デンジ「レゼん事なんてもう知らねェ〜!」レゼ「まってまってまって」   作:湯タンポ

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レゼに脳を焼かれたのでレゼの脳を焼きました。

反省もしていないし後悔もしていない。


※独自解釈が多分に含まれるためご注意を。

「レゼはね、こんなこと言わないしこんな態度とらないしデンジ君に対してイニシアチブを取っていないといけないの」
という方は生姜焼きに致しますので、どうぞあちらへ。


貴方もデンレゼ最高と言いなさい。




『そばに居てよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「レゼん事なんて、もう知らねぇ〜!!」

 

それは、デンジとレゼの逃避行の最中、ただしょうもない言い合いが重なった末、デンジがレゼに放った言葉だった。

 

それは、モルモットというソ連の工作員としてデンジの心臓を狙い、そして最後にはデンジと逃げる事を選んだレゼにとって、最悪の言葉だった。

 

「まってデンジ君、私…そんなつもりじゃっ」

 

 

最初から長続きする逃避行だとは考えていなかった。

 

マキマやソ連の追っ手からそう長く逃げ続けることは現実的では無かったし、そう多くない逃亡資金では限界がある事も悟っていた。

 

そして、途中でデンジの気が変わったり、お互いの気持ちが変化してしまう事も、レゼの予想の範疇だった。

 

今まさにデンジが放ったような別れの言葉も、途中で自分が捨てられる事も、当然覚悟の上だった。

 

はずなのに。

 

「デンジ君、まって…!お願い……!」

 

この瞬間のレゼは、全身がバラバラになるような衝撃と焦りに包まれていた。

 

もし仮に、もっと早い段階で言われたなら、気持ちの整理もついたかもしれない、ああそっかと諦めが着いたかもしれない。

 

だけど、今この状況で、何度も自分の意見に耳を傾けてくれて、その度に寄り添ってくれたデンジから放たれたその言葉は、レゼの胸を鋭く抉ったのだ。

 

レゼはモルモットとして強制的に鍛えられた優秀な頭脳で、逃避行の際も様々なパターンを想定していたが、これだけ長く取り返しのつかないほど仲が深まった末でのそれを、レゼは想定できていなかった。

 

レゼ自身、無意識に、最後の最後まで彼は自分の味方で居てくれるものだと、既にそう思う所まで来てしまっていたのだ。

 

「まって…お願いデンジ君、今度は信じる!もう疑ったりしない!だからっ……」

 

だから、彼女は縋った。

早歩きで先を歩くも、何を思ったか立ち止まったデンジに飛びかかるように距離をつめ、彼の手を掴んで必死に。

 

そのレゼの表情は、いつもの明るさも、妖艶さも、計算高さも全てをかなぐり捨てた、1人の少女の顔であった。

 

「デンジくん、お願い……そばに居てよ……」

 

「……ぁ、」

 

その声と表情に、デンジは我に返った様な顔をして、握られた手から視線を上げた。

 

彼の目に写ったのは、涙をボロボロと流しながら縋るレゼの姿であり、これまでで最高に魅力的な女の姿でもあった。

 

「ごめんデンジ君……わざとじゃないの、本当に……そんなつもりじゃなかった……私っ……」

 

「……………」

 

デンジは黙ったまま、頬を真っ赤に染めて、目の前のレゼの顔を食い入るように見つめる。

 

デンジの視線は、涙に濡れた目元や鼻筋、肩まである髪の毛先を追うように左右に動いていたが、ゆっくりと顎の方へ下って行き、そしてレゼの唇でピタリと止まった。

 

「……っ、もしかしてキスしたいの?いいよ?いくらでもしてあげるっ!何時でも何度でも!もちろんそれ以外のことだって……!」

 

 

その視線を感じ取ったレゼは、泣きながら口早に今デンジが欲するであろう物、自分がしてあげられる事を並べ立て始める。

 

 

「して欲しいことがあればなんでも言って…?大丈夫、新しい事覚える訓練も沢山したし、ずっと残って来たから、きっと…ううん、絶対すぐに覚えられるから!他にも、色々あるの!私が出来ることたくさんあるから!ねっ!」

 

レゼは懸命に訴える。

喉を震わせながら、自分が出来ることをひとつずつ並べていく。そのどれもが本気だ。今の彼女に嘘はない。

 

 

もともと、彼女には何も無かった。

幸福も、安全も、未来も、平和も、人生も、時間も、本当の名前すらない。

 

あるとすれば、その身一つと工作員になる為に求められた技能や知識がせいぜい。

役に立つこともあったが、それも世間様から見れば褒められることは無い代物ばかり。

 

 

そして何より、奪った命の数と罪だけがレゼの持つものであった。

 

そんな彼女に、デンジは言ってくれた。

 

『オレと一緒に逃げねぇ…?』と。

 

彼自身が送っていると言った"素晴らしき日々"を捨てる事さえ厭わず、自分と逃げ続けようと。

 

彼女の人生の中で初めて、誰かが自分のために道を示してくれた瞬間だった。

まるで、暗闇の中に突然差し込んだ一筋の光のように。

 

だからこそ、彼女は何に変えても、何を犠牲にしてでも、彼と共にありたかった。

 

「もしさ、もし私がやなことしたり、機嫌損ねちゃったら、言葉か、叩いて教えて?ねっ?そしたらすぐ直せるから」

 

しかし、その手を拒絶されようとした時の恐怖や寂しさは、彼女の心を容赦なく締め付けた。

失うことへの恐れ、孤独に対する不安、それが彼女の瞳から幾度となく涙を溢れさせる。

 

もはや訓練で身につけた表情や感情のコントロールなどかけらも使えず、年相応、いや、それ以上に幼い少女の様に必死に言葉を紡ぎ、縋ろうとする。

 

 

 

デンジは固まっていた。

 

だが──その頬は既に林檎のように紅潮している。

彼の喉がゴクリと鳴り、息が詰まるのがわかる。

 

 

それだけで充分だった。

 

(あ……効いてる)

 

それだけで、レゼは気づいた。

 

羞恥で泣く女より、期待を込めて笑う女より――“無防備に縋る女”もしくは"直向きに自分を求める女"こそが、この男をいちばん揺さぶると。

 

レゼのスパイとして作られた冷静な部分が、その状況を見て即座に判断を下した。

 

方向転換を決めたレゼは、まだ潤んだ瞳のまま、ふっと優しい笑みを浮かべた。

 

 

「だから……ね? これからは、ちゃんとデンジくんの話聞くよ。デンジくんが好きって言ってくれるなら、私も全力で答える」

 

言葉は軽く、けれど確信を持って響く。

デンジの喉が再び小さく鳴り、彼の視線がまたしてもレゼの唇に吸い寄せられる。

その様子を見つめながら、レゼはそっとデンジの手を取り、胸元へ導いた。

 

「……触ってもいいよ?」

「……ぁ……?」

 

囁くように。

甘く、柔らかく、彼を誘うように。

 

「デンジ君、私の胸まで嫌になっちゃった?」

「好きィ!!!」

 

即答であった。

 

デンジは、そのまま欲望に任せてレゼの胸を触ろうとしたが、一瞬我に帰り寸前の所で踏みとどまり、大きく一度咳払いをした後、改めて丁寧に、壊さぬように優しく包み込むように指先をそっと触れさせる。

 

「え?もしかして今、我慢した?」

 

「まァ、オレは"シンシっ"てやつだかんな!大人のヨユーってやつだぜ!」

 

ニヤける口角を必死に隠して得意げな顔をするデンジだが、レゼにはバレバレである。

それでも、その仕草が愛おしく思えたのか、レゼは堪えきれずにクスクスと笑った。

 

「ね?デンジ君、どうしたい?」

 

「どうしたいって……なにが?」

 

「決まってるでしょ?」

 

レゼはすっと前に進み、デンジの胸板に体重を預けた。

背中に腕を回し、少し身体を押し付けるようにして彼の鼓動を確かめる。

 

「今、ここで、全部?それとも、もったいぶって、後で?」

 

「そ……れはァ……!」

 

デンジの喉が上下に動き、視線が泳ぐ。

答えが出ない間に、レゼはそっと片手を彼の首の後ろに滑らせ、軽く引き寄せた。

 

「ど〜しますかぁ〜?デンジ君〜」

 

近づいた唇が触れそうな距離で、レゼが微笑む。

 

その顔は、先程までの切なげな涙模様と違い、明らかに勝ち誇った色を帯びていた。

 

「ねっ? 私のこと、もっと欲しくなった?」

 

「ぅ……ッ」

 

「もっと触りたくなっちゃった?」

 

「……なっちゃったァ……ッ!」

 

デンジはついに観念したように呟いた。

その声は熱を帯びており、理性と欲望の狭間で戦っているのが見てとれる。

 

レゼは嬉しそうに目を細めると、デンジの耳元に口を寄せた。

そして、低く甘い声で囁いた。

 

「じゃあ……次の宿、ちょっとエッチなとこにしよ…?」

 

その言葉とともに、デンジの顔は限界を超えて真っ赤になった。

 

「エロ女ァ!?」

 

「嫌い?」

 

「超クソ好きィ!!」

 

「やったぁ♡」

 

微笑みながら、レゼはデンジの腕の中でもぞもぞと位置を調整した。

 

逃亡中の二人にとって、宿というのは基本的に"寝床"であって"生活拠点"ではない。

治安も設備もあまり良いとは言えない場所が多く、当然ながらムードを大切にする余裕などもない。

 

だが、それでも、今日ばかりは…仲直り記念日ということで。

レゼは、どこかロマンチックで、安心できる空間を選びたいと思った。

 

レゼの頭の中には、いくつか候補があった。

風情のある古民家風旅館、窓から街灯が見える港沿いのビジネスホテル、あるいは、少し前に流行ったような小さなペンション……

 

そこまで思考したレゼの頭に、一つの宿がヒットした。

 

──決め手になったのは、"夜景"だった。

明かりの消えた街を見下ろし、ふたりきりで静かに過ごす時間。

それは、今まさに揺れ動いているデンジの心情を落ち着け、さらに踏み込むきっかけになるのではないか。

 

 

「決まり。次は屋上のバーがあるホテルにしよう。ロビーも広くて、雰囲気も抜群」

 

「バー……酒?飲んでいいの?」

 

「今日は特別だから…いいよ、デンジ君」

 

「おー!早川のパイセンがいつも飲んでてどんな味か気になってたんだよな〜!」

 

そんな考えのままデンジと話し、先程失った距離を取り戻すように密着しながら、レゼは足早に宿へと準備を始めた。

 

 

 

そんなレゼは、内心ほっと胸を撫でおろしていた。

 

(よかった……なんとか持ち直した)

 

本来であれば、さっきの喧嘩で全てを失っていてもおかしくはなかった。

計画は台無しになり、関係は破綻し、またひとりになる可能性だってあったのだ。

 

あの瞬間、自分の涙や弱々しさを見せたことが逆に効いた──そんな現実に、少しばかり驚きつつも感謝している自分がいた。

 

レゼは、ふと空を見上げた。

夕暮れの西陽が眩しい。

 

(でも……まだ油断できない)

 

彼がまた気分を変えてしまうかもしれない。

何か他のことで興味を逸らされるかもしれない。

明日には別の女性に惹かれているかも──。

 

「なぁ、レゼ。聞いてっか?」

「え?あ、ごめん、ちょっと疲れてて……どうしたの?」

「腹減った。なんか喰いてぇ」

 

デンジの声は、いつものように素直で、シンプルだった。

レゼは、ふっと自然に笑うことができた。

 

「アハハハッ、君は呑気でいいね」

「呑気に生きるのが一番なんだよ」

 

「……そうだね、そう生きれるのが一番良い」

 

そんな会話を交わしながら、二人は夜を迎えるべく町へと繰り出した。

 

デンジのことを、もう少しだけ信じてみてみよう、そうレゼは思った。

 

しかし、その思いとは裏腹に

もし裏切られたら?もし彼が離れてしまったら?

そんな恐怖や疑いは常にレゼの心の奥底で蠢いている。

 

それでも今は、ただ傍にいること。それだけを選んで、少しずつ歩いていくしかないのだ。

 

ふと、レゼはデンジの横顔を見つめた。

 

疲れなんて無いかのように、先程までの怒りなんて忘れたかのように、ただ今日は美味い飯が食えそうだと喜んでいるように見える彼の横顔を。

 

その顔を見る限り、存外彼は本当に先程別れ話手前まで発展した原因の怒りのことなど、とっくに忘れているかもしれない。

 

何回ボコボコにされて酷い目にあって死んでも、次の日美味いものが食えれば帳消し、なんて頭のネジが2、3本じゃすまない数飛んでる事を平気な顔で言う男だ、十分に有り得る。

 

 

そう考えると、どこか拍子抜けしつつも安心感がじわりと広がってくるのを感じた。

同時に、この簡単な性格も少し利用できてしまうのではないだろうかという仄暗い邪推も、レゼの頭に沸いて来る。

 

(……それにしても)

 

レゼは、ここまであっさり元通りになってくれるのはありがたい反面、果たして恥も外聞も捨てて縋り付き、未練がましく引き止めた先程の行為の意味は、なかった訳ではないだろうが、一体なんだったのだろうかと、少し複雑な気持ちにもなるのだった。

 

そんな思いを巡らせながら、レゼは少し俯き加減でデンジの隣を歩く。

すると、不意に手のひらに温もりを感じた。

 

思わず目を向けると、デンジの手がレゼの手をしっかり包んでいた。

 

「……え?」

 

「手、繋いでたら迷わねえだろ」

 

「……バカ」

 

「なっ…なんでェ〜!?」

 

 

 

そんなやりとりをしているうちに、いつの間にか二人の間には笑い声が弾けはじめていた。

あれだけ騒がしかった胸の内も、穏やかな気持ちに満たされて行くのを感じる。

 

「レゼ、行こ〜ぜ!」

 

「まったく……もう、しょうがないですねぇ……」

 

レゼは呆れたように笑いながらも、しっかりと握り返した手を離さず、二人は夜の街へ消えて行った。

 

 

そしてレゼは、心の中でそっと祈る。

 

 

(今日が、最後の一日ではありませんように──)

 

 

 

 










見てくれている人がいればありがとうございます、跳ねないと思うので思う存分暴れます!

でも感想と高評価してあげるととっても喜ぶよ!是非やってあげてね!
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