もしも地質ガチな俺が地学部に入ったら【恋する小惑星if】   作:Takuma218

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《第6話》おしおきと教師の提案

 翌朝、俺はいつもより早く学校へ向かっていた。

 

 結局、宿題はあおに課題プリントの写真を送ってもらい、別のノートに解いた。もちろん、答えの部分は隠してもらっている。

 あとは忘れてきたプリントに写せば、何とか提出には間に合う。

 

 その代わりに、あおには手間賃としてジュースを一本奢ることになった。

 

 まあ、須賀に奢るよりはマシか。

 そもそもあいつに頼んだところで、宿題が終わっていたかも怪しいし。

 

 職員室へ入り、遠藤先生の机へ向かった。

 事情を話すと、先生は引き出しから部室の鍵を取り出した。

 

「はい、これ。青春もいいけど、勉強もしっかりしろよ少年」

「……はい?」

 

 鍵を受け取る手が止まった。

 先生は、妙に楽しそうな顔をしている。

 

「いや~、あの部室の隣の部屋って昼寝に丁度良くてさ~、昨日の放課後もいたんだよね」

 

 隣の部屋。

 確か、昔の地学準備室だったか。

 

 ……待て。

 昨日の放課後って、まさか。

 

 顔が一気に熱くなる。

 

「盗み聞きは良くないですよ」

「悪い悪い。何やら面白そうな話が聞こえてきたものでね」

 

 全然悪いと思ってなさそうだ。

 こっちは結構、必死だったんだぞ。

 

「でも実際、あの部長は何かと溜め込む癖があるから助かったよ。……本当によくやった」

 

 先生の声が、少しだけ真面目になった。

 

 そう言われると言い返しにくいが、何だか悔しいので文句を言ってやった。

 

「先生……。そういうのって、顧問がケアするべきではないんですか?」

「あはは……。私は生徒の自主性を重んじるものでね」

 

 俺がじっと見ると、先生は目を逸らした。

 それから、わざとらしく咳払いをする。

 

「ともかく、そういうことだからこれからも頼むよ」

 

 ホント、調子が良いんだから……。

 

「はぁー……。わかりましたよ……」

 

 時計を見る。

 まずい。ここで話している場合じゃなかった。

 

 俺は鍵を握り直し、急いで部室へ向かう。

 

 課題プリントは、標本箱の下から無事に見つかった。

 何とか書き写して提出も済ませ、ひとまず忘れ物騒動は終わり。

 

     *

 

 そして放課後。

 地学部の部室では、須賀が土下座をしていた。

 

 みらに対して。

 

 ……あおの指示で。

 

「ホントすいませんでした!!」

「まだ足りない! もっと額を地面に擦り付けて!!」

「もういいってば……」

 

 みらが困り果てた顔で、二人を交互に見ている。

 

 あおさん……、若干キャラ変わってませんか?

 昨日は目も合わせなかったくせに、今日は徹底的だな……。

 

 他の先輩たちも、何とも言えない顔で見守っていた。

 俺も口を挟むべきか迷ったが、須賀と目が合う前にそっと視線を外した。

 

 悪い。今のあおに割って入る勇気はない。

 

 

「……これは……、何をやってるのかね?」

 

 入り口から声がした。

 振り向くと、どこかで見覚えのある女子が立っている。

 

 うーん、どこだったっけ?

 

 ……あっ、入学式だ。

 壇上で挨拶をしていた生徒会長じゃないか。

 でも、何でこんな学校の外れまで?

 

 会長は扉に手を掛けたまま、床の須賀と、その前に立つあおを見比べていた。

 

「会長!?」

「どうしてここに!?」

 

 先輩たちが驚く中、みらが顔を上げた。

 

「あっ、お姉ちゃん!!」

「「「「お姉ちゃん!?」」」」

 

 今度はそっちに驚いた。

 

 みらって、会長の妹だったのか!?

 そういえば、会長の名字も木ノ幡だったっけ。

 言われてみれば、髪の色や顔立ちもどことなく似ている。

 

「驚いたわ。雰囲気が全然違うから気付かなかった」

「えへへ、よく言われます」

 

 桜先輩の言葉に、みらが照れたように笑う。

 会長もその顔を見て、少し表情を緩めた。

 

「元気そうで良かったよ。昨夜の暗い顔を見たときは、どうしたものかと思っていたのだが」

「心配かけてごめんね。もう大丈夫だよ!」

 

 元気に答えるみらに、会長が微笑みながら頭を撫でた。

 本当に妹を大切に思っているんだな。

 

 それから、俺とあおへ向き直る。

 

「初めまして。みらの姉の木ノ幡みさだ。いつも妹と仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ」

 

 会長が軽く頭を下げた。

 慌てて、俺たちも頭を下げ返す。

 

「こ、こちらこそ」

「よろしくお願いします……」

 

 まさか生徒会長に挨拶されるとは。

 別に悪いことをしたわけでもないのに、妙に緊張する。

 

 会長は続いて、先輩たちにも頭を下げた。

 

「森野さんに桜井さん、猪瀬さんも、妹が世話になっているね。改めてよろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ。みらちゃんが来てくれて、部が賑やかになりました」

 

 モンロー先輩が笑顔で答える。

 

 すっかり、妹をよろしくという挨拶の場になっていた。

 ……約一名、床に伏せたままだが。

 

「して、これはどういう状況かね?」

 

 会長の視線が、再び須賀へ向いた。

 

「こいつがみらに酷いことを言ったんです」

 

 あおが須賀を指差しながら答えた。その目はとても冷たく、ゴミを見る目とはこういうものをいうのだろう。

 

 そして会長の笑みが消えた。

 

「ほう……。かわいい私の妹に暴言を吐くとは、貴様良い度胸だな」

 

 それはもう凄まじい迫力だった。会長の周囲から赤い気迫が、「ゴゴゴゴ…」と音を立てて立ち上るような、そんな光景を幻視した。

 

 もはや須賀は蛇に睨まれた蛙。しゃべることも動くこともできない。

 

 哀れ須賀!短い付き合いだったが墓前に花くらいはそなえてやるからな。安らかに成仏してくれ……。

 

 ……まあ冗談はこの辺りにして、その後会長とあおによって須賀はこってり絞られた。

 みらが何度か間に入り、ようやく二人が落ち着いた頃には、須賀の返事はすっかり小さくなっていた。

 

 会長は最後にもう一度みらの様子を確かめると、「妹をくれぐれもよろしく」と言い残し、部室を去って行った。

 

     *

 

「おーい、生きてるかー?」

「わるかったよ~。もう悪口言わないから許してくれよ~」

 

 ダメだ完全に錯乱している。須賀は放っといて次に進もう。

 

 顔を上げると、モンロー先輩が皆を見回していた。

 

「さて、スガくんの制裁も終わったところで、これからどうするかだけど、何か意見ある人~!」

 

 いつもの、明るい声だった。

 

「はいはいっ! 私から!!」

 

 みらが勢いよく手を上げた。

 

「はい、みらさんどうぞ!」

「まずはすずちゃんとスガくんを仲直りさせた方が良いと思いますっ!!」

「別に鈴矢はこの部じゃないんだし、このままでいいんじゃねーの?」

 

 横を見ると須賀が顔を上げていた。

 須賀復活速っ!!

 

 だがあおの無言の圧が来る。

 

「ズビバゼンデジタ……」

 

 須賀は再び小さくなった。

 

 みらはそれに苦笑しながら、話を続けた。

 

「すずちゃんは私の親友だから、仲良くしてくれなきゃ困るよ!! またここに来てほしいし」

「でも昔から犬猿の仲だったんでしょ? 無理に会わせたところで、また喧嘩になるんじゃない?」

 

 桜先輩が腕を組む。

 

「確かにすずちゃんは、男性が苦手なようでしたしね……」

 

 イノ先輩も、困ったように眉を下げた。

 昨日、二人の間でおろおろしていた姿を思い出す。

 

 また同じことになったら、今度こそ止めるだけでは済まないかもしれない。

 

「そこなんだよね~……。すずちゃんって私が男の子と仲良くするのを凄く嫌って、すぐ邪魔してくるし……。逆に女の子と仲良くするのは喜ぶんだけど……」

 

 みらが項垂れた。

 

 男嫌いで、その上に百合好きと来たか。

 ……無理じゃね?

 

「男子から見て、何か良いアイディアは無いかしら?」

 

 モンロー先輩がこちらを見た。

 

 早速頼ってくれるのは嬉しい。

 嬉しいのだが、こればっかりはな……。

 

「流石にそこまで男性不信な女子と仲良くなれと言われても、いきなりは難しいと思いますよ。無理に会わせたところでまた喧嘩になるのは目に見えているし……」

 

 俺だって、昨日初めて会ったばかりだ。

 しかも、ほぼ背景扱いだったし。

 

「そうだよね。昨日のも思い返せば、すずちゃんから喧嘩を仕掛けてたし」

 

 あおが頷く。

 須賀が少し顔を上げたところで、その視線が向けられた。

 

「……だからといって、あの言葉は許してないけど」

 

 須賀の顔が、また下がった。

 

 ……根深いな。

 

 机の上を、みらの指が落ち着きなく動いていた。

 少し考えた後、ぱっと顔を上げる。

 

「それだったら、何かイベントをすればいいんじゃない? 楽しい空間だったら、喧嘩も起きにくいだろうし!!」

「イベントっていっても何するの? 予算だって限りはあるのよ」

 

 桜先輩がすかさず返した。

 

「うぅ~……」

 

 みらが再び考え込む。

 

 確かに、部室で向かい合わせにして「はい、仲直り」では、うまくいく気がしない。

 何か一緒にできることがあれば、少しは違うのかもしれないが……。

 

 須賀とすずちゃんが、一緒に楽しめること。

 

 ……駄目だ。何も浮かばない。

 

 そのときだった。

 

 バン!

 

 部室の扉が、勢いよく開いた。

 

 またか!?

 

 思わず身構えて振り向くと、入り口に立っていたのは遠藤先生だった。

 俺たちの顔を見回し、得意げに言い放つ。

 

「話は聞かせて貰った! バーベキューをやろう!!」

 

「「「「……はい?」」」」

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