もしも地質ガチな俺が地学部に入ったら【恋する小惑星if】 作:Takuma218
本日は晴天なり。
風も穏やかで、外にいるには丁度いい暖かさだ。
そんな絶好の行楽日和の今日、俺たち地学部は近所の河川敷へ来ていた。
目的は、バーベキューパーティー。
事の発端は、遠藤先生のあの一言。
*
「近くの河原でバーベキューをやろう。
皆で楽しめば、須賀と鈴矢も仲直りしやすいだろうし、ついでに河原の石の観察や、夜に星の観測をすれば部の親睦にもなる」
突然の提案に戸惑っていた俺たちも、説明を聞けば何となく納得した。
ただ向かい合わせに座らせるよりは、話もしやすそうだ。
石の観察までできるなら、俺としても文句はない。
むしろ、そっちが気になる。
「でもそんな余裕あるんですか? 今後の巡検も考えると、そこまで予算にも余裕は無いと思いますけど」
桜先輩が尋ねると、先生は待ってましたとばかりに笑った。
「その辺はどうにかしよう。最悪、私のポケットマネーから出ーす!!」
おー、と部員から拍手と声が上がる。
……要はこの人がバーベキューがしたいんじゃ?
そんなこんなで今日この日、地学部親睦バーベキューパーティー兼『すずちゃん&スガくん仲直り大作戦!!(みら命名)』を開催することとなった。
*
「男子は荷物運びと火起こし、女子は食材の調理だ!!」
やたらと張り切る遠藤先生の指示で、準備が始まった。
桜先輩とモンロー先輩、イノ先輩は食材の準備。
俺と須賀は荷物を運び終え、グリルの前で炭と向き合っていた。
みらとあおは、すずちゃんを迎えに行っている。
来てくれればいいのだが。
炭の端が赤くなり、ぱちりと小さな音がした。
様子を見ていると、隣から妙に浮かれた声が聞こえてくる。
「モンロー先輩の手料理が食べられるなんて夢みたいだぜ~」
「ただ切るだけだけどな」
「でも調理してくれてるじゃね~か」
「ただ切って焼くだけだけどな」
須賀は気にした様子もなく、食材を切っている先輩へ目を向けていた。
……こいつ、今日の目的を覚えているんだろうな。
そうしているうちに、堤防の上から聞き覚えのある元気な声が響いた。
「すずちゃん連れてきたよ~!!」
みらが大きく手を振っている。
隣にはあおと、少し硬い顔をしたすずちゃんがいた。
来てくれたのか。
ひとまず安心する。
よく見ると、あおは大きなカゴを抱えていた。
何を持ってきたんだろう。
「それじゃあ、ちゃちゃっと謝っちゃおうか! ケンジくんはスガくんをお願いね」
近づいてきたみらに呼ばれ、俺は須賀を見た。
さっきまでの浮かれ顔は、すっかり消えていた。
「アイツと仲良くなんて絶対無理だって!」
「何でわたしがコイツに謝らなきゃいけないのよ!」
……そこだけは、息ぴったりだな。
俺は「任された」と返して、須賀の腕を引いた。
向こうでも、みらとあおがすずちゃんの背中を押している。
どうにか二人を向かい合わせにすると、周囲も手を止めた。
須賀は気まずそうに視線を泳がせ、すずちゃんはその顔を睨んでいる。
「何見てるのよ」
「だってしゃあねえだろ。謝れって言うんだから」
「はっ!! 大体あんたが――」
「すずちゃんストーップ!!」
みらが割って入った。
「言ったでしょ!! 今日は喧嘩は無し。この前の事も謝ってって」
「でも、みら……」
すずちゃんが言いかけると、みらは首を横に振る。
「すぐに仲良くしてなんて言わない。それでも、いつまでもこんなのは嫌なの。私は地学部も、……すずちゃんの事も大好きだから」
すずちゃんの顔から、少しずつ険しさが抜けた。
「みら……」
それでもすぐには頷けないらしく、須賀をちらりと見る。
やがて、長く息を吐いた。
「わかったわ。今日はみらの言う通り、喧嘩はしないし、謝ってあげる。本当にごめんね……、みら」
すずちゃんは一度みらを抱き締めた。
みらもその背中に手を回し、ほっとしたように笑う。
それから、すずちゃんは改めて須賀へ向き直った。
「みらに免じて謝ってあげるわ。この前はいきなり怒鳴ってごめんなさい」
頭が下がった。
須賀が目を丸くする。
まさか先に謝られるとは思っていなかったらしく、慌てて口を開いた。
「俺だって言い過ぎたし……、みらに酷いことを言ったのだって少しは――」
「少しは?」
「……目一杯反省しております。本当に済みませんでした!」
須賀も勢いよく頭を下げた。……あおの言葉に脅されながらだが。
二人が顔を上げる。
何とも言えない間が空き、揃って視線を逸らした。
謝ったはいいが、この後どうすればいいのか分からないらしい。
そこへ、モンロー先輩がすずちゃんに声をかけた。
「ちなみに、みらちゃんの件に関しては、この通り十分に反省させましたので……」
取り出したスマホを、すずちゃんへ向ける。
横から少し見えた画面には、みらに土下座する須賀や、あおと会長に説教されて小さくなる姿が写っていた。
極めつけは…、
『スミマセンデシタ!!』
動画まである。
一体いつの間に撮ったんだ…?
すずちゃんを見ると、ピクピクと肩が震えている。
そして……
「プッ……。フッ、アハハハハッ!」
すずちゃんが、とうとう吹き出した。
「あんたこんな……、なっさけない姿で謝ったの!? みさ姉にまで……。ホントオカシッ!」
笑いが止まらないらしく、腹を抱え、涙まで浮かべている。
須賀は顔を赤くしてそっぽを向き、他の部員もぽかんとすずちゃんを見ていた。
しばらくして、ようやく落ち着いてきたらしい。
すずちゃんは深呼吸を二つしてから、須賀を見た。
「ハァー……。わかったわ。アンタを認めた訳じゃないけど、みさ姉にも免じて、みらの側にいることは許してあげる。でも絶対みらに手を出すんじゃないわよ!!」
「わかってるよ……。俺ももう、あんな怖い思いはごめんだし……」
すずちゃんが指を突きつけ、須賀がげんなりした顔で答える。
少なくとも、また怒鳴り合いにはならなかった。
みらとあおが顔を見合わせ、小さくハイタッチする。
「ひとまずはどうにかなりましたかね」
俺が呟くと、隣のイノ先輩もほっと息をついた。
「一時はどうなることかと思いましたけど、仲直りできて良かったですぅー!」
「そうね。これで一件落着かしら」
桜先輩も腕をほどいた。
すると、すずちゃんが先輩たちの方へ向き直る。
今度は姿勢を正して、頭を下げた。
「先輩方も、この間はごめんなさい。部室で騒いでしまって。今後は大人しくしますので、どうかまた、部室に入れて頂けないでしょうか」
「そんなに畏まらなくても良いわよ。みらちゃんのお友達なのだし、これからも仲良くしましょ」
モンロー先輩が笑いかける。
「あなたが居ないと、部室が静かでしょうがないのよ」
「私達はいつでも大歓迎ですよ~」
桜先輩とイノ先輩も続いた。
すずちゃんが顔を上げると、みらも嬉しそうにその腕へ寄り添った。
これなら、また部室にも来てくれそうだ。
「おーい! こっちは焼けたから、終わったならぼちぼち来いよ~!」
グリルの方から、遠藤先生の声が飛んできた。
皆が一斉にそちらを向く。
先生はトングを片手に、もう肉を焼いていた。
……まったく、余韻もあったもんじゃないな。
「じゃあ……、行きましょうか。お腹も空きましたし」
「賛成!! 私もうお腹ペコペコ!! すずちゃんも行こう!」
イノ先輩の言葉に、みらが元気よく頷く。
「ちょっと待ってよ~」
すずちゃんも引っ張られて歩き出した。
俺も後を追おうとしたところで、不意に振り返られる。
「アンタもだからね! みらとあおにはくれぐれも手を出さないように!!」
……サイデスカ。
ようやく俺にも話が来たと思ったら、それか。
「わかったよ」
俺はそれだけ返し、肉の焼ける匂いの方へ向かった。
*
「それでは地学部の新たな門出を祝して、カンパーイ!!」
「「「「カンパーイ!!」」」」
モンロー先輩の音頭で、紙コップを掲げた。
網の上では肉が音を立て、その横に切った野菜が並んでいる。
皿を持って待っていた須賀が、早速身を乗り出した。
さっきまで落ち込んでいたくせに、こういうときは元気だな。
俺も焼けた肉を取っていると、あおが例のカゴを持ち上げた。
「すずちゃんのお母さんから差し入れだそうです。みなさんどうぞ」
「お母さんったら……」
「すずちゃんが友達と仲直りできるように、だってさ」
「友達じゃ無いんだけどな~」
すずちゃんが、ちらりと須賀を見た。
須賀は肉を食べるのに忙しいらしく、気づいていない。
カゴの中には、食べやすく切られたバゲットが詰まっていた。
こんがりした焼き色が、いかにも旨そうだ。
「すずちゃんの家ってパン屋だったのか?」
「そうだよ! スズヤベーカリーっていうパン屋さんなんだ。そしてその看板娘のモエモエこと、鈴矢萌ちゃんです!」
「ちょっと!! その呼び方はやめてよ~」
すずちゃんが顔を赤くして、みらの腕を引いた。
みらは楽しそうに笑っている。
さっきまで須賀を睨んでいた子と同じとは思えないな。
「スズヤベーカリーって、あの人気のパン屋さんですよね?」
イノ先輩がカゴを覗き込む。
「そうそう。いつも午前中で売り切れちゃうんだ~」
「そんなに有名な店なのか。今度行ってみようかな」
すると、すずちゃんがぱっと俺に笑顔を向けた。
「まいどあり~!!」
……これは接客モードだろうな。
随分と切り替えが早い。
「それにしても、すずって名字だったのね」
「モエモエが嫌で、みらにつけて貰ったんです」
モンロー先輩の言葉に、すずちゃんが答えた。
俺は須賀から名字を聞いていたが、確かに「すずちゃん」だけなら名前に聞こえる。
そういう由来だったのか。
「私たちのニックネームも、みらちゃんにつけて貰ったんですよね!」
「親密になるためには、まずは名前からですから!」
イノ先輩に頷き、みらが胸を張る。
「でも俺達は『スガ』と『ケンジ』で、そのままだけどな」
「アンタ達にみらのニックネームなんて、五百年早いのよ」
須賀が、へいへいと言いたげに肩をすくめた。
地質学的に見れば、五百年なんて一瞬だが……。
まあ、今ここで言うことじゃないな。
「このパン美味しいですね!」
イノ先輩が声を上げた。
一口食べたパンを、改めて見つめている。
「スズヤのパン、実際食べたの初めてだけど、こんなに美味しいなんて」
あおも頷いた。
すずちゃんはその反応に顔をほころばせ、二人の方へカゴを寄せる。
「まだありますから、遠慮しないで食べてくださいね!」
そんなに旨いのか。
俺も手を伸ばしたところで、先に食べていた須賀が声を上げた。
「こんな旨いパン、初めて食ったぜ!!」
すずちゃんが、少し驚いたように須賀を見た。
だが、須賀はもう次の一口を頬張っている。
……こいつは、こういうところは素直なんだよな。
俺はパンに焼けた肉を挟み、かぶりついた。
表面はぱりっとしているのに、中はもっちりしている。噛むと肉の味に混じって、小麦の香りが広がった。
「本当にうまいな」
「でしょ!」
なぜか、みらが得意げに答えた。
すずちゃんもおかしそうに笑う。
「みら、あおも。まだいっぱいあるからね」
「うん! じゃあ、もう一つ貰おうかな」
「私も」
二人が手を伸ばすと、すずちゃんは嬉しそうにカゴを差し出した。
先輩たちも、何を挟んで食べようかと話している。
皆がパンを頬張る様子を見渡してから、すずちゃんもようやく一切れ手に取った。
その口元には、笑みが残っていた。
カゴの中のパンは、みるみる減っていく。
俺も次は野菜を挟んでみようかと、網の上へ目を向けた。
すずちゃんの問題が解決しました!
これで心置きなく書けるぞ!!
ということで、次回から学術ネタが多くなります。
尚今までより更新が遅れますこと、ご了承ください。