ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ホドモエの跳ね橋を渡りきると、潮の香りと、それ以上に重苦しい重機の騒音が僕を迎え入れた。
ホドモエシティ。港湾都市でありながら、その実態は鉱山と物流が支配する無骨な街だ。
ゲートを抜けた途端、冷たい潮風が僕の頬を叩く。ライモンシティの人工的な熱狂が、まるでお伽話だったかのように思えるほど、この街の空気は実利主義に満ちていた。
「……さて、ヤーコンはどこだ?」
ジムリーダー・ヤーコン。通称「鉱山の王」。
廃人としての僕の記憶が正しければ、彼はジムリーダーであると同時にこの街の振興を担う実業家だ。そして、何より「地面タイプ」の使い手として、ポカブを選んだ僕にとってはカミツレ戦とは真逆の、致命的な「相性不利」が待ち構えている。
だが、ジムへと向かう僕の足を止めたのは、怒号と困惑が入り混じった港の騒ぎだった。
「……おい、話が違うぞ! コンテナの中身が空だと!?」
港湾労働者たちが、一つの巨大な冷凍コンテナを囲んで騒いでいる。
見れば、本来は貴重な鉱石や物資が入っているはずのコンテナが、内側から強引にこじ開けられたような跡があった。
(……始まったか。プラズマ団の残党狩りイベントだ)
ゲームのシナリオ通りなら、この冷凍コンテナの中には、逃走中のプラズマ団が潜伏しているはずだ。
僕は野次馬の群れをかき分け、騒動の中心へと歩み寄った。そこには、一際巨大な体躯にカウボーイハットを被った男――ヤーコンが、不機嫌を絵に描いたような顔で立っていた。
「……なんだ、ガキか。今はジムどころじゃねえ。この街にコソ泥が紛れ込んでやがるんだ」
ヤーコンの低い声が響く。彼は僕を値踏みするように一瞥すると、コンテナの床に落ちていた「黒い端切れ」を拾い上げた。
「(……プラズマ団の制服の切れ端。隠れるなら冷たい場所、か。氷タイプでもない奴らがそんな場所を選べるのは、ある種の『執念』だよな)」
僕は心の中で、彼らの「仕様」に基づかない行動原理に悪態をついた。
効率を求めるなら、さっさと別のエリアへ逃げればいい。だが彼らは、Nという「王」の思想を広めるために、わざわざこの不毛なコンテナの中で凍えながらチャンスを待っているのだ。
「……ヤーコンさん。そのコソ泥、僕が引きずり出してくればいいんだろ?」
「あぁん? ガキに何ができる」
「ジム戦の予約料ですよ。……さっさと仕事を終わらせて、あんたのドリュウズと戦わせてもらう」
僕はポカブのボールを軽く放り投げ、キャッチした。
タイプ相性、乱数、そしてレベル。そんな「数字」だけで語れない何かが、この冷え切ったコンテナの奥に潜んでいる。
「災い転じて福となす……。この凍えるようなイベントをこなさない限り、次のバッジへの乱数は確定しないってわけだ」
僕は、白く凍りついた冷凍コンテナの重い扉の向こう側を見据えた。