もしも地質ガチな俺が地学部に入ったら【恋する小惑星if】   作:Takuma218

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《第5話》部長の葛藤と月夜の夢

「モンロー先輩…?」

「ケンジくん…」

 

俺たちは数秒放心したように固まっていた。

宙を舞う埃が夕日に照らされ、やけに鮮明に見える。

 

――一体何があった?

須賀に襲われたか?……いや違う、制服に乱れもないし、部室も綺麗だ。

 

少しするとモンロー先輩は取り繕ったような笑みを浮かべた。

 

「…どうしたの?もうみんな帰ったわよ」

「いや宿題を忘れて、取りに来ただけです。

先輩こそ、ここで何やっていたんですか?」

「私は…、スガくんがちゃんと掃除したか点検していたの。

…でももう終わったから帰るわ」

 

帰り支度をするその姿は、やはりどこかぎこちない。

 

「泣いてたんですか?」

 

俺がその背中に向かって問いかけると、その張り付けたような笑みのまま先輩は答えた。

 

「……泣いて無いわよ」

 

やはり無理が見える…。

もしかして一人泣いていたところを、邪魔してしまったのだろうか。だとすれば悪いことをしてしまった。

 

「別に泣いたって悪くないと思いますよ。泣けばストレスも和らぐって言いますし…。

何なら俺は何も見なかった事にして、立ち去りましょうか?勿論誰にも言いませんから」

 

するとモンロー先輩は俯いた。

やはり無理をしていたのだろう…。俺にも何かできることがあれば。

 

「俺も…、話を聞くくらいの事はできますけど…?」

 

すると先輩は壁際に行き、壁に背を預け膝を抱えた。

 

「じゃあ俺は忘れ物だけ取って、先帰りますんで!」

 

俺が帰ろうとすると、

 

「…は…を…ぃて…」

「えっ?」

「…少し…、お話をしていかない…?」

「……分かりました」

 

俺は頷き、モンロー先輩の隣に腰を下ろした。

 

…………………………

 

「…私ね、あの時本当は怖かったの」

 

先輩はただ宙をぼんやりと見つめ、静かに話し始めた。

 

「 …天文部と地質研が合わさって地学部になって…、私は部長になった。

私は部長として皆をまとめようとしたけど、やっぱり天文と地質では見ている視点が違うのか中々まとまらなくて…、それでも最近はやっと皆が笑って活動できるようになって、正直ほっとしていたの…」

 

「けど…、さっきすずちゃんとスガくんが喧嘩して、皆の気持ちがまたバラバラになってしまった気がして、もしこのまま戻らなかったらと思うと…、本当に怖かった...」

 

普段、気丈に振る舞っているこの人も、部長という重責に押し潰されないように頑張っていたんだな…。その上でさっきのあの出来事は堪えただろう。

 

「すずちゃんとスガくんの相性が悪いということは…、みらちゃんから聞いていたのに、私は何も対策してこなかった…。これは私の責任よ…。部長失格だわ…。本当に…、皆が…戻らなかったら…どうしよう……」

 

話が終わると、モンロー先輩は俯いてしまった。微かにすすり泣く声が聞こえる。

 

本当に、この人は…。

 

「先輩は、ちゃんと部長できてたと思いますよ。

さっきだって、須賀とすずちゃんの喧嘩をしっかり止めてくれたじゃないですか。先輩が居なかったら誰も止められず、もっと取り返しのつかない事になっていたかもしれません」

 

「…それにあの喧嘩はほとんど、須賀の普段の行いが原因じゃないですか。みらに対するあの暴言は酷すぎるし、あいつが勝手に墓穴を掘っただけです。先輩は悪くありません」

 

先輩は顔を伏せ、俺の言葉を静かに聞いていた。

 

「この部活も、発足してたった一週間ちょい、まだ十日余りしか経っていないんですよ。諦めるなんてまだまだ早すぎます。

きっとまた皆が笑いあえる日が来ますよ。そしてこれから楽しいことが沢山待ってるんです」

 

「折角こうして共通の趣味、共通の志を持って活動する仲間が集まったんです。これからも一緒に楽しみましょう!!

俺で良ければまた相談に乗りますし、桜先輩や皆もいます。もう自分で抱え込まないでください」

 

それを聞いたモンロー先輩は泣き出してしまった。それもさっきまでのように悲しみを圧し殺すようなものではなく、気持ちを押し出すような、泣きじゃくるような…。

 

これがラブコメだったら頭でも撫でるんだろうな…。

そんなことを思いつつも、そこまでする度胸のない自分に情けなさを感じながら、俺は隣で泣き止むのを静かに待っていた。

 

…………………………

 

しばらくモンロー先輩の横で紫色に染まる空を眺めていると、ようやく泣き声が止んできた。

落ち着いたかと思って腰を上げようとした、その時だった。

不意に、肩に重みがかかる。

見ると俺の肩に頭を預け、モンロー先輩が寝息を立てていた。どうやら泣き疲れて眠ってしまったらしい。

 

……ちょっと待て。

 

近い。近すぎる。

横を見れば、長い睫毛に整った横顔。

頬に触れる柔らかい髪。

心なしか、甘い香りが漂ってくる気もする。

意識するなという方が無理だろ、これ。

 

心臓がうるさい。

でも、動いたら起きるかもしれない。

さっきまで泣いていた人だ。ここで変なことをしたら最低だ。

健全な男子高校生には酷な状況だが、俺は必死に視線を窓の外へ逃がした。

 

紫色の空は黒く変わっていく。

その間俺はただひたすら、石の事を考えてやり過ごすのだった。

 

…………………………

 

それから少しの時間が過ぎ…、先輩の目が薄く開いた。

 

「……?

えっ…!?ごめんなさい!!私ったら」

 

モンロー先輩は顔を赤くして、慌てて体を起こした。

 

「イエイエ、ダイジョウブデス。オキニナサラズ」

「でも話し方が変よ?」

「イエイエ、ダイジョウブデス。オキニナサラズ」

 

俺は同じことしか言えなくなっていた。

 

少しして、俺もようやく落ち着いた。

 

「すっかり暗くなってしまいましたね。早く帰りましょう」

 

鞄を肩に掛け窓を見ると既に外は暗くなっており、空には星が瞬いている。

 

「そうね。でも夜間活動の申請を出していなかったから、こっそり帰らなきゃ」

 

天文班は夜間の活動がメインのため、遅くまで学校に残る事がある。それでも学校への申請は必須であり、それをしないと罰則もあるそうだ。

校門は既に閉められており、裏門にも監視カメラがあるため、俺達は抜け道からこっそり出ることにした。天文部にはこういう時のための抜け道が代々あるらしい。

 

…………………………

 

ひとまず学校からは出たが、この辺りの道は真っ暗だ。このまま先輩と別れるのも気が引ける。

 

「もう遅いですし、送っていきましょうか?」

「でも悪いわよ」

「夜の一人歩きは危ないですよ」

 

すると先輩は顎に手を当てて少し考えた後、薄く微笑みながらこちらを見た。

 

「…じゃあ、お願いしようかしら」

 

こうして俺はモンロー先輩を送っていく事になった。

 

 

「…今日は月が綺麗ね」

 

空を見上げると確かに丸い月が浮かんでいる。欠けもなく満月と言って良いだろう。そんな月が空のやや低い位置に浮かんでいた。

 

「月齢14ってところでしょうか?」

「あら、詳しいのね」

「天文も少しは勉強してますから。まあ先輩達には負けるでしょうが」

 

俺がそう答えると先輩はフフフッと楽しそうに笑って、話を続けた。

 

「私ね、宇宙飛行士になるのが夢なの」

 

また大きく出たな。

すると読まれたのか横目で睨まれた。

 

「あっ、今笑ったでしょ?」

「…笑ってませんよ。夢が大きいのは良いことです」

「フフッ、そうね」

 

俺が慌てて取り繕うと、イタズラに成功した子供のように笑い、そしてまた月を見上げた。

 

「……月は人類が降り立った場所で一番遠い場所、でも地球からは一番近い星」

 

それはどこか懐かしむような、遠いその地に思いを馳せるような、そんな目だった。

その視線につられて、俺も思わず月を見あげる。

 

「…ロマンチックな言葉ですね」

「おばあちゃんの受け売りだけどね」

「もしかして、そのおばあちゃんの影響で宇宙を?」

「そう。私の天文好きはおばあちゃんの影響よ。

私のおばあちゃんも宇宙が好きで、小さい頃はよく宇宙開発の話をしてくれたわ。私はいつもそれをワクワクしながら聞いて、すっかり宇宙が好きになったの」

 

よっぽど楽しい思い出なのだろう。思い出を語る声も弾んでいた。

 

「そして私も、そんな彼らみたいに宇宙に…、月に行ってみたい。そのために私は宇宙飛行士になりたいの」

 

先輩らしいな、と思う。

 

「……先輩らしいですね」

「どういう意味?」

「ちゃんと、本気で目指してそうだなって」

 

すると先輩は「なにそれ」と笑った。

 

「おばあちゃんは月の土地を買っていたの」

「そういえば、そんな話もありましたね」

「そこにお墓を立てるんだって言ってたわ」

「それは、また…」

「これがおばあちゃん。月に行けたらビデオ通話しようねって話してるんだ。フフフッ」

 

先輩はスマホを出して、おばあちゃんの写真を見せながら、楽しそうに笑った。

元気なおばあちゃんだな。

 

 

すると話に一区切り着いたのか、今度は俺に質問を投げ掛けてきた。

 

「ケンジくんは将来の夢は無いの?」

 

先輩の問いに俺は一つ息を吐いて答えた。

 

「俺は…、地震の研究者なりたいんです」

 

先輩に比べれば前向きでも無いし、地味かもしれないけど、それでも俺のやりたいことだ。

 

「それはまた真面目な夢ね。…どうして?」

 

先輩が首を傾げて聞いてくる。

話しても良いけど、余り時間も無いだろうしまた今度にしよう。

 

「今は…まだ秘密にしておきます。でもそのうちまた話しますよ」

「そう…。それなら楽しみにしておくわ」

 

そうしているうちに先輩の家の近くに来たらしく、そこで別れた。

 

…………………………

 

家に着くと、帰りが遅いと叱られてしまった。

部屋に行きスマホを見ると須賀から連絡が来ていた。

 

スガ「どうしよう( ゚д゚)

女子に嫌われたかも(T_T)」

 

俺「自業自得だ。自分でどうにかしろ」

 

スガ「そう言わずに助けてくれよー(ToT)

友達だろ!!」

 

俺「そうは言っても、自分で誠心誠意謝るしかないだろ。特にみらなんて傷ついただろうし、あおもカンカンだったからしっかり謝った方が良いぞ」

 

その後もごちゃごちゃ言っていたが無視してやった。

すると今度はモンロー先輩から連絡が来た。

 

モンロー「今日はお話し聞いてくれてありがとう(*^^*)」

 

俺「いいんですよ。また何かあったら言ってください」

 

モンロー「それじゃあ、そうさせてもらうわね!」

 

俺「どんとこいです!」

 

モンロー「帰りが遅いって、叱られちゃった(^_^;)」

 

俺「俺もです(笑)」

 

モンロー「しばらくは夜間外出禁止だって。これじゃあ星を見に行けないわ(T_T)」

 

この人普段から星を見に外出してたのか。そりゃあ親も心配するだろうな。

それからも取り留めの無い話をして、LINEを切った。

 

「さて遅いし、宿題をやってさっさと寝よう。

……ん?宿題……」

 

俺はフリーズした。

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