ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
クエイクバッジという名の「労働の対価」をヤーコンから分捕り、僕はそのまま「電気石の洞穴」へと突っ込んだ。
入り口では、磁場で浮遊する巨大な石がバチバチと放電している。
公式設定では「神秘的なパワースポット」らしいが、僕に言わせれば、特性『がんじょう』で一撃死を拒絶してくるギアルやダンゴロが、嫌がらせのように湧いてくる「最高にテンポの悪い遅延工作の聖地」だ。
「……またギアルか! 死ね! いや、一回で死ねと言っているんだ! その残りHP一ミリのゲージを見るたびに、僕の視力がさらに〇・一ずつ落ちていく感覚がするよ!! ゲーフリの調整担当、今すぐ出てきて僕の代わりにこのボタン連打作業を代行してくれ!!」
ゴールドスプレーを、まるで害虫駆除の業者のような手つきで撒き散らしながら進む僕の前に、不意にあの「緑のポエム製造機」が現れた。Nだ。
「……やあ。この洞穴の石たちは、互いに引き合い、あるいは反発し合っている。まるで僕と君。あるいは、人間とポケモンの歪な関係のようにね」
「出たよ!! 句読点すら数式で構成されてそうな早口ポエム!! N、君のその『電波な理想』を僕の鼓膜にダイレクトアタックするのはやめてくれないか!? こっちはギアルの『がんじょう』で精神が削りカスみたいになってるんだよ!!」
だが、今日のNは一人ではなかった。後ろには、前髪の重力設定を疑うような白衣の男――アクロマが、タブレットを狂ったように叩きながら立っていた。
「(……アクロマ!! BW2の黒幕候補が、もうこんなところで『内定組』の余裕を見せてるのかよ! ファンサービスにしても、時空の歪みがひどすぎるだろ!!)」
アクロマは、僕の足元で「はやくこの洞窟出ようぜ」という顔をしているチャオブーを、顕微鏡でプランクトンでも見るような目で凝視している。
「おや……素晴らしい。ポケモンの能力を極限まで引き出そうとするその執念。それが『絆』によるものか、あるいは『数値的な効率』の追求か。……実に、実に興奮しますね!」
「アクロマ!! そのレンズの奥のギラついた目で、僕の秘蔵のパーティを値踏みしないでよ!! 絆とか数値とか、そんなの二千回の孵化作業を終えた僕にとっては『同じ意味の単語』なんだよ!!」
Nの「理想」と、アクロマの「科学」。
この二人が並んでいる光景は、もはやイッシュ地方における「バグの温床」でしかない。
「……分析でも何でも好きにしろ! 僕は最適解という名の暴力を振るって、この世界の頂点に行くだけだ! 掃除は全部ベルに……あ、今ここにベルいないわ!!」
Nが静かに道を譲る。だが、すれ違いざまに彼が残した言葉が、静電気よりも不快なノイズとなって僕の脳を揺らした。
「……トモダチは、君を信じているようだね。でも、その信頼を『数値』でしか測れない君に、彼らの真実が見えるのかな?」
「……見えるわけないだろ!! 数値こそが、この不条理なドット絵の世界における唯一の『真実』なんだよ!!」
暗闇に消えていく二人を見送り、僕は四本目のゴールドスプレーを、自分の顔面に噴射したい衝動を抑えて空中に撒いた。
災い転じて福となす……? そんな乱数、どこにも落ちてない。
ここにあるのは、狂った磁場と、僕のコンパスを狂わせる「理解不能なイケメン二人組」だけだ。