誰もがやり直せる世界を   作:完璧カツオ

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 鈴井志保が屋上から飛び降りをした。

 落下地点が柔らかく死にきれなかったので自殺未遂に終わったが意思は本物だった。

 彼女を導く神の愛は破滅と終焉だった。

 

 

 図書室で神曲を読んだ。

 文字だけの本を読むのは苦痛だった。

 この世を動かすのは至高天から与えられる神の愛。世迷言とは思えなかった。

 

 

 降りかかる神の愛を教えてほしい。

 待っているのは破滅か別の可能性か。

 先を知りたい好奇心と先を知らない恐れ、二つの間にあるものを何と表す――

 

 

 

 

 

 

 

 「で、俺が貴様の相談を受けるワケ、か。――ふざけるなよ」

 

 気が付けば"ココ"にいた。

 何かの意図はなかった。無意識に導かれていた。

 

 「――運命って、知ってるほうがいいの?知らないほうがいいの?」

 率直に問う。

 

 「未来の運命、未知なるものを具体的な言葉で言い表せれるわけないだろう?だから抽象的にお前を導くものだって伝えてやってるんだよ」

 「噓だ!……ミニ・ゲームが始まってから、なんも変わらないくせに、いきなり変わるんだよ……」

 「その変わったものが"神の愛"によるものなんじゃあないのか?」

 

 変わらない学校生活だった。授業は相変わらず気だるく、おれの話は相変わらず流されて、相変わらず秀仁は秀仁。古城も無いし、命を奪いに来るものなんていない。

 なのに意思=命を賭けたミニゲームは進んでいる。破滅の運命は確かに存在している。現に一人、破滅した。そして今おれは『導かれた』。

 

 いつ?どこで? なんで?

 

 

 「貴様は選択肢を創り出す力を持たないヤツだった……ってぇオチか――はぁ……」

 

 楽しめない結果。

 以前このキャンプファイヤーを訪れた時に発せられた呻きのような弱音。

 実際その通りになった。何も分からないおれは何も選べない。自分から勝ち取ることも敗北に打ちのめされることも無いし知らない。ただ停滞し、伏線も必然性もないまま腐って死んでいく。

 

 

 「負けたら意思も命も捨て去るんだぞ?ンんな結果、貴様は享受するのか?バカバカしい」

 「……それなら、どうすれば…」

 

 いつの間にか、キャンプファイヤーの大火はライターのように吹けば消える勢いに弱まっていた。

 

 「………………面倒だ、ああもうクソっ」

 フランが頭を搔きむしる。小さな明かりに何かが雪めいて落ちていく。――汚い

 

 

 「ああ、まぁ、俺は貴様が求め次第支援する、と取り決めたわけだしあしらうことは無理、か」

 そう……

 

 「幾つか質問してやろう。それによって、支援だな」

 ………………

 

 

 

 「まず。何故貴様は、先に待ち受ける夜闇たる神の愛を恐れ縮こまる癖に『悪人でもやり直せる世界』に対しては恐れを見せない?あれも、神の愛と同じく先はおろか過程すら見えることない永遠の夜道、だろう?」

 

 …………それは、

 ………………いや、それも、だが、

 …………………違うんだ

 

 

 

 「………………違うから」

 「んあ”?」

 

 「……根本的に、違う。分からなくても、進める。おれが、そう選んだから」

 「ミニ・ゲームも貴様が選択した一つじゃあないのか、成せば『やり直せる世界』が手に入ると知ってぇ選んだんじゃあないのか、なぁ」

 

 「だから……根本的に違う。欲しいから選択したって部分しか合っていない。賭けたい思いも、成就した後に見えるビジョンも、全部違う……ミニ・ゲームは、やり直せる世界の過程だから受けようと思った。ミニ・ゲームを進められないのは、過程が見えないから。」

 

 "フラン"は何か言おうと口を動かしていたが、結局言葉を紡ぐことはできずに呆れて切り株に深く腰掛けた。

 

 「フン、ああ、なんとなくだが……理解の範疇だ。」

 「"自分がやりたいだけ"、か。まぁいい、そのまま枷を付けずに、我が思う儘を貫くことこそ怪盗団や覆された破滅の運命を覆すのに必要な素養。ただし、今のお前はただの逆張り我儘、だがな」

 

 「逆張り、我儘…」

 

 

 「次。貴様は自身に降りかかるものが具体的に何かを知りたい。この先どう言ったものが向こうから来るのかを理解しておきたい。それで間違いないか?」

 「………………うん」

 

 それを聞くと、"フラン"は心底つまらなさそうに星空を仰いだ。足で土と草を掘り起こしてキャンプファイヤーに(ほお)った。

 

 「愚民。意思を放棄し、導かれるままを望む愚かな大衆の一人……俺が干渉しなかった時の貴様は"そう"なるだろうな」

 「……だが、そうはならないしさせない。"そうなるのを抑止する為に、俺が憑いたのだからな"。貴様に在るのは、死か栄光の二者択一のみ、だ」

 

 合点がいったように、全部理解したように。

 "フラン"の口は次々言葉を紡いでいく。

 

 「だったら、貴様に一つ援助をしてやろう。俺が貴様に神の愛(運命)を与え、言葉を以って導いてやる――まぁ一回キリ、だがな。己が力で不透明なる神の愛に色を与え己がモノとする怪盗団を間近で鑑賞することで貴様のいい刺激になるだろうなぁ……」

 

 いつの間にか手に持っていた『神曲』を、今度はまざまざと、見せつけるように手放した。

 手放した、というのはあくまで動作の話であって、実際その『神曲』は浮遊しながらこれまたいつの間にか存在していた本棚に収まった。

 

 「水は低きに流れる。世間知らずで常識に無関心で逸脱した貴様は、言いたくはないが純粋無垢、だ。だからこそ自分を愛せなく、人を憎みきれない、結局自分を捨て、他人に絆されればその選択すら捨てるあのような愚物に感化されてしまったのだろうなぁ……だからこそ、貴様はその心に"怪盗団"を染みこませろ」

 

 自分を愛せない、それはいまいち理解しきれないが、人を憎み切れないとの言葉は胸にチクリと刺さった。

 ……何かわからない、大きな運命に導かれているのはその"怪盗団"も同じで、おれと違って答えを出している、っていうことなのか。"フラン"によると。

 

 「このミニ・ゲームは貴様の選択による軌跡を綴る新たな叙事詩。故に俺の意で書き足すことはしたくはなかったのだが……はぁ」

 "フラン"がため息とともに手首をスナップさせる。残像は揺らめくモヤ、陽炎になり辺りを漂うが、その陽炎は即座に一冊の本――手帳ほどの小冊子――を象った。

 

 その本に記されていた題名は、『黒い炎と金色なる剣』。"フラン"がかつておれの前で見せたことのある二冊の書籍と違い、全然、まったく、一ミリも、知らない本だ。しかし、なにか既視感めいた――予知夢のような――昔も昔になにかこれにまつわるものを、おれは――?

 ――あ、ああ、まさか、新たな叙事詩って。

 

 「さて――貴様の記録がまた一ページ。『迷える旅人は、偶然怪盗団と出会い、戦いの中で彼らの"強さ"というものを知るのでした。』――善し。」

 

 役割を終えたのか、その『黒い炎と金色なる剣』はモヤとなって霧散した。

 "フラン"は大きく息を吸ってそのモヤを体内に取り込んだ。

 

 「では、繰り返そう。次は()()()()()()()()()()()()

 ――ちょっと、

 

 

 浮かんだ要素を言葉に繋げようとする前に、またあの浮遊感に襲われる。

 浮かべたものは青いノイズにかき消され、意識は黒いノイズに置き換わる。

 

 「あ――ちょ――おい―――――」

 

 青と黒が激しく交互に明滅する。

 そして最後に黒はかき消され、青一色に染め上げられる――

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 徐々に、ノイズは晴れていく。

 そうして目の前に現れた景色は、見覚えのある"あの"古城だった。

 

 「………また、ここかよ……どうすればいいんだよ」

 繰り返す、もう一度向き合え。――"フラン"はどうにかしておれに、この古城の中で何かをさせようとしているのだろうか。

 ――だったら、何をすればいいんだ

 

 今の貴様なんて、ただ黙って導かれてればいいんだよ。

 「!?」

 

 ……この声、これはそう、あの――兵士に斬りつけられ意識が朦朧の中語りかけてきた紫髪の子……とは、違う、いや違わないが……どうも語気が"フラン"に似すぎているし……この前のよりも若干低音でもあるから……

 

 

 あーー……『熟慮は時に短慮以上の愚行』とは良く言うものだ、なぁ……感が鈍い癖に推理するふりと気概だけは一人前の愚者…

 「――はぁ……まじ…気持ち悪い、古城だけでもつらいのになんでお前の声が付きまとってくるんだよ」

 言ったはすだろ?言葉を以って、導いてやると。

 

 そういわれるともう何も言えない。おれの言葉で"フラン"が止まることはあり得ないし、もっと言えば気持ち悪い笑みを浮かべて嫌がることを仕掛けに来るかもしれない。

 だから仕方ない――いや、それは『自分の意思を捨て、流されるがまま』だ、変わることができなくなる、運命(神の愛)を理解できる機会を失ってしまう――

 

 ああ、そうだ、それでいい、知らない事を恐れろ、そうすれば夜闇の虫が光を求めるように、貴様も知ろうともがく。さぁ、見渡せ。貴様は初めて、己に降りかかる神の愛を()るだろう。

 

 見渡せ、だって……?

 その言葉に反射的に突き動かされて、バカ正直にあたりを『見渡した』。

 自身ではなく周囲に意識が向いたからか、即座に耳が周囲に流れる言葉を拾った。女の子の声だ。

 しかも近い。あと大きい、叫び声だ、ってこれすぐ真後ろ――

 

 

 「ちょ、ちょっ、ちょっと!あアンタ急に現れて、誰!?」

 バッ、と風切り音がするほどの勢いで振り返ると、そこにはブロンド色をしたツインテールの女子が戸惑っていた。

 

 「えっ、まぁー、おれはその……って君は!?」

 その女子はびっくりするほど透き通った水色の目をしていて、ニキビホクロ等の陰りが一切ない真っ白な肌。まるでモデルだ、てか、この子はどこかデカい本屋で見たような……?

 「私、コレ使ってここにもう一度来たんだよ?!入れなさそうだしどうしようかって思っていたら、急にアンタがフッと現れて――」

 

 

 その時だった。まだ置かれたお互いの状況で混乱のさなかにある二人に、さらなる混乱が襲い掛かった。

 

 「姫―!!」

 「離れろ下郎がッ!!」

 次々に叫びながら古城の正門から現れたのは、あの兵士たちだった。 

 

 

 

 

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