ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
4番道路。
ここは、かつて「リゾートデザート」と呼ばれたはずの場所だ。だが今の僕にとっては、ただのスニーカー破壊シミュレーターでしかない。
「……ッ、ゴホッ! 砂が、砂が口の中に……!」
一歩進むたびに、新品だったスニーカーは茶色く染まり、安物の眼鏡のレンズは、微細な砂のヤスリによって「曇りガラス」へと変貌していく。
そんなベージュ色の地獄の向こうから、一人の少年が、これ以上なく不機嫌な顔で歩いてきた。
「……遅いよ。君を待つ間に、僕のポケモンのレベルがまた上がってしまった」
チェレンだ。
彼は無言でモンスターボールを投じた。
飛び出したのは、レベルアップで進化したジャノビー。
対する僕は、相棒のポカブを出す。
(……勝てる。タイプ相性はこっちが上だ。砂嵐の定数ダメージはあるが、ポカブの『ニトロチャージ』で素早さを上げつつ削り切るのが最適解だ)
だが、この世界は「乱数」が支配するゲームそのものだった。
「ジャノビー、グラスミキサー」
激しい砂嵐に混じり、ジャノビーが鋭い葉の渦を巻き起こす。
ダメージは大したことはない。だが、僕の血の気が引いたのはその直後だった。
「(……命中率が、下がった!?)」
ゲーム画面上の「1段階ダウン」という無機質な表記が、目の前では「ポカブが砂と葉に翻弄され、敵を見失う」という絶望的な光景となって現れる。
続く僕のターン。
「ポカブ、ニトロチャージ!」
ポカブが炎を纏って突撃する。だが、その一撃は無情にもジャノビーの残像を掠め、砂地に虚しく激突した。
命中率95%、そこから命中ランクを下げられた後の「不運」。
その隙を、チェレンが見逃すはずもなかった。
「……運も実力のうちだよ。ジャノビー、たたきつける」
ポカブの姿勢が崩れたところを、しなやかな蔦が真っ向から叩きつける。
さらに、乾いた音が響く。
――急所(クリティカル)。
砂嵐の定数ダメージが、膝をついたポカブの体力を無慈悲に削り取った。
僕の手元にあるバッジケースが、砂にまみれて虚しく転がる。
「……今の君に、理想を語る資格はない。少し頭を冷やすといい。この砂嵐の中でね」
チェレンは去っていった。
勝利の余韻も、慰めの言葉もない。
残されたのは、ボロボロの僕と、砂まみれのポカブ。
タイプ相性という「数字」を過信し、命中低下という「確率」にすべてを崩された、ただのゲーム的な敗北だ。
「……ふーっ、ふーっ……。災い転じて福となす……? んなわけあるか……。ただ乱数に嫌われただけだろ、畜生……」