あ...思っていたよりうまく行きましたね。まぁ偶然でしょうけど
「ちょっと待ってください。」
自己紹介から数十分が過ぎ、森をうろつくゴロツキと戦いながら次なる目的地に向かって緩やかに進んでいた時。
夕焼け色の髪を揺らしながら、イシュメールが現状に待ったをかけた。
「何ですか?」
「私は停滞せずに進むことができると言われてここに合流したんです。」
「でも今は...ネズミどもでもあるまいし、ずっと意味のない暴力ばっかり。」
イシュメールが不満たっぷりといった表情でファウストに対し迫る
「意味が無いわけではないぞ!奴らは我らを攻撃する悪ではないか!」
一際明るい黄色髪を振り乱し、ドンキホーテが勢いよく立ち上がる。
その瞳に宿る純粋すぎる正義感は、今のピリついた空気などお構いなしに、勇ましい反論を投げかけた。
「うるさいです、ちょっと静かにしてください」
しかしその反論はかえってイシュメールを怒らせるだけだった。
「...とにかく、こんな雇われ暴力団まがいの行動しか命令しないのなら、他の仕事をすることも考えてみます。」
イシュメールはやってられないといった仕草でこの場を後にしようとし始める。
「入社契約書をきちんとお読みになりましたか?」
「...退社は認められません。」
「...契約しながら話したことが嘘だとしても、その契約に効力があるとでも思ってるんですか?」
「もちろん効力はありますよ。」
「そもそも嘘はないからです。」
それに対してファウストは淡々と事実を伝えていく。
「...はい?」
「まさか私がメフィストフェレスを、ただの運送用バスとして作ったとでも思われましたか?」
ファウストがそう告げると同時にバスの中に重低音が響く。
「メフィはいつもおなかすいてる。だからなくの。」
<バスがおなか空いてるって?>
メフィストフェレスから鳴る音を聞いたカロンの言葉にダンテが素朴な疑問を投げかける。
「エンジンが燃料を『摂取』するときに発生する副産物...。」
「皆さんはそれを通じて強くなることができます。」
ファウストが自らの発明とそれによって得られる恩恵についてを語り始める。
「イサンさんはよくご存じでしょうね。鏡の中から全ての可能性を引き出すのであれば。」
「成長もまた制約はなし。」
「鏡の中の私は私なるか、あらぬ余所人か。」
付随してその恩恵について知る人物。イサンの名前をあげる。
「アイリスも引き出される可能性について、専門的ではないでしょうが明確な知識を有していることをファウストは知っています。」
「.....ん?」
暗い森のチュートリアルの光景が過ぎるのを席について静かに眺めていた私は
突如として投げつけられたパスに思わず動揺してしまう。
確かに知ってるけど.....、なんで私に振ったの?
<可能性...?何を引き出すというんだ?>
「仔細について知りたいようでしたら、アイリスに尋ねてみるといいでしょう。」
「いや、そんなこと言われても...」
そんなうまく説明できるわけないだろう、なんて言えるわけもないので曖昧な否定だけしておく。
「それに、どうせこの後実際に抽出するんだから、その方が早いでしょう?」
私は最後にそれだけ伝えて再び目を伏せる。
「そうですね。ではダンテさん、私についてきてください。」
<あ、うん。>
その会話を後にファウストとダンテがバスの奥へと向かっていく。
「アイリス嬢。そなたは鏡についていか程の知識があるや?」
沈潜していた私の意識は突如として語りかけてきた、独特な口調によって浮上する。
見上げればイサンが私を見つめていた。
「それほど詳しいわけじゃないけど。」
「時間や立場に関係なく『こうだったらいい』が写し出されている物ってのは分かってるよ。」
「...それを知りて何も思わざるや?」
イサンは私にそう尋ねる。
イサンは私に何を求めているのだろう?
彼の求める答えを推し測ることはできないけど、私の考えについて答えておくことにした。
「何も思わないなんてことは無いよ。ただ...『私は私』だから、関係ないでしょ?」
私がそう告げると、イサンは瞬きを一度し、その底の見えない瞳で私をじっと見つめた。
「……関わらぬ、か。それもまた『
彼は小さく、羽が落ちるような声でそう零した。
●●●
ファウストから簡単な説明を受けつつ、私は抽出器まで案内させられ
そこで【南部シ協会5課】という所属?のイシュメールの人格を抽出した。
抽出を終えた私は座席の下まで戻り、そこで促されるまま先ほど手に入れた人格牌を端末にセットして使ってみた。
するとイシュメールの姿が一瞬で変化し、先ほど鏡越しに見た姿へと変貌した。
その後すぐに人格牌を端末から外し、イシュメールは元の姿に戻る。
「なるほど...こういう意味だったんですね。」
「そう焦る必要はありません、イシュメール。バスが進めば自然と...。」
「自然とチンピラみたいなことより、重要なことを任されるようになるだろう。」
事情を把握したイシュメールに対してファウストとヴェルギリウスが語り掛ける。
このバスが進むことでこれから先重要なことをしなくちゃいけないらしいけど、
一体何をすることになるんだろうか?
「目標に到達することが心を掻き立てているだろうけど...我慢しろ。」
ヴェルギリウスの言葉に対して何かしら不服なことがあったのか、イシュメールは舌打ちを返す。
「鏡の世界に居る私たちの全ての可能性のうち一つを引っ張り出すので、記憶が少し上書きされているはずです。」
「直に慣れるでしょう。」
人格を被ると記憶が上書きされるって...大丈夫なんだろうか?
「なにそれ...それちょっと危なくない?」
まるで私の意思を代弁するかのようにロージャが会話に割って入った。
「いつか私が私じゃなくなるんじゃないの?ははっ。」
その様子をヴェルギリウスがただ眺めていた。
「皆さんはテセウスの船ではありません。」
「人格と記憶を借りてはいますが、主導権を失うように設計されてはいません。」
ロージャの疑問に対してファウストが答える。
それに続くようにイサンも口を開く
「鏡に映りし私はまたく違えやもしれぬが、鏡の外へ出づらば鏡の中の形もまた失われん」
...つまりなんて言いたいんだろう?
「鏡に映る自分は違う自分だけど、私たちが鏡を見ることをやめたら映っていた自分も消える。そんなことを言ってるんだと思いますよ。」
「うむ、確かならん」
アイリスがイサンの少し難解な口調を分かりやすく説明し、それに対してイサンが肯定の意を返す。
「...私たちがどのように成長するかはダンテさん次第です。」
「鏡の世界の多様な可能性を、最も効果的なタイミングで上書きする仕事をなさるでしょうから」
彼らの成長は私次第か...。
さっき実際に試したように、今後抽出されるだろう人格を状況に合わせて使い分けなきゃいけないのだろう。
「メタモルフォーシスのことを言っているのか?」
「はい。一種の脱胎であり、変身ともいえるでしょう。」
それを私がうまく使いこなしていけば彼らはそれに合わせて強くなるし、できなければ彼らを無為に死なせてしまうだけ。
「あら、そんな難しい単語はどこで習ったの?」
「拾い聞きした。いろんな人に沢山会う仕事をしてたから。」
「変身かぁ...。」
管理人として彼らに対して一体何をすればいいのか全てが不鮮明だけど、ひとまずは人格を適宜使いこなしていけるよう頑張っていくことにしよう。
「お喋りは終わったか?」
囚人たちの会話にひとまず区切りがつき、私の思考もまとまったタイミングでヴェルギリウスの声がかかる。
「一旦突破して道を開くか。どうせうんざりするほどくっ付いているだろうし、話せなかったことはまた後にしろ」
ヴェルギリウスがそれだけ伝えるとバスの外に目を向ける。
そこには先ほどまでと同じようにゴロツキたちがバスを囲うように集まって来ていた。
私は先ほど手に入れた人格牌を端末にはめ込み、イシュメールのほかに数名囚人を連れ出した。
―――
森を抜けるまでの間、幾度かの戦闘はあったけど...
そのどれもに私は参加しなかったし、イサンとの会話もあれ以降起きていないので
私は椅子に深くもたれ掛かり眠りについていた。
その眠りもバスに大きな揺れが起きたことによって覚めてしまったけど...
その時偶然ダンテとグレゴールが会話をしているのが聞こえた。
「もう一度言うけど、俺の名前はグレゴールだ。」
「あんたが時計ヅラじゃなくて、ダンテって呼べって言ったみたいに。」
会話の内容からして、ダンテが虫の旦那と呼び掛けた件だろう。
まぁこればっかりはダンテが悪いから何も言ってあげられることは無いだろうな。
その諭した本人も別の人に同じことを諭され、一本取られるわけだけど...。
そんなことを思い出しながらもう一度眠りにでもつこうかと思ったその時、
横で耳を劈く甲高い声が高らかに響く
「よんくぅううぅ!?いま4区と言ったか!?」
「そこは黄緑の乙女の出身地として有名だ!英雄の足取りはその時から始まったともいえよう。まさに...」
「うるさ...」
あんまりにもうるさいので思わず声が漏れてしまった。
「さっきからゴチャゴチャうっせぇな.....。」
「口閉じて静かにいけねぇのか?」
あまりの煩さにヒースクリフが不機嫌そうな顔つきでドンキホーテを責める。
「私は先ほどまで口をぴっちりと閉じていたぞ!」
「口答えすんなよ!」
「...あのですね、自分が一番うるさいってこと分かってますか?」
ドンキホーテはヒースクリフの問答に反論するが、そんなこと聞いてないとでもいうかのように理不尽な返しをされる。
そこにイシュメールが加わり、お前がうるさくしてるぞって言いだし始める。
この頃はこんな感じでバスはギスギスした雰囲気に包まれてたなと、
寝起きでしょぼしょぼな目でそのやり取りを見つめる。
「...生き返るからって痛くないわけじゃねぇんだ。その口、少しでも動かしてみろよ。」
「正しいことを言ったのに戻ってくるのが暴力だなんて、お里が知れますね。」
「...はっ」
<みなさん、あまり興奮しすぎると...。>
ダンテが精一杯の説得で二人を止めようとするもうまく行かず
イシュメールのまるで挑発するかのような口調にいよいよ堪忍袋の緒が切れたヒースクリフが手に持ったバットでドタマをカチ割ろうとした、その時。
「く・ヘ・し・ぶ」
いつから立ち上がっていたのか
良秀がその巧みな技術を用いて鞘のままヒースクリフとイシュメール、両名の首を一刀する。
その光景を見て私はぼそりと呟いた。
「まぁ遅かれ早かれそうしなきゃ静かにはならなくなっていたでしょうね。」
「...ほう」
良秀は言葉が通じたことに感心したのか短い言葉を呟く。
まぁ通じたというより知ってたの方が近いけど。
その後、あまり気が乗らないけど、私は素早く立ち上がり良秀の後頭部付近に盾を挟み込む。
「むぅ...。なぜ止めるのであろうか?」
挟み込んだ盾で迫るランスを何とか受け止め、これ以上死人が出ることを防いでおく。
特に必要のない死だし、多少は囚人とも交友が持てた方が良いだろうからって理由だけど。
「なぜって、必要な暴力だったからかな?」
「そのようなことは無いであろう!」
「じゃああのまま彼が暴れ出してもよかった?」
ドンキホーテの否定に対して私は本当にそれでいいのかとさらに問い詰める。
「彼女と彼の会話が続けばきっと二人で殺し合いをしてただろうね、そして彼女はそれを未然に止めた。」
「まぁ二人共を殺す必要は無かったかもしれないけど、それによってバスの安全は守られた。これが『正義』じゃなかったら何をするのが正しかったの?」
「う、う~む....」
ドンキホーテは言うに詰まってしまったのか、少し難しそうな顔をする。
「ぶ・すな奴と思ってたが、せ・やな奴だったか」
「...第一印象酷くないですか?」
無愛想ですかした奴って酷い言い草じゃないか?
それから私は世話焼きなんかじゃない....し?
あれ?なんか分かる....?
「ちょっとでも余所見をすれば事故ばかりだな。」
それなりに事態が収まったことを確認したヴェルギリウスが呟く。
「だが...、あまり大事にならなかったのは良い事だ。」
「それはともかくお前ら五人。今月のバス掃除当番だ」
ヴェルギリウスはそこまで事態が大きくならなかったことを素直に良いと言ってくれたが、
何故か私も含めて掃除当番に指名されてしまった。
「私も含まれるんですね?」
「何れはお前の番が回ってくる、それが今になっただけだ」
.....それならまぁ、仕方ないか。
私は何故と詰め寄るドンキホーテと不機嫌そうな顔色を浮かべた良秀。
地面に横たわるイシュメールとヒースクリフの死体とそれを静かに見つめるダンテを横目に掃除用具を取りにバスの後方へと歩いて行った。
囚人たちの独特な言い回しを考えるのって大変ですよね。
自分から接点を多めにしておいてあれですけど良秀やイサン、ドンキホーテと上手くやっていけるか不安です。
あ、あと良秀語がなんとなくわかるってことにしたのは私が良秀が好きだからです。
次回からはいよいよ1章が本格的に進んでいき、その最中でアイリスの戦闘を挟んでいきたいと思っています。
上手く描写できっかな?
とりあえずそこではアイリスの罪悪感情とか、攻撃、守備のタイプとかも書いて行くつもりです。
E.G.Oは...現段階ですでにどんな感じかは出来てるんですけど使うかどうかは未定です。
E.G.Oまで使う前提で行くなら必要資源的に戦闘メンバーは多分ドンキ、良秀、ファウストあたりと一緒になるかも?
第1期アイリス恒常人格(投票数が多いものから順次登場させる予定)
-
ツヴァイ協会
-
シ協会
-
センク協会
-
リウ協会
-
セブン協会
-
剣契殺手
-
黒雲会若衆
-
W社整理要員
-
R社第4群