ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ライモンジム。眩い光に彩られたランウェイの先で、カミツレが微笑む。
だが、僕の視線は彼女の美貌ではなく、その背後で待機するエモンガの「素早さ」に釘付けになっていた。
「行くわよ。私たちの輝き、捕らえられるかしら? エモンガ、ボルトチェンジ!」
初手。カミツレの代名詞とも言える、サイクル戦の幕開けだ。
だが、僕は動かない。先頭に立たせたのは、進化したばかりの相棒――チャオブーだ。
「(……来る。ここでダメージを受けつつ交代され、サイクルを回されるのが一番の負け筋だ)」
観覧車でNに突きつけられた「理想」という名の狂気。あの日、僕は夜通しレベリングを敢行した。レベル十七。四足歩行だったポカブは、二足歩行の力強い猪……チャオブーへと姿を変えた。格闘タイプが付与され、数値上の耐久力は上がっている。
「チャオブー、耐えろ! 『つっぱり』でエモンガを叩き落とせ!」
電撃を浴びながら、チャオブーが重い拳を振り下ろす。ボルトチェンジの余韻で戻ろうとするエモンガに、執念の一撃が掠めた。
だが、さすがはジムリーダー。カミツレは微塵も動じず、二匹目のエモンガを繰り出し、さらに『アクロバット』でチャオブーを翻弄する。
「……いい目ね。でも、熱くなるだけじゃショーは終わらないわよ」
「……分かってる。だから、ここからは『真実』のプレイングだ」
僕はチャオブーを戻した。
次に放つのは、砂漠で拾い上げ、カミツレ戦のためだけに徹底的に磨き上げた秘密兵器。
「いけっ、メグロコ!」
地面タイプのワニが、砂を散らしてランウェイに降り立つ。
カミツレが、その瞬間、わずかに眉を動かした。
「……エモンガ、ボルトチェンジ!」
彼女は、いつものルーチンを繰り返そうとした。
だが、放たれた電撃は、メグロコの皮膚に触れた瞬間に無力な火花となって霧散する。
「(……成功だ。電気技を無効化(ゼロ)にすれば、ボルトチェンジの『交代効果』は発動しない!)」
これが、ゲームの仕様を逆手に取った封殺(ハメ)だ。
交代という逃げ道を断たれたエモンガが、空中で狼狽える。カミツレの計算が、初めて狂った。
「交代できない……!? そんな、たった一匹で私のサイクルを止めるつもり?」
「止めるんじゃない。一方的に潰すんだ。メグロコ、『いわなだれ』!」
電気を失ったエモンガに、物理の礫が降り注ぐ。
四倍弱点。乱数を確認するまでもない、確定一撃(オーバーキル)だ。
続くゼブライカも、地面タイプのメグロコの前ではただの獲物でしかなかった。
カミツレの華やかなショーは、一匹のワニによる「仕様という名の暴力」によって、無残なまでに完封された。
静まり返るジム内。
僕は、勝利の余韻に浸ることもなく、手渡されたボルトバッジをポケットにねじ込んだ。
「……災い転じて福となす、なんて言わないでくれ。これは、あいつの言葉を否定するために導き出した、僕なりの『数式』の答えだ」
僕はチャオブーをボールに戻し、温かみを感じる暇もなくジムを後にした。
次の舞台はホドモエ。
影の正体も、理想の行方も、すべてはこの「数値」の先にしかないのだから。