もしも地質ガチな俺が地学部に入ったら【恋する小惑星if】 作:Takuma218
(2017年4月)
まどろみの向こうで、目覚まし時計の音が聞こえた。
手探りで止め、天井を眺めた。
何か夢を見ていた気がするが、頭がぼんやりして思い出せそうにない。
そういえば寝るの遅かったっけ。
だめだ眠い…。
そう思って目を閉じかけたところで、階下から声が飛んできた。
「ケンジ!! 早く起きないと遅れるわよ!」
やべ…、今日から高校だった。
時計を見て、一気に目が覚めた。
流石に入学初日から遅刻なんて洒落にならない。
布団を跳ねのけ、まだ着慣れない制服に袖を通す。
階段を下りて朝食をかき込み、身支度を整えて玄関へ向かったところで、ふと足を止めた。
「いけね。忘れるとこだった」
仏壇の前へ戻り、手を合わせる。
それから、細い石の付いたペンダントを手に取り、首にかけた。胸元に収まるよう、制服の下へしまい込む。
「母さん、行ってきます!!」
「行ってらっしゃい!」
声を背に、俺は家を飛び出した。
*
しばらく早足で歩き、途中で時計を確かめる。
よし、これなら間に合いそうだ。
一息つく。
ようやく周りを見る余裕ができた。
道沿いの桜は満開で、風が吹くたびに花びらが舞っている。前を歩く新入生らしき女子の肩にも、一枚くっついていた。
入学の時期に桜が咲くというのはいいものだ。俺の地元ではまだ蕾だもんな。
仙台から二週間前に越してきたときはどうなることかと思ったが、案外慣れるものだ。
でも、誰も知らない学校へ行くというのは、やっぱり緊張する。
周りには、すでに友達同士で歩いている連中も多い。
とはいえ中学でもそこまで友達が多かった訳でもないが……。ダメだ、思い出すと惨めになるから止めておこう。
まあ俺は、好きなことができればいいのだ……!
そうこうしているうちに、校舎が見えてきた。
市立星咲高等学校。
ここが、これから三年間通う学校だ。
桜に囲まれた校門へ、新しい制服の生徒たちが次々と入っていく。
門の脇には「新入生歓迎」の掲示が並び、その周りには部活のチラシが貼られていた。グラウンドからは掛け声が聞こえ、校舎の方からは吹奏楽の音も流れてくる。
この学校は、部活動が盛んらしい。
野球、サッカー、バスケといった運動部はもちろん、料理、化学、生物といった文化部も充実していると聞いている。
かく言う俺も、その中の「地質研究会」が目当てだ。
どんな石があるんだろう。
部室に標本が並んでいたりするのだろうか。採集や巡検にも行くのなら、ぜひ参加したい。
それに、石の話ができる相手がいるかもしれない。
いちいち説明しなくても話が通じて、こっちの知らないことを教えてくれるような相手が。
……いかん、いかん。まだ入部もしていないのに、期待しすぎだな。
俺はチラシから目を離し、クラス分けの掲示へ向かった。
*
自分の名前を見つけ、教室へ入る。
中では何人かが集まって話していた。一人で席に座っている生徒もいたが、知っている顔は当然ない。
「えーっと、あの席か……」
座席表を確かめ、窓側の席へ向かう。
鞄を置いて腰を下ろしたところで、前の席の男子がくるりと振り向いた。
短い金髪に、どこか軽そうな雰囲気。
そいつは俺と目が合うなり、にっと笑った。
「よう! 俺は須賀直人。星咲中から来たんだ。よろしくな!!」
やけに距離が近いな。
「俺は松原ケンジだ。この街には最近来たばかりだから、何も知らないがよろしく」
すると須賀は、さらに身を乗り出してきた。
「引っ越してきたのか!? どこから?」
「仙台だ」
「え、マジか! 牛タンじゃん!」
「地元民はそんなに食べないけどな」
「マジか~。じゃあずんだ!!」
食い物しか浮かばないのか。
「それもそんなに食べないかなー」
須賀は「マジか~」と肩を落とした。
何をそんなに残念がっているんだ。別に土産を持ってきたわけでもないのに。
だが、落ち込んだのも一瞬だった。
すぐに顔を上げると、今度は妙にもったいぶった口調になる。
「してケンジ君よ……、高校生活に何か目標はあるかね?」
「俺はち……」
「高校生活、モテてなんぼだろ!!」
「……は?」
人の話を遮って何を言ってるんだ、こいつは?
「やっぱり人生モテなきゃな。モテてこそバラ色の高校生活ってもんだろ!!」
須賀は拳まで握って力説している。
俺はまだ、地質の「ち」しか言えていない。
「さあ、一緒にモテ街道を歩もうぜ!!」
ダメだこいつは。放っとこう。
机に配布物を広げ、目を落とす。
その後も須賀は何か話していたが、俺は聞こえないふりをした。
……まあ、知り合いが一人できたことには違いない。
少々、いや、かなり変な奴だが。
*
『皆さんと同じ学舎で過ごすことを、大変嬉しく思います。それぞれの夢や目標に向かって、共に切磋琢磨していきましょう』
入学式で校長と生徒会長のありがたいお話を聞き流し、教室に戻って今度はホームルーム。
配られる書類の中に、待っていた部活動紹介の冊子があった。
俺は早速ページをめくった。
運動部を通り過ぎ、文化部の一覧へ目を走らせる。
「……あれ、ない?」
見落としたかと思い、もう一度上から順に指でなぞる。
次のページも見た。念のため、その前にも戻ってみた。
地質研究会がない……だと……?
いや、ちゃんと調べたぞ。
確かにあったはずだ。まさか、なくなったのか?
冊子を見つめたまま固まっていると、担任の声が響いた。
「あっ、そうそう。今年度から一部の部活に統廃合があるからな」
思わず顔を上げる。
先生の話によると、生徒数が減った影響で、一部の文化部は単独での運営が難しくなっているらしい。そのため、活動内容の近い部同士をまとめることになったという。
これも少子高齢化の影響というやつだ。
化学部と物理研で科学部。
飼育部と園芸部で生物部。
調理部と製菓研で料理部。
かなり無理やりだな…。
そして地質研究会は…、天文部と一緒になって「地学部」になったそうだ。
冊子をよく見ると、確かにその名前があった。
なんだ、なくなったわけじゃないのか。
ほっとして、椅子の背にもたれた。
それにしても、地学で括るとは、これまた大雑把な……。
確かにどっちも地学だけど、石を調べるのと星を見るのとでは、活動内容はかなり違うだろう。
まあ、星を見るのは俺も好きだし、地質の活動ができるなら問題はない。
どういう形でやっているのかは、行ってみれば分かるか。
紹介文の下にある、部室の場所を確かめる。
旧文化部棟、一階。
俺はその文字に、シャープペンで小さく丸を付けた。
*
そして放課後。
新入生には五日間の体験入部期間が設けられていて、正式な入部は来週になるらしい。
いろいろ見てから決めてほしいということだったが、俺に迷う理由はなかった。
いよいよだ。
冊子を鞄にしまい、地学部へ向かおうと席を立つ。
「おまえ、どこの部に行くんだ?」
須賀がこちらを見て、にやにやしていた。
「地学部に行く予定だけど」
「そんな冴えない部に入ったらモテないぞ! やっぱ男ならサッカー部だろ! 人生モテてなんぼだ。……という訳で、Let's go!!」
「は?」
そう言うや否や、須賀は俺の腕を掴み、ぐいと引っ張った。
「ちょっと待て!! なぜ俺まで連れていく!?」
「そうそう言わずに、一緒に行こうぜ!!」
「何でだー!!」
慌てて鞄を持ち上げ、机にぶつからないよう体をひねる。
その間にも、須賀はお構いなしに進んでいった。
廊下へ出て、階段の方へ。
地学部の場所を確かめるために開いた冊子は、使う暇もなく鞄の中だ。
こうして俺は、念願の部室へ行くはずが、サッカー部へと連行されることになった。
……どうしてこうなった。
*
その頃、旧文化部棟一階の地学部では、思いがけない再会が起きていた。
新入生の木ノ幡みらと真中あお。
幼い日にキャンプ場で出会い、一緒に小惑星を見つけようと約束した二人が、同じ部室で顔を合わせたのだ。
みらは隣のあおを見ては、嬉しそうに笑っていた。あおも照れたように目を伏せながら、話しかけられるとすぐに顔を上げる。
先輩たちは、そんな二人を囲んでいた。
「こんな事ってあるのね」
部長の森野真理が、驚きに目を丸くする。
「まさか真中さんの話していた相手が丁度現れるなんて、驚きですぅー」
二年生の猪瀬舞も頷いた。
「それにしても、幼少期にキャンプ場で会った相手とこうして再会するなんて、どんな確率かしら……」
副部長の桜井美景が二人を見比べる。
その横で、みらの幼馴染の鈴矢萌――すずちゃんが、あおに抱きついた。
「あおちゃん、かわいいよ~」
あおは突然のことに身をすくめた。どうしていいか分からず、みらへ視線を向ける。
「もう、すずちゃん止めなって。あおちゃん困ってるでしょ」
「だってかわいいんだもん。それに、女の子がみらと仲良くするのは大歓迎よ♪」
すずちゃんはそう言って、さらにあおへすり寄った。
みらが呆れた顔で間に入るまで、あおはおろおろするばかりだった。
ひとまず落ち着いたところで、桜井が部員の顔ぶれを確かめた。
「それにしても森野部長と木ノ幡さんと真中さんが天文班、私と猪瀬が地質班か。あなたは?」
「私は家の仕事があるので部活には参加しません」
尋ねられたすずちゃんが、申し訳なさそうに眉を下げる。
「となると、天文班三人に地質班二人か……。こちらの方が少ないわね」
桜井は小さく息をついた。
「大丈夫ですぅ。私が二人分働きますから!」
猪瀬は元気よく答えると、机から離れ、左右に動き始めた。
反復横跳びのつもりらしい。ただ、その動きはやたらとゆっくりしている。
みらたち三人は、揃ってその姿を目で追った。
右へ、左へ。また右へ。
やがてみらとあおが顔を見合わせ、すずちゃんも何とも言えない顔で二人を見た。
― 猪瀬先輩、反復横跳び遅いな……。
その様子を見ていた顧問の遠藤幸が、ふと思い出したように呟いた。
「そういえば、地質研志望の男子生徒が一人いたはずだが、来ないな……」
すずちゃんがぴくりと反応した。
「男子ですと……。やっぱり私も入ろうかしら」
「すずちゃんドウドウ。私は大丈夫だから」
みらが慣れた様子で宥める。
だが、すずちゃんは真剣な顔でみらへ向き直った。
「みらが大丈夫でも私が大丈夫じゃないの! 何かあったらすぐ言ってね。みらに手を出そうものなら、容赦しないから」
まだ顔も見ていない相手への警戒に、みらは苦笑するしかなかった。
一方、桜井は遠藤の言葉が気になったのか、部室の扉へ目を向けた。
「それにしても男子か……。地質班の活動は力仕事が多いから、正直来てくれるのなら助かるわね」
猪瀬も足を止め、そちらを見る。
廊下からは新入生を呼び込む声や、行き交う足音が聞こえていた。
けれど、地質研究会を目当てに入学したその男子が、この日、部室の扉を叩くことはなかった。
いよいよ始まりました!!
この小説はアニメ『恋アス』放送時に、もう少し地質寄りにして、男子も入れた青春群像劇にしても面白いだろうな~と妄想していた物を、最近の某鉱物採集アニメを見たことで思い出し、作品として書いてみた次第です。
小説初心者ですがなんとか書いていますので、暖かい目で読んで頂けたらと思います。
それではこれからも、よろしくお願いいたします!!