ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ヤグルマの森の湿気と、アーティさんの強烈な個性に当てられた僕らの前に、それは突如として現れた。
空を貫くような巨大な吊り橋、スカイアローブリッジ。
一歩踏み出した瞬間、カメラが僕らの背後を回り込み、空を映し、海を見下ろし、まるでハリウッド映画のような大パノラマを展開し始めた。
「……なあ、チェレン。見てよ、この視点。ゲーフリさん、これ絶対『俺たちのDSはここまでできるんだぞ!』っていう、スペックの暴力だよね!? 景色が凄すぎて、僕の三半規管がラグを汚された時以上の悲鳴を上げてるんだけど!!」
僕は、あまりの高度と画面の回転に足元をふらつかせながら絶叫した。
「やれやれ。主人公、君は技術の進歩に身体が追いついていないのかい?」
チェレンが、激しく動くカメラワークの中でも一切乱れないポーカーフェイスで眼鏡を直す。
「これはドット絵と3Dの融合が生んだ、イッシュ地方の『威信』そのものだ。君のような『昨日まで四九三匹のドットしか愛せなかった男』には、この情報量は毒かもしれないね。……あ、僕は後でこの橋の設計思想について、土木工学の観点から論文を一本書くつもりだよ」
「橋を渡るだけで賢くなろうとすんなよ、チェレン!!」
「あわわわー!! 景色が広すぎて、どこを見ればいいかわからないよー!! ……あ、待って、前方から走ってきたランニング中のおじさんと正面衝突して、五メートルくらい弾き飛ばされちゃった! ……ヒック。でも大丈夫!」
ベルだ。彼女のドジは、都会の巨大建造物の上でも広角レンズでバッチリ捉えられていた。
「見て見て、主人公! 向こうに見えるのがヒウンシティ!? すっごいビル! 私、あんな高い場所でパパに電話したら、少しは私の声も遠くまで届くのかなー!? ゲーフリさん、そういう『電波状況による親子の和解』も実装してくれてるのかなー!?」
「ベル、物理的な高さで解決しようとするなよ!!」
橋を走り抜ける爽快感。だが、その巨大すぎる建造物は、僕らに「一人のトレーナーの小ささ」を突きつけてくるようでもあった。
橋の向こうにそびえ立つ摩天楼、ヒウンシティ。
あそこには、数えきれないほどの人間と、それ以上に「僕の知らないポケモン」がひしめき合っている。
「待ってろよ、大都会!!」
僕は、三半規管の限界を気合でねじ伏せ、ポカブと共に走り出した。
「僕の限定スニーカーがこれ以上泥だらけになる前に、そのオシャレな街の洗礼をバッチリ受けてやる! ラグの仇(?)を討つための冒険は、ここからが本番なんだ!!」
「……フッ。災い転じて福となす、だ」
チェレンが、巨大な街の影を見据えて不敵に笑う。
「都会の雑踏は、時に真実を隠す。……さあ、いこうか、主人公。人の波に呑まれる前に、僕らの『個性(こだわり)』をあのビル群に刻んでやろう」
圧倒的なスケールの橋を渡りきり、僕らはついに、人の欲望と理想が渦巻く巨大都市、ヒウンシティへと飲み込まれていった。