もしも地質ガチな俺が地学部に入ったら【恋する小惑星if】 作:Takuma218
その後も須賀がモンロー先輩の焼いた肉を独占しようとするなどハプニングはあったが、まずまず平和に進んだ。そしてあっという間に肉は消え、バーベキューパーティーはお開きとなった。
…………………………
「さて、後片付けも済んだことだし…、腹ごなしといくわよ!」
「はい!! 実は俺、さっきからウズウズしてたんです。」
「奇遇ね。私もよ!」
桜先輩の目がきらりと光る。
だが…、今回は俺もその気持ちがわかる。
俺と桜先輩が妙に息を合わせて盛り上がっているのを見て、すずちゃんは目をぱちぱちと瞬かせた。
「何々!? 何が始まるの?」
「バーベキューの後は、河原の石の観察会が企画されていたのです」
「つまり、あの二人は地質班モード全開ってこと」
すずちゃんの問いに、イノ先輩が丁寧に説明し、あおが補足する。
「ああ……なるほど……」
「そういうイノちゃんは混ざらなくていいの?」
「私は地図から地質に入りましたから、まだあの領域には到達できていないんですよね~。桜先輩と対等になるためにも、いつかはと思っています!」
「到達しなくて良いと思いますよ…」
フフフと怪しく笑う地質班二人と謎の気合いを入れるイノを、天文班四人とすずはやや引いた目で見ていた。
…………………………
「それでは準備しますか」
俺は鞄から拾った石を入れる袋と、青い柄の特徴的なハンマーを取り出す。
「おっ、流石!アンタも持っているわね」
桜先輩も同じハンマーを見せる。
「二人ともお揃いですか?」
みらが反応した。
「これはね。ピックハンマーと言って、地質調査の必須ツールよ!叩いて良し、掘っても良しの万能アイテムなんだから!」
万能というのには少し大げさだが、実際あるとかなり便利なのは事実だ。
「でもイノ先輩のはちょっと違うんですね」
「ホントは同じ物が良かったのですが、そのメーカーのものは高くて…。私のはホームセンターで買った似たようなハンマーです」
「まあ私はお小遣いを何ヵ月も貯めて買ったし」
「俺のは誕生日プレゼントです」
((((プレゼントにハンマーなんだ……))))
天文班の心のツッコミがハモった。
「さて早速見に行くとしますか!」
川原は思っていたより砂が多く、足を取られる。
足元の砂を見ると、きらきらと光る
石を見ると、妙に平べったい石がいくつも転がっている。赤、緑、灰色と色もさまざまだ。
拾い上げて見ると表面が細かくきらめき、指に引っ掛かるような、薄い層のような感触がある。
更にルーペで見ると粒が同じ方向に並んでいる事がわかる。
川砂に混じる雲母は、こうした岩石が砕けてできたものだろう。しかし何だこれ?
俺が首をひねって考えていると、後ろから声が聞こえた。
「ねえねえ、ケンジくん!この石はなに!?」
みらが一つ石を持って来ていた。
見ると、黒くて平べったい。キラキラしていて、角度によっては銀色にギラッと光った。
やっぱり何だろう?
火山岩…では無いし、堆積岩…にしても違う。
この特徴は、
「
ふと視線を感じて見ると桜先輩がドヤ顔でこちらを見ていた。
「気づいた?でも一発で言い当てるのは流石ね。
その通り、この石は
なるほど、そういえばこの川の上流は
「えーっと…、そのケッショウヘンガンってなに?」
あ…。みらに聞かれていたの忘れてた。
「結晶片岩というのはね…、簡単に言えば砂や泥が固まった堆積岩が、更に地下深くの熱と圧力で変化した岩石よ」
桜先輩が、かなりかいつまんで説明した。
「なるほど…、なんとなくわかったような…」
みらが眉間にシワを寄せ、腕を組んで首をひねっている。まだちょっと難しいか…。
そこでイノ先輩が助け船を出した。
「泥の石が地下でぎゅーっと押しつぶされて、中の粒が同じ向きに並んだ石なんですよ。だからキラキラして、薄く割れるんですぅ」
「それで薄く割れるんですか?」
「そうです!押されてぺたんこになったから、層みたいに割れるんですよ」
「なるほどー」
ようやくわかったようだ。
「でもやっぱり石って難しいな…」
「最初はそんなに難しく考えなくても良いですよ。この石だって、銀色に光って綺麗じゃないですか」
イノ先輩が足元の石を一つ取る。
「例えばこの石とか、縞模様が綺麗でしょ?石は一つ一つ個性的で面白いですから、小難しいことは私たち地質班に任せて、皆は好きな石を集めれば良いのです!!」
「そうですね。それじゃあ探そっか、あお!」
「そうだね」
それからは天文班も思い思いの石を探し始めた。
「イノ、ナイス!!」
桜先輩が親指を立てた。
「いえいえ。先輩に散々叩き込まれましたから、このくらいお安いご用です……」
「それもだけど……。あのこたち楽しそうに石を拾ってるでしょ?あれはあなたのお陰よ」
二人は優しい眼差しで、石を探す部員を見た。
俺たち地質班はどうしても理屈に走りがちだから、イノ先輩みたいに一歩引いて見てくれる人は本当にありがたい。
「本当に助かりました」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
俺も頭を下げてお礼をすると、イノ先輩は照れ臭そうに頬を掻いた。
…………………………
地学部の部員達が思い思いに石を手に取り、歓声や驚きの声を上げる中、すずは少し離れた河川敷の端に立って、その様子を眺めていた。
足元の砂をつま先で軽く蹴る。
輪の中に入れないわけではない。けれど、今はどうにも一歩が出ない。
「どうした? おまえは行かないのか?」
いつの間にか、遠藤先生が隣に立っていた。
「いえ、私は地学部ではありませんし……」
すずは視線を川の方へ向けたまま、素っ気なく答える。
「何も遠慮することはない。部員達は君がいることを認めたんだろう?」
「でも私は石も地学もわかりませんし……」
遠藤先生は川の方を顎で示した。
「ほら、皆あんな顔して石を見てるぞ。天文班の連中なんて、石のことなんかほとんど知らんのにな」
視線を向けると、みらが何かを見つけて、あおにそれを見せた。
「あお見て!!この石木星みたい!!」
「ほんとだ、
すずは黙ったまま、それを見つめた。
「わからないのは皆同じだ。私だって最初は何も知らなかった。勿論あいつらもな」
「ただな、あいつらは“面白い”と思ったからここにいる。
好きなやつが夢中になってるものを、ちょっと覗いてみる。それだけでも十分だ。
……外から見てるだけってのは、案外退屈だぞ?」
しばし沈黙が続くが、そこに声が響いた。
「すずちゃんもこっちおいでよー!!」
遠くでみらが手を振っている。
すずは小さく息を吐き、ほんの少しだけ口元を緩めた。
そして、一歩踏み出した。
…………………………
「桜先輩、この石は何ですか?」
「これはチャートね。
「イノ先輩、これは何ですか!?」
「これはれき岩ですね。ほら、小石がそのまま固まってるでしょう?」
「ケンジくん、この石は何かしら?」
「
とまあ、こんな感じで地質班三人で質問に答えながら、俺達も石を観察していた。
すると須賀が何か拾ったと思ったら、モンロー先輩に跪いて石を掲げている。
「モンロー先輩、この石をあなたに」
須賀が渡そうとしているのはピンク色の平たい石。それもどこで見つけたのか、妙に綺麗なハート型だ。
「えっと……、ありがとう……」
モンロー先輩は少し困ったように笑った。
ちなみにあれは
……まあ、ここでわざわざ言う必要もないな。
…………………………
「桜せんぱ~い!この石を見てくださ~い!!」
みらが石を掲げたまま、ぱたぱたと桜先輩の方へ駆けていく。
だが次の瞬間、足元の丸石に乗り上げ、体がぐらりと傾いた。
「危ない!」
桜先輩がとっさに腕を伸ばす。
砂を踏みしめる鈍い音とともに、みらの体は寸前で支えられた。
一瞬、周囲の空気が凍りつく。
「…桜せんぱい…、命の恩人です~」
みらは涙目で見上げた。
「そりゃどうも。
全く…、足場が悪いんだから、気を付けなさいよ」
桜先輩はみらの肩を掴んだまま、ほっと息を吐いた。
「みら、大丈夫!?」
「怪我はない!?」
あおとすずが駆け寄る。
「心配かけてごめんね~。大丈夫だよ」
みらはけろりと笑う。
「もう……心配かけないでよ」
すずちゃんが小さく睨むが、その声はどこか安堵している。
「本当に気をつけてね」
あおもそっと念を押す。
「それで? 何を見せたかったの?」
みらはようやく思い出したように桜先輩に石を差し出した。
「あら、面白い石を持ってきたわね」
それは灰色の安山岩の丸い小石を、白い筋がぐるりと取り巻いている。
「これは
「せきえい…みゃく…?」
みらが首を傾ける。
「そ。ケイ酸分に富んだ熱水が岩の割れ目に染み込んで、石英が晶出したの。それが崩れてこんな風に転がって来たのね。この白い部分が石英よ。表面だけじゃなく、内側まで続いているの」
桜先輩は楽しそうに捲し立てた。
でも桜先輩……、みらさっきから固まってるぞ。心なしか背景に宇宙が見える気がする。あれが噂の宇宙猫というやつか……?
見かねたイノ先輩が噛み砕いて解説した。
「岩に開いた割れ目を“水晶のもと”が埋めたのです。その部分が白い帯のように見えてるんですね。ちなみに石英と水晶は実は同じ石で、透明で綺麗に育つと“水晶”、白く塊になると“石英”って呼ばれることが多いんですよー」
「なるほど~」
今度はわかったようだ。
「ちなみにこういう石は“ハチマキ石”って呼ばれたりもしますね」
「ハチマキ石……。イノ先輩、翻訳サンキューです!!」
「ちょっと!翻訳って、私が未知の言語話しているみたいに言わないでよ!!」
「まあまあ、落ち着いてください」
桜先輩をなだめるイノ先輩。
……あながち間違っていない気もするが、それは心の中にしまっておこう。
二人が言い合っている間に、みらはいつの間にか背を向け、しゃがみ込んで何やらごそごそとやっていた。
「あお、すずちゃんもこれ見て!」
「わっ、かわいい」
「へー、いいじゃない」
振り向くと、さっきのハチマキ石にマジックで顔が描かれている。
白い帯がちょうど額のハチマキのようで、にこっと笑った表情が妙に似合っていた。
「……何やってるのよ、もう」
桜先輩は呆れたように言いながらも、口元は緩んでいる。
イノ先輩も小さく吹き出した。
…………………………
歩きながら石を見ていると、あおが何かを見ている事に気づいた。
「あお、どうかした?」
「あっ、ケンジくん。
これ、みらが見つけたハチマキ石に似ているけど、なんだか穴が空いてるの」
それは確かにみらの石と同じように、
――これはもしや……。
「どうしたの?」
桜先輩やみら達が駆け寄ってくる。
「先輩、これ見てください」
桜先輩は受け取って観察すると、静かに頷いた。
「あお。これ割ってみてもいい?」
「いいけど、何があるの?」
「割ってからのお楽しみ」
俺はニッと笑った。
あおの了承を得た俺は、その石にハンマーを入れる。
ハンマーを振り下ろすと乾いた音が河原に響いた。
もう一度。
ぱきり、と乾いた手応えがして、石は三つに割れた。
すると石の内側には、白く、細い水晶がいくつも光っていた。
あおは驚いたようにパチクリとまばたきをすると、思わず感想をこぼした。
「きれい…」
「石英の中に隙間があったから、水晶が成長したんだね」
あおはじっと石を見ると、僅かに頬を染め、花のように笑った。
「ありがとう!」
かわいい…。
不覚にも一瞬見惚れてしまい、慌てて目を反らす。
すずちゃんから『わかってんだろうなあ…!』という圧を感じて、冷や汗が出た。
……わかってますよ。
嬉しそうに水晶を見つめていたあおが、ふと思いついたように顔を上げ、みらとすずちゃんを見た。
「そうだ、丁度三つに割れたし私たちで分け合わない?」
あおがそう言うと、二人は目を丸くした。
「それは嬉しいけど、良いの?せっかくあおが見つけたのに」
「うん!
私たちの友情の証として…、ダメ…かな?」
「全然ダメじゃないよ!!アリガト、あお!」
「もう、ホントかわいいんだから!!」
感極まったようにすずちゃんが二人に抱きついた。
友情は美しきことだ。
「あ、それとケンジくんもありがとね!!」
「まあ、少しは認めてあげないこともないわ」
みらとすずちゃんからお礼を言われた。…すずちゃんのはお礼と言えるか微妙だが。
俺はただ石を割っただけだけど、まあ…
「どういたしまして」
原作では石拾いした川のモデルは明言されていませんが、この物語では埼玉県の荒川を参考にしています。
あとこの作品の地質班は原作よりもレベルが高めです。