ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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ホドモエの跳ね橋:リザードン級の衝撃(あるいは、イッシュ地方における不法入国者の幻影)

 ライモンジムでの「完封劇」を終え、ボルトバッジを手にした僕を待っていたのは、モデルとしての華やかな微笑みを崩さないカミツレからの報せだった。

 

「……ホドモエの跳ね橋を下ろすよう、ヤーコンさんに連絡しておいたわ」

 

 その言葉一つで、物語のフラグが物理的に動く。

 

 僕はライモンシティの喧騒を背に、西へと向かうゲートをくぐった。目指すは「チャーレムの跳ね橋」……もとい「ホドモエの跳ね橋」だ。

 

 かつてゲーム画面で何度も往復したあの巨大な橋が、目の前に現れる。

 

 霧がかった水面を跨ぐ鉄骨の巨躯は、現実に見ると圧倒されるほどの威容を誇っていたが、僕の関心はそこにはない。僕の目が探しているのは、橋の中央付近に佇む、一人の「痛いモブキャラ」だった。

 

 いた。

 

「……あ、あの! 見ましたか!? 今、空をリザードン級の凄まじい影が通り過ぎていったんです!」

 

 駆け寄ってきた青年が、興奮冷めやらぬ様子で僕の肩を揺らす。

 

 かつての僕なら「へぇ、すごいね」と適当に流しただろう。だが、今の僕は……「廃人」としての知識が、脊髄反射でツッコミを入れさせていた。

 

「……おい、今なんて言った?」

 

「え? ですから、リザードン級の大きな影が……」

 

 僕は溜息をつき、曇りガラスのようになった眼鏡を指で押し上げた。

 

「……いいか、よく聞け。ここはイッシュ地方だ。図鑑番号『000』から『155』まで、新種のポケモンしか存在しないこのクローズドな環境において、カントーの御三家であるリザードンが野生で飛んでいる確率は、現時点では『ゼロ』だ」

 

「は、はい……?」

 

「キミが見たのは、おそらくコアルヒーの羽が霧に反射して巨大化した幻影か、あるいはこの先のフキヨセシティから飛び立った輸送機だろう。もし本当にリザードンだったとしたら、それは『改造』か『全国図鑑解禁後の不法入国』のどちらかだ。ゲーフリがこの環境を整えるために、どれだけのポケモンをリストラ……いや、出入国制限したと思っているんだ」

 

 青年は、僕のあまりの熱量に引き気味で後退りしていく。

 

 無理もない。この世界の人々にとって、ポケモンは「そこにいる不思議な生き物」だが、僕にとっては「仕様という名の法」に縛られたデータでもあるのだ。

 

(……いや、待てよ。リザードン級の影……)

 

 ふと、空を見上げる。

 

 霧の向こう側、このイッシュの空を支配しているのは、リザードンなどという旧世代の遺物ではない。

 

 観覧車でNが語った、伝説のドラゴン。

 

 そして、それを利用して世界を塗り替えようとする「理想」と「真実」の残滓だ。

 

「……リザードン級、か。そんな安い伝説で済めば、どれだけ楽だったか」

 

 僕はポカブの入ったモンスターボールを握りしめた。

 

 橋を渡りきれば、そこは鉱山の街・ホドモエ。

 

 待っているのは、地底にドリルを響かせる豪腕のヤーコンと、そして――地下に潜伏する「旧プラズマ団」との因縁だ。

 

「行こう。……影の正体なんて、殿堂入りすれば嫌でも分かるさ」

 

 僕は青年の困惑を置き去りにして、跳ね橋の長い直線へと一歩を踏み出した。

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