俺がお前らから感じていたのは、塵芥だって言うのかよ……!」

 

そう言う先輩は、どこか寂しげだった。

 

そして、先輩は衝撃的なことを言い出した。

 

「俺は、この世界の住人じゃない」

 

「……は?」

 

イッセー君の気の抜けた返答。それこそが僕らの思いだった。え、この世界の住人じゃない……?

 

「お前、アニメとかで『異世界転生』ってのが流行ってるだろ?俺は、あれをしてこの世界に来た」

 

衝撃の真実だった。先輩がこの世離れしたような力を持っていたのは、実はこの世あの世で測れるようなステージの外から来た存在だったからだなんて……

 

そして衝撃の言葉はまだ続く。

 

「……俺は、その異世界で死んでいる」

 

「嘘……」

 

部長さんが驚嘆の声を漏らす。死んだ?先輩が死んだ?

 

「何の縁かは知らないが、今はこうして生きている。が、死んだ事実に変わりはない。俺は、立派な死人(アンデッド)だ」

 

そう言う先輩は寂しさをより強めていく。今の状況じゃなければ、正直見ていられない程に。

 

「不思議なことにな、人間ってのは生きているとドンドン過去の記憶が薄れていくんだ。それは、俺の前世も同じだ。大切な人達の顔も擦り切れ出している。記憶が次々と崩れ落ちていく。もう、思い出せないものまである。それがどれだけ辛いか分かるか?『死にたい』って思う程に寂しいこの気持ちが分かるか?それでも、それでもよ……」

 

そして先輩は叫んだ。

 

「それでも、俺はたくさんの人に出会って、愛された!こんな死体が満足してしまう所まで来ちまった!大人しく死んで消えておけばいいものを、『明日が欲しい』と言うようになっちまった!寂しくなるのが分かっていても、また明日が欲しくなった!俺の明日を邪魔する奴らに抗うって決めちまったんだ!」

 

先輩は涙を流していた。これだけ絶望に屈し、あまつさえ立ち上がろうとしない僕らを、まだ見捨てないでいてくれている。先輩は、優しすぎる。

 

「過去が消えていくなら、せめて明日が欲しい。だから、俺は抗っているんだ。なぁ?死人の俺の方が明日を求めているってのは、一体どういうことなんだ?お前達は生きているんだろう?!だったら抗えよ!」

 

先輩がそう叫ぶ。僕の心の絶望が晴れていく。先輩の言葉は、極論を言えば『ただの空気の振動』だ。地球で見れば、下らない自然現象の一つだろう。それでも、その自然現象で僕の心は救われた。『まだ戦える』って思えるようになった。

 

それは、僕だけじゃない。

 

「先輩……」

 

イッセー君が立ち上がって、岸波先輩の前に立つ。

 

「すいません、もう一発殴って下さい」

 

「……分かった」

 

そう言って、先ほどに比べたら威力の低い鉄拳をイッセー君の顔面に入れた岸波先輩。イッセー君はバランスを崩すも、立っていられた。

 

「くぅーーー!痛ぇーーー!」

 

そう言うイッセー君の顔は晴れやかだった。さっきまでの絶望が嘘みたいだった。

 

「俺は弱いっす。フェニックスの時のようにうまく出来ないし、もうこっちの手は尽きたっす。でも……ここで負けたら、俺はもう誰にも勝てない。フェニックスの時の悔しさを一生味わい続けることになる。それだけは嫌だ!」

 

イッセー君のその目には涙があった。でも、それは恐怖の涙じゃない。

 

「先輩、さっきはすいませんでした。俺、もうちょっと明日を生きようと思います」

 

「……ああ、そうだな」

 

イッセー君は、立ち上がった。僕らより先に立ち上がったんだ。これじゃあ、悪魔の先輩として情けないにも程がある。

 

僕は聖魔剣を杖にして立とうとする。だが、全身に力が入らず、跪いてしまう。ゼノヴィアも同じだ。彼女は彼女でデュランダルを杖にしていた。

 

「先輩、確かに俺は戦います。ですけど、皆は皆で疲れているんで許してやってください」

 

「ったく、しゃーない」

 

そう言って先輩とイッセー君は涙を拭い、共にコカビエルの方を見る。

 

「限界まで倍加しろ。それまで俺が奴を削る。とどめはお前が持って行け、主人公。ご褒美は……俺のおすすめのエロ漫画の奢りでいいか?」

 

「おお、それはいいっすね。断然、燃えてきたっす。それじゃあ……主人公らしく抗ってみます」

 

その背中は、余りに大きかった。二天龍の片割れである『赤龍帝』。二天龍を討ち、世界を救った大英雄『ブラックゾーン』。因縁のある両者が今、手を取った。

 

おかしいな、こんなボロボロなのに、童心が刺激されて興奮してきた。まるでヒーローショーを見ている気分になる。

 

「下がれ黒歌ぁ!後は妹を守ることに集中しろ!」

 

「ようやくお説教は終わりね!それじゃあ……!」

 

そう言って、コカビエルを蹴り飛ばして距離を取る黒歌。すぐに先輩の所まで下がって来た。

 

「へぇー?いい顔になったじゃん」

 

「あ、ありがとうございやす」

 

黒歌にそう言われて戸惑うイッセー君。岸波先輩はそれを見て、軽くイッセー君の額を小突いた。

 

「馬鹿、集中しろ」

 

「は、はい!」

 

岸波先輩とイッセー君のその姿は、本物の兄弟のように見えた。うらやましいと思ってしまった。立ち上がれない自分がここまで悔しいと思うなんて、考えもしなかった。

 

「屑め、スケールの違いを見せてやる!」

 

そう言って先輩は駆けだした。厳密に言うと、『駆け出したのだろう』。その速度に、僕の目は追い付けなかった。『師匠』以上のその速さに、僕は目を奪われた。

 

いつの間にかコカビエルの目の前にいた先輩。右手を振りかぶって、そして……

 

「きさっ!?」

 

「後輩のお礼参りだ、しっかり味わえよ」

 

余りの格上ぶりを想定していなかったのか、驚くコカビエル。先輩はフェニックスの時とは違う、もっと底冷えするような声を放ち、拳を突きだした。

 

「ごっ!!」

 

コカビエルがかなりの量の血反吐を吐いた。僕が聖魔剣を使って、奇襲してようやく皮一枚だったのが、先輩の手にかかれば一瞬かつ一撃であれだけのダメージを与えられる。その世界の違いに、すくんでしまう。

 

それと同時に、『あの領域を見てみたい』とも思ってしまった。

 

傲慢だろうな。無謀だろうな。自分でも分かっている。それでも、僕は『悪魔』だ、欲深くて何が悪い。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

「うおっ、変な声出た!?しかも何か力が湧いてくる!っしゃぁ!ちょうどいい!いっちょやってやる!!」

 

自らの神器から発せられたその声に驚くものの、すぐに構えを取るイッセー君。彼は全身を鎧で覆われた。

 

音声の言うことが本当なら、彼は禁手(バランス・ブレイカー)に至ったんだ。

 

正直、信じられない気持ちが強い。イッセー君は神器に目覚めてまだ日が浅い。僕のように昔から使っていた訳じゃないのに、あっという間に禁手に至った。最早、才能と言えるだろう。

 

ただ、納得いくところもある。神器の力の源は『意志』だ。おそらくだけど、イッセー君の意志の強さに、神器が応えたのだろう。

 

彼は、いともたやすく『壁』を越えたんだ。

 

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost!!!』

 

「先輩が時間を稼いでくれているんだ!やれるとこまでやんねぇと!!」

 

急ぐイッセー君だが、その表情は晴れやかだった。彼は彼で先輩の背中から『明日に手を伸ばすこと』を学んだ。いや、思い出した。だから、立てている。

 

『Eternal!』

 

「ドライグ、起きたのか!!」

 

『ハッ!?ここどこ?!てか、何が……堕天使?それにブラックゾーン?何であいつらが戦ってんだ?』

 

イッセー君が言うには、気絶していたらしいドライグが今目を覚ました。ドライグもドライグで想定していなかった光景なのか、困惑しているようだった。

 

「そんなことはいいから、さっさと力を寄こせ!」

 

『へ?……え、『禁手』!!?お前、いつの間に!!?』

 

「さっき気合でなった!」

 

『はぁああああ?!!お前くらいの才能が、気合で『禁手化(バランス・ブレイク)』?!!そんな奴歴代で一人もいなかったぞ!!?』

 

貶しているのか褒めているのか分からないことを言い出すドライグ。それにイッセー君が答える。

 

「知らん!何かなったんだから、もうそれでいいでしょ!」

 

まるで岸波先輩のようなぶった切り方をするイッセー君。

 

『ええい!よく分からんが、ままよ!おい、相棒!お前の倍加も、いくら禁手化したとて、その貧弱な体では限界がある!そこを超えたら死にかねん!限界に到達したら、俺が強制的に倍加を停止する!それで満足してくれ!』

 

「いいぜ、ドライグ!こんなんで満足できる奴じゃねぇけど、今はそれで我慢してやらぁ!」

 

そこから、一気に倍加の速度を上げていくイッセー君。

 

目の前では先輩がコカビエルを蹂躙している。コカビエルには、先ほどまで僕達に向けていた余裕の表情はない。寧ろ、その先ほどまでの僕達と同じ表情になりつつある。

 

「ブラックゾォオオン!!」

 

「うるせぇ!」

 

そう言って、岸波先輩はコカビエルを殴り飛ばした。コカビエルは飛ばされる中、宙で姿勢を整えた。

 

「おのれおのれおのれ!」

 

そう言って光の槍を生み出し、投擲しようとするコカビエル。先輩は自分に効果がないことを悟っているのか、微動だにせず。

 

コカビエルの手から槍が離れようとした瞬間、奴の背にあった翼が魔力と雷によって蝕まれ、消えていく。コカビエルが態勢を崩したことで、槍は空へ向かって飛んでいった。

 

「なっ!!?」

 

驚嘆するコカビエル。すると、僕の横を歩いていく人がいた。

 

「ごめんね。流石にノーガードすぎて、精神衛生上よくなかったから邪魔したわよ」

 

「寝ているだけなのは、退屈すぎましたの」

 

そう言うのは、部長さんと朱乃さんだった。

 

「そっか。それは申し訳なかった」

 

頭をポリポリと掻いて申し訳なさそうにする岸波先輩。

 

「わ、私も……!」

 

小猫ちゃんも立ち上がろうとするが、それをアーシアさんに止められた。

 

「小猫さん。ここは任せましょう」

 

「で、でも……」

 

「今の私達では、それこそ足手まといと言うものです。今は、ゆっくり休みましょう」

 

そこには、先ほどまでの絶望に染まったアーシアさんはいなかった。現実はつらく悲しいものだった。それでも前を向くしかない。だから、そうする。そんな姿に思えた。

 

「朱乃、どれくらい立てそう?」

 

「正直言いますと、もう限界ですわね……」

 

「私もよ……」

 

部長さん達も限界だったのか、そのままへたり込んでしまった。そんな姿を見て、岸波先輩は微笑んだ。

 

「いいじゃねぇか。今の二人、立派に『王』と『女王』してるぞ」

 

そう、一言、短く褒める岸波先輩は、コカビエルの方を向く。

 

「君が雑魚と判断した連中の牙だ。さぞ屈辱だろうねw」

 

「貴様らぁ……!」

 

既に満身創痍のコカビエルを煽っていく岸波先輩。そこに響く声。

 

『相棒!もう限界だ!』

 

「よぉし!岸波先輩!いつでもいけます!」

 

倍加が完了したイッセー君。それを受けて、岸波先輩は頷いて、コカビエルの方へと走る。

 

「親ライオンが子ライオンに狩りを教えるようなもんだ。お前、シマウマとかガゼルの役な」

 

そう言って、コカビエルの鳩尾に拳を入れて、浮かび上がらせる。次の瞬間、超高速のラッシュを叩き込んだ。

 

「レッドゾーン・ラッシュ改め、ブラックゾーン・ラッシュ!!」

 

その拳の速度に、僕の目は追い付けなかった。速すぎる。余りに速すぎる。この世界の摂理を無視したものとさえ思える程に速い。

 

「そっちにぶっ飛ばすぞ、兵藤ぉおお!!」

 

「よっしゃ、どんと来いッッ!!」

 

イッセー君が構えると、先輩は既に意識が無いであろうコカビエルの背中を蹴り飛ばす。その方向は、イッセー君のいる場所だった。

 

どんどんイッセー君とコカビエルの距離が詰まる。そして、コカビエルがイッセー君の目の前まで飛んできた。

 

「っしゃおらぁああ!!」

 

『Explosion』

 

イッセー君のアッパーがコカビエルの顔面に入った。その瞬間、インパクトが轟音となってこのグラウンドに響き、そしてコカビエルが宙を舞った。

 

力無く宙を舞ったコカビエルは抵抗することもなく、地面へと落ちた。辛うじて息はしているようだったが、あれでは最早立ち上がることなど出来ないだろう。

 

静寂がこの場を包む。

 

岸波先輩がイッセー君の目の前まで歩いてきた。その一歩一歩が軽快で、先輩のテンションが上がっていることが分かった。

 

岸波先輩がイッセー君の前に立つ。すると、先輩が拳を突きだした。

 

「ん」

 

そうぶっきらぼうに言うと、イッセー君も拳を突きだして、合わせた。

 

「やったな、兵藤」

 

「はい……はい!」

 

こうして、僕らの戦いは終わった。

 

長い長い復讐を終わらせ、堕天使幹部との戦いも終えた。波乱万丈とも言える夜が終わった。

 

木場side out




と言うことで、コカビエルとは決着がつきました。あと2話くらいで3章も終わろうかと思っています。
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