ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
カノコタウンを出た僕らの前に広がっていたのは、緑豊かな「1番道路」……。
だが、そこは僕ら古参プレイヤーにとって、あまりにも残酷な「未知の荒野」だった。
十五年間、冒険の始まりには必ず隣にいたはずのコラッタも、秘伝要員の星・ビッパも、一匹として存在しない。
ゲーフリが仕掛けた「全入れ替え」という名の情報封鎖! 僕は、一歩進むごとに「誰だお前!?」と叫びたくなる衝動を抑えられなかった。
「……なあ、チェレン。見てよ、あの草むら。あそこから飛び出してくるのが、本当に僕の知ってるポケモンじゃないなんて、まだ信じられないよ」
僕は、ガムテープを剥がした時の絶望を引きずったトーンで呟いた。
すると、ガサガサという音と共に、一匹の怪しい影が飛び出してきた。
「……ッ!? なんだよ今の! 鼻がピンクで、目が完全に充血してるんだけど! あれがコラッタの代わりだっていうのか!? ゲーフリさん、1番道路の『癒やし要素』をどこに忘れてきたんだよ!!」
「やれやれ。主人公、君はまだシンオウ地方の幻影を追っているのかい?」
チェレンが、眼鏡をクイッと押し上げ、最新の図鑑を高速でフリックする。
「あれはミネズミだ。ゲーフリのデザイナーたちが、今作の『顔』として送り出した意欲作だよ。ほら、ボールを投げろ。君のパーティーで無双していたガブリアスやメタグロスのアーカイブを一度脳内からデリートして、この新しい利権(パートナー)をその手に収めるんだ」
その時、背後から「ドチャッ!」という嫌な音がした。
「おっはよー!! 待ったー!? ……あ、待って、自分の影に躓いて、泥溜まりにダイブしちゃった! ……イテテ。でも大丈夫!」
ベルだ。彼女の膝はすでに泥だらけだが、その手にはしっかりとモンスターボールが握られていた。
「見て見て、私、さっきヨーテリーを捕まえたよ! ……ねえ、主人公。この子、すっごく一生懸命こっちを見てくれるの。……前の旅でいつも一緒だったあの子たちがいなくて、ちょっと胸がキュンってしちゃうけど……でも、この子と一緒なら、新しい自分になれる気がするんだ!!」
「ベル……膝から血が出てるのに、なんでそんなに良いこと言えるの!? 僕の汚れた心が浄化されちゃうだろ!!」
僕は絶叫しながら、モンスターボールを投げつけた。
「分かったよ! 行け、ポカブ! 君のその脂ぎった鼻から出る『ひのこ』で、僕の心に残る四九三匹の亡霊を、物理的に焼き払ってくれ!!」
「プシュン!」と、ポカブが気合の鼻息と共に火を吹く。
……が、野生のミネズミはそれを涼しい顔で耐え、鋭い視線でこちらを睨みつけてきた。
「えええ!? 今の耐えるの!? 1番道路のバランス調整、ドSすぎない!? ゲーフリさん、僕の十五年間の廃人経験を、初手から無効化しにきてるよ!! 頼むから一撃で落とさせてよ!!」
「あはは! 主人公、頑張ってー! 私のミジュマルも応援してるよ!」
ベルが手を振った、その瞬間! ミジュマルが応援のつもりで放った『みずでっぽう』が、僕の足元を直撃した。
「ああっ、ミジュマル! 応援のつもりで、主人公が今日おろしたばかりの『限定モデルのスニーカー』を泥まみれにしちゃダメー!! あわわ、真っ黒になっちゃった、どうしよう、主人公ぉー!!」
「ああああああ!! スニーカーまで!!」
僕の悲鳴が、マメパト一匹いない空に虚しく響く。
「ラグの次は靴かよ!! ミジュマル、お前ゲーフリの刺客だろ! 僕が過去の栄光を引きずって走れないように、物理的に足止めしてくるつもりか!? ベルも『あわわ』じゃない、今すぐ拭いて! じゃないと、この恨みだけでゲーチスの演説をぶち壊しに行っちゃうからね!!」
「……フッ。災い転じて福となす、だ」
チェレンが、泥まみれの僕を見て不敵に笑う。
「靴が汚れたのなら、いっそ走り抜けて乾かしてしまえばいい。それが、この新作(BW)を攻略するための『スピード感』だよ。……さあ、いこうか、カラクサタウンへ」
靴は泥だらけ。思い出はアーカイブ。
だが、僕らの目の前には、見たこともない一五六匹の未来が、残酷なほどキラキラと輝きながら広がっていた。