もしも地質ガチな俺が地学部に入ったら【恋する小惑星if】   作:Takuma218

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《第4話》衝突と部の揺らぎ

「何であんたがいるのよ!!」

 

トラブルというのは次から次にやってくるらしい…。

 

…………………………

 

桜先輩との一件から数日。

部内の空気は、はっきりと柔らいでいた。

今日は天文班と合同で標本整理だ。

机の上には岩石や鉱物が並び、ラベルの書き直しや分類を進めている。

 

「こんな石ころを大事にするなんて、信じられねーぜ」

 

須賀が一つの石をひょいと持ち上げながらぼやく。

 

「でも地球を知るためには大切なものよ」

 

モンロー先輩はそう言って、黒い石を手に取った。

 

「例えばこの玄武岩なんて、海底の地殻の大部分を構成する岩石だし、月の“海”と呼ばれる黒い染みの部分もこの岩石からできているわ。丁度月のウサギに当たる部分ね」

 

そう言って、壁の月の写真を指差す。

 

「へー。地球と月って案外繋がってるんスね」

 

須賀が感心したように頷いた。

流石モンロー先輩。あの須賀に興味を持たせるとは。しかもしれっと、月の話題にすり替えてるし。

 

「元々月は地球に隕石がぶつかって飛び散った破片が集まってできたという説もあるからな」

「ジャイアントインパクト説ね」

「何それカッコいい!!」

 

俺の補足に桜先輩が付け足し、須賀が目を輝かせた。

ちなみに今日はみらとあおは遅れて来るらしい。

 

…………………………

 

そんなこんなで整理を続けていると――

 

バンッ!

 

突然、部室のドアが勢いよく開いた。

 

「あっ――」

 

振り向く間もなく、あおが飛び込んでくる。

皆、何事かと一斉にあおを見る。

 

「スガくん!!早く隠れて!!」

「いっ…、いったいどうしたんだよ…?」

 

あおは肩で息をし、顔は真っ青だ。

一体何があったんだ。

訳を聞こうとしたその瞬間…。

 

「何であんたがいるのよ!!」

 

部室の入り口から怒号が響いた。

思わずそちらを見ると、

紫色のロングヘアの女子が、鋭い目で須賀を睨み付けていた。

 

その隣ではみらがアワアワと慌てて、

あおは「あちゃー」と頭を抱えた。

 

「げっ!鈴矢っ…」

 

須賀が、珍しく狼狽えている。

 

「なんだか最近みらの様子が変だと思ったら、こういうことだったのね。 男子が入ったっていうから不安に思ってたけど……。 ……何でよりによってあんたなのよ…」

 

声は抑えているのに、怒気が滲んでいる。

これはヤバい。

 

「先輩たち!こいつは中学で学校中の女子にナンパしまくった、女の敵ですよ!!」

 

お前そんなことしてたのか。

 

「失敬な!!俺は年上しかターゲットにしてねー!!」

 

やった事は否定しないのか。どのみちヤバいわ!!

 

「どうせこの部活にも女子目当てで入ったんでしょ?」

 

間違ってはいないんだよな~。

 

「私のみらに手を出してるんじゃないわよ!!」

「今の俺はモンロー先輩一筋だ!!そんなちんちくりん、興味無いわ!!」

 

一瞬、空気が凍る。

 

「ひどい…」

 

みらが涙目になり、あおの目が一気に険しくなる。

須賀よ……今のはあんまりだと思うぞ。

 

「何ですって~!みらのどこがちんちくりんよ!!こんなに可愛い娘、他にいないわ!!」

「どのみち俺は年上にしか興味無いわ!」

「あんたの趣味なんて聞いてないわ!! 大体この部室に何であんたみたいな男子がいるのよ。女子だけいれば良いのよ!!」

 

おいおい。それを言ったら俺も居たらいけないのか?

……もしかして俺、背景扱い?

 

その後も売り言葉に買い言葉。

声はどんどん大きくなり、部室の空気は一気に張り詰める。

口論は白熱し、とどまるところを知らない。

その時――

 

パチン!

 

乾いた音が部室に響いた。

モンロー先輩が、手を一つ鳴らして二人の間に割って入った。

 

「二人とも、そこまで!!」

 

空気が、一瞬で静まった。

 

「動機がどうあれ、スガくんの入部は私たちが認めた事よ。 それに、この部室に男子が居たらいけないなんて、誰も決めていないわ」

 

静かな声だったが、有無を言わせない響きがあった。

 

「今では彼ら二人は、掛け替えの無い私たちの仲間よ」

 

そう言って、俺たちを見る。

その視線に押されて、紫髪の彼女はようやく俺の存在に気付いたらしい。

 

「あ……」

「これ以上言うなら、いくらあなたでも出禁にするわよ。 これからは仲良くすること。良いわね?」

 

険しい表情。

この人がここまで怒っているのを見るのは、初めてかもしれない。

 

しばらく睨み合い――

 

やがて彼女は唇を噛み、目を潤ませたまま踵を返した。

バタン、と扉が閉まる。

 

「私、すずちゃんを追います!」

「私も行きます!」

 

みらとあおが慌てて後を追う。

部室に、重たい沈黙が残った。

 

「先輩……信じてましたよ……。あなたは俺の味方なんですね…?」

 

須賀がしみじみと言う。

モンロー先輩は、にこやかに振り返った。

……でも、その目がまったく笑っていない。

正直、めちゃくちゃ怖い。

 

「スガくん…、あなたも同罪よ」

 

笑顔のまま、声だけが低い。

 

「これからはすずちゃんと仲良くしてね。それと、みらちゃんには謝りなさい。

……罰として、一週間、部室の掃除をしてもらいます」

「そんな~」

 

こうして地学部発足以来、最大のドタバタ劇は幕を閉じたのだった。

 

……というか、まだ発足して一週間ちょいだよな?

こんなんで大丈夫なのか、俺たち。

 

…………………………

 

正直、あの後は部活どころではなかった。

 

みらはあの女子――みらの幼なじみで、すずちゃん(鈴矢萌)と言うらしい――を送って帰るそうで、そのまま部室には戻って来なかった。

 

(そういえば前に須賀がその名前を呟いていたよな…)

 

あおはみらの荷物を取りに一度戻ってきたが、どこか表情が暗い。

特に須賀に対する当たりは、露骨にきつかった。

 

「……掃除、ちゃんとやってくださいね」

 

それだけ言って、目も合わせずに出ていく。

須賀は小さく「うっす」と答えただけだった。

 

桜先輩もモンロー先輩も、いつもの調子ではない。

標本の整理は途中のまま、なんとなく手が止まる。

結局、その日は早々に解散となった。

部室に残ったのは、罰として掃除をする須賀と、俺。

……いや、俺は手伝わないけど。

静かな部室に、ほうきの音だけがやけに響いていた。

 

…………………………

 

家に帰ってきた。

 

「ただいま」

「お帰り。どうしたの?そんな顔して」

 

鏡に映った自分を見ると、確かに疲れたような、浮かない顔をしている。

 

「大丈夫だよ」

「それならいいんだけど…。 宿題、早くやっちゃいなさいよ」

「分かってるよ」

 

母さんの言葉を軽く流し、俺は自分の部屋へ向かった。

ドアを閉め、ベッドに突っ伏す。

 

「……何でこうなった…?」

 

最初は上手くいっていた。

皆で石を囲んで、笑って、ちゃんと“部活”になっていた。

すずちゃん、だったか。

あの娘が来てから空気が変わった。

……いや、違うか。

あの口振り、元々男子が苦手だったんだろう。

須賀も中学時代に何かやらかしていたらしいし、遅かれ早かれ衝突していたのかもしれない。

 

「はぁ……」

 

天井を見つめる。

 

「あーーっ! ……宿題するか」

 

無理やり体を起こし、鞄を探る。

 

……ない。

 

「あれ?」

 

机の下も、ベッドの横も探す。

 

「部室に忘れたか…?」

 

まだそんなに時間は経っていない。

須賀は掃除で残っているはずだ。

連絡するのも面倒だしな。

 

「取りに行こう」

 

鞄を持ち直し、部屋を出る。

 

「宿題忘れたから取ってくるよ」

「気をつけてねー」

 

軽い返事を背に、再び家を出る。

 

…………………………

 

学校に着いたとき、文化部棟は夕焼けに包まれていた。

林の影が長く伸び、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。

部室の前に立ち、ドアノブに手を掛ける。

ガチャリ。

……まだ鍵は掛かっていない。

夕焼けに照らされた部室は、どこか別の場所のように見えた。

赤い光が机や標本箱の縁を縁取り、影が濃く落ちている。

自分の席へ向かい、ノートを探そうと鞄を置いた、そのとき。

 

――コトリ。

 

背後で、小さな物音がした。

心臓が跳ねる。

ゆっくりと振り向く。

そこに立っていたのは――

 

「モンロー先輩…?」

「ケンジくん……」

 

薄暗い部室の奥。

目元を赤く腫らしたモンロー先輩が、静かにこちらを見ていた。




遂に潜んでいた火種が爆発しました。
男子を登場させる以上すずちゃんをどうするのか、というのは一番の問題で、とりあえず話が進むまでは退場して貰いました。
一応この間は、みらやあお、妹の芽(めぐ)とかすずちゃんの両親が協力して、部室に近づけないようにしていたという設定です。
それでもさすがに10日が限界で(それでも良く持ったなとは思います)、遂に爆発してしまう…。
これから一体どうなるのか…!?
まあバットエンドにはしないので、ご安心を。
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