もしも地質ガチな俺が地学部に入ったら【恋する小惑星if】 作:Takuma218
(2017年4月)
まどろみの向こうで目覚まし時計の音が聞こえた。
何か夢を見ていた気がするが、思い出せない。
どうにも頭がぼんやりする。昨夜少し夜更かししたせいだろうか。
ベッドの上でしばらく天井を眺めていると、階下から声が飛んできた。
「ケンジ!! 早く起きないと遅れるわよ!」
そうだ。今日から高校だった。
入学初日から遅刻なんて洒落にならない。
俺は慌てて着替え、朝食をかき込み、身支度を整える。
玄関に向かったところで、ふと足を止めた。
「いけね。忘れるとこだった」
仏壇に手を合わせる。
それから、小さな細い石の付いたペンダントを手に取り、首にかけた。
制服の下にしまい込む。
「母さん、行ってきます!!」
「行ってらっしゃい!」
養母の言葉を背に俺は家を飛び出した。
…………………………
青天の下、桜舞う道を歩く。
入学の時期に桜が咲くというのは良いものだ。俺の地元ではまだ蕾だもんな。
仙台から二週間前に越してきた時はどうなることかと思ったが、案外慣れるものだ。
でも誰も知らない学校へ行くというのは、やっぱり緊張する。とはいえ中学でもそこまで友達が多かった訳でもないが…。ダメだ、思い出すと惨めになるから止めておこう。
まあ俺は好きなことができれば良いのだ…!
そんなことを考えているうちに、校舎が見えてきた。
淡い桜に囲まれた校門。
新しい制服に身を包んだ生徒たちが次々と吸い込まれていく。
県立・星咲高等学校。ここがこれからの俺の学舎だ。
校門脇の掲示板には、「新入生歓迎」と書かれた紙が何枚も貼られ、部活のチラシが風に揺れている。すでにグラウンドからは掛け声が聞こえ、校舎のどこかから吹奏楽の音が微かに響いていた。
市立の割に部活動が盛んなことで知られている学校、
野球、サッカー、バスケといった運動部はもちろん、料理、化学、生物といった文化部も充実しているらしい。
活気のある空気が、校門をくぐった瞬間に肌に触れた。
かく言う俺も、その中の「地質研究会」が目当てだ。
…………………………
クラス分けの表を見て、自分の教室に入る。
新鮮な気分だ。もっとも、知っている人は誰もいないのだが…。
「えーっと、あの席か…」
窓側の席に腰を下ろす。
前の席には、すでに一人の男子が座っていた。金髪で、どこか軽い雰囲気を漂わせている。
俺の視線に気づいたのか、くるりと振り向いた。
「よう!俺は須賀直人。星咲中から来たんだ。よろしくな!!」
やけに距離が近いな。
「俺は松原ケンジだ。この街には最近来たばかりだから、何も知らないがよろしく」
すると須賀は、さらに身を乗り出してきた。
「引っ越してきたのか!?どこから?」
「仙台だ。」
「え、マジか!牛タンじゃん!」
「地元民はそんなに食べないけどな」
「マジか~。じゃあずんだ!!」
食い物しか浮かばないのか。
「それもそんなに食べないかなー」
須賀は「マジか~」と肩を落とすと、急に表情を切り替えた。
「してケンジ君よ…、高校生活に何か目標はあるかね?」
「俺はち…「高校生活、モテてなんぼだろ!!」
「……は?」
人の話を遮って何を言ってるんだこいつは?
「やっぱり人生モテなきゃな。モテてこそバラ色の高校生活ってもんだろ!!」
熱弁する須賀を、俺はただ見つめるしかなかった。
「さあ、一緒にモテ街道を歩もうぜ!!」
ダメだこいつは。放っとこう。
その後も何か力説していたが、俺は聞こえないふりをした。
…………………………
『皆さんと同じ学舎で過ごすことを、大変嬉しく思います。それぞれの夢や目標に向かって、共に切磋琢磨していきましょう』
入学式では校長と生徒会長のありがたいお話を聞き、その後のホームルームへと移った。
いよいよ部活動紹介の冊子が配られる。
俺は迷わず、目的のページを探した。…だが、
「…あれ、ない?」
一瞬、見間違いかと思った。
目を擦りもう一度、上から順に指でなぞる。
「地質研究会」が無い…、だと…?
冊子を見つめたまま固まっていると、担任の声が響いた。
「あっ、そうそう。今年度から一部の部活に統廃合があるからな」
先生の話によると、昨今の少子化の影響で生徒数が減り、一部の文化部が単独では運営できない状況になったらしい。そこで、活動内容の近い部活同士をまとめることにしたという。
例えば、
化学部+物理研 → 科学部
飼育部+園芸部 → 生物部
調理部+製菓研 → 料理部
というように。
そして地質研究会も例に漏れず、
地質研究会+天文部 → 地学部
となるという。
冊子をよく見ると、確かに「地学部」はあった。
地学で括るとは、また大雑把な…。
まあ活動時間は被らないだろうから問題は少ないかもしれないが、部によっては混乱も起きそうだな。
…………………………
そして放課後。
俺たち新入生は体験入部という形で、今週の五日間さまざまな部を回り、来週正式に入部することになるらしい。
いよいよだ。
俺は早速、地学部の部室へ向かおうと席を立った。
その瞬間、背後から声が飛んできた。
「おまえ、どこの部に行くんだ?」
振り向くと、須賀がにやにやしている。
「地学部に行く予定だけど」
「そんな冴えない部に入ったらモテないぞ!やっぱ男ならサッカー部だろ!人生モテてなんぼだ。
…という訳で、Let's go!!」
「は?」
そう言うや否や、須賀は俺の腕を掴み、ぐいと引っ張った。
「ちょっと待て!!なぜ俺まで連れていく!?」
「そうそう言わずに、一緒に行こうぜ!!」
「何でだー!!」
こうして俺は、意志とは無関係にサッカー部へと連行されることになった。
……どうしてこうなった。
…………………………
その頃、旧文化部棟一階の地学部部室では、思いもよらないことが起きていた。
新入生の木ノ幡みらと真中あおが、数年越しの約束を胸に、再会したのだ。幼い日に交わした「小惑星を見つける」という約束が、いま静かに繋がった。
これには二人のみならず、周りの地学部員も驚いていた。
「こんな事ってあるのね」
地学部部長の森野真理が驚きに目を丸くする。
「まさか真中さんの話していた相手が丁度現れるなんて、驚きですぅー」
二年の猪瀬舞が同調する。
「それにしても、幼少期にキャンプ場で会った相手とこうして再会するなんて、どんな確率かしら…」
そして副部長の桜井美景が冷静に分析した。
「あおちゃん、かわいいよ~」
しおらしいあおに、みらの友達の鈴矢萌(すず)が思わず抱きつく。
「もう、すずちゃん止めなって。あおちゃん困ってるでしょ」
「だってかわいいんだもん。それに、女の子がみらと仲良くするのは大歓迎よ♪︎」
と、少し怪しい事を言いながら、すり寄るすずにあおはオドオドするばかりだった。
「それにしても森野部長と木ノ幡さんと真中さんが天文班、私と猪瀬が地質班か。あなたは?」
「私は家の仕事があるので部活には参加しません」
桜井副部長の問いにすずが申し訳無さそうに眉を下げる。
「となると、天文班3人に地質班2人か…。こちらの方が少ないわね。」
「大丈夫ですぅ。私が二人分働きますから!」
桜井の呟きに猪瀬がやたら遅い反復横跳びをしながら元気良く返した。
(((猪瀬先輩、反復横跳び遅いな…。)))
新入生三人は内心ツッコんだ。
それを聞いた地学部顧問の遠藤幸が思い出したように呟いた。
「そういえば、地質研志望の男子生徒が一人いたはずだが、来ないな…」
先生が首を傾げると、その呟きにすずがピクッと反応した。
「男子ですと…。やっぱり私も入ろうかしら」
「すずちゃんドウドウ。私は大丈夫だから」
反応するすずをみらが宥める。
「みらが大丈夫でも私が大丈夫じゃないの!
何かあったらすぐ言ってね。みらに手を出そうものなら、容赦しないから」
すずの言葉にみらは苦笑いをする。
「それにしても男子か…。地質班の活動は力仕事が多いから、正直来てくれるのなら助かるわね」
桜井先輩の呟きを聞いた一同は、まだ来ていない“もう一人”を想像するのだった。
いよいよ始まりました!!
この小説はアニメ『恋アス』放送時に、もう少し地質寄りにして、男子も入れた青春群像劇にしても面白いだろうな~と妄想していた物を、最近の某鉱物採集アニメを見たことで思い出し、作品として書いてみた次第です。
小説初心者ですがなんとか書いていますので、暖かい目で読んで頂けたらと思います。
それではこれからも、よろしくお願いいたします!!