かごめ謌《ウタ》から七つの祝い   作:

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祝い、よっつ

 

 

■■■■

 

 

「お早うございます、士郎です」

 

朝食を取っていた大河は、弟分の来訪に驚く。

あの騒ぎから一夜明け、一応の落ち着きを見せてはいたが、やはり彼らの姿を見なくては安心出来ない。

なので、大河は朝が来たら直ぐに衛宮邸に行くつもりでいた。

なんにも食べずに、早朝から行く気の孫娘を止めたのは祖母だ。

いくらなんでも迷惑が掛かるので、お止しと言われて渋々大河は朝食を取っていた。

その時に、士郎が藤村組へ挨拶にやって来たのだ。

 

「あらまぁ士郎ちゃん!どうしたの?朝から」

 

玄関から、母の声がする。

母の獅眞子《シマコ》は、大河同様何も知らない。

知らないが察しが良く、夫や両親が自身や娘に関知して欲しくないか否か判断し、今回の騒ぎもしゃしゃり出る事をせず、傍観に徹していた。

そうはいっても、やはり可愛いお隣さんが、心配だったのも確か。

何が周囲であったのか、探るつもりはない。

ただ、この可愛いお隣さんが無事であった…それで充分だ。

 

「お早うございます、おばさん。これ…みんなにお土産」

 

士郎は、持っていた袋を渡す。

中には、藤村組の好きな酒瓶が二本入ってた。

 

「まぁありがとう!重かったでしょう?」

「平気。それとごめんなさい」

 

士郎は、ぺこりと頭を下げ、謝罪する。

獅眞子はビックリして、顔を上げさせた。

 

「どうして士郎ちゃんはゴメンナサイするの?」

 

困った獅眞子は、士郎の頭を撫でる。

士郎が、口を開こうとしたその瞬間…、

 

「しろ------う!!!!」

 

娘・大河が廊下を疾風の如く駆けて、そのまま玄関にいる士郎に飛び付いた。

 

駆けてきた勢いそのままに、目の前の幼子を叱る。

 

「馬鹿バカばかっ馬鹿士郎!!お姉ちゃんがどれだけ心配したかわかってるのっっ!いきなり居なくなって…すごく心配したんだからねっ」

 

ぐずぐずと泣きべそをかき、無事で良かったとこぼす大河に、士郎は素直に謝る。

 

「わるい…藤ねぇ…」

 

優しく、姉代わりの背に手を伸ばすと、更にぎゅうっと抱き締められる。

 

「…もう良いよ…けど、次は絶対連絡して?じゃなきゃ…もう遊んであげないから…」

「うん、約束する。絶対連絡するよ」

「切嗣さんもだよ?」

「わかった…爺さんにもキツ〜くゆっとく!」

 

そんな微笑ましい子供達の姿に、獅眞子は安堵した。

 

「さぁさ、士郎ちゃんも大河も中に入って頂戴。いつまでも此処にいたら冷えちゃうわ」

「あっそうだね!士郎ほら!」

「え!?イイよっこんな早くからお邪魔だなんて」

 

どうやら土産を渡したら、すぐ帰る様だったらしい士郎に、二人は顔を綻ばせ、士郎の小さな手を両側から掴んだ。

 

「「だ〜め!」」

 

二人は声を揃え、帰宅を許さない。

 

「おばちゃん達に心配かけた罰よ、士郎ちゃん?」

「士郎はお姉ちゃん達とお茶で〜す」

「えぇー!?」

 

ズルズルと、引き摺られて行く士郎を見掛けた藤村組は、二週間ぶりに和やかな雰囲気になった。

そんな三人の後ろ姿を、見送る影が二つ。

 

「どうやら見た限り大丈夫ですね」

「…そうだな」

 

影は祖父・雷画と父・虎堂だ。

 

「後は頼む」

「お気をつけて…」

 

 

 

 

■■■■

 

 

雷画は、士郎が衛宮邸を離れるのを待っていた。

士郎が居ては、やりずらい。

何せ詰問する相手は、彼の義父であり、この騒動の主。

その上、一筋縄どころか何重縄しようがいかない、どうしようもない厄種。

 

「やぁお待ちしてましたよ…組長」

 

全く気が重い。

既に、相手は待ち構えていた。

どうぞ、と邸宅に誘われるが、魔窟に落とされた気分だ。

 

「粗茶ですが」

 

庭園が、よく見える和室に二人はいた。

良く手入れされている。

 

普段ならば、気に入りの煙管を吹かしているところだ。

 

「衛宮の兄さんよ、折角の持て成しは有り難ぇが遠慮すんぜ?わかってんだろう…」

切嗣は、玉露の薫りを楽しみながら、一口含んでから返す。

 

「何がです?」

「儂が此処に来た理由さ、まわりくどいのは嫌いでな…単刀直入に訊く。あんた…二週間行方眩まして何してやがった?」

 

薄く…猫の爪の形の様な弧を描き…彼は嘲笑う。

 

「もっと言えゃ、ちびに何しやがったんだ?」

 

 

 

チュ チュンチュン

 

 

 

雀が、庭の木になる実を目当てに、翔んできた。

やけに鳴き声が鮮明だ。

天道は明るく輝いて、惜しみなく平等に、恩恵をもたらしている。

………こんな不似合いな場所にも……。

 

「二人、親子二人で休み中冬木を観光してました」

 

幸せそうに、話す。

 

「何処へ行っても、あの子は嬉しそうで、僕も年甲斐なくはしゃいじゃいましたよ」

 

語りは、続く。

 

「僕はよく海外へ行ってきましたが…もうその必要もない。ふと…行ったドイツでね、士郎を思い出しました」

 

玉露は、冷えている。

 

「でね…我にかえりました。大事な愛息子を寂しいままにさせていたなんて、なんて事だろうって…」

 

「それで?」

「ハイ、それで勢いのまま親子水入らずの旅行をした訳です。今までの分とこれからも寂しい思いをさせない決意を込め、ありったけの愛情を伝えました」

 

言っている心情は本当だろうが、行動は違う。

目的は合ってる。

問題は手段だ。

切嗣は、確かに士郎を『父親』として愛している。

それ以下でも、それ以上でもない。

この完全に壊れた奴は、既存の愛情伝達では足りないと、更に『愛情』を示す為に手段をはき違え、道徳観など捨て、全てを幼い士郎の中に満たした。

同時に、切嗣も満たされた。

今、互いの中には互いがいる。

刻んで・囁き・すがり・笑い・赦し・互いの孔《アナ》を満たした。

これは『性行為』ではなく、あくまで只の手段。

父から息子へ送る、あらんかぎりの愛情を、最も理解できる方法で、切嗣は息子に愛情を捧げたに過ぎない。

と、切嗣は真剣に思っている。

 

「小さな身体で僕の溢れて止まらない愛情を、あの子は受け入れてくれた!嗚呼っなんて可愛いのでしょうっっ」

 

雷画は、冷めた茶を切嗣におもいっきり掛け、胸ぐらを掴み、卓上に引き倒した。

常に携帯している小太刀で、居合い一閃。

剣先を、喉元につける。

 

「これ以上喋んな」

「残念!もっと語り合いたいのに」

 

切嗣も、負けてはいない。

居合いのタイミングを、わざと雷画が嫌うであろう話題にする事でずらし、自身の愛銃を初動で素早く出す為、敢えて【宝物の思い出】話したのだ。

引っ掛かてくれなければ、苦労が水の泡だ。

完全なる拮抗状態。

雷画は、切嗣の喉元に剣先を突きつけ、切嗣は雷画の額に銃口を向けている。

 

「やりますね」

「お前さんもな」

 

武器をしまい、定位置に戻る。

少し荒れはしたが、部屋は綺麗なままだ。

 

「再度言いますがね、僕は本当に心底『父親』として…士郎を愛している。それを誤解してもらっては困る」

「…ならなんで」

「体の繋がりは単純明快だからですよ、非常にわかりやすい」

 

無駄とわかっていた。

それでも、言わなくては。

 

「てめぇは歪んでいる…」

 

切嗣は、真っ直ぐ正面の雷画を見ながら…。

 

「だからなんです?」

 

欠けた湯飲みを取る。

 

「あなた方から見たら歪んでいるでしょう、だがねそんなモン数ある愛情の一つに過ぎない。伝え方も千差万別。何が正しい示し方か誰も明確化出来ない。だけど…だけどね僕は確かに士郎を愛している!僕の全てなんです!士郎と僕の邪魔をするなら…容赦しないどころか地獄も生温い場所へご案内しますよ」

 

雷画はただ、聞くしかない。

 

「…僕だって…幸せに生きたいんです…」

「…そうか」

 

これ以上言える事など無い、この男は判っていたのだ。

己が破綻した事を。

狂気の自覚は、恐ろしいだろう…敢えて受け入れたこの男の過ちを、もう責めるなど出来ない。

 

「邪魔したな」

 

これ以上は無駄だ。

更に追及すれば、奈落が待っている。

それは、老人の本意ではない。

 

「藤村組長」

「なんだ」

「士郎は…僕との事は覚えていませんヨ、意識が混濁する薬剤を使用しましたから」

 

切嗣に、残った理性がそうしたのだろう。

自分との情事を覚えていて欲しいが、忘れて欲しい…そんな葛藤があった。

 

「衛宮の兄さんよ、前に儂が言うた事覚えているかい?」

「……」

「『とっととくたばれ』っていったのさ」

「…えぇそれなら覚えてます…しっかりとね」

 

何故か、互いに笑みがこぼれた。

 

「覚えてんじゃねぇか」

「心底僕もそう思っていますから」

 

雷画はその言葉を聞き、衛宮邸を後にした。

残された切嗣は、一人ごちる。

 

「だけどもう…手遅れなんだ」

 

何故か涙が流れた。

 

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