かごめ謌《ウタ》から七つの祝い   作:

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祝い、ひとつ

かごめかごめ

 

 

 

籠の中の鳥は

 

 

 

いついつ出会う

 

夜明けの晩に

 

 

後ろの正面だあれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

「死ぬるを拒むはおとろしい

肉叢《シシムラ》を生かして

如何する

糞袋が詰まっただけの死人に

お前は

何を詰めるのか

骸が在るのは

おとろしい」

 

 

 

 

■■■■

 

 

切嗣は、古書店で暇潰しに購入した小説の一節を諳じた。

内容は、大正を時代背景にした退廃的なポルノ。

主人公は、ごく普通の男が偏執狂となり、破滅する…というものだ。

作家は後書きで『きっかけと可能性は道端の石ころの様に無数。突然貴方がそうなる事もあるのです。』と語っている。

あくまで可能性の話だ。

だが、この作家の預かり知らぬところで感銘する一人の男がいた。

つまり、作家曰くそうなる可能性がある人間。

…ーそうこの衛宮切嗣だ。

 

 

「全くその通り、いやはや驚いた!」

 

 

(この作家は、僕の頭の中でもみたのかねぇ)

 

余りに主人公と、自身がやろうとしている事が似通っていた為、思わず笑ってしまった。

あの大災害で、切嗣が見つけた〟奇跡〝は全てを無くした。

文字通り全て。

『家族』『記憶』『自分』『感情』等々、生まれてから得る全ての人間を人間足らしめる構成要素全てだ。

無という事実を感じる事すら、その子供は無くした。

空っぽの肉の塊…それが〟奇跡〝である【士郎】と云う子供の今だ。

更に云えば、名前すら子供の本当の名前かどうかも怪しい。

大災害は、記録も燃やしたのだから。

地獄に希望は存在しない。

絶望もない。

在るのは亡い。

無理やりに存在させるとすれば、地獄という純然たる現実だろう。

そんな中で衛宮切嗣は、士郎を見つけたのだ。

悲劇と呼ぶのも生易しい中で見つけた士郎は、その瞬間から、切嗣の盲執の対象に成った。

病院で、士郎が目覚めた時の高揚感、士郎が養子を承諾した時の幸福感、士郎が自身を唯一の庇護者と位置付けた絶対感。

この業深き幸せ!

堪らないのだ。

切嗣は、自身が生きる限り士郎を離せないと確信している。

否、〟離さない〝が正しい。

自分は、死んでも償えない罪を背負った。

その事実が余計に切嗣を追い詰め、最後に残った士郎にすがり付く事を根深くさせた。

喪い続けた男の、漸く掴んだ『救えた命』は、自分と同じようになにもかも無くした士郎。

同じという事が何よりも……………………………嬉しかった。

歪んでいるのは判る。

それでもただ、嬉しかった。

 

「愛しているヨ、士郎」

 

誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも誰にも渡さない。

 

「愛してる」

 

未だ痛々しい痕を残す『息子』の寝顔を観ながら呟いた。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

伊弉冉《イザナミ》は軻遇突智《カグヅチ》を産んで焼け死んだ。

軻遇突智は怒り狂った父に誕生直後に斬り殺された。

斬られた軻遇突智からはまた神々が産まれた。

生は死を、死は生を循環する。

ならば……あれは確かに産屋だった。

妻は、聖杯を生んで死んだ。

僕はそれを破壊して、悪魔を撃ち壊した。

悪魔は…………最後に未曾有の惨劇を冬木に降ろした。

国産みの神々の様に。

…産んで死んだ。

子供は今、『産まれた』んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まっか

 

まっくろ

 

ガレキ

 

こげこげ

 

いたい

 

アツイ

 

くるしい

 

ウルサイ

 

へんなコエ

 

おそらはオレンジ?

 

ジベタはイチゴ?

 

だれだろう

 

クサイな

 

ぐらぐらする

 

ここはおうちじゃない

 

おうち?

 

なんだよそれ

 

オレはだれだろう

 

わかんないヤ

 

ぐるぐるまわる

あれ?

 

からだがうごかないな

 

なにしてたんだっけ?

 

ウゴクまっくろがきた

 

『 』

 

うれしいの?

 

ないてる

 

なにいってるのかな?

 

むぅ…わからないや

 

 

 

これが衛宮切嗣と、衛宮士郎になる子供の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

次に子供が目覚めた場所は、災害地から離れた病院だった。

 

(さっきまで変なところにいたのに?

からだ中にバンソウコーやガーゼで、痛い。

 

 

 

 

 

 

(回りがまっしろでなんかやだな)

 

欠落した子供は、暢気にそんな事を考えた。

収容された病院は、未だ阿鼻叫喚の最中だというのに、全く動じていない。皆忙しそうだな、と…職員が駆け回る姿をただ観ていた。

 

(そういや、おれだれなんだろ?)

 

と、最大の関心事を傍観者の側から、子供は自分を考える。

怯え、泣き叫ぶ事なく、ただありのままの自分を。

記憶はない。

ならば、記録を探してみようかと異常な状況を更に破綻した思考で、子供はこれからを思案する。

関係者や見舞い客、患者に訊いて子供は現在を知った。

 

 

断片的な情報ではあるが、紛れもない事実がその中にある。

 

 

 

壱・大災害があった事

弐・数え切れない死傷者が出た事

参・中心部の生き残りは自分だけ

四・自分は空っぽな事

 

 

 

子供が判った事実は4つ。

悲惨…と云えば良いのだろうか?

当人が理解できない惨劇を…?

哀れな子供は、嘆く事すら亡くした。

子供は、ただ身体の回復だけに専念し、考えるのを止める。

他にする事がないからだ。

 

 

 

コンコン

 

 

 

軽いノック音が個室に響く。

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは」

 

入って来たのは、医者でなかった。

黒い草臥れたトレンチコートに、黒いスーツに使い込まれた革靴。

陰がさした顔の男は…確か…、

 

「オレ…知ってる」

「あぁ覚えていてくれたかい?改めて自己紹介するね…僕は衛宮切嗣だ」

 

男・衛宮切嗣は子供の目線に合わせ、身を屈めた。

敢えて切嗣は、残酷な質問をする。

 

「君は?」

 

判っている。

子供は〟空っぽ〝だ。

かろうじて在る名前さえ、子供は簡単に答えられない。

切嗣は子供がどこからどこまで『自身』が残っているか確かめているだけ。

 

 

 

 

この子供の中に、少しでも今までの残滓があれば良い…と願う一方で…切嗣は、何もかも無ければ良いと思う。

そうでなくばならない。

糞以下の満足だと、よく理解してはいるのだ。

だが、男にはもうこの哀れな残骸しかよる辺が無い。

無くしたのは、己だ。

だからだ。

自責も後悔も赦しも……迎えに行く事もまだ出来ない。

だからこそ『外道』は見つけた〟奇跡〝を〟捕〝りに来たのだ。

無垢な赤子の彼を掌中で、慈しみ守る為。

切嗣は、子供の答えをじっと待った。

答えは決まっている。

 

「…わからない」

 

切嗣は充足感に震える。

 

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