ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
フキヨセジムの扉を開けた瞬間、僕は自分の正気を疑った。
「……は? 何これ。ジム? ここ、一応はポケモンリーグ公認の施設だよね!?」
眼前に広がるのは、ジムという名の「人間射出訓練場」だった。
壁一面に設置された巨大な大砲。そして、その砲口は明らかに「挑戦者を対面の壁に叩きつける」角度で固定されている。
「……おかしいだろ!! フウロさん、パイロットとしての倫理観はどうしたんだよ! ポケモンバトルの前に、僕の三半規管と脊椎が粉砕されるのが先だよ!! これ、建築基準法どころか生存権を無視してないか!?」
だが、反対側の足場では、フウロがゴーグルをクイッと直して、あろうことか「早くこっちに来てよ!」と手招きをしている。
「いくよ、チャオブー! ……っていうか、お前も一緒に飛ぶんだよ! この重さで大砲に入ったら、初速が足りなくて墜落するんじゃないか!? ゲーフリさん、このギミックの物理演算はどうなってるの!!」
ドォォォーン!! という、戦場さながらの爆音と共に、僕は大砲から射出された。
視界が超高速で回転し、ライモンのジェットコースターが「幼児用の三輪車」に思えるほどのGが僕を襲う。
「ああああああ!! 内臓が!! 僕のなけなしの健康寿命が、高度十メートルで削り取られていく!! ベル! 見てないで早く受け止める準備をしてよ!! ……あ、やっぱりいないんだった!! ちくしょう!!」
壁に激突し、フラフラになりながら辿り着いた最上階。
そこでは、フウロがまるで「今日の天気は最高ね」くらいのノリで、一匹の白鳥――スワンナを繰り出した。
「お待たせ! 空の旅はどうだった? さあ、風と一緒に踊りましょう!」
「踊れるわけないだろ!! こっちは三半規官がバグって、世界がドットの粗い静止画に見えてるんだよ!! スワンナ……水・飛行か。タイプ相性的には、僕のチャオブー(炎・格闘)にとっては、まさに『死の宣告』じゃないか!!」
フウロが指を鳴らす。
スワンナの「エアスラッシュ」が、正確にチャオブーの急所を狙い撃つ。
怯み(追加効果)。
また、怯み。
「(……出たよ、これだ! 飛行タイプの十八番、ハメ殺し戦法!! こっちは大砲で射出されてフラフラなのに、ゲーム内でも動けないなんて、どんだけ僕のターンを奪えば気が済むんだ!!)」
僕は絶叫した。
「ふざけるな!! こっちはタワーオブヘブンで、望んでもいない特攻(C)の努力値をお香の匂いと共に吸い込んできたんだぞ!! その歪んだステータスの怒りを、今ここで物理ダメージとして叩き込んでやる!! いけ、チャオブー! 怯んでる暇があったら、その脂ぎった鼻から根性で『いわなだれ』を捻り出せ!!」
怯みの乱数を執念で突破し、放たれた岩の礫。
スワンナの美しい羽を、容赦ない物理の現実が打ち砕く。
「災い転じて福となす……? 笑わせるなチェレン!! この勝利は、僕がこの狂ったジムの壁に激突して得た『慰謝料』みたいなもんだよ!!」
ジェットバッジを受け取った時、僕の三半規管は完全に沈黙し、世界はまだ右斜め四十五度に傾いていた。