苦痛を愛せない者の巡礼   作:プロムン大好きカリジャナリ

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第一に0(無)があった。
第二に00(無限)が生まれた。
第三に000(無限の光)が世界を覆い尽くした。
そして人はこれを理解し、人格(セフィラ)と成した。


押し潰される

「...すぐ他の飯の種にありつくのは簡単なことじゃなかったろうに、よくやれたな。」

「今はまだ...契約社員です。」

 

ユーリがバスに搭乗してしばらく

他囚人たちはユーリが旧L社の社員だったことから話が膨らみ。

エンケファリンやらE.G.Oやらといった単語が飛び出す会話を続けていたんだけど...。

その最中ゲストをないがしろにしていることに気が付いたグレゴールが彼女に話しかけ、

同じ、折れた翼の人間として苦労を語り合っていた。

 

「なるほど。あえてここに這い戻ってきた理由もそれだったんでしょうね。」

「前の職場に戻って大きな手柄を立てでもしたら、チーフの座でもくれるとでも言われたんですかね?」

 

そこにイシュメールが皮肉気な言葉を飛ばす。

 

「...実績を上げれば契約期間は延びるかもしれませんね。」

「そ、そうだな。普通、契約社員時代は実績に命を賭けるべきときだからな。」

 

イシュメールの言葉に対し、グレゴールが気遣うようにぎこちない言葉を交わす。

 

「はぁ、それまた惨めな命ですね。」

 

そんなグレゴールの気遣いなど知らぬと言わんばかりに彼女の皮肉は止まるところを知らない。

そんなやり取りが行われている最中、私は自らの席で逸る鼓動を鎮めようと深呼吸を繰り返していた。

 

ユーリ。彼女の登場からずっと不安感と焦燥感でどうにかなってしまいそうだった。

何故今になって罪悪感を感じているんだ?すでに一度経験したはずなのに...

アンジェリカの時と何も変わらないだろう、と何度も自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせようと試みるもうまく行かない。

むしろそう言い聞かせていると余計に苦しくなってくる。

いつの間にか走り出していたバスの揺れと、響くエンジンの音が酷く大きく聞こえる。

その感覚がまるで私を責め立てているように感じて、思わず辺りをせわしなく見渡してしまう。

そんな私の様子に目を向ける人は誰もいない...ように思えたが、

ただ一人、ファウストだけが私の方を見つめていて、それはまるで私の行動を見定めているかのような目つきだった。

そう感じたとたん私はすぐに視線を外し俯いてしまうが、そうすると今度はうるさい心臓の鼓動が聞こえてくる。

鼓動と視線、その全てが私に重く圧し掛かってきて私は........

 

――ガラッ!!「ヴォアェッ!!!!」

「うわぁ!?ア、アイリスさん!大丈夫ですか!!」

 

耐えきれなくなった私は窓を開け、思いっきり外に吐き出してしまった。

その様子にシンクレアが驚き、心配そうな目つきで私を見てくる。

 

「あ”...う”うん、大丈夫、大丈夫。」

 

私ははにかむような笑みを浮かべて彼を安心させようとする。

 

「はぁ...ん?うぉわぁっ!!?う”っ」

 

シンクレアの方へと顔を向けていたから私は背後からファウストか近づいてきていることに気が付かず。

再びバス内に目を向け直した時彼女がいたことに気が付いて驚きで飛び跳ねる。

思わずまた吐き出しそうになるが、何とか抑え込み彼女と向き合う。

 

「何か?」

「体調の程はどうですか?」

 

なんだ?心配してくれているのか?

なんて考えもしたが彼女に限って、しかもこんな関りの浅い序盤で私のような木っ端を気遣うようなことするわけないだろう。

多分が体調不良になることが良くないとかで確認しに来てるんだ。

 

「彼にも言ったけど、大丈夫です。」

「そうですか、では着いてきてください。」

 

笑顔をどうにか顔に貼り付けて大丈夫と言えば、彼女は着いてこいと指示してきた。

一体何をするんだ?という考えが浮かんだが、背後にダンテも着いてきているのを見ておおよそ察する。

 

「私の人格抽出?」

「正確には我々の人格抽出です。」

 

私の質問にファウストが答える。

私とファウストの抽出を行うなんて...一体何の人格が出てくることになるんだか。

無難に恒常人格が出てきたりするんだろうな。

そんなことを考えながら私たちは抽出器の下までやってくる。

 

――ガシャン!

 

壁が開くと中には絡み合った鎖の束があった。

その束にダンテが手を伸ばすと鎖は弾けて二つの牌がダンテの元に落ちる。

ダンテはそれを端末機にはめ込み、抽出した人格を見つめる。

 

<これは...>

 

ダンテは今しがた手に入れた人格を見ると一瞬バスの方に目を向け、次にファウストを見る。

...なんとなく予想が付くぞ、多分生き残りファウストだな。

序盤の内はかなり重宝する強力な低レア人格だ、私も始めたての頃はよくお世話になったものだ。

そんなことを考えていた私は次にダンテが呟いたある言葉に驚いた。

 

<アイリスの人格、似た服装をしてるね。>

「え?」

 

「ちょっと見してもらっても?」と断りを入れ、許可をもらう前に、勢いよく端末をのぞき込む。

そこに映っていたのは...ユーリに似た容姿のファウストと、同様のデザインの青い服を着た私の姿だった。

 

ー!"#$%ー

 

あの日から裏路地での生活でコツコツとお金を稼ぎ、何とかフィクサーになりあがった私は、

一事務所の社員としてコツコツと研鑽を積んで、今じゃ8級のフィクサーになっていた。

フィクサーとしての環境は思っていたより私の身に合ったようで、今も物探しや人探しと

様々な仕事を熟していた。

最初のうちは上手くいかなかった殺人の仕事も、少しはマシになって来た。

それから運が良い事に銃器を購入する機会もあったんだ。

まぁ弾丸なんて今の私には到底変えるものじゃないから少し離れたところからでも当たる強力なスタンガンみたいな銃を手に入れただけなんだけど...

弾丸じゃない分マシだけど、バッテリーをいくつか用意しておかないと使い物にならなくなるから

扱いには気を付けないと。

そういえば新しく雇われた子、ファウスト。

まさかあの子とこんな形で出会うとは思わなかったな。

でもあの姿、どこかで見た記憶があるんだけど...思い出せないや

まぁ大丈夫だよね。

この後旧L社にエンケファリンをあの子たちと一緒に取りに行くけど、大丈夫かな?

怪物が出て来てお腹を一突きにされたりしたらどうしようか...

そうだったらまだ運が良いか、それなら数秒で死ねるだろうし。

まぁそうならないことが一番だけど。

 

ー!"#$ー

 

人格抽出を終えた私たちはあの後座席に戻り、時たま現れるゴロツキを蹴散らしながら進んでいく。

途中カロンの方向音痴についてバスが盛り上がったりもしつつ。

私たちは目的の場所の近くまでやってきていた。

 

「うぅ...グレッグ、もしかしてあいつらとは知り合いなの?」

「ん?なにがだ...この裏路地に俺の顔見知りがいるわけな...」

 

目的地に近くなったことで次第に体の一部が虫のようになった人間が現れ始める。

 

「近寄るな。お前にも害虫菌が伝染るぞ?」

「ヒッ、本当ですか!?」

 

強化施術を施された人たちに近づくと伝染るなんて冗談をグレゴールが言うと、

それを真に受けたシンクレアがおびえた様子で窓辺から離れる。

そんな様相にグレゴールが自身のギャグセンスを疑いだす。

それと同時にバスはそこに停車する。

 

「過去のG社では、大多数の職員がグレゴールさんのように生体武器施術を受けました。」

「グレゴールさん、元G社出身だったんですか?そのときのG社なら...。」

 

ファウストによってグレゴールの出身が明かされ、それについてイシュメールが声に出しつつ旧G社についてを思い起こし、次に出たであろう言葉を吞み込んだ。

 

「ああいう方々は普段どこで寝るんですか?」

 

後ろで少し気まずい空気が流れている最中、空気を読むこともなく自分の好奇心のままにホンルが疑問を投げかける。

それに対してヴェルギリウスが回答...

 

――ジッ「.....」

 

何で私を見てるんです?

 

「そこにちょうどそんな暮らしを体験していた奴がいる、話を聞いてみたらいい。」

「え、いや...そっちで話しても変わらな...」

――ジッ

 

うっ...なんで私に投げるの?

ヴェルギリウスの無言の圧に私は耐え切れず、私はホンルの疑問に対して答えた。

 

「この世には空を天井にして、冷たい床で毛布にくるまることもなく眠りにつく様な人が多くいるんですよ。」

「なるほど、風流な方々なんですね!」

 

本来ならヴェルギリウスが簡素に答えるだけのはずなのに...なんで私を巻き込むんだ。

 

「何故自分を巻き込むんだとでも言いたげだな。」

「いえ滅相もございません」

 

横から掛けられた重厚感のある声に思わず前世で培った営業スマイルを浮かべて即座に否定をしてしまった。

 

「簡単なことだ。俺の他にお前たちの相手ができる者がいるなら、こういった些末事はそいつに任せる。という事だ。」

 

ヴェルギリウスは私の言葉など聞いていなかったかのように理由を淡々と述べ、そしてそのままバスを降りろと告げる。

今回は私は指揮下に入らないみたいだから、できた肉片をせっせこメフィストフェレスに運ぶ作業に勤しむ事にしょう。

 

―――

 

「着いた。やっぱりカロンは道を知ってたんだ。」

「やっぱりって何がやっぱり何ですか!?私とシンクレアさんが両サイドでどれだけ苦労したと.....。」

「それでもやっと東南と東北の区別がつくようになって良かったです、カロン。」

 

運転席でカロンに対してユーリが愚痴を零し、シンクレアが褒め言葉を掛ける。

ついに旧L社へとたどり着いてしまった。

 

<これが...旧L社なのか?>

「私も直接見るのは初めてですね...。『あのこと』があってからそこまで経ってないはずなんですけどね。」

「そんな...どうやったら建物がこんな様子になるんですか?」

 

窓の外に見える瓦礫の山。

確かにそこにあっただろう栄光は見る影もなく、人の手の届きにくい地下へと押し込められていた。

 

「お喋りはそこまで。下車する。」

 

ヴェルギリウスの掛け声と同時にバスの扉が開く。

ついに始まるのだ、あの悲劇が...

私は未だ収まることのない不安と焦燥を胸にバスを降りる。

 

降りた先にはユーリと似たデザインの服を着た男女、アヤとホプキンスがそこにいた。

 

「こんにちは~」

「あ...あ...。あ...。」

「赤い視線様!お会いできてほ、本当に光栄です...!噂では何度も聞いてきましたがこうやって直接...。」

 

アヤはおっとりとした気さくな挨拶をし、ホプキンスは生で見る特色に興奮し、私たちが見えていないようだった。

この時点から公的に見てマナーのなってない奴ってのは分かるね。

 

「あそこに古びた倉庫、見えるな?中に地下へ下りられる階段がある。」

「階段からはこっちの、ユーリさんが担当することになる。」

 

ヴェルギリウスはホプキンスの熱烈な挨拶をさらっと受け流し、これから先向かうべき場所を指示する。

 

「こっちのフィクサーさんたちもキャリアがあるから、突発的な状況にも上手いこと対応してくれるはずだ。」

「これくらいで良いよな?私の同行はここまでだ。バスでお前たちを待っている。」

 

ヴェルギリウスは最後にそれだけ伝えるとバスの方へと歩んでいく。

道すがら囚人から投げかけられる野次りもひらひらと受け流し、最後にダンテへと助言をして去っていく。

 

もはや逃げることはできない。

すぐそこまで来てしまったから...

未だどうするべきかも定まらないというのに...時間は止まってくれないのだ。




今回主人公の人格の抽出をしましたけど、正直今必要ないように感じますよね。
でもこの後ダンジョンに潜ってしまいますし、そうすると物理的に抽出器に触れる機会がなくなるのでは……?と考え、あらかじめ準備しておく描写を入れました。
ゲームシステム上だと端末で全て行われているように見えますけど、実際だとそうじゃないんじゃないかなって思ったので
また、アイリスが纏う人格の戦い方についてもかなり悩みました。
あの銃が実際どう動くのか分からない部分が多いので、多分こうだろうなという独自の解釈で動かしています。もし違和感があったらすみません。

現状のスキル構成はこんなイメージです。
8級フィクサー アイリス
スキル1:銃床打撃:暴食
スキル2:電撃放出!:憂鬱
スキル3:ゼロ距離放電:怠惰
守備:防御:怠惰

次回はユーリやアヤにアイリスが絡んだり絡まなかったりします。多分
幻想体『黒檀女王の林檎』戦まで行けたらいいな。

3/4 教導の新人さん誤字報告ありがとうございます。

第1期アイリス恒常人格(投票数が多いものから順次登場させる予定)

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