ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ネジ山という名の「野生ポケモンによる強制足止め地獄」をようやく抜けると、そこは一面の銀世界……を通り越して、僕の眼鏡を一瞬で真っ白に結露させる、情緒もへったくれもない極寒の地――セッカシティだった。
「……寒い! 寒すぎるだろ!! ゲーフリさん、この街のBGM、切なすぎて僕のメンタルまで物理的に凍結(フリーズ)しそうなんだけど!!」
このセッカシティには、DS本体の内蔵時計と連動して「冬」にしか行けない場所や、冬にしか手に入らないアイテムが存在する。廃人にとっての「季節」とは風情ではなく、単なる「フラグ管理」の対象でしかない。
「冬じゃないと手に入らない『ふしぎなアメ』のために、わざわざ本体設定をいじってタイムトラベルを繰り返した、あの虚しい日々を思い出させないでよ!!」
そんな僕の叫びを、粉雪が冷たく飲み込んでいく。
街の中央、凍りついた池のほとりに、一人の男が立っていた。
上半身裸にマントという、防寒という概念を母親の胎内に置いてきたような狂気のファッション。この街のジムリーダー・ハチクだ。
「……来たか。ネジ山の寒さに耐え、己を磨きし者よ」
「ハチクさん!! その格好、見てるこっちの三半規管が霜焼けになるからやめて!! 何が修行だよ!! 風邪をひいたらジム運営という名の『経済活動』が滞るでしょ!! 早く服を着て、僕にバッジを寄越してよ!!」
だが、元・映画俳優だというこの男の眼光は、僕のメタなツッコミすら氷像に変えるほどに鋭かった。
「……言葉は不要。今の貴殿の瞳には、焦燥と数値への執着しか映っておらぬ。……龍螺旋の塔を見よ。あの場所で、何かが目覚めようとしている。貴殿が求めているのは『正解』か、それとも『真実』か……。ジムで待っているぞ」
ハチクは、雪の上に足跡すら残さないような身軽さで、吹雪の中へと消えていった。
「龍螺旋の塔!? またパシリ!? なんでこの地方のジムリーダーは、どいつもこいつも『ジムで待つ』って言いながら、一回どこかに寄り道しなきゃ気が済まないんだよ!! 予約システムを導入してよ!!」
僕は、凍えそうになる手で五本目のスプレーを掴み取った。だが、寒さで噴射口が詰まっている。
「災い転じて福となす……? チェレン、見てるか!! 福どころか、僕の鼻水が物理的に氷柱(つらら)になって、地面に刺さってるよ!! 掃除は全部ベルに……って、ベルはこの寒さじゃ一歩も動けないだろうな!!」
僕は、雪に埋もれたスニーカーを呪いながら、伝説のポケモンが眠るという、そしてストーリーが急加速する「龍螺旋の塔」のシルエットを、白く濁った眼鏡越しに睨みつけた。