もしも地質ガチな俺が地学部に入ったら【恋する小惑星if】 作:Takuma218
そこには、ただ潮騒が響いていた。
青天の下、日差しが降り注ぐ岩場。
朝から続く風は止むことなく、白い岩壁に打ちつける波が砕け、飛沫が高く舞い上がる。
潮の匂いが濃く、足元の岩はところどころ濡れて黒く光っていた。遠くでは沖へ向かう船が小さく揺れている。
その音の中に時おり、カン、カン、カンと乾いた小気味よい音が混じり、海の轟音に負けじと、小さな金属音が空へ跳ね上がっていた。
二つの影が並んでいる。
小さな少年と、その背後で見守る父親。
父親は慣れた手つきで岩肌を見回し、白い壁の一角を指で示す。少年は黙って頷き、そこへハンマーを振り下ろす。
カン!カン!カン!
最初は、何も起こらない。
硬い。びくともしない。
腕に衝撃が返り、手のひらがじんと痺れる。
それでも少年は止めない。
何度も。何度も。
カン!カン!カン!カン!
鈍い衝撃。
細いひびが、光を反射して走る。
父は何も言わない。ただ、わずかに息を呑む。
少年はそれに気づき、もう一度振り下ろす。
カン!カン!カーン!
乾いた音とともに岩が割れ、その奥に細い光がのぞいた。
白い岩の内部に隠れていた、透明な柱のようなもの。
少年の鼓動が早まる。
海の音が遠のく。
世界が、そこだけに集まる。
破片を慎重に払い、両手でそれを引き抜く。
砂混じりの表面はざらりとして、しかし内側は滑らかで冷たい。
一本の棒のような結晶。
父の顔が、ふっと緩む。
大きな手が少年の頭を撫でる。
その温もりが、何よりも誇らしかった。
少年はそれを夕日にかざす。
先端は淡い桃色。
そこから白をはさみ、深い緑へと、ゆるやかに色が移ろっている。
傾いた光が内部を通り抜け、その結晶は静かに、しかし確かに輝いた。
岸壁のあちこちには、同じような透明な塊や柱が埋まっている。
波が引くたび、濡れた面が太陽を反射し、まばゆい光を放つ。
まるでその白い岩そのものが、巨大な宝石の塊であるかのようだった。
遠くでひときわ大きな波が砕ける。
轟音が空へ響き、飛沫が高く舞い上がる。
少年は結晶を胸に抱き、もう一度海を見た。
広く、強く、果てしない海。
この日、この場所で、自分は何かを見つけたのだと、はっきりと感じていた。
その指先にはまだ、岩の粉が残っている。
掌の小さな痛みさえ、誇らしかった。
父の手の温もりと、潮の匂いと、まばゆい光。
すべてが混ざり合い、この瞬間を焼き付けていく。
それは、何年経っても色褪せない光だった。
夢中で見つめ合う親子を、潮騒がただ包み込んでいた。