デンジ「レゼん事なんてもう知らねェ〜!」レゼ「まってまってまって」   作:湯タンポ

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次話で投稿予定だったけど、よく考えたらこっちの方が先では?って事で、よろしくお願いします。





『硝子の上を』

 

 

 

 

あの浜辺での会話から数時間、窓から差し込む日差しに照らされながら、『二道』でデンジはレゼを待っていた。

 

 

来るかは分からない、もうとっくに逃げ延びたかもしれない。

 

 

けれど、きっと来てくれる。いや来て欲しい。

 

 

来てくれなかったらデンジは結構ヘコむ、それはまぁめっちゃへこむ。

 

きっとこの先どんな人生を送ったとしても、時々魚の小骨が喉に刺さった時のような痛みで思い出すくらい、しばらく引き摺るだろう。

 

 

だから、来て欲しい。自分と一緒に逃げようと言って欲しい。

 

 

花束を買った、有るだけの現金も下ろした、後はもう彼女がここに来てくれるかどうかのみ。

 

 

 

ドクドクと血の音が鳴り続けてる気がする、待ち遠しいからか、緊張しているからなのか、それとも単純に期待してるのか分からないが、とにかくうるさい。

 

 

デンジがソワソワして机の上の紙ナプキンで手遊びをはじめた時、ドアベルが来客を告げた。

 

 

一気に緊張と期待が高まる中、デンジは生唾を飲みながら店の入口に視線を向けた。

 

 

 

 

「……信じられない、本当に私と一緒に逃げる気なんだ、デンジ君」

 

 

そこには、レゼが居た。

 

 

「……レゼも来たじゃん」

 

 

そんなデンジの言葉には答えず、レゼはデンジの横に腰掛けた。

 

 

レゼは、こうして自分が何事もなくデンジの元へ辿り着いた事に困惑を隠せないでいた。

 

レゼ的には、正直道中でマキマ辺りに妨害されるか殺されるかすると思っていたのだが、割とすんなり辿り着いてしまったからである。

 

 

「……ねぇデンジ君、本当に一緒に逃げてくれるの?」

 

 

正直な所、デンジが嘘をついていて、自分を捕らえる為の罠である可能性の方が高いのではないかと、レゼの冷静な部分が警鐘を鳴らす。

 

が、

 

 

「ったりめ〜よ!」

 

 

その言葉には、確かな覚悟があった。決して冗談や酔狂で言っているわけではないと、レゼは感じ取ってしまった。

 

 

「どうして……どうしてそこまでするの?」

 

 

レゼは俯き、拳を握りしめる。

 

自分の過去、マキマからの圧力、デンジ自身が置かれた状況を考えれば、こんな危険を冒してまでレゼと逃避行に走る必要性など少しもないのだ。

 

むしろ合理的に考えればリスクの方が遥かに大きい。

 

 

「オレはまだ、レゼん事好きだし」

 

 

それを、この男はたったそれだけの理由でレゼと共に逃げる道を選ぶというのだ。

 

 

「……私は、命令で君の心臓を狙ってたのに……?」

 

 

「命狙われンのは慣れてるから大丈夫」

 

 

「……私は沢山人を殺したよ?そんな私と逃げるって事の意味、本当に分かってる?」

 

 

「海ン時も言った気がするけどよぉ〜、仕方無くねぇけど、仕方ねえ。レゼだけが悪いわけじゃね〜だろ」

 

 

「……君まで犯罪者になるんだよ?服がボロボロになっても沢山の人間から逃げて追われて隠れて、食事だって一日1枚の食パンを分け合うことになるかもしれないし、雨風が凌げるだけの掘っ建て小屋でボロ衣に包まって寝る事になるかもしれない、毎日が地獄みたいな暮らしになるかも知れない……それでも……それでもホントに、一緒に行くつもりなの……?」

 

 

「公安に入るまで、俺とポチタでその生活してたからよぉ〜、全然苦しい生活じゃねぇぜ〜!そこにレゼが居んだろ?サイコーじゃん」

 

 

もう、否定する材料が何も出て来ない。

 

レゼにはこれ以上、彼の覚悟を鈍らせるような言葉を投げる事が出来なかった。

 

 

「……レゼはどうなんだよ、俺と一緒に逃げてくれる気は、無ェの?」

 

 

レゼは、何も言えなかった。

 

 

「……じゃあ、これ受け取ってくれたら、一緒に逃げるって事にしようぜ!」

 

 

デンジは、手にしていた花束をレゼの前に突き出すと、一か八かと言う顔をしながらそう言った。

 

 

その言葉はとても優しく、それでいて妙に真剣で、レゼの心に染み込んでくるようで……レゼは、暫く考え込んだ後、静かに、花束を受け取った。

 

 

「……ありがとう」

 

 

僅かに掠れた声でそう告げながら、レゼは微かに笑みを浮かべた。

 

 

その表情は、今まで見せたどの笑顔よりも脆く、儚く、そして確かに幸せそうだった。

 

 

その言葉を聞いた瞬間、デンジの表情はぱぁっと晴れ渡った。

 

 

「よっしゃあ〜!じゃあ契約成立だな!レゼ、これからよろしくな!」

 

 

「……うん」

 

 

嬉々としてガッツポーズをするデンジを前に、レゼは小さく頷く。

 

その目には、薄い膜のような涙が浮かんでおり、今にも溢れ落ちそうな程潤んでいた。

 

だが彼女はそれを必死に堪えようとしながらも、微かに肩を震わせていた。

 

 

「……本当、バカなんだから……」

 

 

レゼは独りごちながら、ゆっくりと顔を伏せ、花束を持つ手に力を込め、その香りを肺いっぱいに吸い込んだ。

 

 

 

「……この花束、わざわざ買ったの?」

 

 

「おう、レゼに似合うと思ってよ」

 

 

「お金勿体無いよ、私と一緒に逃げるなら節約しなきゃいけないんだし」

 

 

「そうだけどよ〜、やっぱどうしてもレゼに似合う花見つけたから、買っちゃった、いらねぇ?」

 

 

「……要る、貰う」

 

 

レゼは少し拗ねたように言い、視線を伏せたまま花弁を摘むように手のひらで愛でる。

 

 

その動作の一つ一つがあまりにも美しく、デンジは唯見惚れていた。

 

 

「レゼ、すげーキレイ」

 

 

「……っ、またそういう事サラッと言う……!」

 

 

唐突な褒め言葉に、レゼは思わず頬を紅潮させて狼狽える。

 

デンジは至って真面目に思ったことを口にしているのだが、そのストレートすぎる愛情表現はレゼにとっては刺激が強すぎた。

 

 

「デンジ君って……いつもそうやって女の子口説いてるの?」

 

 

「え、そー見えンの?普通に可愛いなァ〜と思った事言っただけなんだけど……」

 

 

「も〜っ!だからそういうトコだってばっ!」

 

 

照れ隠しも含めて思わず机をバンバンと叩いてしまうが、その手の力も妙に優しい。

 

レゼにとって、ここまで感情的になる事自体珍しい事だった。

 

 

「あ〜!この気持ちに振り回されっぱなしってのも悔しいなぁ〜!」

 

 

レゼは、まるで子供のように膨れっ面をしながらデンジを見やる。

 

しかし、その表情にはどこか楽しげな様子もあり、決して嫌がっている訳ではないことが容易に伺えた。

 

 

 

そして、レゼは溜まった感情を吐き出すかのようにひとしきりに笑ったあと、真剣な眼差しで。

 

 

 

「……ねぇ、デンジくん」

 

 

「んぁ?」

 

 

 

凍てつく北の大地で咲き誇る花のように、華奢な美しい白い頬に朱を滲ませて、ソヴィエトの少女は生まれて初めて、ただ一つだけの願いをねだった。

 

 

 

 

 

「私を……何処までも連れて行って…?」

 

 

 







今更だけど、原作のレゼ編が結構完璧過ぎるねんな……
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