かごめ謌《ウタ》から七つの祝い   作:

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呪い、ご

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ安心した』

 

 

 

月の綺麗な夜。

縁側で壁に凭れ、彼の人は逝きました。

それはそれは穏やかに。

幾重に繋がった不遇の連鎖。

心残りは有ったに違いないのです。

どれだけ叫びたかったでしょう。

嘆きたかったでしょう。

それとも、出来ぬ位の錘だったのか。

今となってはわかりません。

だけれど…だけれど…あの彼の人が哭いた夜半(ヨワ)が在りました。

七日目の褥に。

鉛の匂いの花が散りました。

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

衛宮切嗣が死んだ。

士郎が引き取られて、五年目に。

残された子供は泣きわめく事はなく、静かにしている。

葬儀は藤村組が執り行い、つつがなく進んだ。

墓も生前柳洞寺に、切嗣と藤村組が手配した場所に、埋葬する予定だ。

まわりの大人達は、士郎があまりに泣かないのは、許容仕切れない悲しみのせいだと、勝手に理解していた。

 

 

 

 

■■■■

 

 

そうして、切嗣の葬送が総て終わり四十九日の日。

遺品整理の時にソレは、出てきた。

 

「なんだ?」

 

紙切れ、いや写真だ。

写っているのは、振り袖を着た幼子。

 

「七五三か?でもなんで此処に…」

 

この家は、自分と義父しか住んでいない、ならば以前の住民の忘れものだろうか?

まじまじと写真を眺めていると、ある事に気付く。

 

(この子…知ってる)

 

既視感などという、なまなかなものでは無い。

確信だ。

何故、これがある?

いつ撮、ったのだろう?

どうしてこんな格好を?写っていたのは、今より少し幼い士郎だった。

ぐるぐると混乱した頭が痛む。

頭痛は酷くなり、士郎は立っていられなくなり、遂にはその場にうずくまってしまった。

 

「いっ…た…」

 

誰か…助けて!

そう叫びたくても、痛みのせいで声が出ない。

絶え間無い激痛の中、音が聞こえた。

音が鮮明に為るにつれ、音律を伴い流れてきた言葉は…歌だ。

士郎の頭の中で、誰かが歌っている。

歌声が、大きくなる。

頭痛が、消えて行く。

 

(……だれ……声…きいた……うた………あぁ…これ……は……)

 

〟切嗣だ〝

 

そこで視界は暗転した。

 

 

 

 

□□□□

 

通りゃ■せ ■りゃんせ

ここはど■の 細通じゃ

天神様の ■道じゃ

 

ちっと通して 下■ゃんせ

 

御用のな■もの 通しゃせぬ

 

この子の七つの お祝いに

 

■札を納めに 参ります

■きはよいよい 帰りはこ■い

 

こわ■ながらも

通りゃん■ 通りゃんせ♪

 

 

ジジッ…ジ…

 

 

壊れかけの蓄音機に時折かすれながら、レコード盤は、針と共に懐かしい曲を奏でる。

ボサノヴァやシャンソンなら、また一段と引き立つであろう骨董品は、詠み人知らずの童謡を爪弾く。

夕焼けの色が眩しいこの部屋で。

士郎は、一人微睡みながら聴いている。

部屋は何処までも広く、しかし出入口は無い。

唯一ある丸窓は格子が填められ、単なる飾りの様だ。

士郎は、奇妙な和室の真ん中に寝っころがっていた。

すぐそばには、あの蓄音機。

 

針は止まることなく…奏でる。

曲が切り替わり、今度は童謡ではなく、無数の声になった。

 

 

 

〈士郎の為に〉

僕の為に

〈父親になるんだ〉

家族になりたいんじゃない

〈この子を守る〉

僕だけ見ろ

〈幸せになってくれ〉

一人は厭だ

〈空っぽだ〉

がらんどうに僕だけを

〈愛している〉

愛して

〈何もかも無くした〉

僕だけの人形

 

 

 

自制と欲求の葛藤。

この叫びは切嗣が死ぬ迄、泥の呪いと等しく、渦巻いて…彼を壊していた。

また切り替わり、曲が流れる。

 

 

♪かごめか■め ■の中の鳥は いついつ出会う 夜明けの晩に ■と■が滑った ■■の正面だあれ ♪

 

 

ジジ…ジ…ジ…

 

 

蓄音機は、童謡と切嗣の嘆きを交互に流す。

不気味なこの密室で、士郎はただただ…聴く。

 

[ねぇおもいだした?]

 

カリリッと針がレコード盤を削り、蓄音機が鳴り止む。

突然の問い掛けに、後ろを向くとそこに写真と同じ姿の……………、

 

 

 

 

自分が居た。

 

 

 

 

蓄音機は消えて。

 

 

静寂。

 

 

真っ暗闇。

 

 

問い掛ける。

 

 

自分が居た。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

『「眼前にあるのが私の罪なのです。其れでは皆様サヤウナラ」

アタクシの戀人は、欄間から荒縄を下げ父様と母様と御役人の方にそう御挨拶為さると、アチラに逝かれました。貴方の罪とは、なんなのでせう。アタクシですか。わかりませぬ。

一人此岸にあるアタクシは…。

嗚呼得心致しました。

アタクシは貴方の罪。

ならば罰はどちらに在りなさる?』

 

ー蠱崎かなゑ:著[虚無への供物よ]ー

 

 

 

 

□□□□

 

 

[ねぇおもいだした?]

 

これは暗示。

義父・衛宮切嗣が遺した後催眠。

我が子を想う『父親』としての切嗣が、わざと無い事にした記憶。

けれど、『切嗣』を愛する為だけに生きて欲しいというエゴイズム。

彼が士郎に忘れていて欲しいのも、真実。

だがどんなに押し込めても…淀みは消えない。

迷いは見付ける確率が半々な『写真』として遺した。

 

 

【写真を視れば思い出す。】

 

 

これは賭けだった。

切嗣が、士郎に語った理想は真実。

誓いも最期の言葉は偽りなど無い。

だからこそ借り物の理想は、幼子の中に根付いた。

魂元を抉るほどに。

故に、これも真実。

切嗣が『遺したい』のは、膿んだ傷口の様にジクジクと苛み痛み続ける………『愛情』。

切嗣は、どれだけ懊悩したのか?

悍ましい情念に、士郎は震えた。

いつの間にか蓄音機は消え、代わりに古びた映写機が真暗い部屋にあった。

ピッチリと閉められた和室の中で映写機は、黄ばんだ襖に八㎜フィルムに収められた記録を暴く。

 

[キリツグ が おれ に した の これ だよ]

 

ーーー映像に音は無い。

しかし映し出された映像は音などなくとも、充分に伝わる。

残酷劇(グランギニョル)としては、拍手喝采客席総立ちの素晴らしい演目に違いない!!

哀れな幼子が蹂躙される姿のなんと痛ましき事かっ

 

[わすれていい めが さめたら わすれて いい]

もう一人の士郎は士郎に語る。

 

[でもいま だけ キリツグの キリツグだけ の しろう で いよう?そしたら せいぎの みかた になろう]

 

士郎は泣いた。

士郎も哭いていた。

 

 

 

二人は啼いた。

 

 

 

切嗣は嗤う。

己を嗤う。

 

目覚めた子供は、惨劇を完全に忘れる。

それで、良い。

全て泡沫。

たが…夢の残骸が時として現実を蝕む。

それこそ………真に望んだ願いでないか?

思い出してはまた忘れ、忘れてはまた思い出す。そうしてベッタリとこびりついた物こそ…。

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

いつの間にか、眠っていたらしい。

時計の針は、真夜中。

 

「俺…片付けしてたのに…」

 

切嗣の遺品整理は、まだ終わらない。

うたた寝なんてしてしまったおかげで、今日の分はもう無理だ。

 

(あれ?そういえば頭痛…消えてる…まぁいいか)

 

仕方なく、切嗣の部屋から辞そうとした時、違和感を感じた。

違和感は、握りしめた両拳。

ゆっくりと開いていく。

中には真っ二つに千切れた写真。

 

「…これ俺?」

 

写っていたのは、振り袖の自分と義父。

ヒラヒラと、何気なく写真を裏返ししたりして眺めていたら、写真の裏側に文字が書いてあるのに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〟また会えたね〝

 

ーと、短く書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<終>

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