立て続けの銃声と共に、倒れたステラの体が跳ねた。フライトジャケットの生地が弾け、焦げた血の臭いが濃くなった。それと火薬の臭い。炸裂弾だ。貫通すると体内で破裂し、犠牲者の肉をグチャグチャにする。ステラは捻れた格好のまま動かず、うめき声一つ上げない。サラが悲鳴を漏らした。テオドールもそうしたかった。
「何もするな。呪文も精霊もなし」
テオドールは断定的にサラを制した。サラが本来感じるべき恐怖と、魔法的トランスによる勇猛さの板挟みで突飛な行動に移るのを予防しなければならなかった。「やられるよ」サラが案の定抗弁する。だが反射神経を強化し、鋭く精密に動く機械の腕を持ったサムライをひよっこ魔法使いがどうにかできるわけがない。呪文をかけようとしてもこの位置関係では先に撃たれて終わりだし、精霊をけしかけたところで実体化を終えるまでの僅かな隙にサラへ詰め寄って撃つだろう。それを説明して発憤されても困るので、テオドールは「こっちでどうにかする」と即答し、プレデターを抜いて見せた。「余計なことをされると邪魔だ」
《フライスパイ》一機をこちらに差し向ける。テオドールとサラが隠れているコンテナに悠々と近づいてくるオブシーダの姿を捉える。覆面にゴーグルで袖なしの迷彩ボディアーマーを着込んだ大柄な男。他の《ハウンズ》メンバー同様覆面とゴーグルをしているが、今回はマーカスみたいな黒光りするサイバーリムの両腕を剥き出している。派手な出入りに際してそれとなく名前を挙げるつもりでもあったのだろうか。だが、何故わざわざ隠れていたのか。不測の事態に対応するためか。サラに何か起きると予想していたのか。憶測が頭を過ぎるが、テオドールはすべて忘れ、後回しにする。
手元をズーム。武器はプレデターだ。ライフルも背負っているのに拳銃を構えているのは、ファーストを警戒して不意の白兵戦に備えていることと、跳弾や貫通弾でサラを傷つけないようにだろうか。しかしサラが裏切ったことがバレたら躊躇しないだろう。
銃口がテオドールの居る位置を指したまま近づいてくる。オブシーダがもう少し距離を詰めて、オブシーダの銃口から見た遮蔽とテオドールを結ぶ角度がほんの少しずれればテオドールは撃たれる。サムライの手による射撃の素早さと正確さはよく知っている。破れかぶれに飛び出して撃っても、なんの意味もない。ファーストであれば良い勝負になるだろうが、彼との距離はかなり離れている。オブシーダが近づく前に来てくれるはずもない。
オブシーダの射線がテオドールに噛み付くまで、ほんの数秒。
眼鏡のウィンドウが目まぐるしい光景を映し出す。
倉庫に向けて二台のバンが猛スピードで迫り、銃撃に晒されてボロボロになったシャッターを突き破ろうと突撃してくる。《カッターズ》の銃撃が迎え撃つが、バンは防弾で食い止めきれない。
光がカメラを塗りつぶす。シャッターを内側から突き破って迸った雷撃が、バンの片方を焼き焦がしたのだ。シルバが放った雷撃の呪文だ。そちらのバンは火花を散らしながら横滑りして止まったが、もう一台をどうにかする暇はなかった。それにあの威力の呪文をもう一発となると幾らシルバでも体力が持たないだろう。防弾処理車の凄まじい質量がシャッターにぶつかり、へしゃげ、歪む。《カッターズ》の必死の銃撃がバンの車体にぶつかって火花を散らす。
片や《ハウンズ》ブラボーチームはグレネードランチャーを担ぎ出し、《カッターズ》の注意がバンへ向いている間にグレネードを叩き込もうとしていた。破片榴弾やガス弾なら対策済みだが、焼夷榴弾だったらまずいことになる。それを察知したファーストがランチャーを準備しているやつに斬りかかる。だが、流石にもう予測されていた。アサルトライフル三丁の銃口がファーストを出迎え、十字砲火を浴びせる。
オブシーダが最後の一歩を詰めようとしている。
サムライの挙措は荒々しいが手慣れていた。足取りは無造作なようでいて滑らかであり、プレデターを構える手つきはぴたりと据わって、歩行と銃口の操作が見事に連動している。彼は次の一歩と同時にテオドールを捉え、射殺するだろう。
テオドールはプレデターを両手で構え、一気に三発撃った。手の中で強烈な音と反動と光が乱舞する。だが、ただの威嚇だ。銃を遮蔽から突き出すことさえしない。もしそうしていたら逆に銃口を見られてかわされ、即座に反撃されていただろう。見えない位置から闇雲に撃った方が却って警戒させられる。僅かな先延ばしに過ぎないとしても。
果たしてオブシーダの歩みは滞った。ほんの一瞬、遮蔽を挟んで呼吸の読み合いになる。こちらがドローンで彼の様子を把握している分、状況は有利。しかしそれだけのことでただの人間がサムライの素早さに対抗できるわけがない。オブシーダは瞬発的な動きの予備動作として僅かに膝を撓ませ、大きく踏み出して、
その足を蹴り払われた。
オブシーダはよろめきながら即座に銃口を振り下ろし、発砲する。
ステラの体が倒れたままくねり踊った。蹴りの反動を使って小さな体をねじり、回転させ、照準をかわした。その勢いのままに、どういう身のこなしをしたものか、瞬時に跳ね起きてオブシーダに挑みかかっていく。割れた額から流血し、幼げな顔を凄絶に染めている。キアイの叫びと共に爆発的な動作でもって、ステラの小さな握り拳が突き出される。
ぱっと見には、小柄な彼女のパンチは癇癪を起こした子供のように他愛なくも思えた。だが彼女のカラテは実のところ堂に入っており、かつ、恐ろしく速かった。彼女の挙措を見慣れていなければテオドールは到底目で追えなかっただろう。
不意を突かれたオブシーダの腹にステラの拳が突き刺さり、見た目を真っ向から裏切る重い音をさせた。オブシーダが覆面の下で呻き、よろめく。「エェイッ!!」ステラは留まらず、綺麗な一直線にワンツーパンチを繰り出す。オブシーダが左腕をガードに下ろしているが、ステラは構わず装甲サイバーリムを殴りつけた。金属と金属がぶつかり合う、硬い衝撃が連続する。
ステラが“ヒューマンの小娘”ではなく“のっぽのドワーフ”であると……オブシーダは気がついただろうか? そうでなくともステラの骨格がアルミニウム補強されているのは思い知っているだろう。それから皮膚が強靱な防弾バイオ皮膚に置換されており、額の皮膚と頭蓋骨だけでプレデターの弾丸を防ぎ得たことも。
今やステラはオブシーダに半ばしがみつくほど密着し、絶え間なくフックやエルボーを叩きつけていた。だぼだぼジャケットに隠れたステラの逞しい背中や二の腕が盛んに駆動し、筋繊維のうねりと熱気さえ感じ取れるようなフル回転だ。オブシーダとステラの間には四○センチ近い身長差があったが、小さな体に恐るべき密度の筋肉を詰め込んだドワーフ、それも培養筋肉で強化された瞬発力を持つステラであれば、体格差は武器に変えることができる。現に今、オブシーダは懐で暴れ回るステラに対し、思うような反撃が出来ずに手こずっていた。オブシーダがプレデターを撃ち込もうとしてもステラは巧みに脇へ回り込んでかわし、或いは銃に掴みかかる素振りで牽制する。オブシーダは泥沼の揉み合いを余儀なくされ、左腕で肘を叩きつけたり膝を振り上げたりしてはいるものの、ステラはそれを食らって怯みもせず、飢えた犬のように暴れ狂う。ステラの拳はまともに食らえば人間の肋くらいは簡単に砕ける。オブシーダがガードしている腕が装甲されたサイバーリムでなければとうに折れていただろう。
オブシーダとステラ、運動神経を高速化し、肉体を増強したサムライ二人の攻防は激しく、目まぐるしかったが、ステラが優勢であるのはテオドールの目にすら明らかだ。そしてとうとう、どすん、と肉の凹む音がして、ガードをすり抜けたステラの拳がオブシーダのボディに入った。オブシーダは初めにもカラテストレートを一発食らっているのだ。揉み合いの中で浅く入った拳といっても相当に効いたはずだ。オブシーダが濁った喘ぎを漏らし、なりふり構わずに飛び退き、よろめいた。ステラがとどめの拳を腰だめに追う。俯いたオブシーダが、ゴーグルの下からステラを睨む。悪寒。テオドールは警告を発しようとするが、サムライの速さには口も呼吸も追いつかない。逸る思考ばかりが猛烈に空転し、二人の遣り取りを追う。苦しげなオブシーダの右手、ステラに銃を奪われまいと掲げたままにしているサイバーリムの拳が僅かに捻られ、小指の付け根辺りからナイフのような刃物が飛び出した。仕込み武器だ。ステラからは見えないように抜いている。テオドールはドローンで俯瞰しているから見えたのだ。ステラが踏み込む。弱々しくよろめくオブシーダ。だが、彼の右腕は別の生き物のように、まるで金属の蛇が寄生しているような異様な動きで鋭く畝り、ステラへ襲いかかった。サイバーリムは人間の腕として接続されてはいるが、一個の駆動系だ。人間がボディブロウで悶絶し、呼吸と循環が滞り、筋肉を稼働させるためのエネルギー供給や信号伝達がままならなくなっても、リムそれ自体の動きに陰りはない。オブシーダのダメージが本物だからこそ右腕の動きが異様に素早く感じられる。
やられたのがテオドールであったら、その落差に意表を突かれ、なんの抵抗もできずに顔面を切られて目を潰されていただろう。そして怯んだところを間髪入れずに炸裂弾を叩き込まれて脳味噌の大部分を失っていただろう。間違いなく。
ステラは引っかからなかった。
左手の平をアッパーカットのように叩きつけてサイバーリムを受け止め、腰を入れ、がっちりと力強く掴み返した。同時に腰の後ろへ右手を滑らせ、ジャケットの中からマシンピストルを抜いている。銃はステアーTMPだが、フォアグリップを外し、弾倉にすっぽり納まる長さのショートクリップを使ってコンパクトに仕立ててあった。勿論スマートガンシステムを増設済みであり、ステラが握っただけで安全装置が解除できる。
ステラが銃を向ける。
オブシーダの左手がすかさず受け止める。
両者、がっぷり四つに掴み合った。
ステラの唇が意地悪くひん曲がったのをドローンのカメラ越しに捉えながら、テオドールは遮蔽から歩み出し、眼鏡越しの補正視野で彼女の後頭部を見た。オブシーダとステラの間には四〇センチ近い体格差がある。掴み合うことでオブシーダが多少前傾姿勢になってはいるものの、それでもステラの癖っ毛頭の上にオブシーダの逞しい胸板が丸見えになっていた。
念のために、テオドールは視界に映るスマートガンの照準をその更に上、覆面をしたオブシーダの頭に重ねた。両手でしっかりプレデターを構え、落ち着いて狙う。オブシーダがこちらに気づき、体を捩る。照準を修正。撃つ。
手の中で反動が跳ねる。補正された視界にオブシーダが健在である旨の警告が表示される。テオドールが撃つ瞬間、首を振って避けたようだ。完全に、とはいかなかったらしく、覆面が裂けて流血している。銃弾は彼の頬を抉ったようだ。
テオドールは更に撃った。一発ずつ、落ち着いて撃った。二発目は掠りもせずに外れ、三発目は左肩の辺りに当たって火花を散らした。その瞬間、ステラが捕まれた右手をもぎ離す。
オブシーダは何か言いかけたようだった。
TMPのフルオート射撃が掻き消した。
つんざくような一連の銃声。小口径のマシンピストルとはいえ、至近距離から十発以上も一気に叩き込まれたのでは幾らアーマージャケットで防御していてもたまらない。ジャケットは貫通せずによく耐えたが、着弾の衝撃までは殺しきれない。巨漢のサムライが体を折って頽れ、項垂れる。
ステラが脇に退く。
テオドールは改めて狙いを定め、撃った。
プレデターの弾丸がオブシーダの額を貫き、後頭部から抜けて脳の破片を撒き散らした。
ステラがスタンバトンを抜き、オブシーダのコムリンクを破壊した。
サラを地下駐車場のフォードへ連れ込んだ頃には、どうやら倉庫の方も片がついていた。
映像記録を確かめたところによると、ファーストは壁を蹴ってニンジャのニンポであるところの三角飛びを極め、銃撃をかわすと共に敵三人のブロックを飛び越して逃げ去った。スロー再生してみると彼は飛んだばかりでなく、そのままグレネードランチャーを準備している敵の頭上を飛び越し、宙返りしながらイアイをやっていた。そんな無理矢理の姿勢から斬り付けたにも関わらず、グレネードランチャーを準備していたやつは一撃で右腕を斬り落とされており、賞賛や畏怖を通り越して呆れ果てる他はなかった。
シャッターに食らいついていた二代目のバンは、風の精霊が電撃で追い払ってくれた。回転翼機ドローンに手こずっていた彼女だったが、アルフレッドがドローンの命令系統を撹乱することに成功し、ドローン達の動きを鈍ったところを手早く始末して地上に助太刀してくれたようだ。
流石に分が悪いという敵のムードを、《カッターズ》が一際激しい銃撃で煽る。現に半数がやられている。《ハウンズ》のメンバーらは恐らくオブシーダに連絡を取ろうとしただろうが、その時にはもうオブシーダは死んでおり、返事があるはずはなかった。彼らはやがて戸惑いがちに、恐る恐るに引き上げていった。
メイソンにオブシーダをこちらで始末したこと、現場の後始末を頼むことを連絡し、テオドールは車を走らせた。後部座席をミラー越しに覗くと、サラは体を投げ出して覆面を脱ぎ、虚脱した顔で呆けていた。その横のステラは体をリラックスさせ、サラを含めた周囲全てに注意を配っている。割れた額の出血は強化された血小板産生作用のため既に止まっており、褐色の顔に粘ついた血糊がべっとりへばり付いていた。追い打ちで食らった弾はジャケットとバイオ皮膚で止まっており、こちらも軽傷とのことだ。だが、後できちんと手当はしなければならないだろう。頭の中がどこか出血していたら大変だ。
テオドールはアドレナリンの燃え滓で手が震えるのを押し殺し、手動運転で目的地へ向かう。
「これからかなり遠回りして、とある人目につかないモーテルで、大手探偵社の担当調査員と落ち合う。サラのことは彼らが見つけて保護したことになるからよろしく。アリバイ工作も頼んでるから彼らと良く相談して、口裏を合わせること。それで今日あったことや《シャドウ・ハウンズ》で関わったことは忘れること。いいね?」
サラが「ん」と頷くまでに、エスプレッソ一杯くらいは窘めそうな間があった。
彼らはテオドール達よりもずっと身元や経歴がしっかりした、社会的に信用のおける人員であることを説明すると、サラは皮肉っぽく笑った。
「グレイ。要するにさ、あんたたちもシャドウランナーなんじゃない。金貰って、ヤバいことやって、綺麗な服着てるヤツのために働くんでしょ。それでよく、私に偉そうなこと言えたよね。そりゃ、そっちの仕事のためなんだろうけどさ」
「ランナーなんかになる前に、考えた方がいいっていうのは本気で思うよ。君の才能は安売りしていいものじゃあない」
「金なんかどうでもいい。私はやりたいようにやりたい」
「世の中、自分を幾らで誰に売り飛ばすか、っていうのが唯一の自由らしい自由なんだよ、サラ。魔法の才能すらもね。影の世界なら自由だなんてとんでもない話だ。却って見えない柵や地雷原に気を遣うばっかりさ。ガッコを出たらイヤでもそういう話ばかりになってくる。そしてこれは魔法使いに限った話じゃない」
「……」
「君が持ってるものを欲しがる人はたくさんいる。高校卒業くらいまで勿体ぶったってバチは当たらないさ。詐欺に引っかかって安売りするのは間違いなくためにならない。第一、腹が立つだろう、君も?」
「……パパとママはダメだって言うに決まってる。シャーマンのことも魔法のことも気持ち悪いって思ってる」
「興味本位じゃなく、本気で本物の魔法を勉強すると言ってみればいい。君が本気だと理解すればご両親の態度も変わってくるかも知れない。まずはよくよく話し合うんだね。それでもご両親が反対するなら、ご両親に換わって学費を出してくれるヒトだって探すことができる。SINを捨てなくったって、合法的なルートでね。何度も言うけど、君に投資したがるヒトは多いよ、サラ」
「投資、なんだ」
「どうしてもそういう話になってきちゃうんだよ、世の中ってのは。ただ少なくとも君のご両親は今回の件、決して安くない金額を君のためにポンと出した。君が魔法使いだと知らないまま、損得抜きで、ただ家出した君を無事に連れ戻すために魔法使いやサムライが雇えるくらいの金を払った。そこのところは、ちょっとは汲んであげてもいいんじゃないかと思うけど」
サラは答えなかった。
《T&T》社のスタッフと落ち合い、彼女の身柄を引き渡し、別れるまで、ずっと何も言わなかった。
★
《重力》のブース席でホルヘが広げた支払い保証済みクレッドスティックは五万新円分。
バイオ皮膚の再生と定着を促すための大きな絆創膏をおでこに貼りつけたステラが一万新円一本を摘まみ、指先で弄ぶ。テオドールは友好的に微笑みかける。
「サラが覚醒者だってこと、知ってたね、ホルヘ?」
「グレイ。済まないが──」
「ホルヘに情報を開示する権限は与えられてなかった。それは分かるよ。全部こっちの空想だとも。依頼元はサラのスカウトを狙ってるどこかの会社。予算と成功報酬、危険手当はサラの両親が支払った金、プラス、某社のミスター・ジョンソンが支払った金から工面されている。君がこちらに悪くないよう差配してくれているのも承知している。この追加の二万五千新円を引っ張り出すために交渉してくれたであろうことも想像できる。黙って受け取って、意図を察して欲しいっていうのも分かる」
「……」
「ただ、近日中にサラ・エファーソンに接触するであろう某社の誰かさんに、やり方をよくよく考えた方がいいだろうとは言わせて貰いたいね。サラ嬢は酷い失恋を経験したばかりだから疑り深くなってるだろうし。下手に持って回った小細工をやらずに、真正面から堂々とやった方がお互いのためだ。福利厚生と勤務態勢をきっちり説明して、短期研修なんかもいいだろうね。勿論、彼女の自由意志で断る余地は残した上で。どうだろう、どう思う?」
「ああ、いいね。そうあるべきだと思うよ」
「伝えておいてよ」
四本のクレッドスティックを掻き取り、席を立つ。ステラがホルヘの胸ポケットに残り一本を差し込んで、テオドールに続く。
昼下がりのインターナショナル・ディストリクトの雑踏に踏み出し、屋台売りのホットドッグを三つ買い求め、二つをステラに手渡す。ステラは大口を開けてかぶりつき、おろしたてのフライトジャケットの袖を汚してしまう。
「傷はどう?」
「すっかりいいよ。シルバが呪文で手当してくれたやつがすごい効いたから」
「良かった」
「あたしが撃たれた時さ、ボス、マジで死んだと思わなかった? 声めっちゃ震えてたよ」
「ちょっと思った。かなりビビった」
「実はあたしもちょっとチビった。頭ぐわんぐわんして、すぐ動けなくってさ。悪かったよ」
「いや、悪かったはこっちだよ。ステラが庇ってくれなきゃ死んでたとこだ。ありがとう」
「ドーモ。でも、ボスを守るのはいつものことじゃん」
「それでもさ。……大体そもそも、ステラくらいのストリート・サムライに引っ付いて貰えてるのが贅沢過ぎるんだよ」
「それもいっつも言う」
「もっと良い仕事選べると思うよ? 今回みたいなのはまだしも、浮気調査だのストーカー退治だの盗聴対策だの、能力の無駄遣いもいいとこだ」
「あたしが要ると邪魔?」
「まさか。凄く助かってる。けど、公平じゃあない」
「ボスがくれる仕事、好きだからいいんだよ」
「まあ……ステラがいいなら、いいんだけどさ」
「いいの」
「なら、まあ、いいんだけど」
「んで、どうする? 帰って寝る?」
「いや、ファーストとシルバにお金渡さないと。あと、イーストン君の消息を確認しとく」
「あいあい」
★
その後ひと月ほど経って、ギャング兼ランナーチーム《シャドウ・ハウンズ》は解散した。《カッターズ》に返り討ちに遭って面目を落とし、豪腕のリーダーをも喪ったことで勢いをなくしたらしい。タイラーことレックスは以前ほどサトウ夫人の贔屓を受けられなくなったという噂。近々東海岸に引っ越すのではないかと言われている。テオドールはレックスからの復讐を警戒していたが、矢面に《カッターズ》を引っ張り出したのが良かったのか、目立ったリアクションは見受けられなかった。ただ、今後も彼の名前は覚えておく必要があるだろう。
イーストン少年に対しては何度か《アッシュ》の顔で接触し、その後のケアをした。《ハウンズ》解散に伴っては他の地区への引っ越しと、自動車修理工場への就職を斡旋した。今のところ無事にやっている。
サラは家に帰り、高校にも通っている。魔法の世界に目覚め、裏社会に足を突っ込んだ彼女の価値観は今まで通りではないだろうが、ひとまず、再度の家出をする様子はない。魔法使いの先輩として連絡先を教えたシルバのコムコードにも、サラからの連絡は入っていない。
そう言えばホース氏も引っ越しをしたようだ。店がもぬけの殻になっていたと、シルバが教えてくれた。
ファーストやシルバとは、たまに情報交換がてら落ち合って食事をする。《ハウンズ》やレックスやサラのその後については、スペースニードル近くの日本料理店で話をした。シルバのリクエストで注文した前菜のチョコレートソース・スシは悪くない味わいだったが、ファーストはキラキラ笑顔のシルバに見えないよう、密かに悲しげな目を伏せていた。
この二人には結構派手な立ち回りをお願いしたので心配だったのだが、テオドールが聞き及ぶ限りでも、二人の気付いた範囲でも変わったことは起きてないようだ。念のため、ファーストはしばらくシルバの警護に就いていたという。ストーカーと間違われて第三者に通報されないかが心配になったが、テオドールは口に出さなかった。
幾つか、仕事の種になりそうな話や、お互いの頼み事を交換した。スシを食べ、サケとソフトドリンクを飲み交わし(ファーストもシルバもアルコールを呑らない)、ごく和やかに会食を楽しんだ。ステラが少々飲み過ぎて騒がしかったが、なんとか全員の許容範囲だった。独断でサラ嬢捜索の報酬を一部貰い渋ったことについてはファーストもシルバもあっさりしたもので、「俺は構わん」「あ、うん、あの、それでいいと思う」と承諾してくれた。お詫びに会計はテオドールが持った。
「あのヒト、どうなるかな」
シルバはサラ嬢のことを結構気にしているようだった。食後の緑茶に砂糖を入れつつ、我慢しきれなかった様子で話題を切り出した。
「企業のスカウトチームなら、木っ端フィクサーなんかよりはずっとスマートにやると思うよ。彼女がシャーマニック様式に覚醒してることも、狼の導師精霊に指導されてることも織り込み済みでね。騙す必要なんかない。変てこな陰謀ごっこがしたいんじゃなければ、良い条件、良い金、良い大学と良い師匠で真正面から釣りにかかるはずさ。今回こんなまだるっこしい手出しをしたのだって、有望な新入社員候補の経歴に傷がついて欲しくなかったからだろうし」
「かな」
シルバは頷きつつ、釈然としない顔だ。白く繊細なビスクドールの美貌が憂いに揺れている。
「彼女が納得しなかったなら、シルバに連絡が来るよ。多分」
「う。……うん」
シルバは自信なさげに硬直し、一呼吸置いて頷いた。微笑ましくも頼もしい、良い子だ。
半分が酒を飲まない集まりなので解散も早い。会計を済ませ、キモノ姿のウェイトレスへチップを弾み、店を出る。酔ったステラがシルバに抱きつき、怯んだ彼女にちょっと面倒臭く絡んでいるのをファーストが手際よく引き剥がした。ステラがへらへら笑う。「分かった、分かった、帰ってクソして寝るよ。しっかり彼女を送ってあげな、むっつりニンジャ=サン」
大声でがなり立てるステラにファーストが何か言い返したが、観光客が通り過ぎるざわめきに紛れて聞き取れなかった。ファーストはテオドールに会釈を寄越し、シルバを連れて立ち去っていく。テオドールは手を振って二人を見送り、夜の街を路面電車の停留所に歩き出す。
ご機嫌に酔っ払っていたはずのステラは妙に静かになっていた。ファーストに何か嫌なことを言われたのかと思いきや、別に臍を曲げている風でもなく、やけに神妙な面持ちをしていた。
ファーストに何を言われたのかと尋ねてみても何も言わないものだから、気になったテオドールはイヤホンの短期記録からさっきの会話を呼び出し、ファーストの音声波長を抽出して何を言ったのか解析した。あの男はステラの軽口に付き合わず、空気を読まない真面目腐った挨拶をしていて、その後に日本語のイントネーションで呼びかけていた。
「ああ、失礼する。そちらも気をつけて帰れ、《さむらい》よ」
ステラは背筋を伸ばして、心なしか酔いのためばかりでなく顔を赤くして、テオドールの傍らに侍っていた。テオドールの気のせいでなければステラは妙に嬉しそうだったが、ファーストの言ったことの何がそんなに彼女の気分をくすぐったのか、よく分からなかった。
「ボス」
むずむず落ち着かない様子のステラは、急にテオドールを呼んでくる。
「うん?」
「あの家出捜し、上手く片付いてよかったね」
「ステラのお陰だよ。ありがとう」
「それで、次はなんの仕事する?」
「しばらくは張り込みの応援ばっかりだ」
「ウン、分かった」
「あんまり面白くはないと思う。色んな意味で」
「ボスとやる仕事は好きだよ」
「そっか」
「うん。そう」
ステラは瞳を輝かせ、あどけなく笑っていた。
ステラ
ドワーフ 女 20歳
ストリート・サムライ
(初期作成時)
作成方式 :優先度(基本)
優先度A :能力値 24
優先度B :財産 275000¥
優先度C :メタタイプ ドワーフ(特別点1) 免疫+2、生活コスト+20%
優先度D :技能 22/0
優先度E :魔法 マンディン
能力値:24 +25KARMA(論理+1、魅力+1)
強靱7 敏捷6(8) 反応4(7) 筋力6(8)
意志6 論理2 直感5 魅力3
エッセンス0.35
特殊能力値:1
エッジ2
イニシアティブ:12+2D6
肉体リミット:8(10)
精神リミット:5
社会リミット:5
コンディションモニター:P12/S11
オーバーフロウ:7
特徴:0KARMA
生体適合性(サイバーウェア) +5KARMA サプリ「クローム・フレッシュ」
ヒューマン風の外見 +6KARMA
両手利き +4KARMA
猫っぽい(忍び歩き) +7KARMA
高速治癒 +3KARMA
恐怖症(デビルラット、軽度) -5KARMA サプリ「ラン・ファスター」
苦手(ハッキング) -5KARMA
行動規定(トリッドのサムライ) -15KARMA
コンタクト:6FreeKARMA
ストリートドク(R3/L3)
能動技能:22/0
自動火器6
素手戦闘4
知覚4
忍び歩き(都市)1+2
体術(登攀)1+2
エチケット(ストリート)1+2
交渉(外交)1+2
知識技能:12
英語N
スペイン語2
ヒンディー語2
シアトルのストリートギャング2
隠れ家2
暗殺者の手口2
スプロールの生活2
装備:275000¥
強化人工筋肉(2,アルファ) 1.40 ¥60000
強化反射神経(1,アルファ) 1.40 ¥46800
反応力強化(2) 0.50 ¥26000
サイバーアイ(3,アルファ)[12] 0.20 ¥12000
大光量補正 [01] ¥1200
暗視 [02] ¥1800
赤外線視野 [02] ¥1800
スマートリンク[03] ¥4800
望遠視野 [02] ¥2400
視覚補正(2) [02] ¥9600
サイバーイア(2)[08] 0.20 ¥4500
平衡強化 [04] ¥8000
ダンパー [01] ¥2250
音源探知 [02] ¥4000
骨格補綴(アルミ) 0.90 ¥18000
オルソスキン(3) 0.75 ¥18000
血小板工場 0.20 ¥17000
制眠機 0.10 ¥12000
下層ライフスタイル ¥2400
偽造SIN(4) ¥10000
偽造許可証(4)(銃器所持) ¥800
偽造許可証(4)(銃器隠蔽携帯) ¥800
偽造許可証(4)(サイバーウェア) ¥800
AK-97 ¥950
ショックパッド ¥50
ガスベント・システム(3) ¥600
スマートガンシステム(外部) ¥200
予備クリップ×2 ¥10
通常弾×80 ¥160
イングラム・スマートガンX ¥800
予備クリップ×5 ¥10
通常弾×160 ¥320
ステアーTMP ¥350
スマートガンシステム(内部) ¥700
予備クリップ×5 ¥10
通常弾×150 ¥300
アーマージャケット ¥1000
絶縁(6) ¥1500
耐火(6) ¥1500
レンラク・センセイ ¥1000
シムモジュール ¥100
トロード ¥70
サブボーカルマイク ¥50
残高370
★成長指針
>>エッジ成長
>>戦闘技能の成長・新規取得
>>格闘技取得
>>社交技能の成長・新規取得
>>サイバーウェア更新・増設