青春都市のシュタインズ・ゲート   作:赤宮真琴

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 タイトルは「捻れて歪んだ先の終着点」をオマージュして、かつシュタゲっぽく終着点をエンドポイントとルビ振りしました。


奇跡を掴み損ねた果ての終着点(エンドポイント)

 ──世界線変動率(ダイバージェンス)2.202124%

 

 キヴォトス上空75000m、崩れ落ちゆくアトラ・ハシースの方舟内部にて。

 男がコンソールを操作していた。

 

「クソっ! 自爆シーケンスが起動していない……!! これではこのアトラ・ハシースの方舟がキヴォトスに落下してしまう……!! そうなっては、キヴォトスは更地となり滅びるだろう……!」

 

 男の名は岡部倫太郎。このキヴォトスに連れられて来た"先生"である。

 その岡部は、本来起動するはずだった自爆シーケンスが起動していないことに、悪態をついていた。

 

「……そうか、向こうのアロナ("あの子")か! 最後に自爆シーケンスを解除したのか!? どうりでいないわけだ……自分の命を賭したのか!」

 

 自爆シーケンスが起動せず、A.R.O.N.Aがいない。それは岡部の失敗を意味していた。

 

 ──脳裏に、"先生"の最期の言葉が過ぎる。

 

 "生徒達を……よろしく、お願いします"

 

 ──「色彩の嚮導者」プレナパテス。

 

 与えられた名が意味するところは、偽りの先生(プレナパテス)。岡部が守護するキヴォトスを滅ぼしに来た色彩勢力であり──別世界線から現れた、もう一人の先生である。

 色彩勢力とは言うが、実態は違う。細かい経緯こそわからなかったが、プレナパテスが世界を滅ぼすためにやってきたわけではないことは、岡部は既に理解していた。

 

「……失敗した。応えると言ったろうに……とっくに果たせなくなってるじゃないか──!!」

 

 岡部は項垂れる。自分の失敗を、しくじりを深く理解したからだ。

 

 ……正史と言うべきか、所謂"あまねく奇跡の始発点"と呼ばれる世界線(ゲーム本編)と概ね遜色のないルートを、岡部は辿りはした。

 

 しかし、起動するはずだった自爆シーケンスは、プレナパテスのシッテムの箱のメインOS「A.R.O.N.A」によって解除されてしまった。

 

 本来ならばそのような余力はA.R.O.N.Aには無く、プレナパテスと"先生"の大人のカード対大人のカードによる決戦にリソースを割いた事で、無事にアトラ・ハシースの方舟は自爆し消滅するはずだった。

 

 しかし、何の因果か……A.R.O.N.Aが最後の演算能力を費やし自爆シーケンスを止めてしまった。勿論プレナパテスは力尽きてるしシロコ*テラーも戦意喪失。

 つまり色彩サイドは敗北したのだが、最後の最後にA.R.O.N.Aが意地で道連れを敢行したのだ。

 

 この世界線においても、A.R.O.N.Aにそんな事を行える余力は無かった。

 だが、正史(ゲーム本編)とは本当に些細な違いがあったのか……A.R.O.N.Aは実行してしまったのだ。

 

 自らの命を対価に行えなかったはずの自爆シーケンスの解除に成功したA.R.O.N.Aは、教室が無いことも相まり留まることも出来ずに消滅した。

 

 ──その時点で岡部は詰んでいた。"先生"に託された事に応えられず、本人もまた脱出の目処を失った。

 このままでは、キヴォトスも滅ぶ。

 

「ここまで来て……っ! 何度もやり直した、やり直したんだ……その果てがここか……クソっ」

 

 既に岡部は、色彩による侵攻に対して何度もタイムリープを行なっていた。ここまで来るのに十数回やり直しを行なっている。このためだけにわざわざタイムリープマシンをウトナピシュティムの本船に積み込んだほどだ。

 虚妄のサンクトゥムの攻略、アトラ・ハシースの方舟への侵攻。その果てにプレナパテスとの決戦……とてもではないが、一度の"経験"でどうにかできるものではない。

 

 岡部は経験を積み重ねる事で、正解の"選択"を無理矢理導き出してきた。

 

『──大事なのは、経験ではなく選択』

 

「……そうか。"経験を積む選択"をした時点で俺は──」

 

 どこかで聞いた、誰かの言葉。朧げながらも覚えていたそれは、今の岡部には忠告であったと思えた。

 

「……」

 

 倒れ伏すプレナパテス──正確には残骸と言うしかないが──を見やる。

 A.R.O.N.Aやシロコ*テラーの証言で、既に自分とプレナパテスは同一人物ではないということはわかっている。

 

 そして、同一人物ではないということは、自分のような経験と知識がなければタイムリープマシンを作っていないだろうことも。

 つまりプレナパテスは、岡部が何度も繰り返して到達した最善の"選択"の数々を、一度の"経験"で掴み取ってきたということ。

 

 どこかで間違えた先がプレナパテスであるのは、事実なのだろう。

 だがそれは裏を返せば、その状況に至らなかったプレナパテスも存在するということ。

 

 最善の"選択"を、初見で掴み取ってきた本物の"先生"がどこかにはいるはずだ。

 ──なら、その世界線を手繰り寄せる。

 

「──アロナ、自爆シーケンスを起動してくれ、俺はタイムリープマシンをここに持ってくる……!」

 

「しかし、先生。それでは先生が死んでしまいます。私の力では、上空75000mからの落下から守り切ることは出来ません……!」

 

「問題ない、タイムリープマシンで過去に戻るから、ここで俺が死ぬことはない!」

 

 嘘だ。タイムリープマシンの仕組みは、端的に説明すると、人間の記憶をデータ化して、過去の同一人物に記憶データを送信する……というものだ。

 その仕組みの関係上、主観では過去に戻るが、実際の所記憶を送った本人はそのままその時間に存在している。岡部の記憶は過去に送られるが、岡部自身がこの場所、この時間から居なくなることはない。

 ────そしてそれは、A.R.O.N.Aも理解している。

 

「それは……しかし──」

 

「早くするんだ! もう一つ、やってもらわねばならないことがある……!!」

 

「……指示承諾。わかりました。それが、岡部(■■)先生のためになるのなら」

 

「ありがとう……辛い役目を背負わせてすまない。すぐ戻ってくる!」

 

 コンソールにシッテムの箱を繋げ、A.R.O.N.Aにハッキングを行ってもらう。その間に、岡部はウトナピシュティムの本船へ赴く。

 どこもかしこもボロボロで、今にも崩れ落ちそうになった本船の中へ入っていく。

 

「──タイムリープマシンは無事、か……まさか、それもまた収束の結果なのか……いや、今はそれよりも、急がなくては」

 

 急いでタイムリープマシン(電話レンジ(仮))を担いで、ナラム・シンの玉座が形成されている最奥へと急行する。あの場所と、A.R.O.N.Aの助けがなければ、岡部の目的は達成できないからだ。

 自爆シーケンスが起動されたのか、ところどころで小規模な爆発が起きる。シッテムの箱を手放した今の岡部にとって、それらも致命傷になりかねない。

 

 慎重に移動し、ついに最奥へ戻る事に成功した。コンソールに繋がるシッテムの箱を拾い上げ、A.R.O.N.Aに聞く。

 

「アロナ、自爆シーケンスは起動出来たか!?」

 

「肯定。自爆シーケンスは正常に稼働、しばらくすればアトラ・ハシースの方舟は自爆し跡形も無く消滅します」

 

「ならいい、次だ!」

 

 タイムリープマシンとシッテムの箱を接続。キーボードではなくシッテムの箱を使って跳ぶべき過去を指定する。

 A.R.O.N.Aの顔が歪む。

 

「先生。タイムリープマシンは最大で2週間前までしか遡れません……この日付は、そのリミットを大きく超えています!」

 

「タイムリープマシンのリミットは、あくまで確実性が担保される最大日数の話だ! 紅莉栖が作ったタイムリープマシンのリミットが48時間だったのも、あくまで確実にタイムリープが成功できるのが48時間なだけで、やろうと思えばそれ以上遡るのも不可能ではなかった……危険が多く、当時はしなかったが──!」

 

「先生……それはつまり、このタイムリープマシンでも同じ事が言えるはずです。危険です、一体どうなるか……」

 

「そこでアロナの出番だ! この最奥に構築されたナラム・シンの玉座を、アロナが制御することは出来るか!?」

 

「……肯定。出来ます」

 

「よし、なら今すぐやってくれ! ナラム・シンの玉座によって構築された混沌の領域であれば、タイムリープマシンのリミットを無視して確実な時間遡行を可能としてくれるはずだ! その上で、アロナ! 君の演算能力があれば……!!」

 

 ナラム・シンの玉座によって構築される混沌の領域は、次元・時間・実在の有無が肯定されずに混ざり合った領域。つまり、あらゆる全ての事象が曖昧となる空間。この空間内でかつ、A.R.O.N.Aの演算能力があれば、リミットを大幅に越えようと、タイムリープすることは可能だと岡部は考えた。

 事実それは正しい。ただし、それはA.R.O.N.Aが協力することが前提だ。

 

「……拒否。嫌です……」

 

「……アロナ? なにをしている、時間はもうないんだ! 一刻も早く過去へ──」

 

「確実性がないです。それに、それに……先生はきっと、過去に戻って()()()()()()()()()()()()

 

「アロナ……」

 

「そうなれば、先生が今日この日までに繋いだ生徒達との絆は全て、無かった事になります。昨日まで親しかった人物が、全くの赤の他人になるんですよ! 岡部先生には耐えられるのですか」

 

「……今までのタイムリープでも、何度も味わってきたことだ。今更それで止まるほど──」

 

「……なにより、私が、私の手で──私と岡部先生が他人になる過去改変をしなければならないというのが、私には耐えられません!」

 

「アロナ──」

 

 泣き腫らした目で、A.R.O.N.Aが岡部を見ている。そんなA.R.O.N.Aを見て、岡部の脳裏を今は無きあるAI(アマデウス)が過ぎる。

 だが、それでも。

 

「アロナ、聞いてくれ」

 

「拒否、嫌です聞きません」

 

「聞くんだ! いいか、ここで跳ばなければ、俺は死ぬしキヴォトスも、結局滅ぶ。俺が"先生"である限り、今日この日を乗り越える事は出来ない。それが、この世界線の収束──運命だ」

 

「嫌です……そんな運命なんて、私は……」

 

「──だから変えるんだ、運命を。世界線を変動させ、プレナパテスを俺が導き、世界を救う救世主にする。そして……シュタインズ・ゲートに到達する!」

 

「シュタインズ……ゲート──」

 

「そうだ、かつては俺が創作したただの厨ニ病の産物だった……だが、タイムマシン理論を研究した今は、断言できる──シュタインズ・ゲートは実在する! なによりこのナラム・シンの玉座によって構築される混沌の領域は、言うなればシュタインズゲート空間とも言える……ここに今、限定的とはいえシュタインズ・ゲートが存在しているのだ、実在は確実だ!!」

 

 その言葉は、A.R.O.N.Aに向けたモノであったが、同時に岡部自身を鼓舞する虚勢が半分は含まれていた。

 

 シュタインズ・ゲートとは、タイムマシン理論を研究してきた岡部が辿り着いた、唯一絶対の解。

 その正体を言えば、世界線ごとに決まっている運命……アトラクタフィールドの収束を掻い潜り、不確定な未来を進む世界線。何も確定していないからこそ、何者の絶対の運命も回避できる。

 

 それは奇しくも、混沌の領域と似た結論であった。それは岡部にとって希望にもなりえる代物だった。

 

「岡部倫太郎では駄目だった。偽りの先生(プレナパテス)でも駄目だった。だが────まだだ。まだ、やれる」

 

「……先生?」

 

「頼むアロナ……! 俺の、最後の賭けなんだ──!!」

 

「……承諾。わかり、ました……」

 

「ありがとう、そしてすまない。辛い任務を与えてしまって……代わりと言っては、だが」

 

 岡部はシッテムの箱に大人のカードをそっと添える。ここに来るまで多くの奇跡を起こして来た、"先生"の切り札。

 A.R.O.N.Aの守りが"先生"の盾ならば、大人のカードは戦う力のない"先生"に与えられた矛と言える。

 

 そしてそれは、"先生"のモノであって岡部のモノではない。岡部の目論見が完遂すれば、大人のカードもまた、岡部の手から無くなるだろう。

 事実、岡部が生きたβ世界線において、大人のカードはとうの昔に役立たない紙切れへと成り下がり、岡部は持っていなかった。

 この大人のカードは、あの日岡部を守った生徒(連邦生徒会長)から渡されたモノだった。

 

 そしてどういうわけか、タイムリープしても新品になったり、使う前に戻ったりはしなかった。この大人のカードも、なんらかのオーパーツだったのかもしれない。

 

 草臥れ、負傷して流れた血がこびりつくカードは淡く光を灯す。

 

「コレは持っていけないだろう。アロナ……君にあげる。プレゼントというには、似合わないが」

 

「先生……」

 

「──さぁ、始めよう。頼むぞ、アロナ!」

 

「……はい」

 

 アトラ・ハシースの方舟の自爆が始まる。と、同時にタイムリープマシンが放電現象を始める。起動が始まったのだ。

 

「ありがとう、アロナ」

 

「先生……?」

 

 ヘッドホンによく似たデバイスを頭にセットし、タイムリープ時間の設定を行う岡部。そんな中、岡部はA.R.O.N.Aに感謝を述べた。

 

「"先生"に、よろしくな」

 

「先生──はい。任せてください」

 

「……っ、跳べよぉぉぉっ──────!!」

 

 瞬間、岡部の意識(記憶)は、暗転した。

 

 そして、世界線が変動し────世界は、再構築される。

 

 ────世界線変動率(ダイバージェンス):2.202124%

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「────オカリン!? オカリン!」

 

 

「……戻って、きたのか」

 

 

「……オカリン? 戻ってきたって……もしかてタイムリープを!?」

 

 

 携帯端末からは、懐かしき相棒の声が聞こえる。

 周囲を見回す。その光景は岡部が日本で見た最後の光景と一致している。

 

 繋がっている携帯端末へ話しかける、かつての相棒へ。

 

「ダル。聞いてくれ、俺はこの後ストラトフォーに捕まる」

 

「オカリン、やっぱりタイムリープを……わかった、回収に人を回すよ」

 

「いや、それには及ばない」

 

「オカリン?」

 

「……俺はこの後、ヘイロー……まぁ、特殊な人間に助けられる。そしてその人間の手助けをして生きていく」

 

「ど、どゆこと!? ……もしかして、洗脳でもされたん?」

 

「洗脳されてたらこんなこと口走らないさ。ダル……この世界線において、俺は2025年──今日この日に死ぬ……というより、世界からいなくなるんだ」

 

「それが……その特殊な人間の手助けの結果なん?」

 

「あぁ、恐らく変えれば今度こそ本当に死ぬだろう。あるいは収束でそうなる運命なのかもしれない。ともかくだ、俺は死なない……だが、これ以上共にはいられない。悪いが、タイムマシンやワルキューレの事は任せる他ない」

 

「わ、わかった……任せてよオカリン。そっちは……大丈夫なん? その、タイムリープしたってことは……」

 

「色々あってな……悪いが時間もなく、軽い説明しか出来ない。キヴォトスは色々と、こっちの常識で測れないことしかない。それでも、信じてもらうしかない」

 

「キヴォトス? 聞いたことないな……組織名?」

 

「いいや、都市の名前だ……ともかく、これだけは言える。世界は騙せる! 2025年に死ぬと言われた俺は、2025年を超えて生きることが出来た。つまり、アトラクタフィールドの収束は誤魔化す事はできる! この情報を活かしてくれ、ダル。それじゃあな……もう、会えることはないだろう」

 

「オカリン……わかった。こっちは任せて! オカリンはオカリンのすべきことをやってくれ!」

 

 通話を終える。そして、運命に身を委ねるように……ストラトフォーに捕まった。

 

 ──そうして、運命は収束する。

 

「ターゲット確保。帰還します」

 

「待て! なんだ──子供が!」

 

「じゅ、銃が効かない! 救援を求める!」

 

「ターゲットロスト! 子供に奪われました!!」

 

『──リンターロ……!』

 

 

 かつて岡部が経験した通り、ストラトフォーはヘイローを持つ生徒……連邦生徒会長に助けられた。

 

「ふ……ふふ……くくく……はじめまして、だな──連邦生徒会長」

 

「────何故、私の事を……まさか」

 

「そうだ……俺はタイムリープをして今日この日に戻ってきた……」

 

「そう、ですか……岡部さん」

 

「ふ、違うぞ……連邦生徒会長」

 

「えっ」

 

 くわっと眼を見開く。今まで封印されてきた、狂気を表出させる。

 それこそが、岡部倫太郎の覚悟。"岡部倫太郎"の最後の"選択"。

 

「──我が名は……凶真! ラボメンNo.001! 混沌を望み、世界の支配構造を覆す狂気のマッドサイエンティスト────鳳凰院、凶真だ!!」

 

 岡部倫太郎では駄目だった。失敗してしまった。

 プレナパテスもまた、失敗してしまった。

 

 だからこそ、岡部倫太郎は"選択"した。

 

 善良な人間、連邦生徒会長が選んだキヴォトスを股にかける"先生"岡部倫太郎ではなく。

 

 混沌を望む、狂気のマッドサイエンティスト……悪い大人を気取る鳳凰院凶真として、キヴォトスに赴くことを。

 

「これが……この俺の、"選択"だ!」

 

 ────世界線変動率(ダイバージェンス):1.202124%




 このオカリンは、β世界線から分岐したオカリンです。具体的には

 ・β世界線で紅莉栖を救うのに失敗→ゼロリンと違い心折れずにもう一度のラストチャンスに賭ける(この世界線ではそもそも執念オカリンからのDメールはなかった)→アトラクタフィールドの収束により失敗

 ・ゼロリンとは違い心折れずにタイムマシン開発を目指す。未来に戻れなくなった鈴羽を連れ立って、ヴィクトル・コンドリア大学に転入する。この際、鈴羽は偽名として「橋田鈴」を名乗る。

 ・色々あって結局第三次世界大戦勃発。比屋定真帆と鈴羽を連れ立ってワルキューレを組織し、ダル達と合流。

 ・2025年、ストラトフォーに捕捉され捕まりかけたところ、連邦生徒会長によって救出されキヴォトスに赴く。
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