苦痛を愛せない者の巡礼   作:プロムン大好きカリジャナリ

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見て見ぬふりをしてきました。現実に正しく向き合うことが恐ろしくなったから。
一度目の死を経て、変転したこの人生は抜け出せない底なしの沼のようで、
抜け出すために掴み取れる命綱はいくらでもあったのに、どれを手に取ればいいか分からなくて
どこに繋がっているのか分からない。その恐怖から、どれも手に取ることができなかったんです。
この都市で生きていくだけなら無数の可能性があったのに、私はそのどれもを拒み続けた。
一度根を張った場所から動くこともできなかった。
そのままでは腐り、枯れ果てるだけとわかっていても.....。

これからの旅は、そんな生活よりも気が楽です。
この先に何が起きるのかがあらかじめ分かっているから。
だけど、それ故にこれから死んでいく人とどう接したらいいか分からないです。
多分悲しいと思ってはいます。でもそれ以上にその通りであってくれと願うんです。
そして、そんな自分が酷く気持ち悪いと感じてしまうんです。


1章 帰属せざるを得ない
受け止めきれない


●●●

 

「対象の体勢が崩れました。今が好機です。」

「ふ、はっ...美しくはないな。」

「行くぞ、ロシナンテ!出陣である!!」

「はぁ!...ふぅ...」

 

4人の囚人が私の指示に沿って相対するゴロツキたちを制圧していく。

ファウストの切り払いによってよろめいたゴロツキを良秀は大刀を2度大きく薙ぎ、切り伏せる。

ドンキホーテは指示をするや否や突撃していき、その大きなランスを突き刺していく。

アイリスは武器をぎこちなく弾きながら接近し、必死に振り抜いた盾で思いっきり相手の顔面を殴打している。

他3人はそれなりに慣れた手つきで戦いを進めていくが、アイリスはそうでもないらしく、

一撃ごとに肩を上下させ、激しく息を切らしているようだ。

 

<アイリス。君は他の人たちと違って、こういうのあまり慣れてないの?>

「え?まぁ、そうですね。」

 

戦いが終わった後、少し気になったので直接尋ねるとあっさりと答えてくれた。

 

<じゃあ、何でバスに乗ってるんだ?えっと...シンクレアといい、君といいその...>

「何でって、そう命令されましたし。」

 

私が聞きたいことをうまく言葉にできずに詰まらせていると、

アイリスはあっさりと理由を話してくれた。

けど、

 

<命令って...来たくて来たわけじゃないってこと?>

「はい、大体そんな感じですね。」

<それいいの?>

 

その肯定に思わず驚嘆の声が出てしまう。

 

「いいかどうかなんて知りません。ただ...」

 

彼女は一瞬俯いた後、顔をあげて私を見つめる。

 

「ここよりいいと思えるところなんてなかったので」

 

私を見つめるその顔には、諦めのような、何かを悲観するような表情を浮かべていた。

 

「話はそれだけですか?」

<あっ、うん。>

「それじゃあ、失礼しますね。」

 

彼女がバスへと戻っていく背を追うように、私もバスへと戻る。

その時見つめた彼女の背中は...とても小さく見えた。

 

―――

 

あの後掃除用具を持って戻ってきたら燃料が尽きたと言われ

掃除を始める暇もなく私はバスを下車させられていた。

 

「せっかくとって来たのに...。」

「き・よ・い」

「....確かにこの後汚れるでしょうから、今やらなくてよかったでしょうね。」

 

「あと生真面目なんかじゃないです。」と否定しつつ、私はダンテが居るところへと向かっていった。

というか、なんで私良秀の言葉が分かるんだよ。

それってシンクレアの役目じゃない?この後しれっと翻訳は彼に投げよう。

私はそんなことを考えつつ、ダンテに指示を仰いだ。

 

「今回はどうするんですか?」

<う~ん、ファウスト、ドンキホーテ、良秀、それから...>

 

彼は端末を見つめながら今回直接指揮をする囚人を選び始める。

戦闘前ダンテが何をしてるのか描写はなかったからこういった光景を見るのは初めてだ。

 

<アイリス。君に決めた。>

「あぇ、私ですか?」

 

ちょっと予想してなかったな。

どうやらこれから私はファウスト、ドンキ、良秀と共にゴロツキを倒さないといけないらしい。

はぁ...気が重いなぁ

 

―――

 

重い足取りでダンテの前に立ち、普段は背負っている盾を取り出し右腕に巻き付ける。

 

「ふぅ...芸術を見せてやろう。」

「私の出番にてありまするか!」

「ついて行きます。」

 

ダンテの指示を受けた他3人が続いてダンテの前に出てくる。

 

<それじゃあ、始めるけど...あんまり時計頼みにしないで丁寧に戦ってね?>

 

ダンテがそれだけ言うと端末を見下ろし何かをし始める。

その時、頭の中に何をすればいいのかが思い浮かんできた。

今までどうやって戦闘指揮が行われているのか疑問だったけど、

どうやらダンテがなぞった動きが流れ込んでくるようで、私はその動きに従って

ゴロツキに向かって走り始めた。

 

ゴロツキと対面し、向こうは先端にナイフをテープで固定した棒で斬りかかってくる。

それに対して私は盾を構え受け止め、衝撃をばねに上に押し上げるようにはじき返す。

その後、がら空きになった胴に向かって思いっきりタックルをかまし、

体勢の崩れたところに盾による一撃を叩き込む。

その後全員の行動が終わると、再び指示が頭の中に浮かび上がってくる。

私は今度もゴロツキに向かって走り出し、互いの武器をぶつけ合う。

しかし今度は力で押し負け、押しのけられた私はよろめき地に膝をついてしまう。

そこにゴロツキがすかさず刃物の一部やガラスの欠片をくっつけた様な棒を振り下ろして切りつけてくる。

 

「ぐっ!うぅ...」

 

容赦のない一撃が私の腕を切り裂き、そこから血が流れる。

あまりの痛さに私はそこから動くことができなかった。

裏路地でこれまで生きて来れたからと言って痛みに慣れた訳じゃない。

痛いものは痛いのだ。

この痛みに耐えながら動き出さなければいけないと考えるだけでここから逃げ出したくなる。

そんなことを考えながらも次の指示が飛んでくるのを身構えていたが何も来なかった。

何が起きたのかと一瞬焦り、辺りを見わたしたが、他囚人たちは難なく戦っている。

じゃあ何で指示が...、とそこまで考えた時に今の自分は混乱状態なんじゃないかと思い至った。

混乱。ゲーム上では一定の区間を超過するダメージを受けることで発生する状態だったけど、

実際は今の私のように肉体的損傷やそれによって伴う精神状態によって行動が取れなくなった時になるのだろう。

つまり私はゴロツキの一発で動けなくなってしまうほど精神的にも肉体的にも未熟というわけだ。

.....自分で言ってて悲しくなってきたな。

とりあえず今は戦闘に集中しないと。また攻撃のことを考えると気が滅入るけど、やるしかない。

混乱が解けて、再び頭の中に指示が響き始め、私はゴロツキの元へと走り出した。

 

「はぁ!」

 

ゴロツキとの3度目の接敵、今度は相手の武器の一撃を受け流すように弾き、相手の懐に流れるように入り込む。

そしてがら空きの胴を盾で思いっきり打ち付け、その後よろめいたところへすかさず右腕を振り払い盾で顔面を殴打する。

 

「...ふぅ」

 

ここまででそれなりに体力が尽きてきたのか息が切れ始めてきた。

黄金の枝の調律によって多少は動きやすくなったって言っても、元のスペックが大きく変わったわけじゃない

これでもそれなりに苦難を乗り越えてきたはずなんだけどなぁ

もう少し運動してればよかったかな

 

顔面に鋼鉄による一撃を食らったゴロツキはあまりの痛みからかその場に膝をつく。

そこにドンキホーテが勢いよく走りこんでくると、その槍で体を一突きにしてしまう。

辺りを見てみると、すでにゴロツキたちは物言わぬ肉塊と化しており

戦闘が終わったのだという事が目に見えてわかった。

 

「やはり当人は偉大なるフィクサーになる資質があるぞ!!!!うはははは!!!!」

 

有終の美を飾ったドンキホーテの高らかな笑い声が響き渡った。

 

―――

 

その後も

 

<4人とも、またお願いできる?>

 

ダンテから指名されて私たちが戦闘に出向くことになった。

道中ではバスの燃料についてだったり、L社について軽く触れたりと些細なことがあったけど

私はその会話に参加することは無く、ただひたすらに肉塊をメフィストフェレスの口に向かって放り投げ続けていた。

といっても人を丸々持ち上げられないので、千切れた腕や足といった肉片だけだったけど。

その非力さにウーティスから信じられないものを見る目で見つめられたときはちょっと泣きたくなった。

 

とまぁ、そんなことは一旦置いておいて。

再び戦闘を行い、今度は問題なく敵を処理していったけど...

 

「さっきよりもちょっと多くないかな?」

「次から次へと悪党どもが押し寄せてくるぞ!さぁロシナンテ!正義のフィクサーとして多くの悪党ども蹴散らしに.....」

 

より多くの敵が現れ、少しずつ苦戦し始める。

今までは何とか1対1を展開して行けたけど、ここからは複数に狙われるなんてこともあり得るだろう。

そんなことを考えていた時、ダンテから一つの指示が私に飛んでくる。

 

「E.G.Oを...?」

 

私のE.G.Oを使うとのことだった。

自身から抽出されたE.G.Oを使うのは初めてで、少し不安があった。

そもそもどうやって使うのかわからないし...

 

「とりあえず、動こう。」

 

私は指示に従ってゴロツキと接敵する。

その時、自分の内から感情が溢れだし。今までにないほど力が湧いてきた。

――パリンッ!!と鏡が割れるような音と共に私の感情はピークに達していた。

 

感情があふれ出てくる。

【認められたい】【役に立ちたい】

この世界に来たあの日、光を通して感じた私の心がそこにはあった。

だけど同時に深い悲しみがあって、

何処にも行けず、向かおうとせず...周りと自分を遠ざけていた。

そんな私をいくつかの感情が覆う。

そうなりたかった。満たされたかった。特別でありたかった。

 

その感情が殻を成し、私の心が映し出される。

奥底の感情を元に、今の自分の有り様をなぞって...

 

「盲信でも、進んでいけるなら...」

 

口からこぼれた言葉は感情の発露。

激しい情動に身を任せ、私は盾でゴロツキを強く叩き付ける。

そして左手に新たに握っていた一本の剣を思いっきり振り下ろす。

一連の流れはさも当然のように進行し、ゴロツキは抵抗することもできずにその命を散らした。

再び鏡の割れる音が響くと同時に私は元の状態へと戻っていた。

先ほどまでの感情の高鳴りが嘘のように静まり、後に残ったのは倦怠感と...ひどく陰鬱とした気持ちだった。

 

―――

 

戦闘が終了してしばらくしたころ、ヴェルギリウスが窓から顔を出して語り掛ける

 

「おい!その辺りにしておけ。そろそろ客人が来るぞ。」

 

その言葉を聞いた私は今までよりも深く沈潜していた思考を浮上させ、周囲を見渡した。

するとバスにのしのしと近づく赤髪の女性の姿が目に映った。

 

「あの、もしかして...リンバス・カンパニーから来た方で合ってます?」

 

女性はバスの方へと目線を向けると「そうみたいですね...。」と呟き

バスへと搭乗してきた。

 

「昔のL社に勤務していたユーリです。よろしくお願いします。」

 

なんて事の無い普通の挨拶。

だけどそれを聞いた私は物語が大きく動くことを、そしてこれから起きるだろう悲劇を思い起こし

不安と、言いようのない罪悪感で胸が押しつぶされそうになっていた。

 

助けるべきだろうか?でも、いいのか?

彼女の苦痛を助長してしまうだけじゃないか?流れ通り死なせてしまう方が良いんじゃないか?

そんな思考が逡巡する。

今この瞬間もこんな考えをする私は、きっといい人間にはなれないだろう。

そんなことを思いながら私は目を閉ざした。




戦闘描写って難しいね!
これから先どんどん過激な戦闘描写をしなきゃいけないって考えると気が滅入ってくるよ。
まぁ始めたのは私なのでしっかりとやらせていただきますとも。
戦闘中、アイリスすぐ混乱しましたよね?ゴロツキの一撃であっけなく動けなくなりました。
そこからなんとなく察せるとは思いますが彼女の混乱区間はすっごい最初の方にあります。
代替体力値の90%あたりですね、そこ以外だとあとは50%あたりと10%あたりにあるだろうなぁって私は思ってます。

最後にアイリスのスキル1、2と初期E.G.Oの罪悪感情や名称を書いておきます。
スキル1:弾く:怠惰
スキル2:払う:憂鬱
E.G.Oスキル:信心の知恵:色欲
罪悪資源は色欲2、暴食1、傲慢1です。
といった感じになります。どれも攻撃タイプは打撃です。
スキル3については同期Ⅲになったときにやります。多分
次回はついに登場したユーリを乗せて進むバスの風景と人格抽出、そして旧L社支部への突入までを書く予定です。
抽出されるのはアイリスとファウストの人格となります。
人格に関してですが、第一章の舞台でアイリスに抽出される人格は自分の中では決めているので二章以降からアンケートを取っていこうかなと思ってます。

第1期アイリス恒常人格(投票数が多いものから順次登場させる予定)

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  • 黒雲会若衆
  • W社整理要員
  • R社第4群
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