ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

24 / 97
フキヨセジム:フウロとの空中戦(あるいは、安全基準法を無視した大砲人間射出ショー)

 フキヨセジムの扉を開けた瞬間、僕は自分の正気を疑った。

 

「……は? 何これ。ジム? ここ、一応はポケモンリーグ公認の施設だよね!?」

 

 眼前に広がるのは、ジムという名の「人間射出訓練場」だった。

 

 壁一面に設置された巨大な大砲。そして、その砲口は明らかに「挑戦者を対面の壁に叩きつける」角度で固定されている。

 

「……おかしいだろ!! フウロさん、パイロットとしての倫理観はどうしたんだよ! ポケモンバトルの前に、僕の三半規管と脊椎が粉砕されるのが先だよ!! これ、建築基準法どころか生存権を無視してないか!?」

 

 だが、反対側の足場では、フウロがゴーグルをクイッと直して、あろうことか「早くこっちに来てよ!」と手招きをしている。

 

「いくよ、チャオブー! ……っていうか、お前も一緒に飛ぶんだよ! この重さで大砲に入ったら、初速が足りなくて墜落するんじゃないか!? ゲーフリさん、このギミックの物理演算はどうなってるの!!」

 

 ドォォォーン!! という、戦場さながらの爆音と共に、僕は大砲から射出された。

 

 視界が超高速で回転し、ライモンのジェットコースターが「幼児用の三輪車」に思えるほどのGが僕を襲う。

 

「ああああああ!! 内臓が!! 僕のなけなしの健康寿命が、高度十メートルで削り取られていく!! ベル! 見てないで早く受け止める準備をしてよ!! ……あ、やっぱりいないんだった!! ちくしょう!!」

 

 壁に激突し、フラフラになりながら辿り着いた最上階。

 

 そこでは、フウロがまるで「今日の天気は最高ね」くらいのノリで、一匹の白鳥――スワンナを繰り出した。

 

「お待たせ! 空の旅はどうだった? さあ、風と一緒に踊りましょう!」

 

「踊れるわけないだろ!! こっちは三半規官がバグって、世界がドットの粗い静止画に見えてるんだよ!! スワンナ……水・飛行か。タイプ相性的には、僕のチャオブー(炎・格闘)にとっては、まさに『死の宣告』じゃないか!!」

 

 フウロが指を鳴らす。

 

 スワンナの「エアスラッシュ」が、正確にチャオブーの急所を狙い撃つ。

 

 怯み(追加効果)。

 

 また、怯み。

 

「(……出たよ、これだ! 飛行タイプの十八番、ハメ殺し戦法!! こっちは大砲で射出されてフラフラなのに、ゲーム内でも動けないなんて、どんだけ僕のターンを奪えば気が済むんだ!!)」

 

 僕は絶叫した。

 

「ふざけるな!! こっちはタワーオブヘブンで、望んでもいない特攻(C)の努力値をお香の匂いと共に吸い込んできたんだぞ!! その歪んだステータスの怒りを、今ここで物理ダメージとして叩き込んでやる!! いけ、チャオブー! 怯んでる暇があったら、その脂ぎった鼻から根性で『いわなだれ』を捻り出せ!!」

 

 怯みの乱数を執念で突破し、放たれた岩の礫。

 

 スワンナの美しい羽を、容赦ない物理の現実が打ち砕く。

 

「災い転じて福となす……? 笑わせるなチェレン!! この勝利は、僕がこの狂ったジムの壁に激突して得た『慰謝料』みたいなもんだよ!!」

 

 ジェットバッジを受け取った時、僕の三半規管は完全に沈黙し、世界はまだ右斜め四十五度に傾いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。