もしも地質ガチな俺が地学部に入ったら【恋する小惑星if】 作:Takuma218
潮騒に交じって、岩を叩く乾いた音が響いていた。
晴れ渡った空の下、海岸の白い岩壁に二つの影が並んでいる。ハンマーを握った小さな少年と、その手元を見守る父親だった。背後では波が砕け、吹き寄せる風が潮の匂いを運んでいた。
白い岩肌には、黒く太い柱状の結晶が幾本も入り込んでいた。まっすぐ伸びたもの、斜めに交わったもの。その間には、半透明の塊が陽を受けて鈍く光っている。
父は岩肌を見渡し、その一角を指で示した。少年は顔を近づけて場所を確かめると、ハンマーを振り上げた。
硬い音とともに、衝撃が腕へ返ってくる。
一度では割れない。二度、三度と叩いても、白い粉が落ちるばかりだった。少年はずれた柄を握り直し、同じ場所を見据えた。額にかかった髪が風に揺れても、目を離さずに腕を振った。
やがて岩にひびが入り、小さなかけらが足元へ落ちた。
その割れ口に、細い光がのぞいていた。
少年はハンマーを下ろした。指先で粉を払い、顔を寄せる。白い岩の奥に埋まっているのは、周りの黒い柱とは違う、色の透けた結晶だった。
少年の肩越しにのぞき込んだ父の顔が、ぐっと近づいた。
大きな手が岩肌に触れ、結晶の周りを慎重にたどる。少年は少し身を引いて、その指先を見つめていた。父は一度だけ少年を振り向き、目元を緩めると、再び岩へ向き直った。
二人の頭が触れそうなほど近くに並んだ。
少年は父の手元をのぞき込み、ときおり足元の破片を拾い上げた。父の手が止まるたびに顔を上げ、また結晶へ視線を戻す。その膝にも袖口にも、白い岩の粉がついていた。
ようやく取り出された一本の結晶を、父は目の高さに持ち上げた。
ゆっくりと裏返し、光へ向け、もう一度眺める。少年が両手を差し出すと、父はその小さな手のひらへ、そっと結晶を置いた。
ひんやりとした重みが伝わった。
少年は指を添え、折れないように持ち上げた。父の手が伸びてきて、少年の頭をくしゃりと撫でる。少年は首をすくめながら笑い、手の中の結晶を父の方へ差し出した。
朝から岩場を照らしていた日は、いつしか西へ傾いていた。
少年は父の仕草をまねて、結晶をその光にかざした。
先端には淡い桃色が透けていた。
そこから白をはさみ、深い緑へと色が移っている。少し向きを変えると、暗く沈んでいた緑の内側に光が差した。少年は指で隠れた部分をのぞこうと、持つ位置をずらした。
夕日の中で、その小さな一本だけが、白い岩とも黒い柱とも違う色を見せていた。
父が隣にかがみ、少年の手を下から支えた。
二人で結晶を傾ける。光が通るたび、少年は父を見上げた。父の顔にも笑みが浮かんでいた。少年はまた結晶へ目を戻し、今度はほんの少し、手首を返した。
足元まで伸びた二つの影が、岩の凹凸に沿って重なっていた。
波が砕けるたびに飛沫が上がり、風に冷えた頬へ細かな水滴が触れる。それでも少年は、差し出した手をなかなか下ろさなかった。
やがて父が包みを広げると、少年は結晶をもう一度だけ夕日に透かした。それから両手で包みの上に置き、父が丁寧にくるんでいくのを見届けた。
岩の粉が残る小さな手を、父の手が包んだ。
少年は空いた方の手でハンマーを持ち、父の後について岩場を歩き始めた。途中で振り返ると、白い岩壁が夕日を受けて淡く染まっていた。
父が足を止め、少年を待っている。
つないだ手が軽く引かれ、少年は再び前を向いた。
二人の背後では、潮騒が変わらず響いていた。