だけど、私たちは目の前で誰かが危機的状況に陥っていると
咄嗟に体が動いてしまうものである。
「この階層には他のに比べてウジ虫がかなりいるね。」
道を先へ進み、私たちは大部屋へとたどり着く。
そこでロージャが足元で蠢く蛆虫を見て引いた顔つきで後ろへと引き下がる。
<いっそ虫の方がマシだよ。前の階層に居た幻想体とかもう二度と見たくない。>
「同感ですね。」
ロージャの発言に対し、ダンテが先ほど戦った『終末カレンダー』を上げて二度と会いたくないと愚痴を零す。
それには私も同感だ。
一歩間違えれば全滅しかねないような力を持った幻想体だったから、どれだけ緊張したか...
ダンテも同じような気持ちなんだろう。
「ぷっ...それグレッグが聞いたら喜びそう。そうでしょ。アブラ虫くん?」
そんな私たちの言葉を聞いたロージャがグレゴールをからかうように語る。
しかし当のグレゴールはこちらの話など聞いていないようで、
警戒を露わにした顔つきで周囲を見渡していた。
「...みんな、さっきから何か聞こえないか?」
「音ならずっと聞こえてたじゃないですか。ロージャさん、この状況でもお腹が空くんですか?」
「そ、そういうのは聞かなかったふりをしてあげるもんだよ~、ねっ?」
グレゴールが周囲の異変について語り出すと、イシュメールがそれはロージャの腹の虫だというような返しをする。
ロージャもイシュメールの言葉に気恥ずかしそうな声で語り掛ける。
「いや、それじゃなくて...まるで...。」
二人の会話を流し聴きしながらグレゴールはフラフラとした足取りで歩み出す。
向かう先には一つの扉があった。
グレゴールはその扉の下までたどり着くと、扉をこじ開けてしまう。
「待って、そこは幻想体隔離室...!」
グレゴールの向かう先に気が付いたユーリが急いで止めに向かうもすでに遅く、
開かれた扉の向こうからあふれんばかりの黄金の光が放たれていた。
グレゴールはまるで光に引き寄せられる虫のようにその輝きを眺めている。
「まるで...あのときみたいに...。」
<グレゴ...!>
そんなグレゴールの様子に異変を感じたダンテが急いでグレゴールを呼び止めようとする。
その時、まるで停電でも起きたかのように私たちの視界は暗闇に包まれる。
その暗闇でしばらくの静寂が過ぎた後、少しずつ音が聞こえてくる。
囚人のものではない人の声、それも多くの...悲鳴と歓声が混ざり合った声。
それらと同時に砲撃音も聞こえ始める。
金属がぶつかり合う音、何かを...いや、人を貫く音。
煙と血の匂いが鼻を突き、視界がだんだんとはっきりし始める。
開けた視界の先にあったのは...
「私たち...タイムトラベルでもしたんですかね?」
置かれた状況に混乱しながらも、その有りえざる光景から、
私たちが立っている現場について考えが及んだのだろうイシュメールがそう呟く。
「見れば分かるだろう?ここは...。戦争の...真っ只中。」
ウーティス、嘗て戦場に立った一人の軍人だった囚人が口を紡ぐ。
ここが戦場であると。
「...こ、これは...夢?悪夢?ど、どうしてまた...。」
「だからなんで戦争の真っ只中にいるんだよ!罠にでもはめられたんじゃねぇか?」
状況を呑み込んだグレゴールが狼狽えた様な声を漏らす。
その横で苛立ちを露わにしたヒースクリフが叫ぶ。
「いいえ。正しい方向へ進めたようですね。」
ヒースクリフの発言を否定しながら沈黙していたファウストが口を開く。
「遠くない場所に私たちの探していた技術の精髄があります。」
「黄金の枝ですか?」
ファウストが私たちが探し求めるモノは近くにあるという。
私たちの目的物...黄金の枝があると。
「はい、皆さんここがいつなのかは分かりますか?」
「目さえあるなら一目で分かるだろう。」
<えっと、その...分かんない。>
ファウストの問いかけにこの場所を知るウーティスは愚問だというように返すが、
都市の記憶を失っているダンテはその言葉に賛同できず、思わず分からないと声に漏らす。
「管理人様には分からずとも当然です。管理人様には目がございませんから。」
そんなウーティスは自らの失言を挽回するべく、ダンテに目が無いから仕方ないなんて言い訳をする。
絶対そういう事じゃないだろ。
「それって言い訳になるんですか...。」
イシュメールの言葉に慌てたウーティスはその様子を隠すように一度咳払いし、
目を細めて戦場を眺める。
「所属を誇示するかのような色とりどりのダサい旗がはためいてるのを見るに...。」
「煙戦争が勃発してから少なくとも70日後...でございます、管理人様。」
状況証拠から時期を把握したウーティスがここが煙戦争の真っ只中であることを伝える。
その時、ヒースクリフの服を誰かが後ろから切羽詰まったように引っ張った。
「気でも狂った?早く避難して!あの爆弾に曝されると急激に老化が進むんだって!」
「隣の守衛所の職員達は今戦争どころじゃなくて、杖無しじゃ歩けすらしないんだよ!」
「一体こいつは自分を何様だと思って知ったかを...。」
「あっ!グレゴール課長、お疲れ様です!」
唐突に語り掛け、避難を促してきた男にヒースクリフは苛立ちながら男を睨みつける。
その時、ちょうど隣にいたグレゴールに気付いたようで男は咄嗟に敬礼をする。
「...お前は。」
「私のことはご存じないでしょうね。生体管理チーム、トーマです!」
「先発隊列にいらっしゃると思ったんですが、後方にいるとは思いませんでした。」
男の顔を見たグレゴールが一瞬言葉を詰まれ知ると、男はすぐさま自ら名乗りを上げる。
「合流するべきなら私がお手伝いしましょうか?私は脚特化型ですからジャンプには自信が...。」
そう言ってトーマは自らの脚を自慢げに見せつける。
「うぇ、聞いてるだけで気持ち悪い。」
その様子にロージャが軽くえずくような動作をした後トーマから視線を外す。
その様子を見たトーマが訝し気な表情を見せる。
「あなた、さっき何と...。」
「と、トーマ!代理、いや...社員か?」
「はい!二等社員です!」
ロージャの失言を取り繕うべくグレゴールがトーマへと語りかける。
「こ、こっちのはまだ施術されたばかりだから...精神錯乱の副作用がまだ解決してないんだ。俺の方でよく言い聞かせとくよ。」
「そうなんですね...いくら何でも戦争の準備もできていない職員を。」
「ごめん、ごめんな。俺の方で急いで連れてく用事があって...。」
そう言ってごまかしたグレゴールはその後トーマの元から離れてファウストの元へと向かっていく。
私はその様子を眺めながら最後の時が着実に近づいていることに身を強張らせる。
「もう少しか...」
「アイリス~、なにがもう少しなの?」
「あ、えっと...」
思わず漏れ出した声にいつの間にか近くに来ていたアヤが反応する。
それに思わず動揺するも、彼女にはすでに話してしまっていたことなので、そのまま答えることにした。
「少し前にあなた達のどちらかが死ぬことになると言いましたよね?」
「あ~、言ってたね。」
「それがもう少しってことです。」
この先待ち受ける最後の幻想体、それによって起きる最初の悲劇、
それがもうすぐそこまで来ている。
そのことについてをアヤに簡単に伝える。
「それって絶対にそうなるの~?」
「...さぁ、確信はありません。でも、変えられる可能性はあると思います。」
「...」
「どっちが死ぬかを変えられるぐらいの可能性なら」
私がアヤの死をホプキンスの死に変えてしまったように...。
私がそんなことを考えながらファウストの話を聞くグレゴールを見つめていた時、
アヤが静かに私を見つめていたことに私は気が付かなかった。
その時、視界がゆらぐような感覚が私たちを襲う。
遠くでファウストが何かを言っているようだけど、良く聞こえない。
代わりにグレゴールの声が聞こえてくる、何かをつぶやく様な声が。
しばらくして視界が開けると、旧G社の兵士たちが私たちに襲い掛かって来た。
ダンテが急いで指揮をはじめ、私たちは襲い掛かってくる兵士を倒すべく動き出した。
―――
戦闘が終わり周囲を見渡すと、私たちは先ほどと同じ戦場に立ち尽くしていた。
しかし、変わったこともあった。
再び、ヒースクリフの襟が引かれる
振り返ればそこにはトーマがいた、初めて見た時とは変わって体の多くが虫のように変化して。
会話の内容も初めは変化なかった。
「でも心配するな、グレゴールさんがいらっしゃるから!」
「私たちとは違って副作用も少なく、おまけに再生もするじゃないですか?」
「誰よりも卓越した実力を持つヘルマン理事さんが直接手塩に掛けた方だし。」
トーマがグレゴールを称える、グレゴールはその様子に少し狼狽えた様子を見せ始める。
「そんな方が後発部隊にいらっしゃっちゃ駄目じゃないですか。私が乗せて差し上げましょう!」
「な、なに?近寄らないで!」
トーマの体がカチカチッと音を立て始めると、背中から4組の翅が生える。
その光景にロージャが思わず拒絶を示す。
「どうして逃げるのですか?G社の旗を持ち、前に出て戦わないと!」
ロージャの反応にトーマは詰め寄るように問いかける。
それの光景にグレゴールは苦々しい表情を浮かべながら口を開く。
「俺は...一度も望んだことはなかった...改造も、戦争も...。」
「前に出て...前...前...。」
グレゴールが静かに言葉を紡ぐも、トーマは依然として前にと語り続ける。
その最中、彼の体から何かを裂く様な音が聞こえると同時に口元から鋭い鎌のようなものが飛び出し、額からは長い触覚が生えだす。
このままここに居れば彼らと戦うことになるだろう。
そのことに嫌気がさした様子のロージャとそれを戒めるウーティスの横で
ダンテが逃げた方が良いんじゃないかというも、ファウストが許されないと否定する。
ユーリとグレゴールが語り合う。契約に、施術について
本人の同意の下行われた業務/施術は無く、ただあるのは契約。
それによってもたらされた半ば強制的な同意
「恐怖に直面すべき...」
その光景を眺めていた私はユーリの言葉を反芻していた。
今は無きロボトミーコーポレーションが掲げていた理念。
この理念は素晴らしいものだと思うけど、それを確実に実行できるかと言われたらNoだろう。
恐怖、私に襲い掛かる脅威や状況から目を逸らさずに向き合えなんて、私には無理だ。
ある日突然、都市に転生を果たし、この地獄のような世界で生きることを強いられた私が、
ここに比べれば穏やかで安全な世界でさえまともに生きられなかった私が...
やり遂げられるわけがない。
今だってホプキンスの死に、これから起こるだろうユーリの死を受け入れ切れてさえいないというのに。
私の考えもまとまり切らないうちに再び兵士たちとの戦闘が繰り広げられ始めた。
―――
戦闘が終わり、戦場を少し進んでいた時。
ユーリの懐からガスマスクが落ちる。
「あっ...」
それに気が付いたユーリが慌てて拾いに来るところでユーリの後ろから着いてきていた私がガスマスクを拾い上げる。
「ありがとうございます、アイリスさん。」
「別にいいですよ。」
ガスマスクを手渡し、私は前に進み始める。
「でも、もうガスマスク何て必要ないから無くしてもよかったじゃないですか、何で拾いに行こうとしたんですか?」
「それは...これはホプキンスさんの遺品になりますから...。」
「...。」
その言葉を聞いた私は思わず言葉に詰まってしまった。
目を逸らしていた自分の愚行が再び突きつけられたかのような気分になって、
どうしたらいいかわからなくなってしまう。
そんな時ふと気が付いた。私が介入したせいなのか、
本来語り掛けてきていたイシュメールやロージャがユーリに話しかけに来ていないことに。
「ユーリさんはここを出たらどうしたいですか?」
「出たら...ですか?」
仕方ないのでせめてロージャが介入してくることを願って私の方から今後について語り出し始める。
「何でもいいんですよ、些細なことでもいいので...何もないですか?」
「そうですね...」
「アイリスにユーリ~何を話してるの?ガスマスク何か手に持っちゃって、息苦しかったりでもした?」
その時運よくロージャが会話に入り込んでくる。
大方現状の雰囲気に耐えかねて会話をしている私たちに混ざりに来たといったところだろう。
「外に出たら何かしたいことはないかって聞いてたんです。」
「あぁ~そうだったの、そうねぇ私はまずこんな気色悪いところからすぐに離れておいしいものをいっぱい食べようと思うの。」
「そ、そうですか。」
聞いてもいないのにロージャはやりたいことを語り出す。
「それじゃ、それじゃ、アイリスは何かあるの?」
「私は...暖かいベットでぐっすり眠りたいですね。」
「アイリスってば、そんなに疲れちゃったの?」
「えぇ、だいぶ疲れてます。」
自分の答えを言った後ロージャは私に質問を投げかけてきたので私は、
戻ったら眠りたいと答える。
ロージャはその答えに少し不満といった様子を見せるも、すぐに立ち直り
続いてユーリに対しても同様に質問する。
「じゃあ、ユーリはどう?」
「わ、私は...」
「もしあれならユーリもリンバスカンパニーの囚人になるってのはどう?」
「一応彼女契約社員ですよ、引き抜くのってどうですかね?」
「アイリスってば~分かってないね、ユーリみたいなピンク髪なんてマスコットにピッタリじゃない?」
「わ、私がマスコットですか?...ふふっ」
ロージャの引き抜きに対してツッコミを入れれば、彼女はユーリがマスコットにピッタリなんて言い出す。
ユーリはその言葉に一瞬驚きを見せるも、少し笑みを浮かべる。
「アイリス。」
「ファウスト...言わなくても、分かってるよ。」
「...。」
その時私の下にファウストが歩み寄ってくる。
彼女の言いたいことは分かってる。
彼女が囚人に成ることはない。
けど...
「ファウスト。」
「何でしょう。」
「囚人に成ることはできないとしても、リンバスカンパニーに入社するなんてことはできる?」
「...少なくとも可能性は無くはないでしょう。」
その答えを聞いた後、私は少し俯いて考え込む。
もし仮にユーリが生き残ったとして、彼女がその後生きていける場所を用意できるとしたら。
そうしたら少しは...
しばらくして思考を現実へと引き戻した私は自身に不快感を感じていた。
彼女の生きて行ける道を用意することで私は私の安息を得ようとしていた。
ユーリの為じゃなく自分のため。
そんな自分に嫌気がした。
―――
再び視界が揺らぐと戦場の見覚えのある場所に私たちは立っていた。
これまでに2度、トーマから語り掛けられたあの場所。
囚人たちは今回も切羽詰まった様子でトーマが語り掛けてくるのだろうと思っていた。
しかし、そうはならなかった。
立ち尽くしていたトーマが上を指さしながら押しつぶされて爆散した。
空からは巨大な手が戦場を叩き潰していた。
まるで地に群がる虫の群れを潰すように。
その様子を見て私たちはいっせいに走り出す。
「これじゃ皆ぺっちゃんこになっちまうよ!何かないか?賢いあねさん?」
「...聞いてます。心象の中は変数がとても多様過ぎて迂闊に決定することは難しいので...。」
走る最中ヒースクリフがファウストへ対策を尋ねるも、ファウストでさえこの状況を打破する方法は未だ定まっていないようだった。
「何を悩むことがあろうか!真の英雄はいかなる苦難にも屈服しないのだ!」
「うっ...私、まっ平になった死体を運ぶつもりはないんだけど。」
「あ!ごめん、ダンテ~。あなたに言ったわけじゃないからね!」
ファウストの様子を見かねたドンキホーテが槍を掲げて果敢に挑まんという姿勢を見せるも
その様子に対してロージャが皮肉を言う。
最後に付け加えられた一言にダンテが一瞬ロージャの方を向いて
何か言おうとしていたみたいだけど...走ることに専念することにしたらしい。
そうしてしばらく走り続けていたが、一向に攻撃は止まらず、私たちは徐々に疲れ始めていた。
「まだ考え中でいらっしゃるのか?あ”ぁん!?知らないものはないっつってたろ!」
「当面の解決策をお聞きになったのなら、はい。まだ得られていません。」
いよいよ我慢の限界に達したヒースクリフがファウストへ怒鳴り声を上げる。
それに対してファウストは淡白に解決策はないと答える。
その後付け加えて黄金の枝も近くに無いという説明も加え、そのことにダンテが反応を示したり、
ヒースクリフが怒りを露わにするなどしていた。
その時突然グレゴールが足を止める。
「...グレゴールさん?」
「なんだよ?なんで急に止まんだよ?」
その様子に疲れた様子のユーリとヒースクリフが声をかける。
グレゴールは乱れた息を整えて語り出す。
「...分かった気がする。ここが俺の世界なら...。」
再び息を整えて、空を見上げながら言葉を紡ぐ。
「俺たちはあの手を避けちゃ駄目だ。」
「...ついにおつむがイったのか?」
その言葉を聞いたヒースクリフが青筋を立てて今にも殴りかかりそうな姿勢を取り始めたところでファウストが介入する。
「グレゴール、確かなんですか?」
「今まで何一つ俺の意思で生きたことはなかった。」
「ここも、抵抗自体が無意味な空間なんだろうよ。」
「それなら...抵抗を止めるのが答えかもしれない。」
その言葉に囚人たちは一瞬正気を疑うような様子を見せたけど、
他に方法もない上に、走り続けたことによる疲労で諦念を抱き始めていた。
そうして皆で立ち尽くし、手が私たちの下に降りかかるのを待った。
上から落ちてきた手は私たちを押しつぶすことはなく掴みかかって来た。
その後視界は暗闇に包まれ、宙に浮いているような浮遊感が私たちを襲った。
視界が開け始めた時、浮遊感に目を回した囚人たちが地に倒れ伏す中、ダンテとファウストだけがしっかりと地面に立っていた。
先ほどまでの風景から戻り、旧L社の支部に戻ってきていた。
そんな風景の中で、ひとつだけ異質なものが煌々と光り輝いていた。
金色に輝く林檎の形をした幻想体がそこに立ちはだかっていた。
ついに終わりの時が来た。
―――
人格を装着した私とファウスト、イシュメールにウーティスとグレゴールが戦闘に出る。
黄金の林檎が蔓で出来た腕を振い、さらにその体で押しつぶそうとしてくる。
私は振るわれた腕を銃身で受け止め、力いっぱい弾き上げる。
林檎を正面から受け止めていたグレゴールも同様にその体を思いっきり押し上げ、林檎は大きくよろめき出す。
これまで戦ってきた幻想体に比べればこの幻想体はあまりにも弱い。
攻撃を無力化した私たちの攻撃を受けた林檎は次第に亀裂が走り、やがて鎮まる。
<黄金の枝が、本当にあの中にあるのかな?>
そんなダンテの呟きが聞こえてくると同時にユーリが走り出す。
「私が行って確認してみます!」
「あ、待ってよユーリ~!」
その様子にアヤも後から続いてきた。
大丈夫幻想体の近くには私だっている。
だから間に合うはず。
<グレゴール、お願い。>
ダンテの指示に従ってグレゴールがユーリとアヤに続いて林檎の近くまで歩み寄る。
亀裂の中に見える黄金の輝きにユーリが手を伸ばし始めた...その時。
果実の亀裂が大きく裂け、中から腐り果てた果肉がユーリの元目掛けて飛び出す。
急なことに咄嗟に反応ができず、私が走り出すころにはユーリの姿は私の方からは見えなくなっていた。
そして叫び声が聞こえてきた。
「あ...アヤさんッ!!」
それはユーリの悲痛な叫び声だった。
▲▲▲
薄々こんなことになるんじゃないかって予感してたんだ、
あの時、アイリスが私たちのどっちかが死ぬって話をした時から。
アイリスは気付いてなかったみたいだけど、
その話をするとき視線はユーリの方に向いてたから、死ぬのはユーリなんだろうなってことも分かってたし。
問題はいつ来るのかってことだけだったけど、アイリスってばすっごくわかりやすくってさ。
黄金の林檎に向かってユーリが駆け出した時のアイリスの顔ったらすっごく怖い顔をしてるから、ユーリはここで死ぬんだってわかった。
だからユーリに着いて行った、いつでも助けられるように。
でもユーリを襲ったそれは思っていたよりも素早くて、咄嗟にユーリを突き飛ばしたんだ。
付き添いで来ていた虫の腕の...グレゴールさんだったかな?は驚いた顔をしてたし、ユーリなんかは今にも泣きだしそうな顔して私を見てた。
ユーリってば~、そんな顔しないでよ...
私でもこんな行動するなんて思ってなかったんだからさ~
だからしょうがないんだよ、今まで運が良かったんだから
そうでしょ?アイリス。
最後に、お礼言っとけばよかったかな、ありがとうって。
一緒に着いて行った元軍人が咄嗟に逃げるぐらいしかできないのに、バス組で一番弱い自分が間に合うわけがないという事に考えが至っていないアイリス氏。
その結果まさか自分のエゴで助けたアヤが身代わりになるなんて...
心の奥底では何かを成し遂げたいという願いを抱いているアイリス氏にとって自分の成し遂げた結果が自分の手の届かないところで消えていく様なんて大きな心の傷になるでしょうね。
話しておきますと、実はアヤを女王時点で生かすと決めた時から偽林檎で身代わりにしようとは思っていたんですよね。
その方がユーリにも、アイリスにも大きな傷を残せるじゃないですか?
あと少し話は変わるんですが
以前アイリスのロボトミー人格は罰鳥かなと言ったんですけど、幻想体情報など見返した結果マッチガールの方がらしくないか?と思い始めてきました。
最後の希望であるマッチの火に縋って、幸福に過ごす人々に羨望と憎しみを抱いている。
自分に残された唯一の希望を抱いて、自身の置かれている状況、境遇を受け入れられずにいる。
結構似た者同士だと思うんですよね。
第1期アイリス恒常人格(投票数が多いものから順次登場させる予定)
-
ツヴァイ協会
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シ協会
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センク協会
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リウ協会
-
セブン協会
-
剣契殺手
-
黒雲会若衆
-
W社整理要員
-
R社第4群