もしも地質ガチな俺が地学部に入ったら【恋する小惑星if】   作:Takuma218

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《第2話》お邪魔虫と念願の地学部

高校生活二日目の昼休み。

俺は机に突っ伏していた。

 

「昨日はひでぇ目にあった……」

 

太腿は重く、ふくらはぎは張り、全身がじんわりと悲鳴を上げている。 サッカー部の体験入部は、もはや拷問だった。

 

「まあまあ、やっぱ汗流すのは気持ちいじゃねーか。

お前も意外と動けてたし。あれで活躍すりゃ、モテモテ生活まっしぐらだぜ!」

 

須賀は朝から元気だ。

 

「俺はそんなの興味無いんだよ!!」

 

言い返したそのとき、教室のドアが勢いよく開いた。

 

「たのもー!!」

 

ビクッと肩が跳ねた。

何だ!?

突然響いた大声に俺は驚いて、声の方を見た。

教室の入り口に立っていたのは、明るいオレンジ色の髪の女子。 教室の空気が一瞬で変わる。

 

「あっ、いた!!あおー!お昼一緒に食べなーい?」

 

名指しの呼び掛けに青髪ツインテールの女子がぴくりと反応する。

確か…、真中あおさん、だったかな?

周囲の視線が一斉に集まり、彼女はみるみるうちに赤くなった。

小さく頷くと、そそくさと教室を出ていく。

 

「ビックリした~。あれ木ノ幡みらだぜ。同じ中学だったから知ってる」

 

須賀がひそひそと教えてくる。

 

「まあ俺の射程範囲外だから接点は無いが」

 

相変わらず失礼なやつだ。

 

「……ってことは鈴矢も居るのか? 居るんだろうな……。ほとんどセットだったし。

というか、ちょっと見えた気がするし…」

 

須賀の声色が、わずかに沈む。

その鈴矢という人と何かあったのだろうか?

 

…………………………

 

高校生活四日目。

俺はまだ、地学部に辿り着けていなかった。

 

一日目はサッカー。

二日目は野球。

三日目はバスケ。

 

気づけば、なぜか運動部ばかりに行かされていた。

毎度のように須賀の妨害が入り、俺は半ば強制的に体育館やグラウンドへ連行される。最初こそ助けを求めるように叫んでいたが、三日目ともなると周囲の生徒も慣れたものだ。

……あーまたか。

そんな目で見られるだけになった。

……俺の断末魔は、もはや日常の風景らしい。

 

「今日こそは、地学部に行かせてもらうからな」

昼休み、俺は須賀を睨みつけた。

「お、おい目が怖いって……。分かったよ、今日は行かせてやるって。そんなガチな目すんな」

 

…………………………

 

ーーそして放課後。

校舎の裏手へ回り、林の小道を進む。

グラウンドの喧騒が次第に遠ざかり、代わりに葉擦れの音と、どこか静かな空気が漂ってきた。

木立の奥に、古びた木造の建物がひっそりと佇んでいる。

 

「おー。随分と古い建物だな~」

 

須賀が素直な感想を漏らす。

壁の塗装はところどころ剥がれ、窓枠も少し歪んでいる。だが、不思議と取り壊される気配はない。長い時間がそのまま残っているような建物だった。

 

「というか…、何でお前がいるんだよ?」

 

俺はジト目で横の須賀を睨む。

 

「いや~、たまには文化部も悪くないかなと思ってな。それに、お前をそこまで引きつける“地学”ってやつにも興味が湧いたし」

 

どうせ半分は冷やかしだろう。

建物の中に入ると、廊下はひんやりとしていた。床を踏みしめる度に軋む音がする。

 

(確か、ここだったよな……)

 

扉の上には、古びた金属のプレート。

 

『地質研究会』

 

そのすぐ下に、テープで留められた新しい紙。

 

『地学部』

 

古い名前と、新しい名前。

どちらが本当なのか、一瞬だけ迷う。

思えば、ここまで長かった。

何度邪魔されたことか…。

 

俺は小さく息を吸い込み、

そして、ドアに手をかけた。

 

ーーようやく、辿り着いた。

 

ゆっくりと、扉を開ける。

 

「し、失礼します!地学部入部希望の松原ケンジです!」

 

勢いよくドアを開けた。

部室の空気が、ふっとこちらを向く。

中には五人の女子。その視線が一斉に集まり、一瞬だけ場違いなところに来た気がした。

 

(……確かにここは、地学部だったよな? 部員って、女子しかいないのか?)

 

中には見覚えのある顔もあった。

同じクラスの真中あお。

その隣にいるのは、この前教室に突撃してきた木ノ幡みら、だったかな?

二人とも地学部だったのか…。

 

部室は思っていたより広い。

壁の棚には鉱物らしき標本箱が並び、机の上には見慣れない石や資料が広がっている。

 

様子を窺っていると、黄色い髪の小柄な先輩?がこちらへ歩み寄ってきた。

 

「あなたが噂の男子の入部希望者さんですか?」

 

噂になっていたのか…。

……まあ、三日連続で叫びながら連行されていれば当然か。

 

「はい…多分…そうです」

 

思ったより声が小さくなった。

 

「では、そちらの方も…?」

 

先輩が視線をずらす。

嫌な予感がして目を向けると…、

 

「あなたは女神だ。俺は貴方に会うために、この学校に来たのかもしれない…」

 

……須賀がナンパしていた。

 

灰色の長髪を一つにまとめた先輩の前で、須賀が片膝をつき、その手を恭しく取っている。

何やっているんだコイツは!?

 

「はあ…」

 

その先輩は困惑した表情で見ていた。

というか初対面だぞ!?

いきなりナンパってどういう神経してるんだ!?

みらの「えぇ……」という声が聞こえる。

あおは固まっている。

黄色い先輩は目を丸くしている。

 

俺の脳内で警報が鳴る。

このままでは、俺の地学部ライフが始まる前に終わる。

 

「し、失礼しましたーー!」

 

俺は須賀の首根っこを掴み、そのまま引きずるように部室を飛び出した。

廊下に出た瞬間、須賀が叫ぶ。

 

「待て!運命が!!」

「うるさい!!」

 

……いつになったら活動できるんだ!!

 

…………………………

 

一方、地学部部室では。

 

「……行っちゃいましたね」

 

ドアを見つめたまま、猪瀬先輩がぽつりと呟く。

 

「噂に聞いていた男子生徒って、彼で合ってるの?」

 

森野先輩が腕を組みながら首を傾げた。

 

「はい。毎日、騒ぎながら隣の彼に引きずられて行くのを見ていました」

 

あおが小さく頷く。

 

「それにしても部室に入っていきなりナンパとか……見上げた根性しているわね」

 

桜井先輩が呆れ半分に息をつく。

 

「元気な子だったわね~」

「そういう問題じゃないでしょ!!」

 

森野先輩がのほほんとしてるのを、桜井先輩がツッコんだ。

何やら考えていたみらが思い出したように口を開いた。

 

「あれ、須賀くんですよ。中学で同じ学校だったので知ってます。たしか……学校中の女子の先輩にナンパしまくって伝説になってました」

「何気に凄い伝説ね……」

 

桜井先輩が困惑した。

 

「すずちゃんとは犬猿の仲だったから、今日すずちゃんが仕事で来てなくて良かったかも……」

 

その言葉に、一同がなんとも言えない顔をする。

 

「でも地学部志望の方は、見覚えがありませんでした」

 

みらが顎に手を当て悩みながら言う。

 

「地質研志望で入学したらしいけど、博物館のイベントでも見たことないのよね。遠くから来たのかしら?」

 

桜井先輩が考え込む。

そこへ、遠藤先生が部室に入ってきた。

 

「何だ、今日も来ていないのか?」

「それが、来たのですが……」

「逃げちゃいました」

「……は?」

 

…………………………

 

高校生活五日目。

 

ついに体験入部期間も最終日になってしまった。

ここまでまともに志望の部活へ行けていない俺は、不幸と言ってもいいと思う。

今日こそは邪魔されずに地学部へ行く。

そう強く心に決めた、その日の放課後。

 

「今日はやけに静かだな」

 

須賀の姿がない。

いつもなら、何かしらの部活へ引きずっていく張本人が、見当たらない。

どこか好きな部活にでも行ったのだろう。

 

少しだけ胸騒ぎがしたが、きっと気のせいだと自分に言い聞かせ、俺は旧文化部棟へ向かった。

林を抜け、軋む木造の廊下を進む。

今日こそは活動する。

今日こそは、俺の場所に足を踏み入れる。

ドアの前で一度、深呼吸。

コンコン、とノックしてから開ける。

 

「失礼します。改めて地学部志望の松原ケンジですぅ…?」

 

何か様子が変だ。なんだろう?あるはずのない人影がある…。

 

そこには須賀が、あの灰色の髪の先輩に話しかけていた。

周りの部員も困り顔だ。

 

「なんで、お前がそこにいるんだ!?」

「よう!!遅かったな。俺も地学部に入る事にしたぜ!!」

 

 

……なん……だと……!?

 

 

「お前、地学って何か分かっているのか?」

「あれだろ?石とか火山とか地震とか…」

「それと宇宙や天気もね」

 

灰色の髪の先輩が補足する。

 

「その程度の知識で地学部に入ろうと?」

「その辺はこれから知っていけば良いだけだ。俺の森野先輩への愛があれば何でもできる!!」

 

完全に不純な動機じゃねえか!!見ろ先輩が苦笑いしてるぞ。

 

「先輩方も良いのですか?こんな不純なヤツが入って?」

「まあ人手不足は事実だし…、とりあえず今日体験して貰って、決めれば良いんじゃないかしら」

 

良いのか?というかこの先輩も案外満更でもない?

俺は釈然としないと思いつつも、頷くしかなかった。

 

…………………………

 

高校生活五日目、体験入部期間最終日にして、ようやく俺は地学部の活動に参加できていた。

箱に入った石を分別する。

 

この黒くて角張った石はホルンフェルスだな。白い桜石も見える。

この金色は黄銅鉱で、緑色は孔雀石。…足尾にでも行ったか?

 

通常は箱に入った古い標本の整理らしいが、石を知っている俺は鑑別も任された。

ちなみに晴れていたら天文班と合同で太陽の黒点観測をしたらしい。

 

横を見ると須賀がみら達と談笑していた。

灰色の髪の先輩(地学部部長の森野先輩というらしい)とも馴染んでいる。流石コミュ力が高いな。

 

それに対して、こちらはというと…。

 

「仙台から来たのですか」

「はい。親の転勤で、こちらで心機一転頑張っていこうと思いまして」

 

黄色の髪の猪瀬先輩とは話しているのだが、どうもぎこちない。赤色の髪で副部長の桜井先輩からは明らかに警戒されているし…。

 

(全く、先が思いやられるな……)

 

俺は心の中で溜め息をつくのだった。

 

 

…………………………

 

……その日の活動後。

 

皆が帰った静かな部室に、夕日が差し込んでいた。古い木の机が橙色に染まり、埃がゆっくりと舞う。

 

森野は窓の外に目をやったまま、腕を組んで立っていた。

桜井は椅子に座り、横目でその背中を見ている。

 

「森野さん、本当にアンタ、アイツを入れるつもり?地質研志望の子はともかく、もう一人は明らかに不純な動機よ」

 

森野は窓の外に目を向けたまま、静かに答えた。

 

「ええ。わかっているわ」

 

短い沈黙。

 

「それでも今は一人でも部員が欲しいの」

 

ゆっくりと振り向く。夕日が正面から差し込み、その顔に濃い影が落ちた。

 

「今年は木ノ幡さん、真中さん、松原君が入ってきてくれたから良いけど、それでも私達が抜けたら猪瀬ちゃん含めて四人よ」

 

桜井はうつむいた。

 

「年々部員は減っている。去年なんて、天文部には一人も入部が無かった…。来年も何人入ってくれるかわからない」

 

影の中の森野の表情は、もう読めない。声だけが、静かに続く。

 

「私達にはもう、選り好んでいる余裕なんて無いの。どんな理由であれ、私は彼の入部を認めるつもりよ」

 

桜井は視線を落とす。理屈では反論できない。それでも、簡単には頷けない。

 

「……甘いのよ、アンタは」

「そうかしら?」

 

声の温度は変わらない。

 

「でもね、部活って理由から始まるものじゃないと思うの。あなたもそう思わない?桜井副部長?」

 

影の中から問いかけられた言葉に、桜井は何も言えなかった。




この話の序盤(体験入部3日目)までは、みらサイドはアニメと同じような展開を辿っています。なので教室に突入したみらのセリフも、アニメと全く同じです。
つまりアニメ展開の裏側の別サイドの話として進行している訳です。
それが絡み合う事でどうなるのか…。
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